特別業務の局(とくべつぎょうむのきょく)は、無線局の種別の一つである。

定義 編集

総務省令電波法施行規則第4条第1項第29号に「特別業務を行う無線局」と定義している。 特別業務とは、第3条第1項第20号に「前各号に規定する業務及び電気通信業務(不特定多数の者に同時に送信するものを除く。)のいずれにも該当しない無線通信業務であつて、一定の公共の利益のために行われるもの」 と定義している。

引用の促音の表記は原文ママ

開設の基準 編集

総務省令無線局(基幹放送局を除く。)の開設の根本的基準第7条の2から第7条の3による。

第7条の2 特別業務の局は、次の各号の条件を満たすものでなければならない。

1 その局は、免許人以外の者の使用に供するものでないこと。
2 その局を開設する目的、通信の相手方の選定及び通信事項が法令に違反せず、且つ、公共の福祉を害しないものであること。
3 通信の相手方及び通信事項は、その局の免許を受けようとする者の事業又は業務の遂行上必要であつて、最小限のものであること。
4 その局を開設することが既設の無線局等の運用又は電波の監視に支障を与えないこと。

第7条の3 特別業務の局であつて、既設の無線局の通信を抑止する業務に供するものについては、前条の規定にかかわらず、次の各号の条件を満たすものでなければならない。

1 前条各号に掲げる条件を満たすものであること。
2 その局は、次に掲げる既設の無線局(第3号において「携帯無線通信等の無線局」という。)の通信を抑止し、建物その他の施設における静穏を保持することその他一定の公共の利益のために行われることを目的として開設するものであること。
(1) 携帯無線通信(設備規則第3条第1号に規定する携帯無線通信をいう。)を行う基地局陸上移動中継局(基地局と同一の周波数を使用するものに限る。以下この号において同じ。)又は陸上移動局(基地局と同一の周波数を中継するものに限る。以下この号において同じ。)
(2) 広帯域移動無線アクセスシステムの基地局、陸上移動中継局又は陸上移動局
(3) PHSの基地局(設備規則第9条の4第4号イに規定するPHSの基地局をいう。)又は陸上移動中継局
3 その局を開設し、運用することについて同一の周波数を使用する携帯無線通信等の無線局を運用するものから同意が得られていること。

引用の促音の表記は原文ママ、設備規則は無線設備規則の略

この基準において特に条文が割かれているのは、携帯電話等の通信機能抑止装置が他の特別業務の局の無線設備と大きく態様が異なる為、特に規定することが必要だからである。

概要 編集

電波法施行規則には種々の無線局について種別を定義しているが、いずれにもあてはまらないときに指定される種別である。

実務上は、何らかの目的の為の特定または不特定の者に向けての一方的な送信、放送に類似した同報通信[1]がほとんどである。 また、定義に「公共の利益のため」とあるので免許人は官公庁や公益性を持つ民間団体に限られる。

具体的には、

などがある。

過去にあった海上保安庁による船舶気象通報道路管理者によるVICSと呼ばれる道路交通情報通信用無線ビーコンも特別業務の局であった。

末尾の( )内は免許人

変わったものとしては、携帯電話等の通信機能抑止装置は実験試験局として免許されてきたが、電波有効利用成長戦略懇談会から実用局化とする考え方が示され、「携帯無線通信等を抑止する無線局」という特別業務の局の一種として免許されること[3]となった。

免許 編集

種別コードSP。免許の有効期間は5年。但し、当初に限り有効期限は5年以内の一定の11月30日となる(沿革を参照)が、通信機能抑止装置は例外で免許の日から5年である。

適合表示無線設備を使用すれば簡易な免許手続の規定が適用され、予備免許落成検査が省略されて免許されるが、該当するのはVICSのみで、これは廃止された。簡易な免許手続の適用外でも、一部を除き登録検査等事業者等による点検ができるので、この結果に基づき落成検査が一部省略される。

用途

局数の推移に見るとおり「水防水利道路用」が多数を占めている。 これはVICSと路側放送で、VICSが多数であったが廃止により総数ともども大きく減少した。

  • 路側放送で警察によるものは、警察庁が免許人であり「その他国家行政用」に分類される。

代わって増加してきたのが「その他」で、通信機能抑止装置が特別業務の局として免許されて以降この用途として分類されることによる。

  • 運転免許試験場に設置されたものは、警察庁が免許人であり「その他国家行政用」に分類される。
表示

適合表示無線設備には、技適マークの表示が義務付けられている。 また、技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号の表示も必須とされる。 従前は工事設計認証番号にも表示を要した。

  • 特別業務の局で該当するのはVICSで、これを表す記号は技術基準適合証明番号の英字の1-2字目のPZ[4]であるが廃止された。

技適マーク#沿革を参照。

旧技術基準の機器の使用 編集

無線設備規則のスプリアス発射等の強度の許容値に関する技術基準改正 [5] により、旧技術基準に基づく無線設備が免許されるのは「平成29年11月30日」まで [6]、 使用は「平成34年11月30日」まで [7] とされた。

対象となるのは、

  • 「平成17年11月30日」[8]までに製造された機器または認証された適合表示無線設備
  • 経過措置として、旧技術基準により「平成19年11月30日」までに製造された機器[9]または認証された適合表示無線設備[10]

である。

新規免許は「平成29年12月1日」以降はできないが、使用期限はコロナ禍により[11]「当分の間」延期[12]された。

詳細は無線局#旧技術基準の機器の使用を参照。

運用 編集

無線局運用規則第6章 特別業務の局及び標準周波数局の運用による。

電波法第16条第1項ただし書および電波法施行規則第10条の2第6号により、VICSおよび空中線電力10W以下の路側放送以外の局は運用開始の届出を要する。

無線局運用規則第140条により、通信機能抑止装置、VICSおよび空中線電力10W以下の路側放送以外の局は次の運用に関する事項が告示される。

  1. 電波の発射又は通報の送信を行う時刻
  2. 電波の発射又は通報の送信の方法
  3. その他当該業務について必要と認める事項

操作 編集

特別業務の局は、政令電波法施行令第3条第2項第6号に規定する陸上の無線局であり、最低でも第三級陸上特殊無線技士以上の無線従事者による管理(常駐するという意味ではない。)を要するのが原則である。

  • 通信事項が海事又は航空に係わるものであっても海上系又は航空系の無線従事者では操作できない。

例外を規定する電波法施行規則第33条の無線従事者を要しない「簡易な操作」から特別業務の局に係わるものを抜粋する。

検査 編集

  • 落成検査は、適合表示無線設備を用いたものであれば簡易な免許手続が適用され省略される。これ以外でも一部を除き登録検査等事業者等による点検が可能でこの結果に基づき一部省略される。
  • 定期検査は、電波法施行規則第41条の2の6第26号により路側放送用及びアマチュア局に対する規正通信用以外に行われる。
周期は別表第5号第32号により次の通り。
(1) 航空機又は船舶のための気象通報及び航行警報等の業務用 1年
(2) (1)に該当しないもの 5年
一部を除き登録検査等事業者等による検査が可能で、この結果に基づき検査が省略される。
  • 変更検査は、落成検査と同様である。

沿革 編集

1950年(昭和25年)- 電波法施行規則[14]制定時に「前各号に規定する業務及び公衆通信業務を除いた業務であつて、一定の公共の利益のために行われるもの」 と定義された。免許の有効期間は5年。但し、当初の有効期限は電波法施行の日から2年6ヶ月後(昭和27年11月30日)まで。

1952年(昭和27年)- 12月1日に最初の再免許

  • 以後、5年毎の11月30日に満了するように免許される。

1985年(昭和60年)- 定義が「前各号に規定する業務及び電気通信業務を除いた業務であつて、一定の公共の利益のために行われるもの」 と改正[15]

引用の促音の表記は原文ママ、設備規則は無線設備規則の略

1993年(平成5年)- 電波利用料制度化、料額の変遷は下表参照

1994年(平成6年)- VICSが制度化[16]

  • 証明機器(現・適合表示無線設備)[17]を使用するものとされ、運用開始の届出は要しない[18]、運用に関する事項の告示も要しない[19]とされた。

1996年(平成8年)- 同一免許人所属の路側放送の無線業務日誌は地方電気通信監理局(現・総合通信局)(沖縄郵政管理事務所(現・沖縄総合通信事務所)を含む。)管内で共用できるものに[20]

1998年(平成10年)- 路側放送用及びアマチュア局に対する規正通信用は定期検査を実施しないことに[21]

2002年(平成14年)- 定義が現行のものに[22]

2004年(平成16年)- 空中線電力10W以下の路側放送は、運用に関する事項の告示が不要に[23]

2009年(平成21年)- 特別業務の局は全て無線業務日誌の備付けが不要に[24]

2020年(令和2年)- 無線局(基幹放送局を除く。)の開設の根本的基準に特別業務の局に関する条文が追加、通信機能抑止装置は特別業務の局に[25]

  • 通信機能抑止装置の免許の有効期間は免許の日から5年とされ、運用開始の届出は要しない、運用に関する事項の告示も要しないとされた。

2022年(令和4年)- VICS廃止[26][27]

引用の促音の表記は原文ママ

局数の推移
年度 平成13年度末 平成14年度末 平成15年度末 平成16年度末 平成17年度末 平成18年度末
総数 3,390 3,514 3,706 3,765 3,728 3,755
水防水利道路用 2,952 3,064 3,257 3,263 3,307 3,343
年度 平成19年度末 平成20年度末 平成21年度末 平成22年度末 平成23年度末 平成24年度末
総数 3,830 3,839 3,746 3,718 3,709 3,753
水防水利道路用 3,489 3,423 3,455 3,372 3,382 3,386
年度 平成25年度末 平成26年度末 平成27年度末 平成28年度末 平成29年度末 平成30年度末
総数 3,689 3,671 3,531 3,419 3,234 3,110
水防水利道路用 3,471 3,456 3,324 3,235 3,067 2,956
年度 令和元年度末 令和2年度末 令和3年度末 令和4年度末    
総数 2,949 2,745 2,261 774    
水防水利道路用 2,801 2,580 2,064 541    
その他 21 33 79 103    
各年度の用途・局種別無線局数[28]による。
電波利用料

自局及び通信の相手方の移動の有無により、電波法別表第6の次の項が適用される。

  • 自局が移動する - 第1項の「移動する局」
  • 自局が移動せず、相手方が移動する - 第2項の「移動しない局」
  • 自局が移動せず、相手方も移動しない - 第9項の「その他の局」

以下、特別業務の局が免許されたものについて掲げる。 2006年(平成18年)4月[29]以降は、特別業務の局が免許された周波数の範囲に限定し、備考に注記する。

移動する局
年月 料額 備考
1993年(平成5年)4月[30] 600円  
1997年(平成9年)10月[31]
2006年(平成18年)4月[29] 600円 3GHz以下で周波数幅6MHz以下
2008年(平成20年)10月[32] 400円
2011年(平成23年)10月[33] 500円
2014年(平成26年)10月[34] 600円
2017年(平成29年)10月[35]
2019年(令和元年)10月[36] 400円 3.6GHz以下で周波数幅6MHz以下
周波数の細分については料額が変わらないので省略
2022年(令和4年)10月[37]
注 料額は減免措置を考慮していない。
移動しない局
年月 料額 備考
1993年(平成5年)4月[30] 12,100円  
1997年(平成9年)10月[31]
2006年(平成18年)4月[29] 空中線電力10mW以下 5,300円 3GHz以下
空中線電力10mW超 7,900円
2008年(平成20年)10月[32] 空中線電力10mW以下 6,100円
空中線電力10mW超 9,400円
2011年(平成23年)10月[33] 空中線電力10mW以下 7,300円
空中線電力10mW超 8,900円
2014年(平成26年)10月[34] 空中線電力10mW以下 8,700円
空中線電力10mW超 10,600円
2017年(平成29年)10月[35] 空中線電力10mW以下 10,460円
空中線電力10mW超 12,700円
2019年(令和元年)10月[36] 470MHz以下 空中線電力10mW以下 2,600円 6GHz以下
空中線電力10mW超 5,900円
470MHz超
3.6GHz以下
空中線電力10mW以下 2,600円
空中線電力10mW超 10,900円
3.6GHz超
6GHz以下
空中線電力10mW以下 2,600円
空中線電力10mW超 5,900円
2022年(令和4年)10月[37] 470MHz以下 空中線電力10mW以下 3,100円
空中線電力10mW超 6,400円
470MHz超
3.6GHz以下
空中線電力10mW以下 3,100円
空中線電力10mW超 22,800円
3.6GHz超
6GHz以下
空中線電力10mW以下 3,100円
空中線電力10mW超 6,400円

  • 料額は減免措置を考慮していない。
  • 周波数と空中線電力の組合せが複数の料額にわたる時は、最高額のものが適用される。

その他 編集

マーチス、VOLMET放送、路側放送、潮流放送はベリカードを、しおかぜはベリカードに代えて御礼状を発行している。 これらは無線局の義務ではなく厚意によるものである。

脚注 編集

  1. ^ 電波法施行規則第2条第1項第20号 「同報通信方式」とは、特定の二以上の受信設備に対し、同時に同一内容の通報の送信のみを行なう通信方式をいう。(送り仮名の表記は原文ママ)
  2. ^ 令和5年総務省令第67号による電波法施行規則改正
  3. ^ 無線局(基幹放送局を除く。)の開設の根本的基準等の一部を改正する省令案等に対する意見募集の結果及び電波監理審議会からの答申 -携帯電話等抑止装置の実用局化等のための制度整備-(総務省 報道資料 令和2年4月24日)(2020年5月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  4. ^ 特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則様式7
  5. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正
  6. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第2項および平成19年総務省令第99号による同附則同条同項改正
  7. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第1項
  8. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正の施行日の前日
  9. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第2項
  10. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第5条第4項
  11. ^ 無線設備規則の一部を改正する省令の一部改正等に係る意見募集 -新スプリアス規格への移行期限の延長-(総務省報道資料 令和3年3月26日)(2021年4月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  12. ^ 令和3年総務省令第75号による無線設備規則改正
  13. ^ 平成2年郵政省告示第240号 電波法施行規則第33条の規定に基づく無線従事者の資格を要しない簡易な操作(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
  14. ^ 昭和25年電波監理委員会規則第3号
  15. ^ 昭和60年郵政省令第5号による電波法施行規則改正
  16. ^ 平成6年郵政省令第71号による無線設備規則改正
  17. ^ 平成6年郵政省令第72号による特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則(現・特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則)改正
  18. ^ 平成6年郵政省令第69号による電波法施行規則改正
  19. ^ 平成6年郵政省令第70号による無線局運用規則改正
  20. ^ 平成8年郵政省告示第219号による昭和35年郵政省告示第1017号改正
  21. ^ 平成9年郵政省令第75号による電波法施行規則改正の施行
  22. ^ 平成14年総務省令第5号による電波法施行規則改正
  23. ^ 平成16年総務省令第119号による無線局運用規則改正
  24. ^ 平成21年総務省告示第321号による昭和35年郵政省告示第1017号改正
  25. ^ 令和2年総務省令第61号による無線局(基幹放送局を除く。)の開設の根本的基準等改正
  26. ^ 電波ビーコン(2.4GHz)の今後の扱いについて(国土交通省 - 道路I - TSスポット 平成26年3月31日)(2014年4月3日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  27. ^ 旧方式の渋滞度情報提供サービス終了のお知らせ(道路交通情報通信システムセンター - お知らせ 2022年4月1日) - ウェイバックマシン(2022年5月25日アーカイブ分)
  28. ^ 用途別無線局数 総務省情報通信統計データベース - 分野別データ
  29. ^ a b c 平成17年法律第107号による電波法改正の施行
  30. ^ a b 平成4年法律第74号による電波法改正の施行
  31. ^ a b 平成9年法律第47号による電波法改正
  32. ^ a b 平成20年法律第50号による電波法改正
  33. ^ a b 平成23年法律第60号による電波法改正
  34. ^ a b 平成26年法律第26号による電波法改正
  35. ^ a b 平成29年法律第27号による電波法改正
  36. ^ a b 令和元年法律第6号による電波法改正
  37. ^ a b 令和4年法律第63号による電波法改正

関連項目 編集

外部リンク 編集