単姓村
単姓村（たんせいそん、中国語: 單姓村 / 单姓村）とは中国、台湾島、朝鮮半島において、同じ姓を持つ同じ宗族（父系親族集団）の人たちが集まって住む集落または村落である[1]。朝鮮半島では同姓同本の集落を集姓村（朝鮮語: 집성촌）[2]、同姓村落（동성촌락）または同族部落（동족부락）[3]と呼ぶ。日本[4][5][6]やインド[7]においても同様な現象が見られる。
形成 編集
同じ血縁を持つ宗族が集まって住むことは、日常の相互協力や外敵からの防御に有利であるため、地方宗族が勢力が絶大である中国の華南・華中地域（江西省南部、福建省南西部、広東省北東部、浙江省南部、安徽省南部、湖南省南部、湖北省南部、四川省）や台湾中部に多く見られる[8]。特に客家人と潮州語を話す潮州人の居住地域には単姓村がよく見られ、20万人を超える単姓村も存在する[9][10]。
これらの地域は宋以降に中央政府による大規模な入植開拓や北方の戦乱により、多くの宗族が集団で南方に移り、土客械闘などの治安問題により一族団結が殊更に必要であったことなどから、宗族の有力者である在郷地主と郷紳層が支配する自治性が強い単姓村が非常に発達している。宗族の力が強い村落の特徴として、豪華な装飾を施した祖廟・祠堂、莫大な面積を占める族田、宗族単位の墓、多額の費用と労力を要する族譜、そして村落共同体の利益を最大化させ、個人間の争いと不平等を最小限に抑えるために、村全体を団結させる、守らなければならない掟の存在が挙げられる[1][8]。一方、中国の長江流域と西南の少数民族地区には散居村が多く、北方には多くの姓氏の人が1つの集落に住む雑姓村が多く、華東地域と華南の珠江三角州には近代以降の商業の発達により集落の境界線が薄くなり、より大きな共同体が形成している[8]。
朝鮮半島においても李氏朝鮮に両班階級の人数の増加（朝鮮末期には全戸数の7割以上が両班戸籍だった）により村落の士族社会化が急速に進んだ結果、集姓村が急増した[3]。1930年代にも朝鮮半島全体には約1万5000の同族部落が存在し、村の全体の半分以上を占めていた[2]。ただし、2つの氏族の勢力が拮抗する場合は、良洞村のような2つの姓による集姓村が形成することもある[11]。
問題点 編集
2009年の研究によると、単姓村での出生率は雑姓村より43%も高く、宗族の力が強いため一人っ子政策への抵抗も強い。このような村で「超生」（2人以上の子供を産むこと）に対する政府の処罰が現地の宗族の抵抗により非常に困難であるから、女性新生児の子殺しの現象は他の地域より少ないが、宗族の利益を保護するために男性の新生児はより好まれる現象が見られる[12]。このため、現在の広東省潮州市、汕頭市、梅州市などの旧潮州の地域で、一人っ子は少ないが、性比は130:100以上の地域が多く、210:100の地域もある[13]。実際、過去には客家人と潮州人の居住地域で人口が増え過ぎて土地が足りなくなり、多くの村民は華僑として東南アジアに移住した事態が起きた[14]。
また、単姓村の村民は共同体としての意識が強いため、村ぐるみで麻薬生産などの組織犯罪を行う場合、警察による取り締まりは困難である[15]。
脚注 編集
- ^ a b “宗族とは”. コトバンク. 2022年5月31日閲覧。
- ^ a b 魯富子 (1997). “韓国の都市における同姓組織の全体構造 ― ソウル市「全州李氏大同宋約院」を事例として ―”. ソシオロジ (京都大学文学部社会学研究会) 41 (3): 37-54.
- ^ a b “동성촌락(同姓村落) - 한국민족문화대백과사전”. encykorea.aks.ac.kr. 2022年5月31日閲覧。
- ^ “「住民すべてが同じ名字」という伝説の村は実在するのか？”. ダイヤモンド・オンライン (2017年12月15日). 2022年5月31日閲覧。
- ^ “新五国風土記 丹波の足立さん”. www.kobe-np.co.jp. 神戸新聞NEXT (2018年2月3日). 2022年6月1日閲覧。
- ^ “特定地域に多い「○○さん」 その理由は？ ＜J1グランプリ＞”. 琉球新報デジタル (2021年5月11日). 2022年6月1日閲覧。
- ^ Nimesh Khakhariya (2019年9月14日). “Gujarat: Residents share same surname in this village! | Ahmedabad News” (英語). The Times of India. 2022年5月31日閲覧。
- ^ a b c “徐勇 “分”与“合”：质性研究视角下农村区域性村庄分类 · 中国民俗学网-中国民俗学会 · 主办 ·”. www.chinafolklore.org (2016年12月29日). 2022年5月31日閲覧。
- ^ “赣州客家强烈宗族观，同一姓氏在一栋大屋、一个村、多个村……_腾讯新闻”. new.qq.com (2020年6月29日). 2022年5月31日閲覧。
- ^ “广东“人口第一村”，居住人数20万，都一个姓氏，村民遍布东南亚_长陇” (中国語). www.sohu.com (2021年10月18日). 2022年5月31日閲覧。
- ^ “양동은 왜 두 성씨의 집성촌이 됐을까” (朝鮮語). 단비뉴스 (2017年5月25日). 2022年6月1日閲覧。
- ^ 彭玉生 (2009年1月20日). “当正式制度与非正式规范发生冲突：计划生育与宗族网络” (cn). html.rhhz.net. 2022年6月1日閲覧。
- ^ “潮汕地区传统生育观念的变迁调查研究”. m.fx361.com (2019年5月13日). 2022年6月1日閲覧。
- ^ “直击全国人口第一大村，地少人多被迫离家到海外，全村只有一个姓_长陇” (英語). www.sohu.com. 2022年6月1日閲覧。
- ^ “中国第一“毒村”，生产全国40%冰毒，被“海陆军”围剿后覆灭！_博社村” (中国語). www.sohu.com (2020年3月23日). 2022年6月1日閲覧。