SH3ドメイン(Src homology 3 domain)は、約60アミノ酸残基からなる小さなタンパク質ドメインである。当初、SH3はウイルスアダプタータンパク質v-Crk中の保存配列として記載された。このドメインはホスホリパーゼや、Abl英語版Srcなど細胞質のいくつかのチロシンキナーゼ英語版にも存在する[1][2]。SH3ドメインはPI3キナーゼRasGAP英語版、CDC24やCDC25など他のいくつかのタンパク質ファミリーにも同定されている[3][4][5]。SH3ドメインは、細胞骨格Rasタンパク質、Srcキナーゼなどを調節するシグナル伝達タンパク質に存在する。SH3タンパク質は、アダプタータンパク質やチロシンキナーゼと相互作用する。チロシンキナーゼとの相互作用の際には、通常は活性部位から離れた場所に結合する。ヒトゲノムにコードされているタンパク質中には、約300個のSH3ドメインが見つかっている。SH3ドメインはシグナル伝達経路におけるタンパク質間相互作用を制御したり[6]、細胞質内のシグナル伝達に関与するタンパク質の相互作用を調節する役割を担っている[7]

SH3 domain
ニワトリ由来α-スペクトリンのSH3ドメインのリボン図、PDB: 1SHG​。
識別子
略号 SH3_1
Pfam PF00018
Pfam clan CL0010
InterPro IPR001452
SMART SM00326
PROSITE PS50002
SCOP 1shf
SUPERFAMILY 1shf
CDD cd00174
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
テンプレートを表示

構造 編集

SH3ドメインは特徴的なβバレルフォールドを持ち、逆平行βシートとして強固にパッキングした5本または6本のβストランドから構成される。リンカー領域には短いヘリックスが含まれる場合もある。SH3フォールドは真核生物にも原核生物にも存在する歴史の古いフォールドである[8]

ペプチドの結合 編集

典型的なSH3ドメインは通常、他のタンパク質と相互作用するタンパク質に存在し、特定のタンパク質複合体の組み立てを媒介する。結合パートナーのプロリンに富むペプチドへ結合するのが一般的である。典型的なSH3ドメインはヒトで細胞内タンパク質に限定されるが、MIAファミリーの細胞外タンパク質にもSH3様のフォールドが存在している。

タンパク質のSH3結合エピトープの多くには、次の正規表現で表されるコンセンサス配列またはshort linear motifが存在する。

-X-P-p-X-P-
 1 2 3 4 5

1番と4番は脂肪族アミノ酸であり、2番と5番は必ず、そして時には3番もプロリンである。こうした配列はSH3ドメインの疎水的なポケットに結合する。他に、R-x-x-Kのコンセンサスモチーフに結合するSH3ドメインも記載されている[9]。さまざまな分子の研究過程から新たなSH3結合モチーフの発見が続いており、このドメインの汎用性が強く示されている。

SH3のインタラクトーム 編集

SH3ドメインを介したタンパク質間相互作用ネットワーク(SH3インタラクトーム)の解析からは、線虫のSH3ドメインは酵母と同様にエンドサイトーシスに関与するタンパク質に多く存在するなど、種間の類似性が示されている[10][11]。しかしながら個々のオルソログのレベルでは、SH3ドメインを介した相互作用ネットワークは線虫と酵母の間で高度な再配置が行われている[10]

SH3ドメインを持つタンパク質 編集

出典 編集

  1. ^ “SH2 and SH3 domains”. Current Biology 3 (7): 434–42. (July 1993). doi:10.1016/0960-9822(93)90350-W. PMID 15335710. 
  2. ^ “SH3 domains: complexity in moderation”. Journal of Cell Science 114 (Pt 7): 1253–63. (April 2001). PMID 11256992. 
  3. ^ “SH3--an abundant protein domain in search of a function”. FEBS Letters 307 (1): 55–61. (July 1992). doi:10.1016/0014-5793(92)80901-R. PMID 1639195. 
  4. ^ “Signalling through SH2 and SH3 domains”. Trends in Cell Biology 3 (1): 8–13. (January 1993). doi:10.1016/0962-8924(93)90194-6. PMID 14731533. 
  5. ^ “Protein modules and signalling networks”. Nature 373 (6515): 573–80. (February 1995). doi:10.1038/373573a0. PMID 7531822. 
  6. ^ “SH2/SH3 signaling proteins”. Current Opinion in Genetics & Development 4 (1): 25–30. (February 1994). doi:10.1016/0959-437X(94)90087-6. PMID 8193536. 
  7. ^ “SH2 and SH3 domains: elements that control interactions of cytoplasmic signaling proteins”. Science 252 (5006): 668–74. (May 1991). doi:10.1126/science.1708916. PMID 1708916. 
  8. ^ “SH3 domains in prokaryotes”. Trends in Biochemical Sciences 24 (4): 132–3. (April 1999). doi:10.1016/s0968-0004(99)01366-3. PMID 10322416. 
  9. ^ Berry, Donna M.; Nash, Piers; Liu, Stanley K.-W.; Pawson, Tony; McGlade, C. Jane (2002-08-06). “A high-affinity Arg-X-X-Lys SH3 binding motif confers specificity for the interaction between Gads and SLP-76 in T cell signaling”. Current biology: CB 12 (15): 1336–1341. doi:10.1016/s0960-9822(02)01038-2. ISSN 0960-9822. PMID 12176364. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12176364. 
  10. ^ a b Xin, Xiaofeng; Gfeller, David; Cheng, Jackie; Tonikian, Raffi; Sun, Lin; Guo, Ailan; Lopez, Lianet; Pavlenco, Alevtina et al. (2013-01-01). “SH3 interactome conserves general function over specific form”. Molecular Systems Biology 9: 652. doi:10.1038/msb.2013.9. ISSN 1744-4292. PMC 3658277. PMID 23549480. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3658277/. 
  11. ^ Tonikian, Raffi; Xin, Xiaofeng; Toret, Christopher P.; Gfeller, David; Landgraf, Christiane; Panni, Simona; Paoluzi, Serena; Castagnoli, Luisa et al. (2009-10-01). “Bayesian modeling of the yeast SH3 domain interactome predicts spatiotemporal dynamics of endocytosis proteins”. PLOS Biology 7 (10): e1000218. doi:10.1371/journal.pbio.1000218. ISSN 1545-7885. PMC 2756588. PMID 19841731. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2756588/. 

関連項目 編集

外部リンク 編集