糞尿愛好症(ふんにょうあいこうしょうCoprophilia)とは、排泄行為、及び排泄物に対し著しい性的興奮を得てそれが固着した性的倒錯である。糞便に対してのフェティシズムとして称され、尿に対するフェティシズムと区別されることが多いが、元来どちらの要素も含んだ言葉である。排泄行為をする性的パートナーに対する執着はパラフィリアに分類され、排泄物そのものに対する執着はフェティシズムに分類される。

概要 編集

排泄器官が、性器とも非常に密接な位置にある(男性は兼用)ことから、精神の発達段階において、排泄行為と性行為の興味関心は関連し合うと考えられていた。フロイトの小児性欲の概念にも、肛門期なるものが想定されていた。また、兄弟姉妹のいる家庭においては、おねしょおもらしなどにより普段は隠されるべき性器が晒されることにより、性的な意識の萌芽を起こすことがまれにある。そういった性的な刺激を得やすい条件が揃っているために、こうした性的倒錯は散見される。

また、近代になって衛生観念が発達したこともあって、こうした糞便に対する禁忌は激しくなったともいえ、年少児童の糞尿に対する好奇心や興味が抑制されたまま、固着をするケースも散見される。もともと排泄行為はある種の解放感を抱き、なおかつ意図的に排泄行為を抑制し続けることが困難なため、強制しやすいという特徴を持つ。

また、排泄が恥ずかしい行為と認識するのは教育によるものであり、そうした教育を受けた社会的地位のある性的パートナーに強要することで、相手の自尊心を貶める目的の場合は、BDSMの分野の嗜好に分類される。

失禁フェティシズムについて 編集

糞尿愛好症の中で、比較的性風俗産業などで取り入れられた嗜好の一つである。性的パートナーに随意、不随意を問わず排尿(失禁)させる、あるいはさせられることに性的興奮を覚える性的倒錯である。英語圏では、特に尿に特化した性的嗜好をUrolagniaと称している。ポルノビデオなどに見られる、英語の隠語スラング)として「ウォータースポーツ」という呼び方も存在する。

嗜好の傾向 編集

どちらもいくつかの傾向に分類される。こうした傾向は排泄行為の前後の状況を含めた固着であり、相手の羞恥の姿に興奮するのは通常の性的嗜好の範疇であり、性的倒錯と言うほどではない。

衆目の中で着衣・パンツのまま失禁(脱糞)する、させる
前者は汚損愛好症露出症にもクロスオーバーする。後者はBDSMディシプリンにオーバーラップする。
失禁・脱糞
誰もいない便所以外の場所で着衣・パンツのまま失禁(脱糞)する。自慰に近い行為。汚損愛好症とオーバーラップする。
衆目の中で裸で失禁(脱糞)する、させる
露出症、強制露出と呼ばれ、恥ずかしい行為としての失禁なのか、失禁が目的かの切り分けが曖昧にある。
誰もいない便所以外の場所で裸のまま失禁(脱糞)する。
自慰に近い行為。露出症とよりオーバーラップする。
食糞飲尿
相手、自分の糞尿を食べる・飲む事によって愛情表現をする。
制服おもらしフェチ
学校の制服セーラー服等、上履きハイソックス等含む)を着て尿失禁同人誌でもよく扱われる。

切り分け 編集

糞尿はいらないもの、汚いものなど社会的な意味付けがなされる傾向にあるため、どこまでが糞尿愛好症と言えるかは難しい。下記のように他の趣味嗜好の変形と見なせる場合もある。

大便そのものに興味がある
男性のもの女性のもの関わらず性的興奮を覚えるとすれば強い糞尿愛好症と言えるが、女性の糞尿限定の場合、サドマゾヒズムなど別な嗜好の変形とも見なすことが出来る。また食糞の傾向を持つ場合はマゾヒズムなどの変形とも考えることが出来る。
汚いものに興味がある
汚物としての糞尿にこだわる場合は鼻水など一般的に汚いとされるものに対する偏愛(スカトロジー)と言える。しかし汚物の付着によってそのものの価値を損なう、という考えのもとではサドマゾヒズムの変形とも考えることができる。
排泄行為を見たい
普段隠されるべき行為を見たい、という場合窃視症の変形とも考えることが出来る。行為における対象の羞恥を見たい場合はサディズムの変形とも考えることが出来る。大便そのものには不快感を覚える場合はなおさらである。タブーを犯すことに興味がある、美しい女性の排泄を見たいという場合はニーチェのいうルサンチマンに近しい概念であり、糞尿ではなく排泄行為により弱体化した女性を見ることにより優越感を得るものとも考えることができる。
西洋社会の場合、糞尿を肥料として利用する習慣がないことから、排泄物には汚物としての負の側面が強く付きまとっていた。一方、明治までの日本では伝統的に糞尿を肥料として用いていたこともあり、排泄物には汚れたものという見方以外に、価値あるものとしての側面も持っていた。そのため、排泄物を直接取り扱うことのない上流階級を除けば、排泄行為への羞恥心は今ほど大きなものではなかった。しかし、明治特に大正時代に入ると、西洋文化の受容や化学肥料の普及により、次第に排泄物の利用価値が失われていく。その結果、排泄行為が単なる恥ずかしい劣った行為となり、下水道の整備なども相まって、社会の目から隠されるようになっていく。なかでも若い女性は清潔感や美しさを求めるため、排泄の話題を避ける傾向が強い。このときバタイユによれば、社会であることが禁止されると、その禁止を侵して連続性を取り戻すことへの希求と不安とがエロティシズムとして現れるという。つまり、排泄行為と清潔なものとが社会で線引きされ、前者の話題に触れることが禁止されると、その禁止を乗り越えようとする欲求が現れる。女性の排泄行為を見たいという思いもこれに関連すると考えられる。

風俗産業との関わり 編集

性風俗産業の一部店舗において、サービスのオプションメニューとして、こうした嗜好を満たすプレイを取り入れている場合がある。主にSMクラブに多い。以下に主なものについて記す。

  • 放尿プレイ - 風俗嬢の放尿姿を見せる。
  • おもらしプレイ - 利尿剤ビール等で尿意を促し、尿失禁させる。
  • 人間便器 - 客を便器に見立て、仰向けになって口を開けたところへ排泄をする。近年はSMクラブのM女も行うようになった。
  • 飲尿(聖水)プレイ- 人間便器の場合口の中に溜めるだけで終わる場合もあるが、この場合出された尿を飲み込む。大便を食べる場合は食糞という。SMクラブでは飲尿は常識化している。
  • 浴尿 - 尿を直接顔や体に浴びせる。
  • 糞尿舐め・塗糞・食糞 - 非常に高価な値段で10万円から30万円単位で設定されている事が多く、価格的にプレイするのは困難である。

アダルトビデオ 編集

スカトロを専門・メインにしているアダルトビデオメーカーもある。

スカトロAV女優 編集

スカトロ作品を中心にリリースしているAV女優が存在するが、プレイの種類としては脱糞、塗糞、食糞、吐瀉かつと様々である。 撮影中に意図せず脱糞・吐瀉してしまった女優はここには含まない。

注意点 編集

健康な人間の尿はほぼ無菌である事から、糞便を扱うのは衛生面で抵抗のある人が、ソフトスカトロプレイとして行う事もあるとされるが、膀胱炎、尿道炎等を患っている人間の尿は無菌では無い事から、健康を害する恐れもある。大便に関しては大腸菌以下の雑菌が混入する場合もある。

浣腸の場合、内臓に疾患がある人は激しい腹痛を起こす場合があるので注意を要する。

関連項目 編集