IRIS-T(アイリスティー)は、ドイツディール・ディフェンス社・スウェーデンSAAB社・イタリアアレニア社によって開発された短距離空対空ミサイル。派生型として後述の地対空ミサイル仕様も存在する。第3世代サイドワインダーの後継として開発された。

IRIS-T
種類 短距離空対空ミサイル
製造国 ドイツの旗 ドイツ
 スウェーデン
イタリアの旗 イタリア
性能諸元
ミサイル直径 127mm
ミサイル全長 2.94m
ミサイル全幅 45cm
ミサイル重量 87.4kg
弾頭 HE破片効果
射程 25km
推進方式 固体燃料ロケット
誘導方式 中間慣性誘導(INS)+
赤外線画像(IIR)
飛翔速度 M3
テンプレートを表示

なお、IRIS-Tとは、赤外線画像システム・推力偏向制御(Infra Red Imaging System Tail/Thrust Vector-Controlled)のアクロニムである。

経緯 編集

1980年代の時点で、西ドイツイギリスAIM-132 ASRAAM開発のパートナーであった。しかし、ドイツ再統一後、過小評価していたAA-11 アーチャー(R-73)の多量な備蓄から顕著な能力を確認した。特に探索・捕捉(シーカー)、追跡能力などはるかに能力があり、運動性もより優れていることが判明した。これらの事実はドイツにASRAAMにおける機動性の欠如した一定軌道の推力など一部の設計に疑問をもたせた。その結果、イギリスと協定を結ぶことができず、1990年にドイツはASRAAM計画から降りた。

ドイツのディール・ディフェンス社は、自社開発したミサイルサイドワインダーに敗れたため、各種サイドワインダーのライセンス生産を行ってきた。AA-11の対抗としてサイドワインダーを赤外線画像シーカーへ換装したIRISを提案したが、ドイツ空軍はこれを承諾しなかった。そのため、BGTは独自でIRIS-Tを計画し、1995年6月に承諾された。

同年、ドイツはギリシャイタリアノルウェースウェーデンカナダと協力してIRIS-Tの開発計画を発表した。なお、後にカナダは計画から脱退したが、2003年スペインがプロジェクトに加わった。2005年12月5日に最初のIRIS-Tがドイツ空軍に引き渡された。

IRIS-T開発のワークシェア協定
  ドイツ:46%
  イタリア:19%
  スウェーデン:18%
  ギリシャ:13%
残りはカナダ、ノルウェーの両国間で分割した。

特徴 編集

IRIS-T構造図
シーカー部の挙動
IRIS-Tの交戦可能域

上記のとおり、本ミサイルの開発はAIM-132 ASRAAMから派生していることもあり、技術的には、同ミサイルや、同様の経緯で開発されたアメリカAIM-9Xとの類似点が多い。

前任者である第3世代サイドワインダーと比べての主な差異は、名称のとおり、

赤外線画像システム
赤外線画像(IIR)誘導方式を導入。ただし、128x128ピクセルのフォーカル・プレーン・アレー(FPA)方式を採用した上記の2機種と異なり、128ピクセルの線型アレイ方式を採用している。
尾部制御
制御翼を後部に移動するとともに、推力偏向制御(TVC)を導入

の2点である。前者は誘導精度の増強と赤外線妨害技術への抗堪性向上(IRCCM能力の増強)、後者は機動性の向上をもたらした。

また、このほか、オフボアサイト射撃能力の強化も重要である。IIR誘導システムのシーカーは90度の視野角があり、このため、尾部制御化による機動性向上とも相まって、従来通りの発射前ロックオン(LOBL)方式で運用した場合も、在来機よりも交戦可能域は拡張されている。中間慣性誘導(INS)方式の導入によって発射後ロックオン(LOAL)能力も獲得しており、LOAL方式で発射した場合、機体側に装備されたヘッドマウントディスプレイ(HMD)による照準システムと併用することで、交戦可能域はさらに拡張することができる。

また、サイドワインダーを搭載、使用できる航空機は大きな改造を行うことなくIRIS-Tも搭載、使用できる。

運用 編集

 
ウクライナで使用されているIRIS-T SLM中距離地対空ミサイル

2011年までに4,000発が生産される計画である。

運用国と搭載機

  スウェーデン

JAS39 グリペン

  ノルウェー

F-16

  イタリア

ユーロファイター タイフーン

  ベルギー

  オランダ

  スペイン

EF-18A/B、ユーロファイター タイフーン

  サウジアラビア

  南アフリカ共和国

  ウクライナ

後述の地対空ミサイル仕様が供与されている。

派生型 編集

IDAS
IRIS-Tをベースに開発中の潜水艦発射式対空ミサイル。潜水艦にとって脅威である対潜ヘリコプターを排除する。
IRIS-T SL(surface-launched)
地上発射型の地対空ミサイル仕様。ドイツ陸軍では中距離拡大防空システムに組み込まれる予定。
短距離防空ミサイルのIRIS-T SLSは12 kmの射程・射高であり、中距離のIRIS-T SLMは40 kmの射程と20 kmの射高、IRIS-T SLX(長距離)はIRとRFのデュアル誘導方式で80 kmの射程と30 kmの射高である[1]
  • IRIS-T SLM 中距離地対空ミサイル
  • SAAB Giraffe 1XレーダーとIRIS-T SLS 短距離地対空ミサイル発射機Diehl ML-98を搭載したBv 410装甲車
  • IRIS-T SLM 中距離地対空ミサイル発射機
  • IRIS-T SLM 中距離地対空ミサイル発射機
  • IRIS-T SLM 中距離地対空ミサイル発射機
  • IRIS-T SLM 中距離地対空ミサイル発射機後部
  • IRIS-T SLM 中距離防空システムのレーダー装置として採用可能なHensoldt TRML-4Dレーダー
  • IRIS-T SLMのレーダー装置として採用可能なCEA CEAFAR (GBMMR)レーダー
  • IRIS-T SLMのレーダー装置として採用可能なThales Ground Master 200 MM/Cレーダー
  • IRIS-T SLMシステムに統合可能なHensoldt TwInvisパッシブレーダー
  • LFK NG
    SysFla野戦防空システム向けに開発されている近距離防空ミサイル

    脚注 編集

    注釈 編集

    出典 編集

    1. ^ IRIS-T SLM GBAD system | Egypt's choice to boost air defence - PHOTOS & VIDEO” (2021年12月20日). 2022年12月29日閲覧。

    参考文献 編集

    関連項目 編集