霞か雲か」(かすみかくもか)は、ドイツ民謡旋律に、加部巌夫が日本語の歌詞を載せた唱歌[1][2]1883年に小学唱歌として発表され、第二次世界大戦後の1947年勝承夫が歌詞を大幅に改作したものが、音楽教科書に収められた[2]

同じ旋律には、大和田建樹も歌詞を載せており、1892年に幼稚園唱歌「小鳥の歌」として発表されている[2]

原曲 編集

ドイツ語原詞1番のギター伴奏つき歌唱。
 
1861年出版『Unsere Lieder』(Agentur des Rauhen Hauses, Hamburg) 第3版に収録された楽譜。

旋律が採られた原曲は、「春の訪れ[1] (Frühlings Ankunft)」として言及されることもある「小鳥たちがやって来た (Alle Vögel sind schon da)」であり、こちらの歌詞はアウグスト・ハインリヒ・ホフマン・フォン・ファラースレーベン1798年 - 1874年)の作である[2][3]

小鳥たちがやって来た」は、最もよく知られたドイツ語の春の歌、童謡のひとつである。歌詞は、ホフマン・フォン・ファラースレーベンが1835年に執筆したもので[4]、この詩は1837年に発表された。同年には、エルネスト・ハインリッヒ・レオポルト・リヒタードイツ語版の作曲による最初の楽曲が登場した。今日、用いられている旋律に載せられた形では、1844年に「Frühlingslied」(「春の歌」の意)として、ハンブルクラウヘス・ハウスドイツ語版が出版した 『歌曲集 (Liederbuch des Rauhen Hauses zu Hamburg)』によって最初に発表された。この旋律は、18世紀に、「Nun so reis ich weg von hier」(「今、私はここから離れて行く」の意)と題された別れの歌として普及していた[5]。その作曲家は不明である。1847年には、マリー・ナトゥシウスドイツ語版が編纂した『Vierzig Kinderlieder von Hoffmann von Fallersleben nach Original- und Volks-Weisen mit Clavierbegleitung』(『ホフマン・フォン・ファラースレーベンによる40の童謡、鍵盤伴奏付きのオリジナル曲と民謡による』の意) に収録された。「小鳥たちがやって来た」は、この曲の別題のひとつである[6]

ドイツ語の歌詞と大意 編集

Alle Vögel sind schon da,
alle Vögel, alle.
Welch ein Singen, Musiziern,
Pfeifen, Zwitschern, Tiriliern!
Frühling will nun einmarschiern,
kommt mit Sang und Schalle.

Wie sie alle lustig sind,
flink und froh sich regen!
Amsel, Drossel, Fink und Star
und die ganze Vogelschar
wünschen dir ein frohes Jahr,
lauter Heil und Segen.

Was sie uns verkünden nun,
nehmen wir zu Herzen:
Wir auch wollen lustig sein,
lustig wie die Vögelein,
hier und dort, feldaus, feldein,
singen, springen, scherzen.

すべての鳥はもうそこにいる
すべての鳥、すべて
何という歌、音楽家たちだ
口笛、さえずり、トリル
今や春がやってくるのだ
歌と声を連れて

みんな何て楽しいんだろう
素早く、楽しげに動き回っている!
クロウタドリツグミアトリムクドリ
そしてすべての鳥たちが
幸せな年を祈り
救いと祝福を授ける

鳥たちが私たちに言っていること
それを心に持っていよう
私たちも楽しくなりたい
鳥たちのように楽しく
ここかしこで、遠いところへ、どこかへ
歌え、跳べ、騒げ

旋律 編集

 

この旋律については、「きらきら星」との類似性が指摘されているが、はっきりとした関係は解明されていない[2]

加部巌夫「霞か雲か」 編集

加部巌夫は、文学御用掛、御歌掛を経て御歌所に務めた宮中歌人であったが、1881年6月から音楽取調掛における唱歌の歌詞選定に関わるようになっていた[7]1883年に刊行された国定教科書小学唱歌集 第二編』に「霞か雲か」として掲載された加部による歌詞は、「流麗な歌詞で高く評価された」とされる一方で、「メロディーを無視した歌詞」などとも言われ、戦後になってから、勝承夫によって「難しい歌詞が取り除かれ、子供にも理解できるやさしい歌詞に改作され」た[3]

歌い出しの歌詞で曲名ともなっている「霞か雲か」は、「さくらさくら」の歌詞にも見える語句である。

太字斜体は、勝によって改作された際にも残された部分である[8]

かすみか雲か はた雪か

とばかり匂う その花ざかり
百鳥(ももどり)さえも 歌う(うとう)なり

かすみは 花を へだつれと
隔てぬ友と 来て見るばかり
うれしき事は 世にもなし

かすみて それと 見えねども
なく鶯に さそわれつつも

いつしか来ぬる 花のかげ

大和田建樹「小鳥の歌」 編集

小鳥の歌は いともたのし

野にも山にも ひびきわたる
うぐひす ひばり こえを限りに
春の喜び つきせず歌ふ

こなたかなたに 飛びかけりて
わが巣作らんと ことろ選ぶ
聲うつくしく 身軽くまひて

春の喜び つきせず歌ふ

脚注 編集

  1. ^ a b デジタル大辞泉プラス『霞か雲か』 - コトバンク
  2. ^ a b c d e 霞か雲か Alle Vögel sind schon da ドイツ歌曲『小鳥たちがやって来た(春の訪れ)』”. 世界の民謡・童謡. 2019年5月4日閲覧。
  3. ^ a b 飯能市立図書館 (2018年6月1日). “加部巌夫作詞「霞か雲か」の歌詞の意味が知りたいので、解説がほしい。また、原曲はドイツの民謡だと聞いたが、原曲の歌詞も確認したい。”. レファレンス協同データベース/国立国会図書館. 2019年5月4日閲覧。
  4. ^ Fallersleben-Archiv
  5. ^ Ludwig Erk (Hrsg.): Deutscher Liederhort: Auswahl der vorzüglichern deutschen Volkslieder aus der Vorzeit und der Gegenwart mit ihren eigenthümlichen Melodien. Enslin, Berlin 1856, S. 261–263 (Digitalisat, p. 261, - Google ブックス).
  6. ^ Nils Grosch, Tobias Widmaier (Hrsg.): Lied und populäre Kultur – Song and Popular Culture. Jahrbuch des Deutschen Volksliedarchivs Freiburg, Waxmann 2010, Jahrgang 55. ISBN 978-3-8309-2395-4, S. 192
  7. ^ 安田寛「唱歌の作歌と御歌所人脈」『奈良教育大学紀要 人文・社会科学』第55巻第1号、奈良教育大学、2006年10月31日、129-133頁。  NAID 120001075447
  8. ^ 加部巌夫は1922年没であり、その作品は既にパブリックドメインにあるが、勝承夫は1981年没であり著作権は失効していない。

外部リンク 編集