洗濯屋ケンちゃん(せんたくやケンちゃん)は、1982年[1][2]日本で流通した裏ビデオ作品。日本の裏ビデオの代名詞的な作品とされ[3]、裏ビデオの名作[4][5][6][7]あるいは傑作[8][9]などと評される。

解説 編集

題名はかつての人気ドラマ『ケンちゃんシリーズ』のもじりである。本作品の監督であり、俳優として『ケーキ屋ケンちゃん』に出演歴のある藤井智憲により命名された[10]。監督の藤井のほか、『コメットさん』の監督歴のある出口富雄(出口十三夫)が制作[11](出口の監修した書籍によれば肩書きは「制作」ではなく「総監督」[12])を担当するなど、テレビ・映画関係者により作られた。

女優2名のキャスティングはスカウトに任せた[11]が、主演男優はスカウトでは手配がつかず、監督の藤井と知り合いだった俳優の久野一之[11]こと北林健[4]が起用された。久野は後に「きたばやしけん」名義で海外輸出向けのポルノ映画『高野聖』(1983年版)に主役の僧宗朝として出演している[10]

アメリカへの輸出を想定して撮影された[10][13]ため、本格的な絡みのある演出となった[10]。日本で初めて顔射シーンを映像化した作品であるとされる[7]。制作の出口富雄によると、オリジナルには上映時間の異なる3つの版(上映時間はそれぞれ60分、30分、45分)が存在した[14]

制作スタッフがマスターテープからダビングしたのは200本程度であった[15]が、ダビング業者から流出して[15]大量に広まった。流通した総数は10万本[1]、13万本[2][15][16]、15万本[17]、あるいは50万本[17]とも言われ、視聴した者の総数は500万人に及ぶとも推測されている[17]。家庭用ビデオデッキ(特にVHS規格のデッキ[18])の購入特典として本作品のビデオテープが配られ[2][16][17][18][19]、本作品は家庭用ビデオデッキの普及に貢献した[1][2][16][17][18][19]。広く流通し、日本における裏ビデオの代名詞的な作品[3]となったが、流通後に制作スタッフと主演男優がわいせつ物頒布等の罪などで見せしめ逮捕をされる事態となった[10][12][4]

草むらの性交シーンの撮影地については、かつて「浦安市埋立地で、現在は巨大テーマリゾートが建っている」などと言われてきた(例えば[4][20]などがこのように述べている)。しかし主演男優だった北林ケン(北林健)が「安田理央文化センターVol.1 『昭和裏ビデオナイト』」[21]という2022年3月のイベントに出演した際に持参した当時の起訴状には、「江戸川区葛西臨海町1丁目先葛西海浜公園予定地[22](現・葛西臨海公園)との検察庁記述がある。これにより撮影地は千葉県浦安市ではなく東京都江戸川区葛西荒川河口付近であったことが判明した。

あらすじ 編集

洗濯屋(クリーニング店)のケンちゃんは、自慰潮吹きしてしまうほどの性的欲求不満を抱えるお得意様の二号さんをデートに誘って屋外の草むらで青姦し、友達の彼女を騙してラブホテル強姦する[3][10][17]

キャスト 編集

スタッフ 編集

関連書籍 編集

関係者自身による出版物 編集

制作の出口富雄は1983年1月、『コンバット』という別の裏ビデオ作品の監督を務めた大野順一と共同で、制作の裏話を記した書籍『アダルトビデオを69倍楽しむ方法』を出版している[12]。また、監督の藤井智憲は2001年12月に撮影の回想録『さよなら、「洗濯屋ケンちゃん」』を官能小説専門の電子書籍サイト「おとなの本屋・さん」で発表している[24]

インタビュー 編集

寺井広樹著『伝説のAV女優』(彩図社2021年)のインタビューで監督の藤井が自身の実体験を元に脚本を執筆したこと[25]ジャン=ポール・ベルモンドなどの海外スターからも「洗濯屋ケンちゃん」が高く評価されたこと[26]を明かしている。また『Ken Chan, the Laundry Man』と題してアメリカでも1984年に英語字幕版が流通した旨が記述されている[27]

影響 編集

初代ケンちゃん宮脇康之(現 宮脇健)は、第10回ビートたけしのお笑いウルトラクイズに出演した際、「馬鹿野郎。俺は洗濯屋ケンちゃんじゃないよ。」と発言している。

サザンオールスターズのシングル「東京シャッフル」のミュージック・ビデオには、ニュースキャスターに扮した桑田佳祐が曲を紹介する時に、「かつて日本中の若者達の人気を博しました、あの幻の“洗濯屋ケンちゃん”が…」と、他のニュース原稿と間違えて読む、というコントシーンがある。

SEX MACHINEGUNSの楽曲『人妻キラー』のミュージック・ビデオに「洗濯屋KENちゃん」と書かれたチラシが出てくる。

脚注 編集

  1. ^ a b c 小室友里、菊地⾹(構成)「アダルトビデオ AV30年(上) 元⼈気女優小室友里が明かす光と影」『サンデー毎日』、毎日新聞出版、2012年7月1日、3ページ、145ページ。 
  2. ^ a b c d “日本にビデオデッキ普及させた『洗濯屋ケンちゃん』とは?”. NEWSポストセブン. 週刊ポスト (小学館). (2012年11月7日). オリジナルの2022年5月25日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220525113927/https://www.news-postseven.com/archives/20121107_153389.html?DETAIL 2018年2月9日閲覧。 
  3. ^ a b c 昭和性資料研究会『新・幻の性資料1 昭和名作裏ビデオの軌跡』イースト・プレス、2014年7月、7-10頁。ISBN 978-4781612300 
  4. ^ a b c d 「裏ビデオの名作『洗濯屋のケンちゃん』の凱旋」『週刊文春』第25巻第28号、文藝春秋社、1983年7月、190-193頁。 
  5. ^ 佐野眞一「第5章 暗闇のフロントランナー・ポルノ映画の現在」『日本映画は、いま ― スクリーンの裏側からの証言』TBSブリタニカ、1996年、216頁。ISBN 4-484-96201-2 
  6. ^ 「『洗濯屋ケンちゃん』の17年 日本の"裏20世紀"を駆け抜けていった藤井智憲監督の奔放人生」『週刊宝石』第19巻第22号、光文社、1999年6月、166-167頁。 
  7. ^ a b 高田次郎『幻の性資料 第25巻 裏ムービー傑作選』イースト・プレス、2003年5月、5,34-42頁。ISBN 978-4872573510 
  8. ^ 丸茂ジュン「性相突撃ルポ 『洗濯屋ケンちゃん』幻の名監督の新作に大欲情す」『宝石』第12巻第11号、光文社、1984年11月、353-359頁。 
  9. ^ 「寝苦しい夜を気持ちよく 『洗濯屋ケンちゃん』から『下着ゴッコ』までマニア垂涎! "秘蔵"傑作・名作「裏ビデオ」一挙公開 完全入手法付き」『週刊現代』第38巻第32号、講談社、1996年8月、172-176頁。 
  10. ^ a b c d e f g h i “『洗濯屋ケンちゃん』監督 ジョン・レノンの家に居候の過去”. NEWSポストセブン. 週刊ポスト (小学館). (2015年8月19日). オリジナルの2020年11月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20201108125058/https://www.news-postseven.com/archives/20150819_341459.html?DETAIL 2018年2月9日閲覧。 
  11. ^ a b c d e 藤井 2001a.
  12. ^ a b c d 出口 1983, p. 3.
  13. ^ 菊地⾹「アダルトビデオ AV30年(下) プレー化、短絡化、童貞増… 変えた男と⼥」『サンデー毎日』、毎日新聞出版、2012年7月15日、3ページ、133ページ。 
  14. ^ 出口 1983, p. 52.
  15. ^ a b c 出口 1983, p. 38.
  16. ^ a b c “『洗濯屋ケンちゃん』 13万本が流通し累計売り上げ12億円説”. NEWSポストセブン. 週刊ポスト (小学館). (2015年8月16日). オリジナルの2020年11月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20201108180455/https://www.news-postseven.com/archives/20150816_341442.html?DETAIL 2018年2月9日閲覧。 
  17. ^ a b c d e f “500万人を魅了した伝説の昭和裏ビデオ『洗濯屋ケンちゃん』とは!?(2ページ目)”. LITERA (サイゾー). (2014年8月26日). オリジナルの2023年5月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20230505120619/https://lite-ra.com/2014/08/post-400_2.html 2018年2月9日閲覧。 
  18. ^ a b c “「洗濯屋ケンちゃん」で始まった“裏モノ”の栄枯盛衰史”. NEWSポストセブン. 週刊ポスト (小学館). (2017年10月1日). オリジナルの2020年2月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200206210048/https://www.news-postseven.com/archives/20171001_615760.html 2018年2月9日閲覧。 
  19. ^ a b “[ぽっぷかるちゃ〜]⽉例講座 アダルトビデオ”. 毎日新聞: p. 6. (1998年7月21日東京夕刊) 
  20. ^ 藤木TDC「みんな「洗濯屋ケンちゃん」をひっそり見たものだ」『昭和の謎99 衝撃の真相解明号』、ミリオン出版、2017年8月25日、18-21頁、ISBN 978-4-8130-7940-8 
  21. ^ a b 【時間変更あり】安田理央文化センターVol.1 『昭和裏ビデオナイト』”. 阿佐ヶ谷ロフトA (2022年3月18日). 2024年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月8日閲覧。
  22. ^ 昭和裏ビデオ研究TAKA [@Jporn_vintage] (2024年1月9日). "(前略) 洗濯屋ケンちゃんロケ地ですが". 2024年3月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。X(旧Twitter)より2024年3月8日閲覧 ※ツイート者の「昭和裏ビデオ研究TAKA」は2022年3月18日のイベント「安田理央文化センターVol.1『昭和裏ビデオナイト』」[21]の出演者。
  23. ^ 寺井 2021, p. 202.
  24. ^ 藤井 2001.
  25. ^ 寺井 2021, pp. 198–199, 205.
  26. ^ 寺井 2021, p. 207.
  27. ^ 寺井 2021, p. 209.

参考文献 編集

  • 山本純也・小原俊一(編)、出口富雄・大野順一(監修)『アダルトビデオを69倍楽しむ方法』群雄社出版、1983年1月。ISBN 4-87617-045-2 
  • 藤井智憲『さよなら、「洗濯屋ケンちゃん」~日本初の本番ビデオの監督の告白~』おとなの本屋・さん、2001年12月7日。 
  • 寺井広樹「【特別インタビュー】 伝説の裏ビデオ『洗濯屋ケンちゃん』を撮った男 藤井智憲」『伝説のAV女優 ~黄金時代を築いた女神たち~』彩図社、2021年11月、195-225頁。ISBN 978-4-8013-0559-5 

関連項目 編集