CLU は、1974年から1975年にかけてMITバーバラ・リスコフが学生らと共に開発したプログラミング言語である。抽象データ型のコンストラクタ(操作コードを含む)を備えており、オブジェクト指向プログラミングへの重要なステップとなった。しかし、それ以外のオブジェクト指向の機能は欠けているか不完全であり、継承もなく、文法が扱いにくいことが欠点であった。CLU は完全なオブジェクト指向言語となる可能性を秘めていたが、実際にはそうならなかった。

CLU
パラダイム マルチパラダイム: オブジェクト指向手続き型
登場時期 1974年
設計者 バーバラ・リスコフMITでの彼女の学生たち
開発者 バーバラ・リスコフとMITでの彼女の学生たち
型付け 強い型付け
主な処理系 Portable CLUNative CLU
影響を受けた言語 Pascal
影響を与えた言語 Ruby
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クラスター 編集

CLU の文法は他の多くの言語と同様 ALGOL に基づいていた。重要な追加点として「クラスター; cluster」がある。クラスターとは、CLU の型拡張システムであり、言語名の由来でもある(CLUster)。クラスターは現在のオブジェクト指向言語で言えば「オブジェクト」にほぼ相当する。以下に複素数を実装した CLU のクラスターの例を示す:

     complex_number = cluster is add, subtract, multiply, ....
          rep = record [ real_part: real, imag_part: real ]
          add = proc ... end add;
          subtract = proc ... end subtract;
          multiply = proc ... end multiply;
          ...
     end complex_number;

クラスターは当時としては最新の構造化プログラミングを実現していたが、CLU はクラスター自体には全く構造を提供していない。クラスター名はグローバルであり、クラスターをグループ化するための名前空間機構も無く、クラスター内にクラスターをローカルに作ることもできない。このような問題は CLU に限ったことではない。ALGOLでの変数のスコープを何故クラスターやオブジェクトにも拡張しなかったのかは定かではない。

CLU は暗黙の型変換をしない。クラスターでは、明示的型変換 'up' と 'down' で抽象データ型とその実体との変換をする。汎用型 'any' が用意されていて、プロシージャ force[] でオブジェクトが所定の型であるかチェックする。オブジェクトは可変(mutable)と不変(immutable)があり、整数などの基本型は後者に含まれる。

その他の特徴 編集

もう1つの CLU の型システムでの重要な機能は「イテレータ; iterators」である。これは、集合からオブジェクトを順次取り出すものである。イテレータはブラックボックスであり、集合内のオブジェクトが何であるかを気にしないAPIを提供する。つまり、複素数の集合のイテレータと整数の集合のイテレータには区別がない。イテレータは最近の言語では一般的機能となっている。

CLU は他の言語での様々な試みに基づいた例外処理も備えている。例外は signal を使って発生させられ、except で処理される。型の設計が重視されているにもかかわらず、CLU には列挙型がなく、列挙型を作る方法もなかった。

CLU の特殊な機能として、多重代入がある。代入記号の左辺に複数の変数を書くことができる。例えば、x,y = y,x というコードで xy の値を入れ替えることができる。同様に関数は複数の値を返すことができ、x,y,z = f(t) などと記される。

CLU プログラム内のオブジェクトは全てヒープにあり、メモリ管理は自動的に行われる。

その他 編集

他のプログラミング言語への影響 編集

  • PythonRuby は CLU の影響を受けている(例えば、yield 文や多重代入)。
  • CLU は Ada と共に C++ のテンプレートに影響を与えた。
  • CLU の例外処理機構は Java や C++ などの新しい言語に影響を与えた。
  • Python の generator や C# の iterator の起源は CLU の iterators である。

文献 編集

  • ビューティフルコード Brian Kernighanほか オライリージャパン ISBN 9784873113630

外部リンク 編集