蹴りたい背中

綿矢りさの小説

蹴りたい背中』(けりたいせなか)は綿矢りさによる中編小説である。初出は『文藝2003年平成15年)秋季号。同年8月に河出書房新社から単行本が刊行され、金原ひとみの『蛇にピアス』と共に同年下半期の第130回芥川龍之介賞を受賞した。

蹴りたい背中
作者 綿矢りさ
日本の旗 日本
言語 日本語
ジャンル 中編小説青春小説
発表形態 雑誌掲載
初出情報
初出文藝2003年8月・秋季号
出版元 河出書房新社
刊本情報
出版元 河出書房新社
出版年月日 2003年8月26日
装幀 泉沢光雄
装画 佐々木こづえ
総ページ数 140
id ISBN 4-309-01570-0
受賞
第130回芥川龍之介賞
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周囲に溶け込むことが出来ない陸上部の高校1年生・初実(ハツ)と、アイドルおたくで同級生の男の子・にな川との交流を描いた青春小説。「蹴りたい背中」は一般に「愛着と苛立ちが入り交じって蹴りたくなる彼(にな川)の背中」を指すものと推測されている。

2007年(平成19年)9月17日日本テレビ系で放送された『あらすじで楽しむ世界名作劇場』にて初めてドラマ化された。

物語 編集

理科の授業で仲間外れにされたハツは、同じ班のにな川が読んでいる女性ファッション誌のモデル(オリチャン)に目がとまる。ハツは中学生のとき、隣町の無印良品でオリチャンに会ったことがあり、そのことを言うとにな川は興味を持つ。放課後彼の家に呼ばれ、そこでにな川がオリチャンの大ファンであると知る。後日ハツはにな川に頼まれ、オリチャンと会った無印良品へ向かう。そしてにな川の家で休憩する二人だったが、ハツはオリチャンのアイコラ(にな川作)を見つける。ハツは異様な気分になり、にな川を後ろから思い切り蹴り倒す。

その後、にな川が学校を4日間休む。不登校ではないかと言われるも、ハツはにな川の家にお見舞いに行く。実はにな川は徹夜でオリチャンのライブのチケットを取ったため、風邪を引いたのだった。にな川はチケットを4枚買っており、ハツは誰か呼んで一緒に行こうと誘われる。友人は絹代しかいないので、仕方なく絹代を誘って3人でライブに行く。絹代がハツに「にな川はいい彼氏なんじゃないか」「ハツはにな川のことが本当に好きなんだね」と言うが、ハツは「自分の気持ちはそうじゃない」と思っていた。

ライブから帰ると、バスはもう出ていなかった。仕方なくハツと絹代はにな川の家に泊まる。ハツはよく眠れず、ベランダでにな川と話をする。にな川が「オリチャンを一番遠くに感じた」と言ってハツの方を背にして寝転がると、ハツはにな川の背中を蹴ろうとする。指が当たったところでにな川が気づくが、ハツは知らないふりをする。

人物 編集

ハツ(長谷川 初実、はせがわ はつみ)
演:渋谷飛鳥
主人公陸上部に所属する高校1年生。人付き合いを嫌い、同級生先輩を冷めた目で見ている。クラスでは疎外されている。
にな川(蜷川 智、にながわ さとし)
演:載寧龍二
ハツの同級生でオリチャンのファン。俗にいうオタク
絹代(小倉 絹代、おぐら きぬよ)
演:近藤春菜
ハツの中学校からの友人で同級生。高校ではやや疎遠になっている。ハツとは逆に交友に余念がない。
オリチャン(佐々木 オリビア、ささき おりびあ)
演:箕輪はるか
モデル。27歳。文中では全てオリチャンと表記されている。ハーフ(英米人)の可能性がある。

評価 編集

さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。葉緑体? オオカナダモ? ハッ。っていうこのスタンス。

上記の書き出しについて、芥川賞選考会で三浦哲郎は「不可解な文章」だと評した[1]が、他の9人の選考委員の支持を得て受賞となった。

文学賞の批判本『文学賞メッタ斬り』を出した豊崎由美大森望は「とてもとても、容姿に恵まれた人が書ける小説じゃない」「下手な書きかたしちゃうと、低レベルのいじめ話か、つまらない恋愛小説みたいになって閉じちゃいそうな話を、絶妙に開いたまま上手に物語を手放してる器量には舌を巻きます」と絶賛している[2]。 

関連項目 編集

  • 田中啓文 - 『蹴りたい田中』という本作のタイトルをもじった書名の短編集を発表している。
  • 武田綾乃 - 小学生の頃、本作を読んだことが小説家に憧れるきっかけとなった。後にデビュー作「今日、きみと息をする。」において本作の書名を登場させている。

注釈 編集