設計速度(せっけいそくど)は、道路設計で道路の幾何学的特徴を決定するために使用される指標である。その言葉の意味に反し、設計速度は必ずしもその道路の最大安全速度ではない[1][2]

概要 編集

道路のある区間において最低限保障された走行速度を発揮できる道路のサービス状態(性能)を表した指標であり、道路設計において、曲線半径や勾配などの道路の線形の大きさを決定するために指標とするものである[3]。拠点から目的地までの移動において、高い通行機能が期待される道路になるほど、求められる速度は高くなり、道路の曲線半径を大きくし、勾配を小さくする必要がある[3]。道路の直線区間は、規制速度の制約がなければ、理論上は自動車の性能の範囲内で高速に走行することが可能と言えるが、曲線区間は設定した設計速度で無理なく走行できることを念頭に置いている[3]

一般道路では、安全に走行するために交差点に設置された信号機や一時停止線によって、旅行速度[注釈 1]が設計速度を下回ってしまう状況が少なくないことから、設計速度は設計区間における速度サービスを保障するものではない[3]

幾何学的特徴 編集

設計速度は、片勾配率曲線半径視距離、および山頂と垂下曲線の長さを選択する主な要因である。走行速度の速い道路では、なめらかな曲線、曲線の片勾配、長い視距離、山の頂上と谷が緩やかである必要がある。低速道路では、カーブを急に、片勾配を小さく、視距離を短く、山の頂上と谷を鋭くすることができる。

設計速度と制限速度の関係 編集

道路の設計速度は、道路建設直後の初期制限速度の決定に使用されることがある。しかしながら、次のような理由で自動車を運転できる最高速度としては不十分な尺度である。

  • 設計速度は、道路の建設すら行われる前に作られた、論理的な、あるいは実験的に測定された指標に過ぎない。
  • そもそも、設計速度は必ずしも道路の最大安全速度ではない。道路の設計速度の基準に安全性の要因がかなり大きく組み込まれることによって、天候等の条件が良ければ自動車は問題なく設計速度を超える速度で安全に走行することができる場合がある[2][4]
  • 道路または区間の設計速度は、その最も条件の悪い部分の設計速度で、例えば、40キロメートル毎時(km/h)の設計速度の曲線さえなければ60 km/hの設計速度となる道路区間がある場合、区間全体の設計速度は40 km/hになる。実際には、道路はカーブ上で40 km/hの推奨速度を持ち、他の場所ではより高い安全な走行速度を持つ場合がある。
  • 設計速度は法律で定められた制限速度の上限よりも高い可能性があるため、法律上設計速度を制限速度に指定することができない場合がある[5][6]
  • 設計速度は、設計速度の基準が決定された時点、またはその前に存在していた車両と道路の性能に基づいている。車両および車道の技術は、一般的に時間が経つにつれて向上する。結果として、設計速度が決定されてから時間が経過すると、設計速度が最大安全速度を過小評価する可能性が高くなる。

制限速度の決定に設計速度を使用することは問題があると認識されており、道路構造から推定される設計速度が低いからと言って、恣意的にその地点の制限速度を低く設定することは、効果的でもなければ、適切なエンジニアリング手法でもないとされ[7]日本でもアメリカでも安全性を損なうことなく設計速度より速い速度で走行することができ、同様に制限速度も設計速度よりも高く設定することができる[1][2]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 旅行速度とは、ある区間の移動に要した時間(旅行時間)を区間距離で割ったもの[3]。道路のサービス状態を表す指標の一つ。

出典 編集

  1. ^ a b Design Speed, Operating Speed, and Posted Speed Practices (Report 504) (PDF) (Report). National Cooperative Highway Research Program. 1954年の設計速度の概念に関する重要な関心事は、設計速度の定義と走行速度との関係だった。設計速度は「最大安全速度」と定義されていたが、同時に、安全性を必ずしも損なうことなく、走行速度や道路に設定される制限速度が設計速度よりも高くなる場合があることが認識されていた。 (1997年、Fambro等)(15)上記の5つの規定を維持しながら、グリーンブックの設計速度の改訂された定義を推奨した。推奨された定義は、「設計速度は、道路のさまざまな幾何学的設計を決定するために使用される設定された速度」であり、設計速度よりも速い速度が「安全でない」という認識を避けるために、「安全」という用語は削除された。幾何学的形状に関するAASHTO特別委員会は、1998年11月にこの定義を採用することを採決し、2001年のグリーンブックに含まれている(17)。
    (原文)A significant concern with the 1954 design speed concept was the language of the definition and its relationship with operational speed measures. The term "maximum safe speed" is used in the definition, and it was recognized that operating speeds and even posted speed limits can be higher than design speeds without necessarily compromising safety. In 1997, Fambro et al. (15) recommended a revised definition of design speed for the Green Book while maintaining the five provisions noted above. The definition recommended was, "The design speed is a selected speed used to determine the various geometric design features of the roadway." The term "safe" was removed in order to avoid the perception that speeds greater than the design speed were "unsafe." The AASHTO Task Force on Geometric Design voted in November 1998 to adopt this definition and it was included in the 2001 Green Book (17).
  2. ^ a b c 最高速度違反による交通事故対策検討会 (平成21年9月2日), 第3回 資料8 自動車の走行速度と道路の設計速度・最高速度規制との関係, https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/max-speed/k_3/pdf/s8.pdf, "例えば設計速度が 80km/h の道路では、交通密度が小さければ普通の運転者は、少なくとも 80km/h の速度で、安全にしかも快適に走行することができる。しかし、道路の幾何構造の要素は自動車の走行安全性に対しては余裕をもたせており、線形等の条件が良ければ 80km/h を超える速度で安全に走行することも可能である。一般道路においては、運転者は、道路線形等の幾何構造のほか、交差点等の状況、駐車車両や沿道との出入りの状況、歩行者等の存在や自動車の混み具合といった交通の状況、最高速度の制限等の交通規制の状況などに応じて適宜走行速度を選択している。このように実際の走行速度は、交通等の諸要因の影響を受けるので一律に規定することができないため、道路を設計する場合には、幾何構造を決定するための統一尺度として設計速度を設定している" 
  3. ^ a b c d e 峯岸邦夫 2018, p. 68.
  4. ^ Design Speed, Operating Speed, and Posted Speed Practices (Report 504) (PDF) (Report). National Cooperative Highway Research Program. 設計と自動車走行の基準の違いにより、85パーセンタイル速度に基づいて設定された制限速度が道路の設計速度を超える場所がある。この状況は、道路の設計で使用される基準に安全要因がかなり大きく組み込まれていることから生じる。結果として、天候が良好な場合、運転者が道路の設計速度よりも速い速度が快適だと感じることは驚くことではない。
    ...
    良好な気象条件が存在する場合、垂直および水平曲線で「最大」安全速度を問題なく超えることができることは明らかだが、道路の設計速度を超えて安全に走行することができることを一般大衆に納得させることは困難である。
    (原文)Because of differences in design and operation criteria, there are locations where the posted speed limit based on an 85th percentile speed exceeds the roadway's design speed. This situation is because criteria used in highway design incorporate a significant factor of safety. Consequently, it is not surprising that motorists feel comfortable traveling at speeds greater than the roadway's design speed during good weather conditions.
    ...
    Although it is obvious that the "maximum" safe speed can be exceeded without difficulty on vertical and horizontal curves when good weather conditions are present, it is difficult to convince the general public that a roadway's design speed can be exceeded with safety.
  5. ^ http://www.mynorthwest.com/category/local_news_articles/20100907/WSDOT-says-roads-can't-support-90-mph-freeway-passes/
  6. ^ http://tti.tamu.edu/documents/0-5544-1.pdf
  7. ^ Design Speed, Operating Speed, and Posted Speed Practices (Report 504) (PDF) (Report). National Cooperative Highway Research Program. 推定される設計速度が低いからと言って、恣意的にその地点で制限速度を低く設定することは、効果的でもなければ、適切なエンジニアリング手法でもない。
    (原文)Arbitrarily setting lower speed limits at point locations due to a lower inferred design speed is neither effective nor good engineering practice.

参考文献 編集