複素幾何学では、正形式(positive form)とは、ホッジタイプ (p, p) の実形式である。

(1,1)-形式 編集

複素多様体 M 上の実 (p,p)-形式は、タイプ (p,p) の実形式、つまり、交叉

 

を持つ形式である。実 (1,1)-形式   は正ということと、次の同値な条件が満たされることとは同値である。

  1.   は正(必ずしも正定値である必要はない)の虚部を持つエルミート形式である。
  2. (1,0)-形式の空間   のある基底   に対し、  は対角行列の形、非負な   をもつ実形式   と書くことができる。
  3. 任意の (1,0) 接ベクトル   に対し、 
  4.  複素構造を決める作用素とすると、任意の実接ベクトル   に対し、  である。

正のラインバンドル 編集

代数幾何学では、正の (1,1)-形式は、豊富なラインバンドルの曲率形式として現れる(また、正のラインバンドルとして知られている)。L を複素多様体上の正則なエルミートラインバンドルとすると、

 

は、複素多様体自身の複素構造を決める作用素である。従って、L は、エルミート構造を保存し、同時に、

 

を満たす一意な接続を持つ。

この接続をチャーン接続という。

チャーン接続の曲率   は、常に、純虚数 (1,1)-形式である。ラインバンドル L は、

 

が、正定値 (1,1)-形式であるとき、正であると呼ぶ。小平埋め込み定理は正のラインバンドルは豊富であり、逆に、任意の豊富なラインバンドル  が正定値なエルミート計量を持つことを言っている。

(p, p)-形式の正値性 編集

M 上の純 (1,1)-形式は、凸錐(convex cone)を形成する。M が次元   のコンパクトな複素曲面でれば、ポアンカレ双対

 

を考えると自己双対である凸錐英語版(self-dual)を持っている。

  のとき (p, p)-形式に対し、正値性に関して 2つの異なった考え方がある。正の実係数を持つ正形式の積の線型結合であるときは、強い正値性を持つといわれる。n-次元複素多様体 M 上の実 (p, p)-形式   は、コンパクトな台を持ち、強い正値性を持つすべての (n-p,n-p)-形式 ζ に対し、   であるときに、弱い正値性を持つといわれる。

弱い正値性と強い正値性は、凸錐を作る。コンパクトな多様体上では、これらの錐はポアンカレのペアについて自己双対英語版(dual)である。

参考文献 編集

  • Phillip Griffiths and Joseph Harris (1978), Principles of Algebraic Geometry, Wiley. ISBN 0-471-32792-1