混線内接円

三角形の二辺に接し外接円に内接する円

混線内接円[1](こんせんないせつえん、: mixtilinear incircle)とは、ある三角形の二辺に接し、かつその外接円に内接する円のことである。三角形の頂点 を含む二辺に接する混線内接円は 混線内接円と呼ぶ。すべての三角形は、各頂点に一意に対応する三つの混線内接円を持つ。

三角形 混線内接円

一意に存在することの証明 編集

三角形    傍接円は一意に存在する。  を中心とし   を半径とする反転と、角   の二等分線に関する鏡映合成することで定義される変換  とする。反転と鏡映は全単射であり接点が不変に保たれるので、  も同様である。このとき、  による   傍接円のは、辺   と辺   に内接し、かつ三角形   の外接円に接するので、すなわち   混線内接円である。したがって、  混線内接円は一意に存在し、同様の議論により    に対しても同じことが示される[2]

作図 編集

 
六角形   とその三組の対辺の交点  

  混線内接円は次の手順を踏むことにより作図できる[3]

  1. 角の二等分線を交わらせることで内心   を描く。
  2.   を通り直線   に垂直な直線を描き、直線    との交点をそれぞれ点    とする。これらは混線内接円が接する点になる。
  3.    からそれぞれ    の垂線を描き、その交点を   とする。  を中心とし   を半径とする円が混線内接円である。

この作図は次の事実により保証されている。

補題(ニクソンの定理) 編集

この内心は、混線内接円が二辺と接する点の中点である[4][5]

証明 編集

  を三角形   の外接円とし、   混線内接円    の接点とする。  と異なる点    を、それぞれ    の、   の交点とする。  を中心として    のあいだに相似変換を施すことにより、   がそれぞれ   の弧    の中点であることがわかる。円周角の定理により、   がそれぞれ共線な点の三つ組であることがわかる。パスカルの定理  に接する六角形   に適用することにより、  が共線であることがわかる。角    が等しいことから、  が線分   の中点であることが従う[2]

他の性質 編集

半径 編集

次の公式は内接円の半径   と三角形    混線内接円の半径   を結びつける[6]

 

このことから即座に次の式が従う:

 

ただし  半周長であり、またこの式は点   と円   に対してケイシーの定理を適用することにより得ることもできる[7]

外接円の点との関係 編集

  •   を含む弧   の中点は直線   上にある[8][9]
  • 四角形   は調和四角形である。すなわち、  は三角形  類似中線である[2]

外接円との接点に関連する円 編集

  •   共円四辺形である[8]

螺旋相似 編集

  •     をそれぞれ    に写す螺旋相似英語版の中心である[2]

三つの混線内接円のあいだに成り立つ関係 編集

頂点と接点を結ぶ直線 編集

各頂点と、それに対応する混線内接円が外接円と接する点を結ぶ三直線は、内接円と外接円の外相似点で交わる。Encyclopedia of Triangle Centersでは X(56) として紹介されている[10]三線座標では   であり、重心座標では   である。

この点は、三角形の垂心とフォイエルバッハ点、ジェルゴンヌ点シフラー点を通る直線上にある。また、ナーゲル点等角共役である。よってこの点はフォイエルバッハ双曲線上にある。混線内接円が外接円と接する点の成す三角形は第三混線三角形(3rd mixtilinear triangle)と呼ばれる[11]

根心 編集

三つの混線内接円の根心   は、 

 
に内分する。ここで   は内心、  は内半径、  は外心、  は外半径である[9]

 ミッテンプンクト等角共役X(57)と内心の中点である。また、重心ジョンソン中点オランダ語版共線である。Encyclopedia of Triangle CentersではX(999)に該当し三線座標は以下の式で与えられる[12]

 

参考文献 編集

  1. ^ チェン, エヴァン『数学オリンピック幾何への挑戦:ユークリッド幾何学をめぐる船旅』日本評論社、2023年、98頁。 
  2. ^ a b c d Baca, Jafet. “On Mixtilinear Incircles”. 2021年10月27日閲覧。
  3. ^ Weisstein, Eric W.. “Mixtilinear Incircles” (英語). mathworld.wolfram.com. 2021年10月31日閲覧。
  4. ^ Nguyen Chuong Chi (2018). “A Proof of Dao’s Generalization of the Sawayama Lemma”. International Journal of Computer Discovered Mathematics Volume 3: 1-4. https://journal-1.eu/2018/Nguyen%20Chuong%20Chi%20-%20Dao's%20generalization.pdf. 
  5. ^ Jean-Louis Ayme. “Sawayama and Th´ ebault’s theorem”. Forum Geometricorum. 2024年5月19日閲覧。
  6. ^ Yui, Paul (April 23, 2018). “Mixtilinear Incircles”. The American Mathematical Monthly 106 (10): 952–955. doi:10.1080/00029890.1999.12005146. https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/00029890.1999.12005146 2021年10月27日閲覧。. 
  7. ^ 岩田至康『幾何学大辞典 補巻2』槙書店、1993年、23頁。ISBN 4837506119 
  8. ^ a b Chen, Evan (2016). Euclidean Geometry in Mathematical Olympiads. United States of America: MAA. pp. 68. ISBN 978-1-61444-411-4 
  9. ^ a b Nguyen, Khoa Lu (2006年). “On Mixtilinear Incircles and Excircles”. 2021年11月27日閲覧。
  10. ^ ENCYCLOPEDIA OF TRIANGLE CENTERS X(56) = EXSIMILICENTER(CIRCUMCIRCLE, INCIRCLE)”. faculty.evansville.edu. 2021年10月31日閲覧。
  11. ^ Index of triangles”. faculty.evansville.edu. 2024年5月11日閲覧。
  12. ^ ENCYCLOPEDIA OF TRIANGLE CENTERS X(999) = MIDPOINT OF X(1) AND X(57)”. faculty.evansville.edu. 2024年3月21日閲覧。