Systems Application ArchitectureSAA、えすえーえー)は、IBM1987年に提唱した、コンピュータ用のアプリケーションソフトウェアに関する、標準化のためのガイドラインである。

概要 編集

SAAはアーキテクチャの1つであり、特定の製品では無い。SAAには主に以下3つの標準により構成され、それぞれ発表年度によりガイドが発行された。

  • Common Programming Interface (CPI)
  • Common User Access (CUA)
  • Common Communication Support (CCS)

また、これらの上にオフィスシステムなどのSAA共通アプリケーションが含まれた。

SAAの対象となるプラットフォームSAA環境)は以下の4つとされた。

IBMはアプリケーションベンダーにSAA準拠を広く呼びかけた。特にCUAは、Microsoft Windows 2.0Microsoft Windows 3.0ユーザインタフェースのベースともなった。またMS-DOSDOSシェルもCUAに準拠している。

歴史 編集

IBMは1960年代のSystem/360アーキテクチャに続き、1970年代のSystem/370アーキテクチャとSystems Network Architecture(SNA)の成功によって、個々の製品の優劣だけではなく、オペレーティングシステムネットワークのアーキテクチャ(仕様)を握ることで、市場に対する絶大な影響力を確保した。

しかし1980年代になると、コンピュータの利用範囲も広がり、オペレーティングシステムやネットワークなどのインフラの上に構築されるアプリケーションの重要性が増し、アプリケーションの標準化の必要性が高まった。

またIBMは各種市場に向けて多数のコンピュータシリーズやオペレーティングシステムを開発・投入した結果、大型(メインフレーム)ではMVSVSEVMTPF、中型(ミッドレンジ)ではS/36S/38AS/400あるいはUNIXであるAIX、小型(パーソナルコンピュータ)ではPC DOSOS/2など、多数のプラットフォームが存在したが、相互の使用できるプログラミング言語や、ユーザインタフェースなどの操作性や、ネットワークの接続性が微妙に異なっていたため、組み合わせて使用するユーザーには手間がかかった。このためDECVAXは「シングルアーキテクチャ」を売り文句にしていた。

1987年3月にIBMはSAAを発表した。当時は「IBMが遂にアプリケーション市場にも支配力を強めるか」と大きく報道された。実際には、IBMはIBMの主要かつ戦略的なプラットフォームを選んでSAA環境とし、標準化を段階的に各製品に対して実施していった。同時にアプリケーションベンダーにSAAへの準拠を提唱した。

SAA環境には、「IBM独自OS」色の強い、MVSVMOS/400OS/2の4環境が選定された。メインフレーム用のIBM独自OSでも、VSETPFは含まれなかった。AIXOSF陣営として別途標準化が進んでいたためか、SAA環境では無いが、SAA環境と相互運用可能性を持つ環境とされた。

IBMとマイクロソフトのオペレーティングシステム共同開発契約も背景に、MS-DOSIBM DOSMicrosoft Windows 2.0Microsoft Windows 3.0なども、部分的にSAA準拠が進められた。また当時は独立企業であったロータスデベロップメントもSAA CUA準拠のアプリケーション開発を進めた。ただしマイクロソフトはWindows 3.1より、ショートカットキーデフォルトMacintosh風に変更するなど、徐々に独自のユーザーインターフェースに向かい、SAAから離れていく事になる。1991年にはオブジェクト指向のユーザーインターフェースに進化したCUA '91が発表され、OS/2 2.0のワークプレース・シェルで実現したが、これは1995年Windows 95より早く、オブジェクト指向はより徹底していた。

しかし1990年代後半には、SAAには含まれていなかったJavaWindows 95TCP/IPなどの普及もあり、SAAは徐々にフェードアウトしていった。なお現在でもWindowsなどのGUIのメニュー配列やショートカットキーの一部などにはCUAの影響が残っている。

詳細 編集

Common Programming Interface 編集

主要な言語としてCOBOLFORTRANC言語が選定された。またプロシージャ言語としてREXXが選定された。

SAA環境のオペレーティングシステムや主要ミドルウェアでは、これらの言語のサポートが進められた。REXXはVMCMSで生まれた言語だが、MVSのTSOOS/2、更にはPC DOSにも搭載された。

なお、日本の大手メインフレームユーザではPL/I使用比率が高かったため意外と受け取られたが、SAAはメインフレームからパーソナルコンピュータまでを横断した標準化であり、プラットフォーム固有の規格や言語を禁止するものではない。

Common User Access 編集

詳細は Common User Access も参照

キャラクタベースとグラフィカルベースの2種類が規定された。Common User Access (CUA) 登場以前より「F1キーはヘルプ」などは各アプリケーションでほぼ標準となっていたが、それ以外のコマンドの位置はまちまちであった。

例えば、グラフィカルベースでは以下が推奨された。これらは現在もWindowsなどのグラフィカルユーザインタフェース (GUI) のベースとなっている。

  • コマンドバーは左から「ファイル、編集、・・・、ヘルプ」とする
  • 「ファイル」のプルダウンメニューの中に「印刷」「クローズ/終了」などがある
  • 「編集」のプルダウンメニューの中に「コピー」「貼り付け」などがある

なお、ショートカットキーは CUA'87 の当初は以下が推奨されたが、後にはアプリケーションの自由とされた。

  • [Shift]+[Delete] 切り取り・カット
  • [Ctrl]+[Insert] コピー
  • [Shift]+[Insert] 貼り付け・ペースト
  • [F3] 終了

当時はマイクロソフトとIBMはオペレーティングシステム (OS) 共同開発の提携中であったため、以下はIBM CUA準拠となった。

マイクロソフトによるWindows 3.0開発キットには、「IBM SAA CUA'87」のマニュアルが付属しており、初期の各社のWindowsアプリケーションはCUA '87を参照して開発された。

Common Communication Support 編集

主要な通信プロトコルとして、Systems Network Architecture (SNA) が選定された。当初はSNAのサポートレベルが各プラットフォームで差が大きく接続性に制約がある場合もあったが、徐々に改善された。

関連項目 編集

関連書籍 編集

  • IBM 21世紀への挑戦―SAA開発に賭ける男たち(著:マイケル キレン、訳:栗田 昭平)

外部リンク 編集