警視庁国際テロ捜査情報流出事件
警視庁国際テロ捜査情報流出事件(けいしちょうこくさいテロそうさじょうほうりゅうしゅつじけん)とは、2010年10月29日に発覚した[1]、警視庁公安部の内部資料と思われるものがインターネットに流出した事件。テロ捜査資料流出事件とも言う。
概要
2010年10月28日ごろにファイル共有ソフトのWinnyネットワークに流出し、翌10月29日に民間会社から神奈川県警察本部を通して警視庁に連絡されることで発覚した[2]。11月27日現在で21ヵ国の1万286人が入手したと報道されている[3]。過去のネットで機密情報が漏洩した事件と異なり、PC利用者自身の個人情報が漏洩していないため、警視庁の関係者から「内部の権力闘争で意図的に流された可能性もある」との指摘もなされているという[4]。この流出により、公安警察が日本国内のイスラム教徒を“テロリスト予備軍、イスラム原理主義者と接触の可能性あり”、イスラム・コミュニティを“テロのインフラ”視していたことも明らかになった。
二次被害
第三書館が2010年11月25日に今回の事件で流出したデータをそのまま出版していたことが明らかになった[5]。11月28日には、名前を記載された人物が販売差し止めを東京地裁に求め、29日に認められた[6]。
捜査
当初は機密情報を共有する各国情報機関との信頼関係などから、流出した資料を本物と認めていなかった。1ヶ月を超える間、内部の職員からの事情聴取に専念していた警視庁[7]だが、2010年12月3日、容疑者不詳が資料流出が警察の警備業務に支障を生じさせたとして偽計業務妨害の容疑で強制捜査を開始し、契約者情報や接続記録などを国内のプロバイダー2社から押収した[8]。
しかし、流出した情報を出版社が本を出版する動きが出てきたことで12月24日に警視庁が内部資料の流出と事実上認め、謝罪した。しかし、個別の資料の真贋についてはコメントを差し控えた。
1月に警察当局がWinnyを通じて公開した人物の契約者情報や接続記録の保全と照会を目的に、流出事件で経由されたサーバー会社があるルクセンブルクや米国に捜査共助を要請。
被害者
2010年12月9日以降、流出したデータに個人情報を載せられた被害者らにつき、いくつかの動きが出た。
保護を指示
警視庁は、岩瀬充明副総監の名で、被害者らが110番してきた場合などに「本人や親族の生命、身体、財産などに危害が及ぶ恐れが生じた際には、迅速で組織的な対応を」行うよう通達した[9]。
岡崎トミ子国家公安委員会委員長も、被害者の保護を国家公安委員会として指示したことを記者会見で表明した[10]。個別の事件で国家公安委員長が被害者の保護まで踏み込んで指示するのは、異例であるという[11]。この指示を受けた警察庁は、同日の全国外事担当課長会議で、被害者の安全確保や情報保全の強化を改めて指示したという[12]。
告訴
被害者の内、日本人も外国人も含む国内に在住するムスリム男性6名が、被疑者を不詳としたまま、地方公務員法の守秘義務違反の容疑で東京地検に告訴した。プライバシーの侵害のみならず、そもそもが事実誤認や偏見に基づく資料であり、名誉も侵害されたとし、また、「身内である警視庁の捜査には限界がある」とした。彼らの弁護士らは、岡崎トミ子国家公安委員長に宛て、警視庁が流出を認めて謝罪し、データを削除し、被害者の安全を確保するよう、申し入れた[13][14]。12月24日に警視庁が内部資料の流出と事実上認め、謝罪した。
損害賠償請求
2011年5月、イスラム教徒の日本人と外国人計14人が国と東京都に計1億5400万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。
犯人のネットにおける行動
警察の捜査や民間のネットセキュリティー会社の分析から、事件が公になる前の犯人に関するネットにおける行動について以下のことが判明している。
- Winnyに公開される2日前の10月26日早朝、グループ内で文書を保存・閲覧できる「オンラインストレージサービス」のサイトに流出資料114件が掲載され、送信元アドレスには安藤隆春警察庁長官の名前が使用されたフリーメールから流出資料の存在を知らせるため、在京のイラク大使館と中国大使館、日本にあるイスラム関連団体関係者など計18ヶ所にメールを一斉送信されていた。しかし、送信先は迷惑メールと疑って接続先にアクセスしなかったため、資料の流出はこの時点では発覚しなかった[15]。
- Winnyに資料を流出させた後に資料の存在を広く知らしめるため、10月28日から同29日未明までに埼玉県警幹部やイスラム研究の学者ら計3人に資料が添付されたメールを送信した[15]。
- ネット上に流出した翌10月29日に午後2時半から約2時間にわたって、流出した圧縮ファイル名に使われた特定の単語(現職公安部幹部の名字が付いたファイル)が少なくとも7回検索された[16]。
政府の情報保全
同じく2010年12月9日、この事件や尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件を受けて仙谷由人官房長官を長とする政府の情報保全に関する検討委員会が発足した。アメリカ外交公電Wikileaks流出事件なども踏まえ、有識者会議を設けて「法制度」(守秘義務違反の罰則など)や「情報保全システム」(アクセス権限など)の2分野を検討するという。委員会のメンバーは、官房長官、官房副長官に加え、外務省、防衛省、警察庁、公安調査庁、海上保安庁などの局長級であるという[17]。
脚注
- ^ “警視庁:国際テロ捜査情報がネット流出 内部資料か”. 毎日新聞. (2010年10月30日) 2010年11月28日閲覧。
- ^ “【疑惑の濁流】「情報テロ」誰が仕掛けた…警視庁を震撼させたネット流出資料の危険すぎる中身 (1/4)”. 産経新聞. (2010年11月6日) 2010年11月29日閲覧。
- ^ “テロ情報流出1カ月 21カ国1万人超入手”. 東京新聞. (2010年11月27日) 2010年11月28日閲覧。
- ^ “【よくわかるニュース解説】警視庁テロ情報流出は意図的犯行か”. iza(産経新聞). (2010年11月4日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ “流出「公安テロ情報」出版 第三書館、実名や顔写真掲載”. 朝日新聞. (2010年11月27日) 2010年11月28日閲覧。
- ^ “流出テロ本、出版差し止め決定 個人情報掲載でイスラム教徒申し立て”. 産経新聞. (2010年11月29日) 2010年11月29日閲覧。
- ^ “テロ情報流出 捜査協力者も掲載 警視庁、職員から事情聴取”. 産経新聞. (2010年11月1日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ “テロ情報流出 2業者の接続記録など押収 偽計業務妨害容疑で警視庁”. 産経新聞. (2010年12月3日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ “「被害者対応」の徹底指示=身の危険想定、全部署に-テロ情報流出・警視庁”. 時事通信社. (2010年12月9日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ “岡崎国家公安委長が「情報が流出した人の保護」を指示 国際テロ関連の捜査資料流出で”. 産経新聞. (2010年12月9日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ “国家公安委、警視庁情報流出の対象者保護を指示”. 読売新聞. (2010年12月9日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ “テロ捜査資料流出 外国人らの身辺安全を徹底 国家公安委が異例の指示”. 産経新聞. (2010年12月9日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ “東京地検に告訴状提出=情報流出のイスラム教徒ら”. 時事通信社. (2010年12月9日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ “個人情報掲載、イスラム教徒ら告訴状 テロ捜査情報流出”. 産経新聞. (2010年12月9日) 2010年12月9日閲覧。
- ^ a b テロ資料流出、強まる内部犯行説 警察当局、米などに捜査共助要請 産経新聞2011年1月7日
- ^ 情報流出者が拡散状況確認か 翌日、特定単語を7回検索 共同通信2010年11月9日
- ^ “政府の情報保全検討委員会が初会合 尖閣ビデオ流出受け、情報漏洩の罰則強化を検討”. 産経新聞. (2010年12月9日) 2010年12月9日閲覧。
外部リンク
- “【日本の議論】国際テロ情報、米外交公電…相次ぐ流出問題で機密の管理はどうあるべきか”. 産経新聞. (2010年12月5日) 2010年12月9日閲覧。
- “公安テロ情報流出被害弁護団”
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