李雪主

朝鮮民主主義人民共和国の人物

李 雪主(リ・ソルチュ[1]、朝鮮語:리설주 [riːsɔlʔt͡ʃu]1989年[2][3]9月28日[4] - )は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の人物。同国の最高指導者である金正恩総書記の夫人である。かつては歌手として活動していた。漢字表記を李雪珠とするメディアもある[5]

李 雪主
리 설주
2018年4月27日の南北首脳会談の際の李

任期 2018年4月15日 - 現職
先代 金聖愛
個人情報
出生名 同じ
生年月日 (1989-09-28) 1989年9月28日(34歳)
出生地 朝鮮民主主義人民共和国の旗 朝鮮民主主義人民共和国咸鏡北道清津市
配偶者 金正恩(2009年より)
子女 金主愛
親族

金正恩(配偶者)

金主愛(子供)
国籍 朝鮮民主主義人民共和国の旗 北朝鮮
出身校 金日成総合大学
職業 朝鮮民主主義人民共和国のファーストレディー
称号・勲章 女史
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李雪主
各種表記
チョソングル 리설주
漢字 李雪主
発音 リソチュ
ローマ字 Ri Sŏl-chu(MR式
英語表記: Ri Sol-ju
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来歴 編集

1989年に東海岸に位置する咸鏡北道清津市において、父親が大学教員、母親が医師である一般家庭に生まれる[6]。4歳 - 5歳の頃に芸術団員に抜擢され[7]音楽の才能に恵まれた子女が通う平壌市内の金星第2高等中学校に入学し、卒業後は中国北京留学して声楽を専攻[8]銀河水管弦楽団の公演で歌手を務めた(銀河水管弦楽団の所属ではなく、普天堡電子楽団内の「牡丹峰」重唱組の所属)[2]李英和によると、2002年ユネスコの行事で来日[4]大韓民国を訪れた経験もあり、2003年から2004年にかけて開催された南北間の行事に同姓同名の人物が参加していたと報じられているほか[9]2005年9月に仁川広域市で開かれたアジア陸上競技選手権大会には北朝鮮選手を応援する学生協力団に参加している[2]。この応援団は当時、「美女軍団」として報道機関などでもてはやされた[7]

2009年に金正恩と結婚。人民保安部の楽団などで活動し、結婚後半年間は金日成総合大学にてファーストレディとしての教育を受けた[9]2010年に第1子をもうけたのを皮切りに、2017年2月までに3人の子供がいるとされる[10]

2011年1月に朝鮮中央放送が放送した銀河水管弦楽団による新年公演の録画中継に同姓同名の歌手が登場している(同一人物であるという説には異論もある)[9]。2月に開催された銀河水管弦楽団の音楽会では、義父・金正日らの前で歌声を披露している[7]

2012年7月に入って金正恩と現地同行し、親しげに接する女性の姿が北朝鮮メディアによって配信されるようになり、金正恩の夫人であるという説、もしくは妹、あるいは愛人であるとの説が浮上した[11]。7月25日に朝鮮中央放送によって金正恩が結婚していること、また夫人の名前が公式に明らかにされた。翌26日には韓国国会の情報委員会にて、大韓民国国家情報院が把握している、李雪主に関する情報が報告された[2]。2012年7月下旬には金正日の専属料理人であった藤本健二が北朝鮮を訪れ、李雪主とも面会している[12]

2013年8月29日韓国の『朝鮮日報』は中国の消息筋の話として、銀河水管弦楽団にポルノ映像制作などの性的スキャンダルが発覚し、メンバーはじめ十数人が処刑されたと報じた。続いて9月20日、日本の『朝日新聞』が、銀河水管弦楽団のメンバーはじめ音楽家9人が処刑され、楽団は解散させられたと報じ、人民保安部が9人の会話を盗聴し、「李雪主も昔は、自分たちと同じように遊んでいた」という会話を傍受していたと報じた。すなわち、李雪主が銀河水管弦楽団に出演していた歌手と同一人物とした[13]。韓国メディアも『朝日新聞』報道を後追いし、金正恩が夫人の醜聞を口封じするため処刑した可能性を指摘した[14]。北朝鮮の朝鮮中央通信9月23日、「日本の「朝日新聞」報道を転載する形式で、われわれの最高の尊厳に言い掛かりをつける者は高価な代償を払うことになる」として、一連の報道は「かいらい一味[15]」による「われわれの最高の尊厳(金正恩)を誹謗中傷する謀略的悪態」と主張した。12月11日アメリカ合衆国自由アジア放送によると、処刑方法は、4つの銃身を備えた機関銃火炎放射器を使うなど残酷なもので、処刑されたメンバーには妊婦も含まれていたという。消息筋によると、一連の報道に金正恩は激怒し、「もう党で教育する段階は過ぎた。無慈悲に対応しろ」と処刑を命じたという。消息筋は「張成沢氏の側近5人の処刑にも銃身が4つある機関銃が使われた。金正恩氏は父をはるかに上回る暴君だ」とも漏らした[16]。李雪主は同年10月16日から2ヶ月間メディアに姿を見せなかったが、12月13日放映の記録映画『永遠の太陽の聖地として万代に輝かせよう』に登場した。金正日の命日に当たる12月17日には遺体が安置されている錦繡山太陽宮殿を参拝し、健在ぶりを見せた[17]

2018年3月25日、最高指導者就任後の初外遊で中国を訪問した金正恩に党副委員長の李洙墉崔竜海金英哲[18]らとともに同行した。北朝鮮では金日成の前妻である金正淑にのみゆるされた「女史」の敬称が与えられるなど李雪主は謂わばファーストレディ的な存在になりつつあり、会談する習近平総書記の妻の彭麗媛との歌手出身という共通性や中国留学の経歴もあって北朝鮮の歴史では前例のない夫人の正式な外交活動への同伴が認められたともされる[8]

2018年4月1日K-POPスターなどで構成された韓国芸術団が訪朝し、東平壌大劇場で夫の金正恩やその妹の金与正とともに韓国の芸術団公演を直接鑑賞した[19]

2018年4月14日、金日成生誕106周年記念の国際芸術祭に参加するために中国芸術団とともに訪朝した中国共産党中央対外連絡部部長の宋濤と会談し、金与正、李洙墉、崔竜海、金英哲らとともに中国芸術団の公演も鑑賞した。金正恩に同伴してない形で李雪主の動静が北朝鮮で発表されたのは異例であり[20][21]、「尊敬する李雪主女史」の呼称が初めて用いられた[22][23]。金正恩が催した宴会にも出席した[24][25]。16日には金正恩、金与正とともに中国芸術団の公演を観覧した[26]

 
2018年4月27日の南北首脳会談の晩餐会。中央4人左から李雪主、金正恩文在寅金正淑

2018年4月27日板門店の韓国側施設「平和の家」で行われた南北首脳会談の際には晩餐会に出席し、韓国大統領文在寅やその大統領夫人金正淑の出迎えを受けた[27]

2018年6月19日、三度目の訪中を行った金正恩に党副委員長の朴泰成、人民武力部長の努光鉄内閣総理朴奉珠らとともに同行した[28][29]

2019年1月8日、金与正らとともに35歳の誕生日を迎える金正恩の中国訪問に同行した[30]

北朝鮮では金日成夫人の金聖愛が最高人民会議代議員に就いていた例があるが、李雪主は最高人民会議第14期代議員選挙(2019年)でも名前が確認されておらず代議員には就いていないとみられている[31]

脚注 編集

  1. ^ ソルジュと表記している出版物・ネット記事が多く見られるが、実際の発音は、주は濃音で発音されているので、チュがより適切な表記である。
  2. ^ a b c d “金第1書記夫人 過去に訪韓、中国留学や歌手の経験も 韓国の情報機関報告”. 産経新聞. (2012年7月26日). https://web.archive.org/web/20120726231035/http://sankei.jp.msn.com/world/news/120726/kor12072619240006-n1.htm 2012年7月26日閲覧。 
  3. ^ “金正恩氏夫人の李雪主氏 2005年に訪韓”. 中央日報. (2012年7月26日). http://japanese.joins.com/article/338/156338.html 2012年7月26日閲覧。 
  4. ^ a b “金正恩氏夫人が02年に来日 芸術団の一員、福岡に”. 共同通信. (2012年8月5日). https://web.archive.org/web/20130901003929/http://www.47news.jp/CN/201208/CN2012080501001679.html 2012年9月3日閲覧。 
  5. ^ “北朝鮮、金正恩氏夫人の名前を公開”. 朝鮮日報. (2012年7月26日). http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/07/26/2012072600868.html 2012年7月26日閲覧。 
  6. ^ 三河五朗「北朝鮮最高指導者夫人 李雪主 -「国母」か、「傾国の美女」か」『PRESIDENT Online』、2012年9月2日。2023年2月11日閲覧。
  7. ^ a b c “金正恩氏の夫人、「美女軍団」の一員だった”. 読売新聞. (2012年7月26日). https://web.archive.org/web/20120728101927/http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20120726-OYT1T01060.htm 2012年7月26日閲覧。 
  8. ^ a b “中国留学派の李雪主氏、同じ歌手出身の彭麗媛氏と微笑み外交”. 中央日報. (2018年3月28日). http://japanese.joins.com/article/071/240071.html 2018年3月30日閲覧。 
  9. ^ a b c “北朝鮮:正恩氏同行者は夫人…記録映画を放映”. 毎日新聞. (2012年7月26日). http://mainichi.jp/select/news/20120727k0000m030035000c.html 2012年7月26日閲覧。 
  10. ^ “金正恩氏夫人が2月に第3子出産 性別は不明=韓国情報機関”. 聯合ニュース. (2017年8月29日). http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2017/08/29/0300000000AJP20170829001300882.HTML 2017年8月29日閲覧。 
  11. ^ “「正恩氏夫人」北が公式報道…「李雪主」と紹介”. 読売新聞. (2012年7月26日). https://web.archive.org/web/20120728050148/http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20120725-OYT1T01126.htm 2012年7月26日閲覧。 
  12. ^ “正恩氏、藤本氏と面談「いつ来ても歓迎する」”. 読売新聞. (2012年8月4日). https://web.archive.org/web/20120806225523/http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20120804-OYT1T00605.htm 2012年8月4日閲覧。 
  13. ^ 正恩氏夫人に醜聞か 所属した楽団が解散、公開処刑も」『朝日新聞デジタル』、2013年9月20日。2014年1月8日閲覧。オリジナルの2013年11月28日時点におけるアーカイブ。
  14. ^ 北朝鮮、正恩氏夫人醜聞で9人を公開処刑 朝日新聞報道」『東亜日報』、2013年9月22日。2014年1月8日閲覧。
  15. ^ 韓国のこと。北朝鮮は、韓国をアメリカ合衆国傀儡政権と見なしているため。
  16. ^ 朝鮮日報』2013年12月13日 パク・セミ 「金正恩氏、妻の元同僚ら9人を残虐処刑」
  17. ^ 姿を現した李雪主、張氏との関連説を一蹴?」『東亜日報』、2013年12月18日。2013年12月23日閲覧。
  18. ^ “崔竜海氏、金英哲氏らが同行”. 産経ニュース. (2018年3月28日). https://www.sankei.com/article/20180328-S4KB755MVBIMTBQ476DB76YFOQ/ 2018年3月28日閲覧。 
  19. ^ “正恩氏、韓国芸術団を鑑賞 平壌公演「秋はソウルで」”. 毎日新聞. (2018年4月2日). https://mainichi.jp/articles/20180402/ddm/002/030/129000c 2018年4月15日閲覧。 
  20. ^ 正恩氏、訪朝の中国高官と会談”. 毎日新聞 (2018年4月16日). 2018年4月16日閲覧。
  21. ^ 金正恩党委員長、訪朝中の中国共産党幹部と会談”. TBS (2018年4月15日). 2018年4月16日閲覧。
  22. ^ 北朝鮮メディア、金正恩氏夫人を「尊敬する李雪主女史」”. デイリーNK (2018年4月15日). 2018年4月15日閲覧。
  23. ^ 正恩氏夫人、中国芸術団の公演観覧=「ファーストレディー」誇示か-北朝鮮”. AFPBB (2018年4月15日). 2018年4月16日閲覧。
  24. ^ 金日成主席の生誕記念日 前日には金正恩委員長が中国共産党中央対外連絡部長と会談 関係強化アピール”. 産経ニュース (2018年4月15日). 2018年4月16日閲覧。
  25. ^ 「重大問題」で意見交わす 金正恩氏、中国高官と会談”. 日本経済新聞 (2018年4月15日). 2018年4月16日閲覧。
  26. ^ 正恩氏「中国人民に温かい友情を抱いた」”. 読売新聞 (2018年4月18日). 2018年4月18日閲覧。
  27. ^ 南北首脳の婦人も晩餐会に参加 平壌名物「冷麺」も”. テレビ朝日 (2018年4月27日). 2018年5月1日閲覧。
  28. ^ 中朝が新蜜月関係を誇示…習主席、年内に訪朝も”. 中央日報 (2018年6月21日). 2018年6月21日閲覧。
  29. ^ 中朝首脳会談:習主席「北朝鮮は自国に見合う発展の道を」”. 朝鮮日報 (2018年6月21日). 2018年6月21日閲覧。
  30. ^ “金正恩氏、習近平氏と4回目の首脳会談後に盛大な誕生日晩餐”. 中央日報. (2019年1月9日). https://japanese.joins.com/article/912/248912.html 2019年2月27日閲覧。 
  31. ^ 辺真一「北朝鮮代議員選挙結果を徹底分析!相次ぐ実力者らの意外な「落選」が判明!」『Yahoo!ニュース』、2019年3月13日。2019年6月2日閲覧。

外部リンク 編集