3フィート6インチ軌間

1,067mmの軌間

3フィート6インチ軌間(以下、1067 mm[注記 1]軌間)は、狭軌の一種である。馬の動力によるワゴンウェイとして建設され、19世紀半ばから、イギリス帝国で1067 mm軌間の鉄道が広く建設された。ケープ軌間として知られ、日本台湾では、標準の軌間として採用された。「3フィート6インチ」から三六軌間(さぶろくきかん)とも通称される。

補機を伴ってニュージーランドのオパパ山を登るJA1271
イギリスウェールズのグレートオームトラムウェイ
オーストラリア西オーストラリア州パースにあるデュアルゲージ標準軌との三線軌条)
日本群馬県信越本線横川駅に停車中のD51形蒸気機関車(写真手前)とDD51形ディーゼル機関車(写真奥)
台湾台鉄の特急太魯閣号
香港香港トラム上環駅
アメリカサンフランシスコ・ケーブルカー

歴史 編集

1795年
1067 mm軌間を採用した最初の鉄道の1つは、イングランドリトル・イートン・ギャングウェイ英語版であり、1795年、馬の動力によるワゴンウェイとして建設された。イングランドとウェールズの他の1067 mm軌間の輸送車両も、19世紀初頭に建設された。
1809年
シルクストーンワゴンウェイが開業し、バーンズリー運河とHuskar Pitを含む炭鉱とつながった。
1862年
1862年、ノルウェーの技師であるカール・アブラハム・ピルは、ノルウェーのレーロース線英語版において初めて1067 mm軌間の鉄道を建築した。
1865年
1865年、クイーンズランド鉄道が建設された。アイルランドの技師であるアブラハム・フィッツギボン英語版と顧問技師のチャールズ・フォックス英語版が1067 mm軌間で建設することを推めた。
1867年
1867年、スペインのカスティージョデブイトロン鉱山からウエルバのサンファンデルプエルト桟橋までの鉄道建設が始まった。その鉄道の軌間は1067 mmであった。
1868年
1868年、チャールズ・ダグラス・フォックス英語版は土木技師であるエドモンド・ラッジ英語版に、コスタリカにある1067 mm軌間の鉄道の調査を依頼した。
1871年
1871年、カナダトロント・グレイ・ブルース鉄道英語版トロント・ニピッシング鉄道英語版が開通した。ピルとフィッツギボンが推進し、フォックスの技師としてラッジが調査した。
1872年
1872年1月、ロバート・フランシス・フェアリー英語版は、自書「Railways Or No Railways: Narrow Gauge, Economy with Efficiency v. Broad Gauge, Costliness with Extravagance」で、1067 mm軌間での鉄道の建設を提唱した[1]
1872年には、イギリスで土木技師のエドモンド・モレルが日本初の鉄道建設において、ニュージーランドでの鉄道建設の経験に基づいて1067 mm軌間で建設するように提唱し、その軌間で開業した[2]
1873年
1873年1月1日、初めて、1067 mm軌間の鉄道がニュージーランドで開業した。この鉄道は、イギリスの会社であるジョン・ブログデン・アンド・サンズ(John Brogden and Sons)が建設した。それ以前に建設された標準軌広軌の鉄道は1067 mmに改軌された。
また、1873年、ケープ植民地では、1067 mm軌間で鉄道が建設された[3][4]。南ヨーロッパでの数件の調査が実施された後、ジョン・チャールズ・モルテノ英語版は急な山脈を横断するのに最も経済的に適したものとして1067 mm軌間を選択した[5]。1873年より、コロニー・ウィリアム・ブロージャーの鉄道技術者の監督の下で[6]、ケープ政府鉄道は、急速に延伸し、1067 mm軌間が南アフリカの標準の軌道となった[7][8]
1876年
ナタル植民地は、1876年に植民地全域を横切るネットワークを建設を開始する前に、10 kmのダーバンネットワークの鉄道の軌間を1435 mmから1067 mmに改軌した[9]。その他の南アフリカ、特にモザンビークベチュアナランドローデシアニヤサランドアンゴラの鉄道も、同時期に1067 mm軌間で建設されました。
1876年以降
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、イギリスオランダにて、1067 mm軌間の路面電車が数多く敷設された。

各国の呼び名 編集

スウェーデンでは、ブレーキンゲ県のほとんどの鉄道がこの軌間であったことから、ブレーキンゲ軌間と呼ばれている[10]

この軌間の別名であるケープ軌間は、1873年に採用された現在の南アフリカのケープ植民地にちなんで名付けられた[3]ケープ軌間: Cape Gauge)という用語は、オランダ語ではKaapspoor、ドイツ語ではKapspur、ノルウェー語ではkappspor、フランス語ではvoie capeなどの他の言語でも使用されている。1960年代メートル法移行後、南アフリカ鉄道の軌間は、公式の出版物では、1067 mmではなく、1065 mmとしている[11]

ニュージーランドでは、コロニアル軌間: Colonial Gauge)という名が使用されていた[12][13]

オーストラリアでは、イギリス植民地時代の用語である3フィート6インチ軌間が使用されている。いくつかのオーストラリアの刊行物において、medium gaugeの用語も使用されている[14]。オーストラリアは、1435 mmまたは1600 mmが標準の軌間であり、1067 mm軌間は、しばしば狭軌と呼ばれている。

類似の軌間 編集

輪軸の調整が必要であるが、最小曲線半径と車両限界などの観点からは1067mmと同じぐらいである。

導入例 編集

国/地域 鉄道
  アンゴラ アンゴラの鉄道を参照。数路線の610 mmあるいは1000 mm軌間の鉄道が改軌された。
  オーストラリア 延長15160 km。ニューサウスウェールズ州の保存鉄道であるジグザク鉄道英語版クイーンズランド州の8313 km、南オーストラリア州のエアー半島鉄道英語版およびピチピチ鉄道英語版タスマニア州の632 km、西オーストラリア州の北オーストラリア鉄道(廃止)
  バルバドス バルバドス鉄道 (廃止)。762 mmから改軌
  ボツワナ ボツワナ鉄道。延長888 km。
  カナダ 西ニューブランズウィック鉄道(1880年代に改軌されるまで)
ニューファンドランド鉄道(1988年廃止)
プリンスエドワード鉄道(1930年に改軌されるまで。1989年に廃止)
  中国 南満洲鉄道 - 東清鉄道(軌間:1524 mm)の一部として建設され、日露戦争時、1067 mmに改軌された。日露戦争後、標準軌に改軌された[15]
  コンゴ民主共和国 マタディ・キンシャサ鉄道
  コンゴ共和国 コンゴ・オセアン鉄道、延長502 km (運行中)
  コスタリカ
  エクアドル
  エストニア タリン市電
  ガーナ
  ハイチ サンマルク線 (廃止)
  ホンジュラス
  香港 香港トラム
  インドネシア 延長5961 km[16]。インドネシアで最も一般的な軌間である。インドネシア初の鉄道は、標準軌(スマラン - ソロ - ジョグジャカルタ)で建設されたが、その後の鉄道は、経済的な理由により軌間1067 mmで建設された。残った標準軌の鉄道は、第二次世界大戦中に、日本軍によって1067 mmに改軌された。枕木は、標準軌のものを利用した。
  アイルランド
  マン島
  日本
  ジャージー ジャージー鉄道 (廃止)。標準軌から改軌
  マラウイ マラウイ鉄道。延長:797 km
  モザンビーク モザンビーク港湾鉄道英語版。延長2983 km(運行中)
  ナミビア トランスナミブ。延長2883 km(運行中)。一部、軌間600mmから改軌
  オランダ (すべて廃止)
  ニュージーランド 延長3900 km。1870年の公共事業法(the Public Works Act 1870)により1067 mm軌間がニュージーランドの鉄道の標準となった[17]
  ニカラグア
  ナイジェリア ナイジェリア鉄道会社英語版が運行中。延長3505 km。
  ノルウェー カール・アブラハム・ピルによって、レーロース線が、1862年6月23日に開業[18]大部分の路線が19世紀中に1067 mm軌間で建設されたが、1904年から1949年にかけて改軌された。保存鉄道である全長約8 kmのSetesdal Lineのみ1067 mm軌間で残されている。
  パナマ Tramways of Panama (1913–1917)とPanama Electric Company (1917–1941).[19]
  フィリピン フィリピン国鉄が運行中。延長72 km。
  シエラレオネ
  南アフリカ共和国
  南スーダン
  スペイン カルタヘナからロス・ブランコまでの路線は、もともと1067mm軌間で建設されたが、1976年にメーターゲージ に改軌された。同時に、ロス・ニエトスまで延伸された[20]
  スーダン 延長:4725 km
  エスワティニ
19世紀までに、すべて廃止されたか、改軌された。
  台湾 台湾鉄路管理局が運営する路線。 総延長1097 km
  タンザニア タンザニア鉄道のみ1067 mm軌間である。他はメーターゲージ
  トルコ Chemin de Fer Moudania Brousse
  イギリス
  アメリカ合衆国
  ベネズエラ
  ザンビア
  ジンバブエ

脚注 編集

  1. ^ Railways Or No Railways: Narrow Gauge, Economy with Efficiency. V. Broad Gauge, Costliness with ...”. archive.org. 2020年5月3日閲覧。
  2. ^ Semmens, Peter (1997). High Speed in Japan: Shinkansen - The World's Busiest High-speed Railway. Sheffield, UK: Platform 5 Publishing. p. 1. ISBN 1-872524-88-5 
  3. ^ a b Ransom, P.J.G. (1996). Narrow Gauge Steam. Oxford Publishing Co.. p. 107. ISBN 0-86093-533-7 
  4. ^ Griffiths, Ieuan Ll; Rowland, Susan (1994). The Atlas of African Affairs. Routledge. p. 168. ISBN 0-415-05488-5. https://archive.org/details/atlasofafricanaf00ieua/page/168 
  5. ^ Bond, John (1956). “Chapter 19, The Makers of Railways: John Molteno”. They were South Africans. Oxford University Press. p. 170 
  6. ^ Cultural, historical assessment of the Hex Pass Railway, Worcester to de Doorns”. 2014年3月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月3日閲覧。
  7. ^ Burman, Jose (1984), Early Railways at the Cape, Cape Town: Human & Rousseau, ISBN 0-7981-1760-5
  8. ^ Davenport, D.E. A Railway Sketch of South Africa. 1882. Cape Town.
  9. ^ Bulpin, TV (1977) [1966]. Natal and the Zulu Country (3rd ed.). Cape Town: T.V. Bulpin Publications Ltd. pp. 224–227 
  10. ^ Kalmar, 29-03-1897 (Blekinge-spårvidd)”. 2014年4月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年4月27日閲覧。
  11. ^ South African Railways Index and Diagrams Electric and Diesel Locomotives, 610 mm and 1065 mm Gauges, Ref LXD 14/1/100/20, 28 January 1975, as amended
  12. ^ Zealand, National Library of New. “Papers Past - The Evening Post. TUESDAY, MAY 12,1874. (Evening Post, 1874-05-12)”. paperspast.natlib.govt.nz. 2020年5月3日閲覧。
  13. ^ CR4 - Blog Entry: Track Gauges and Railway Construction (Part 1)”. cr4.globalspec.com. 2020年5月3日閲覧。
  14. ^ [1] Adoption of the 3ft. 6ins. gauge for Queensland railways (1983)
  15. ^ Railway and Locomotive Engineering, vol. 26 (1913), pp. 91–92
  16. ^ CIA World Factbook, Indonesia”. 2020年5月3日閲覧。
  17. ^ Zealand, National Library of New. “Papers Past - The Press. MONDAY, SEPTEMBER 26, 1870. (Press, 1870-09-26)”. paperspast.natlib.govt.nz. 2020年5月3日閲覧。
  18. ^ Bjerke, T. & Holom, F. (2004) Banedata 2004. Hamar/Oslo: Norsk Jernbanemuseum & Norsk Jernbaneklubb. p. 98
  19. ^ Morrison, Allen (2008年2月1日). “The Tramways of Colombia / Panama”. 2011年5月1日閲覧。
  20. ^ Ferropedia - Ferrocarril Cartagena - Los Nietos, http://ferropedia.es/wiki/Ferrocarril_Cartagena_-_Los_Nietos

注記 編集

  1. ^ 1フィート (ft) = 304.8 mm,1インチ (in) =25.4 mm,3フィート6インチ=3×304.8+6×25.4≒1067 mm

外部リンク 編集

関連項目 編集