法律家ごっことは、規則の瑣末な点を根拠に他のウィキペディア利用者の行為を批判したり評価したりすることを蔑んで使われる言葉です。英語版における Wikilawyering や pettifoggery の訳語として日本語版に導入されました。なお、pettifoggery とは、議論の本質でなく、瑣末な点で揚げ足を取り、あら探しを行うこと、弁護士などが法律の精神から逸脱して、その一部を非倫理的なやり方で用いて裁判などを有利にしようとすることを指す語です。

「法律家ごっこ」はたとえば以下のような、法慣習まがいの行為を指します。

  1. 法律専門用語を、あたかもウィキペディアの方針に適用するごとく議論で用いる。
  2. ウィキペディアの方針とガイドラインの言葉通りの遵守にこだわり、その意図を汲むことはせず、かえってルールの本質や基本原則は平気で破る。
  3. 五本の柱こそ大原則なのに、それを元にした方針やガイドラインのほうの字義通り解釈を優先する。
  4. 不適切な行動を正当化するための、方針をねじ曲げた解釈や、細かな規定の悪用。

すなわち法律家ごっことは、現実社会の法律家にイメージを借りた名称であり、上記に限らず、他の場合でも用いられます。例えば、対立の解消や合意の模索のためではなく、もっぱら相手を打ち負かす道具としてウィキペディア規則を振りかざす利用者、そうやって相手(やその行動)のことを安易に即断したり、レッテルを貼る利用者です。

そもそもウィキペディアの規則や手続きは、その「本来目的」を達成するためのものであり、でなければ、起こりうる論争解決に利用するためのものです。ですから常識的な解釈が求められます。法律家ごっこの典型例は、法廷で弁護士がもちいる手段を真似て、「手続き違反」や「証拠の不備」をあげつらい、根拠希薄な法論理を展開することもしばしばです。肝心な問題回避の手段ともなり、共同で解決策を築く障害となり得ます。

例えばルール違反なソックパペットを使った多重アカウント利用者を審議する裁定委員会への申請において、全てのソックパペット名が提出されず記述漏れが生じたとしても、弁護士さながらに「手続き上違反」を唱えて無実ややり直しを主張することなど認められないのです。

さらなる例を挙げると、編集合戦に歯止めをかけるためにスリー・リバート・ルール(24時間以内に3度を超えて編集を差し戻しすることを禁じる規則)がありますが、これに厳密には引っかからないように、連日3回差し戻す行為は、ルールの本質に反します。それはルール違反と同様に、制裁審議の対象となります。

英語版で、ウィキペディアの裁定手続きと現実の法的手続きをごっちゃにした例にMotion to dismiss for lack of jurisdiction(「管轄外を理由とする審議却下の申し立て」)があります(真面目ではなく皮肉や諧謔をこめて投稿した可能性大ではありますが)。

ウィキペディアでの弁論 編集

本職の法律家(あるいは交渉術・弁論の訓練・資格をもつ利用者など)が、そのプロの能力を貸し与え、ウィキペディアの裁定委員会や、他の方面で支援していただくことは、もちろん歓迎されています。また、効果的な弁論方法については、en:Wikipedia:Arbitration/Guide to arbitrationにいくつかの助言がありますので、参照してください。一言でいうなら、<常識は手続きに勝る>です。

よくありがちな例で、的外れな弁論方法として挙げられるのは、双方間の仲裁者を名乗る利用者が、どちらが正しいか白黒つけるだけしかしない場合です。仲裁なのですから、双方の立場をよく咀嚼して、代行して補足説明するなり、「コモングラウンド」(≒妥協点)を探るなりが、有効手段です。実際、片方が間違っていることもよくありますが、仲裁者が一方の側の肩を持つかのように振る舞いはじめると、もう一方の側は疎外されたと感じ、防衛本能を刺激されて意固地になり、友好的な解決から遠ざかることになるでしょう。

差別語・蔑称の危険 編集

「法律家ごっこ」は、「ミートパペット」と同様、呼ばれた相手が蔑称と受け取る類の言葉です。れっきとした根拠があるときにかぎり慎重に用いましょう。軽率に使ってはなりません(個人攻撃はしない礼儀正しくを参照)。

一見、法律家ごっこに興じてるようでも、善意の上での単なる勘違いや、初心者ミスの場合もあります。ですから、その利用者が作為的にやっているのかわからないなら、安易に「法律家ごっカー」よばわりせず、正しいマナーや方法を導きましょう。

「法律家ごっこ」だ、というのは、特に立場が強い利用者が常套的につかう、他人の主張を真摯に聞くのをめんどうくさがって逃れるための方便だというクレームが、一部の利用者からは出ています。逆に経験の浅い利用者にありがちな問題例としては、<自分の思考は、すでに〇〇方針と完全に一心同体だ>などと思い込み、毎回紋切り型に「〇〇方針どおり」ですと「法的」根拠を述べるパターンです。実際には中立的な観点などは一筋縄ではいかない複雑な方針で、そうやすやすとマスターなどできません。ノートページ上の議論においては、そのつどの編集について、方針のどの部分に則している、というケースバイケースの説明が求められるのです。

濫用 編集

他の侮蔑語と同じく「法律家ごっこ」の場合も、呼ばれた相手はこれを侮辱と受け止め、周りもそう見る、というな険悪ムードに陥りやすいです。ただ、討論において「論破」することと、「罵倒」する(悪口をいう)ことは、いちおう区別することも大事でしょう[注釈 1]。「論破」攻撃と「悪口」の境界線は曖昧です。しかし論破には「論」ずる部分がありますが、悪口はほかでもない、相手を貶める行為です。また論破には常に具体性がありますが(特定の議題や持論に関して使われる)、悪口は漠然としており(全面的に相手をそういう人間と決めつける感がある)、見下した調子で使われます。例えば、「あなたは法律家ごっこをおやりになっている」(だけだと)悪口にあたりますが、「以上により、この点においてはウィキペディアは何でないかの方針を一般常識英語版外に解釈なされていると言え、すなわち『法律家ごっこ』をおやりになっている」であれば、論破攻撃には相当するが、悪口とはいえず、ウィキペディアにおける通常行動の範疇になります。

討論には、必ず事実関係を述べる部分と、原理原則を訴える部分があります。いずれかが整わず、主張に窮した討論者が、きちんと反論せずに相手の論旨を「法律家ごっこ」と一蹴することがあります。これは攻略法としては、あまりにも善意に欠け、せっかく、お互い友好的に合意形成しましょうという空気も築けません。よって「法律家ごっこ」せずに、手短でも根拠を添えるべきです。

方針やガイドラインの言葉選びに着目し、その意味合いについて議論を起こしたり、細かい修正を提案したりすると、その利用者は「法律家ごっこ」のそしりを受けてしまうことがあります。ですがそのような場合、周りの者は「法律家ごっこ」と言って泥を塗らずに、とりあえず善意に取って議論してみる方が、よほど建設的かもしれません。また、ウィキペディアの方針とガイドラインや、手続きの徹底主義者を、見境なく「法律家ごっカー」と決めつけないこと。ウィキペディアとて、実際「正式な手続き」が要求される部分はいくつもあるのですから(秀逸な記事良質な記事の選出過程を始め、管理者への立候補制度、英語版では裁判制度に範をとった裁定委員会などです)。

注釈 編集

  1. ^ 英語版では、「論破」ではなく「攻撃」と言っていますが、これはすなわちポリシーディベート方式の討論でいう攻撃英語版です。

関連項目 編集

方針・ガイドライン・私論 編集

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