殺鼠剤(さっそざい)とは、ネズミを駆除する目的で作られた薬剤である。通常は餌の形で投与するが、ほかに、粉剤を巣に吹き込んで全滅させる方法がある。農地・山林・貯穀倉庫で、農作物に加害するノネズミを駆除するための製剤は農薬として、家庭や事業所でイエネズミを駆除するための製剤は防除用医薬部外品として扱われる。後者のうち、畜舎やその周辺で使用されるものは、動物用医薬部外品として扱われる。

殺鼠剤(2010年、ドイツにて撮影)

作用 編集

数度の食餌に分けて駆除する累積毒剤と、一度の食餌で駆除する急性毒剤に大別される。

累積毒剤
数度に分けて継続的に摂取させる必要があるが、ヒトやペットの誤食に対する安全性が高いため、一般的に利用されている。クマリン系の抗血液凝固成分のクマテトラリル、血液凝固阻害薬のワルファリンジフェチアロールが代表的である。誤飲の解毒には、ビタミンKを投与する。
急性毒剤
薬剤の毒性が強く、取扱いが難しい。黄燐(猫いらず[注 1]として有名)、三酸化二ヒ素(こちらも猫いらずと呼ばれる)、リン化アルミニウムリン化亜鉛、ノルボルマイド、シリロシド、タリウム硫酸タリウムα-ナフチルチオ尿素モノフルオロ酢酸ナトリウムなどが代表。クマリン系の新しい薬剤でジフェチアロール、ジフェチアロンがある。

殺鼠剤の誤飲事故で、タリウムを摂取した場合の治療薬として、プルシアンブルー(紺青、ヘキサシアニド鉄(II)酸鉄(III))が用いられる。

薬剤抵抗性 編集

クマネズミおよびドブネズミの一部には、ワルファリンへの薬剤抵抗性を有した個体が存在し、スーパーラットと呼ばれている。このスーパーラットは1980年代に出現が報告され、1991年には、ワルファリン0.025%の毒餌と水だけで441日生存し続けたクマネズミが報告され、2000年代には東京都区部のクマネズミは、80%がワルファリン抵抗性を有している[1][2]

血液凝固性薬剤に対する薬剤抵抗性を獲得した個体は、肝臓でのVKOR代謝能力が高く、体内で抗凝固剤の毒性が高まる前に、排泄されていることが明らかとなった[1]。薬剤の濃度が高いと喫食せず、濃度が低いと一過性の中毒症状だけで死亡することなく回復する為で、弱い個体のみが死亡し、生き残った個体の耐性は、徐々に高くなって行くと考えられている[1]。また、ワルファリン以外の薬剤に対して、抵抗性を持った個体も報告されている[1]

日本における法規制 編集

1905年に、成毛英之助がアメリカの製品を参考に日本最初の黄リン系殺鼠剤「猫いらず」を発売した。ネズミ以外のモグラや害虫にも有効であったが、入手のしやすさから自殺が増えて、この毒物を使った自殺は「猫自殺」と呼ばれ[3]、犯罪にも使われる例が増えたことから、1921年(大正10年)、内務省は取締りを強化するよう各地方に訓令を出している[4]

第二次世界大戦後は、家庭で家ねずみを駆除する目的のものは医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)で、農地で野ねずみを駆除目的のものは農薬取締法で管理されており、成分、販売、取り扱いなどに関する規定がある。農薬の殺鼠剤を家庭で使うなど、目的外の使用をしてはならない。殺鼠剤の成分であるリン化アルミニウムは、水を混ぜると有毒ガスホスフィンが発生し、人が吸い込めば肺に水が溜まることで呼吸器不全を引き起こすため、毒物に分類されている[5]

目的外使用 編集

関連法規 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 「猫イラズ」は成毛製薬の登録商標(第54538号)。

出典 編集

  1. ^ a b c d 国内におけるワルファリン抵抗性ネズミの現況 いわゆるスーパーラットについて 環境毒性学会誌 Vol.12 (2009) No.2 p.61-70
  2. ^ 駆除できないネズミ 増殖の背景は NHK ニュースウオッチ9 2013年1月25日(金)
  3. ^ 猫いらず. コトバンクより。
  4. ^ 下川耿史 『環境史年表 明治・大正編(1868-1926)』p345 河出書房新社 2003年11月30日刊 全国書誌番号:20522067
  5. ^ ^ “殺虫剤で子ども4人死亡、水かけて有毒ガスが発生 米”. CNN (2017年1月4日). 2019年8月16日閲覧。
  6. ^ 「偽大麻」で2人死亡、50人超が激しい出血 米イリノイ州”. CNN (2018年4月3日). 2018年8月16日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集