Computer Science Network (CSNET) は1981年、アメリカ合衆国で運用開始されたコンピュータネットワーク[1]。その目的は、予算や認可制限のためにARPANETに直接接続できないでいる学究機関の計算機科学部門にネットワークの利便性を提供することだった。国家規模のネットワークを広めることに大きな役割を演じ、世界規模のインターネットへと至る発展の道程の大きなマイルストーンとなった。最初の3年間 (1981-1984)、アメリカ国立科学財団がCSNETの資金を出した。

歴史 編集

ウィスコンシン大学マディソン校ローレンス・ランドウェバー英語版は、複数の大学(ジョージア工科大学ミネソタ大学ニューメキシコ大学オクラホマ大学パデュー大学カリフォルニア大学バークレー校ユタ大学バージニア大学ワシントン大学ウィスコンシン大学イェール大学)によるコンソーシアムのためにCSNETの元となる提案書を書いた。アメリカ国立科学財団 (NSF) はデラウェア大学デビッド・J・ファーバー英語版にレビューを依頼した。ファーバーはその仕事を大学院生のデイブ・クロッカーに任せた。クロッカーは当時既に電子メールの開発に関わっていた[2]。このプロジェクトは関心を集めたが、実現には大幅な改良が必要だった。その提案書は最終的にヴィントン・サーフDARPAの支援を得ることになる。1980年、NSFはそのネットワーク立ち上げ資金として500万ドルを出した。当時のNSFにとってこれは極めて大規模なプロジェクトである[3]。出資に際して、そのネットワークが1986年までに自立すること(つまり、それまでに資金を打ち切る)が規定に盛り込まれている[1]

ランドウェバー(ウィスコンシン大学)、ファーバー(デラウェア大学)、ピーター・J・デニングパデュー大学)、アンソニー・ハーン(ランド研究所)、ビル・カーン (NSF) というメンバーからなる運営チームが結成される[4]。1984年、CSNETが完全に運用を開始すると、そのシステムと運用はケンブリッジ (マサチューセッツ州)Bolt Beranek and Newman (BBN) に任されることになった[5]

1981年、3カ所が接続された。デラウェア大学、プリンストン大学、パデュー大学である。1982年、24カ所が接続され、1984年には84カ所に拡大しており、イスラエルの1カ所も含まれている。その後間もなく、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、韓国、日本の大学の計算機科学部門との接続がなされている。CSNETは最終的に180以上の学究機関を相互接続している[6]

フリーソフトウェアをネットワークで配布する初期の実験が、netlibを対象としてCSNET上で行われた[7]

CSNETは全米科学財団ネットワーク (NSFNET) の前身となり、NSFNETはインターネットのバックボーンとなった。CSNETは1989年まで自律的に運営され、その時点でBitnetと統合されて Corporation for Research and Educational Networking (CREN) となった。NSFNETとNSFが支援した各地域のネットワークが成功し、CSNETのサービスは冗長なものとなったため、1991年10月にCSNETのネットワークは停止した[8]

構成要素 編集

CSNETプロジェクトは3つの主要な要素から成っていた。電子メール中継サービス(デラウェア大学とRAND)、ネームサービス(ウィスコンシン大学)、TCP/IP-over-X.25 トンネリング技術(パデュー大学)である。初期のアクセスでは電子メール中継のみで、電話回線でのダイヤルアップか X.29/X.25 の端末エミュレーションを使い、デラウェアとRANDにあるゲートウェイを経由する。その後TCP/IPが追加され、X.25上でもTCP/IPが使えるようになった[9]

クロッカーがメール転送エージェントの一種であるMMDFを開発すると、電子メール中継サービスは Phonenet と呼ばれるようになった。CSNETのネームサービスは、電子メールアドレスの人手または自動的な検索ができるもので、ユーザー名、役職、所属などをキーとして検索可能だった[10]。X.25トンネリングでは、商用のX.25サービス (Telenet英語版) を経由してARPANETに直接接続することができ、CSNETのコンピュータがARPANETと商用X.25ネットワークの中継を行うことで、TCP/IPでの通信を可能とする。CSNETのソフトウェアはDECVAX-11システム上のBSDで開発されたが、各種ハードウェアおよびオペレーティングシステムに移植されていった。

再評価 編集

2009年7月、ストックホルムで開催された Internet Engineering Task Force の会議で、インターネット協会はCSNETの先駆的貢献を称え、Jonathan B. Postel Service Award を授与した。ランドウェバーや他の研究責任者を代表してクロッカーが賞を受け取った[11]。その授賞式の録音が残っている[12]

脚注・出典 編集

  1. ^ a b The Internet—From Modest Beginnings”. NSF website. 2011年9月30日閲覧。
  2. ^ Dave Crocker (2008年8月18日). “Impact of Email Work at The Rand Corporation in the mid-1970s”. 2011年9月30日閲覧。
  3. ^ Douglas Comer (October 1983). “History and overview of CSNET”. Communications (Association for Computing Machinery) 26 (10). doi:10.1145/358413.358423. 
  4. ^ Peter J. Denning; Anthony Hearn; C. William Kern (April 1983). “History and overview of CSNET”. Proceedings of the symposium on Communications Architectures & Protocols (SIGCOMM, Association for Computing Machinery) 13 (2). doi:10.1145/1035237.1035267. ISBN 0-89791-089-3. http://www.isoc.org/internet/history/documents/Comm83.pdf. 
  5. ^ Rick Adrion (1983年10月5日). “CSNET Transition Plan Bulletin #1”. email message. National Science Foundation. 2011年9月30日閲覧。
  6. ^ CSNET History
  7. ^ Jack J. Dongarra; Eric Grosse (May 1987). “Distribution of mathematical software via electronic mail”. Communications (Association of Computing Machinery) 30 (5). doi:10.1145/22899.22904. 
  8. ^ CSNET-CIC Shutdown Notice
  9. ^ Craig Partridge; Leo Lanzillo (Feb 1989). “Implementation of Dial-up IP for UNIX Systems”. Proceedings of the 1989 Winter USENIX Technical Conference (USENIX Association). 
  10. ^ Larry Landweber; Michael Litzkow; D. Neuhengen; Marvin Solomon (April 1983). “Architecture of the CSNET name server”. Proceedings of the symposium on Communications Architectures & Protocols (SIGCOMM, Association for Computing Machinery) 13 (2). doi:10.1145/1035237.1035268. ISBN 0-89791-089-3. 
  11. ^ “Trailblazing CSNET Network Receives 2009 Jonathan B. Postel Service Award”. News release (Internet Society). (2009年7月29日). http://isoc.org/wp/newsletter/?p=1098 2011年9月30日閲覧。 
  12. ^ Lynn St. Amour, Dave Crocker (2009年7月29日). “Postel Award to CSNET”. Audio recording. 2011年9月30日閲覧。

外部リンク 編集