うみへび座
うみへび座(うみへびざ、海蛇座、Hydra)は、トレミーの48星座の1つ。星座の中で最も領域が広い。みずへび座 (Hydrus) とは、ラテン語の綴りもよく似ている。
Hydra | |
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属格形 | Hydrae |
略符 | Hya |
発音 | [ˈhaɪdrə]、属格:/ˈhaɪdriː/ |
象徴 | the sea serpent |
概略位置:赤経 | 8-15 |
概略位置:赤緯 | −20 |
正中 | 4月 |
広さ | 1303平方度[1] (1位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 75 |
3.0等より明るい恒星数 | 2 |
最輝星 | α Hya(1.97等) |
メシエ天体数 | 3 |
流星群 |
うみへび座α流星群 うみへび座σ流星群 (σ Hydrids) |
隣接する星座 |
ポンプ座 かに座 こいぬ座 ケンタウルス座 からす座 コップ座 しし座 てんびん座 おおかみ座(角で接する) いっかくじゅう座 とも座 らしんばん座 ろくぶんぎ座 おとめ座 |
主な天体 編集
恒星 編集
全天で最も大きな星座であるにもかかわらず、2等星のα星以外には、3等星が5つあるのみで、残りは暗い星である。
以下の恒星には、国際天文学連合によって正式な固有名が定められている。
- α星:うみへび座で最も明るい恒星で、唯一の2等星[2]。固有名は「アルファルド (Alphard[3])」。
- ε星:3等星[4]。A星の固有名「Ashlesha」は、インド占星術のナクシャトラで第9番目の星宿である「アーシュレーシャー」に由来する。
- ι星:4等星[5]。固有名の「ウクダー[6] (Ukdah[3])」は、アラビア語で「結び目」という言葉に由来するとされる[7]。
- σ星:4等星[8]。固有名はMinchir[3]。
- υ1星:4等星[9]。A星の固有名「チャン(張、Zhang[3])」は、中国の二十八宿の1つ「張宿」の距星とされたことから固有名が付けられた。
- HD 85951:5等星[10]。固有名の「フェリス (Felis)」は、かつてフランスの天文学者ジェローム・ラランドが考案した星座「ねこ座 (Felis)」のc星とされたことからその名が付けられた。
- HAT-P-42:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でギリシャ共和国に命名権が与えられ、主星はLerna、太陽系外惑星はIolausと命名された[11]。
その他に以下の恒星が知られている。
- γ星:うみへび座の尾部に輝く3等星。
- ζ星:うみへび座の頭部に輝く3等星。
- ν星:3等星。
- R星:ミラ型変光星。
- V星:SRA型の半規則型変光星。
- W星:ミラ型変光星。
- TW星:おうし座T型星。
- SDSS J090745.0+024507:天の川銀河からの脱出速度の2倍に達する速度で移動する、Hyper velocity star(超高速度星)の1つ。
- HE 1327-2326:最も金属量の少ない恒星。
星団・星雲・銀河 編集
- M48:散開星団。
- M68:球状星団。
- NGC 3242(木星状星雲):惑星状星雲。
- M83(南の回転花火銀河):渦巻銀河。
- NGC 4993:楕円銀河。連星中性子星合体に由来する重力波として史上初めて観測されたGW170817の母銀河。
その他 編集
- うみへび座A:電波源。
神話 編集
勇者ヘーラクレース(ヘルクレス座)の12の冒険のうち、2番目がこの怪物ヒュドラー退治であった。この怪物は、9つの首を持ち、そのうちの1つは不死であった。また首を切ればすぐに新しい首が2つ生えてくるため、ヘーラクレースは苦戦した。彼は従者のイオラーオスを呼び、切り口に火を当てて焼き、新しい首が生えないようにした。そして、不死の首は大きな岩の下敷きにしてようやく退治した[12]。
呼称と方言 編集
日本天文学会の会誌『天文月報』の1910年(明治43年)2月号の記事「星座名」では既に「海蛇」と訳が充てられており[13]、『理科年表』でも1922年の初版から継続して「海蛇(うみへび)」という呼称が使われている[14]。初期のころは、野尻抱影のように「かいだ」と音読みをした例もある[15]。
この訳語に対しては、京都大学系の研究者から反発があった[16]。1934年、山本一清は東亜天文学会の会誌『天界』第161号に「天文用語に關する私見と主張 (3)」と題した記事を寄稿し、Hydraはギリシャ神話に登場する怪物であって海蛇ではないとして「ヒドラ」と呼ぶべき、と主張した[17]。山本のこの主張を受けて、翌1935年には野尻抱影も、オーストラリアの教育者 Percy Ansell Robin の1932年の著書 Animal Lore in English Literature に書かれた「Hydraは神話上の怪物、hydrusは一般の蛇も指す言葉であった」とする説を引き、「Hydraは「ヒドラ」、Hydrusは「水蛇」とすべき」と主張した[18]。しかし、その後数度行われた星座名の改訂でも彼らの主張は容れられず、現在も Hydraに対しては「うみへび」という訳が充てられている。
出典 編集
- ^ “星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
- ^ "alp Hya". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月8日閲覧。
- ^ a b c d “IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合 (2022年4月4日). 2022年11月8日閲覧。
- ^ "eps Hya". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月8日閲覧。
- ^ "iot Hya". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月8日閲覧。
- ^ 草下英明『星座手帖』社会思想社、1969年。ISBN 978-4390106580。
- ^ Allen, Richard H. (2013-2-28). Star Names: Their Lore and Meaning. Courier Corporation. p. 250. ISBN 978-0-486-13766-7
- ^ "sig Hya". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月8日閲覧。
- ^ "ups01 Hya". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月8日閲覧。
- ^ "HD 85951". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月8日閲覧。
- ^ “Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2022年11月4日閲覧。
- ^ Ridpath, Ian. “Star Tales - Hydra”. 2014年2月4日閲覧。
- ^ 「星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊』丸善、1922年、61-64頁 。
- ^ 野尻抱影『星座巡禮』(第7版)研究社、1931年11月、33頁。 NCID BA49697121。
- ^ 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、44頁。ISBN 978-4-7699-0825-8。
- ^ 山本一清「天文用語に關する私見と主張 (3)」『天界』第14巻第161号、東亜天文学会、1934年8月、406-411頁、doi:10.11501/3219882、ISSN 0287-6906。
- ^ 野尻抱影「星座の譯名」『天界』第15巻第171号、東亜天文学会、1935年6月、322-326頁、doi:10.11501/3219892、ISSN 0287-6906。