松阪市立歴史民俗資料館

三重県松阪市にある博物館

松阪市立歴史民俗資料館(まつさかしりつれきしみんぞくしりょうかん[7][8])は、三重県松阪市殿町にある郷土史博物館。松阪市の歴史民俗について広く展示し[9]、とりわけ松阪商人、伊勢白粉(いせおしろい、射和軽粉〔いざわかるこ/いざわけいふん〕とも)、松阪木綿に関する資料群に特色がある[9][10]。愛称は歴民[1]

松阪市立歴史民俗資料館
Matsusaka City Museum of History and Folklore
歴史民俗資料館の位置(三重県内)
歴史民俗資料館
歴史民俗資料館
三重県内の位置
施設情報
正式名称 松阪市立歴史民俗資料館
愛称 歴民[1]
前身 松阪市立図書館
専門分野 松阪商人・伊勢白粉・松阪木綿
来館者数 16,808人(2013年度)[2]
事業主体 松阪市[3]
管理運営 松阪市
建物設計 清水義一[4]
開館 1978年(昭和53年)11月1日[3][5]
所在地 515-0073
三重県松阪市殿町1539番地[6]
位置 北緯34度34分35.76秒 東経136度31分33.1秒 / 北緯34.5766000度 東経136.525861度 / 34.5766000; 136.525861
アクセス 松阪駅から徒歩約15分
外部リンク 公式サイト
プロジェクト:GLAM
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1912年(明治45年)に飯南郡図書館(いいなんぐんとしょかん)として建設された建物を利用しており、1997年(平成9年)9月に本館と倉庫が登録有形文化財に登録されている[11]

展示 編集

松阪市の歴史・民俗に関する展示を行う[9]。特に松阪商人と松阪商人の富の形成に大きく貢献した[11]伊勢白粉(射和軽粉)と松阪木綿といった伝統工芸に関する展示を核としており[10]、他に類を見ない貴重なコレクションを形成している[9]。このほか松阪に住んでいたことのある小説家・梶井基次郎に関する資料や松坂城関係資料も保有している[11]。資料館の展示資料のほとんどは市民らからの寄贈品または借用品である[12]

1階の展示室「店の間」は松阪商人に関する展示を行い、湊町の伊勢参宮街道で薬種商をしていた桜井家の金看板(池大雅筆)などを見ることができる[7][13]。ほかに企画展示も1階で行っており、年4 - 5回ほど松阪に関する企画展を開催する[8][12]

2階は伊勢白粉と松阪木綿の展示を行う[14]。伊勢白粉は水銀を利用したおしろい化粧品として利用されただけでなく、堕胎薬やシラミ取りの薬品としても用いられた[14]。松阪木綿はいち早く江戸に進出した商品であり、資料館ではなどの植物染料、機織り機、縞帳といった関係資料を展示するのみならず、予約すれば機織り体験もできるようにしている[14]。また毎年夏季に藍染体験教室を開講している[12]

歴史 編集

1977年(昭和52年)6月1日に新築開館した松阪市社会教育センター(現・松阪公民館)に松阪市立図書館が移転したことを受け、旧図書館の建物を松阪市立歴史民俗資料館に転用することが決定した[15]。そして1978年(昭和53年)11月1日に改装を終え、松阪市市制施行45周年記念事業の一環として開館した[5]。当日は市長の吉田逸郎をはじめとして約30人が出席して開館式が挙行された[5]。初代館長には前年に三重県立博物館の館長を退職した田畑美穂(たばたよしほ)が就任し、田畑は資料館の展示の中心に松阪木綿を据えた[16]。これは1970年代の日本各地で見られた、伝統産業を核とする町並み保存運動の中で進められた歴史民俗資料館の設置の潮流に合致するものであった[17]

開館当時より松阪商人・伊勢白粉(射和の軽粉)・松阪木綿・考古と歴史の4つの常設展コーナーと1つの企画展コーナーで構成され、入場料は大人50円、学生(小中高生)20円であった[5]。なお第1回の企画展は、「収穫の秋」にちなんだ稲作に関する民具の展示を開催した[5]。田畑館長は松阪木綿の復活を目指す「ゆうづる会」や郷土の文化遺産の発掘と活用を目的とした「あいの会・松坂」を立ち上げ、松阪もめん手織りセンターの設立にも携わった[16][17]。「あいの会・松坂」は1981年(昭和56年)に[17][18]若手経済人から相談を受けて田畑らが設立し、行政の補助金に頼らずに活動することを信条としている[18]

1997年(平成9年)9月3日に資料館の本館と倉庫が日本国の登録有形文化財に登録された[19]。この2件は、松阪市内の登録有形文化財の登録第1号となった[19]

2013年(平成25年)、魚町の旧家である長谷川家から邸宅と共に膨大な資料の寄贈を受け、順次資料の整理と公開を進めている[20]。2016年(平成28年)1月にはそのうちの一部である日本各地の名所図会約50種の展示・公開を行った[20]

2021年(令和3年)4月3日、2階に小津安二郎松阪記念館を新設してリニューアルオープンした[21]

建物 編集

松阪市立歴史民俗資料館の本館と倉庫は、それぞれ松阪市立歴史民俗資料館(旧飯南郡図書館)本館松阪市立歴史民俗資料館(旧飯南郡図書館)倉庫の名称で日本国の登録有形文化財となっている[19]。どちらも登録は1997年(平成9年)9月3日である[19]

1910年(明治43年)11月に時の皇太子(後の大正天皇)が松阪公園へ行啓したことを記念して図書館の建設が建議され、同公園の北西の竹林を整地し、翌1911年(明治44年)に着工、1912年(明治45年)に本館・倉庫・新聞雑誌縦覧所などの建物からなる飯南郡図書館として開館した[11]。建設費はほぼ住民からの寄付で賄われた[11]。設計者は清水義一である[4]。本館は和風の木造建築で2階建てであり、左右対称になっている[4]。倉庫は漆喰の壁を下見板で覆うことで本館と外観の意匠を合わせているが、本館よりも高さを抑えている[22]

利用案内 編集

法的には博物館法の適用を受けない「博物館類似施設」であるが、三重県博物館協会の会員である[3]。松阪市内の中学生の職場体験や大学生の学芸員実習を多く受け入れている[12]

松坂城の中にあることから、来館者の7割が三重県外からの訪問者である[6]。このほか小・中学校の遠足や社会見学も多い[12]

  • 開館時間:9時から16時30分(ただし10月 - 3月は16時まで)
  • 休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、祝日の翌日、年末年始、企画展入れ替え期間
  • 入館料:大人100円、学生(小中高生)50円

交通 編集

脚注 編集

  1. ^ a b 「企画展、一字の妙 松阪市立歴史民俗資料館」朝日新聞2000年9月19日付朝刊、三重版25ページ
  2. ^ 経営企画部経営企画課 編(2015):97ページ
  3. ^ a b c 三重県(2008):4ページ
  4. ^ a b c みんなで、守ろう!活かそう!三重の文化財/情報データベース/松阪市立歴史民俗資料館(旧飯南郡図書館)本館”. 三重県教育委員会事務局社会教育・文化財保護課. 2016年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月29日閲覧。
  5. ^ a b c d e 松阪市史編さん委員会 編(1984):431ページ
  6. ^ a b c d e f g 第三銀行経済研究所(2016):11ページ
  7. ^ a b c スポット情報 松阪市立歴史民俗資料館”. 近畿日本鉄道. 2016年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月29日閲覧。
  8. ^ a b c d 三重県内の美術館・博物館/松阪市立歴史民俗資料館”. 三重県環境生活部文化振興課. 2016年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月29日閲覧。
  9. ^ a b c d 大喜多(1985):91ページ
  10. ^ a b 三重県高等学校日本史研究会 編(2007):125ページ
  11. ^ a b c d e 第三銀行経済研究所(2016):8ページ
  12. ^ a b c d e f 第三銀行経済研究所(2016):10ページ
  13. ^ 第三銀行経済研究所(2016):8 - 9ページ
  14. ^ a b c 第三銀行経済研究所(2016):9ページ
  15. ^ 松阪市史編さん委員会 編(1984):430 - 431ページ
  16. ^ a b 「ひと 松阪の歴史・文化活動の先導役 田畑美穂さん(86)」朝日新聞2008年5月16日付朝刊、三重版22ページ
  17. ^ a b c 村松・赤坂(2009):462ページ
  18. ^ a b 日経産業消費研究所地域経済研究部"あいの会松坂 わが町・わが村 「松阪木綿」復興に力 資料館設置や講習会開催"日経産業新聞1992年11月7日付、10ページ
  19. ^ a b c d ギャラリーの概要-国登録有形文化財建造物 旧カネボウ綿糸松阪工場綿糸倉庫-”. 松阪市教育委員会事務局文化財センター (2012年9月4日). 2016年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月29日閲覧。
  20. ^ a b "伊勢の名所図会など50種 松阪「長谷川家の蔵書」展"朝日新聞2016年1月14日付朝刊、三重版24ページ
  21. ^ 小津安二郎松阪記念館の概要 松阪市
  22. ^ みんなで、守ろう!活かそう!三重の文化財/情報データベース/松阪市立歴史民俗資料館(旧飯南郡図書館)倉庫”. 三重県教育委員会事務局社会教育・文化財保護課. 2016年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月29日閲覧。
  23. ^ “まわりゃんせ”で入場・入館できる施設(松阪エリア)”. 伊勢鳥羽志摩. 近畿日本鉄道. 2016年10月29日閲覧。

参考文献 編集

  • 大喜多甫文(1985)"松阪の街並みと史跡"三重地理学会 編『三重県の地理散歩』(荘人社、昭和60年1月20日、193p. ISBN 4-915597-02-4 ):88-92.
  • 経営企画部経営企画課 編『平成25年度 松阪市統計書』松阪市、2015年3月、125p.
  • 松阪市史編さん委員会 編『松阪市史 第十六巻 史料篇 現代』蒼人社、1984年1月20日、528p. 全国書誌番号:84021399
  • 三重県『(附属)新県立博物館基本計画関連データ集』三重県、2008年12月26日、16p.
  • 三重県高等学校日本史研究会 編『三重県の歴史散歩』歴史散歩24、山川出版社、2007年7月25日、318p. ISBN 978-4-634-24624-9
  • 村松保枝・赤坂信(2009)"全国町並み保存連盟加盟団体の活動にみる保存の動機の変遷"ランドスケープ研究(日本造園学会).72(5):459-464.NAID 130000991909
  • 『SANGIN report No.42』第三銀行経済研究所、2016年9月、27p. 全国書誌番号:01016128

関連項目 編集

外部リンク 編集