かげろう絵図

松本清張の小説、メディアミックス作品

かげろう絵図』(かげろうえず)は、松本清張の長編時代小説。『東京新聞』夕刊に連載され(1958年5月17日付 - 1959年10月20日付、連載時の挿絵は岩田専太郎)、1959年11・12月に上下巻の単行本が新潮社より刊行された。大御所徳川家斉の治世晩年を舞台に、江戸城大奥の支配を目論む勢力と腐敗を一掃しようとする人々との対決、権力をめぐる人間群像を描く時代小説。

かげろう絵図
作者 松本清張
日本の旗 日本
言語 日本語
ジャンル 長編小説
発表形態 新聞連載
初出情報
初出東京新聞』夕刊 1958年5月17日 - 1959年10月20日
出版元 東京新聞社
挿絵 岩田専太郎
刊本情報
刊行 『かげろう絵図』(上下巻)
出版元 新潮社
出版年月日 1959年11月30日(上巻)
1959年12月25日(下巻)
装幀 杉本健吉
ウィキポータル 文学 ポータル 書物
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1959年に大映で映画化、1960年・1983年・2016年[1]にテレビドラマ化されている。

あらすじ 編集

暖かさを増してきた春の日、江戸城内・吹上の庭にて、大御所・徳川家斉の臨席する風雅な観桜が催された。大奥女中による歌くらべが始められるが、お美代の方と多喜の方による競争となり、大御所の軍配は多喜の方の詠んだ歌に上がった。大御所の意を受け、桜の梢に歌を結ぼうとする多喜の方。しかし、踏台に登った多喜の方は、女中の注視を集める中、突如転び落ちた。身籠っていた多喜の方は流産し、そのまま息を引き取った。大奥内は騒動の話で持ちきりとなったが、この間、お美代の方の意により、去年奉公に上がったばかりの身分の低い女中・登美は、中年寄・菊川の部屋附に抜擢された。

一方、脇坂淡路守の屋敷に、無役の旗本・島田又左衛門が訪れ、これまでの経緯と今後の計画を報告していた。又左衛門は今の大奥政治の弊害を訴え、事態の背後には、中野播磨守石翁の遠大な野望があるという。又左衛門の甥・新之助は、叔父の性急な行動を危ぶむが、すでに又左衛門邸の周辺には怪しげな人物がうろつき始めていた。新之助は馴染の町医者・良庵と共に叔父の身辺を案じるが、間髪容れず、新之助らは得体の知れない権力の策謀に巻き込まれてゆく。

やがて大御所は病に倒れ、俄かに大奥周辺の謀略が動き出した。続発する怪事件。事件に立ち向かう新之助。死力を尽くした知略の攻防が始まった。勝利をおさめるのはどちらか。戦いの果てに新之助の眼に映じたものは……。

主な登場人物 編集

 
江戸城西ノ丸御殿
  • 原作における設定を記述。歴史的人物の実際に関してはリンク先を参照。
島田新之助
旗本の次男坊[2]。日々ぶらぶらした生活をしているが、頭脳と身体能力は抜群。23歳。
中野清茂(石翁)
大御所の相談相手として隠然たる実力を持つ播磨守。向島に広大な別宅を持ち、石翁と称する。
お美代の方
大奥第一の権勢を振るってきた中﨟法華宗住職の娘で、中野石翁を養父とする。
水野忠篤
美濃守。お美代の方の腹心で、大奥女中に人気のある側衆
菊川
年増の中年寄。お美代の方の腹心。
徳川家斉
将軍職を家慶に譲って以降も実権を握る、江戸城西ノ丸の大御所。68歳。
寔子
大御所の御台所
多喜の方
最近大御所の寵愛が目立つ17歳の若い中﨟。もとは寔子の側仕者。
樅山
年寄。お美代の方の腹心となる。
奥村大膳
本郷に在る前田家江戸屋敷の用人
佐島
年寄。法華宗の祈禱所に入っている。
脇坂安董
淡路守。寺社奉行として延命院事件を摘発した硬骨漢。築地の下屋敷に住む。
登美
江戸城内に去年奉公を始めたばかりの雑用女中。本名は縫。
島田又左衛門
元御廊下番頭で今は無役の旗本。麻布の飯倉片町に住む。登美の請け親。
六兵衛
神田馬喰町に住む鳶職人。又左衛門に忠実で古風な律義者。
お文
六兵衛の妹。大奥長局に出入りする小間物屋の女主人。
良庵
下谷の町医者。新之助の馴染みで無類の酒好き。
弥助
良庵の内弟子。
豊春
下谷に住む新之助の恋人。富本節師匠。
落合久蔵
西ノ丸大奥に城勤めしている添番。
下村孫九郎
北町奉行所附の与力
水野忠邦
越前守で本丸老中の筆頭。大御所の放漫政策に批判的。

エピソード 編集

  • 本作は当初『かげろう屏風』の題で構想されていた[3]
  • 脇坂淡路守の失跡に関する描写は著者の創作であり[4]、脇坂淡路守は実際には家斉の死の5日後に死去している。
  • 文芸評論家の縄田一男は、過去の時代を伝奇的趣向で描きつつ、同時に現代をも二重写しにした社会性を持った時代小説である点で、大佛次郎の長編小説『おぼろ駕籠』(1950年-1951年)からの影響を推測している[5]

映画 編集

かげろう絵図
Stop the old fox
監督 衣笠貞之助
脚本 衣笠貞之助
犬塚稔
製作 三浦信夫
出演者 市川雷蔵
山本富士子
滝沢修
木暮実千代
音楽 斎藤一郎
撮影 渡辺公夫
配給 大映
公開   1959年9月27日
上映時間 118分
製作国   日本
言語 日本語
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1959年9月27日公開。製作は大映京都撮影所、配給は大映。原作の完結前に公開された映画となり、この結果、ストーリーは原作と比べて簡略化され、結末もオリジナルのものとなっている。登美と豊春は姉妹に設定されている。続篇の製作が予定されていたが、未製作に終わっている。DVD化されている。

キャスト 編集

スタッフ 編集

テレビドラマ 編集

1960年版 編集

1960年2月3日から4月27日まで(21:15-21:45)、日本テレビ系列にて放映。全13回。

キャスト(1960年版) 編集

スタッフ(1960年版) 編集

日本テレビ系列 水曜21:15-21:45
前番組 番組名 次番組
富士に立つ影
(1959.11.4 - 1960.1.27)
かげろう絵図
(1960.2.3 - 4.27)
-

1983年版 編集

松本清張のかげろう絵図
ジャンル テレビドラマ
原作 松本清張『かげろう絵図』
企画 高橋久仁男
佐伯明
脚本 志村正浩
監督 松尾昭典
出演者 古谷一行
山口果林
製作
プロデューサー 澤井謙爾
宮川輝水
制作 フジテレビ
放送
放送国・地域  日本
放送期間1983年7月22日
放送時間20:02 - 21:48
放送枠時代劇スペシャル (フジテレビ)
回数1
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松本清張のかげろう絵図』。1983年7月22日フジテレビ系列の「時代劇スペシャル」枠(20:02-21:48)にて放送された。サブタイトル「大奥美女殺害に渦巻く陰謀の影が…」。視聴率13.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

キャスト(1983年版) 編集

スタッフ(1983年版) 編集

フジテレビ系列 時代劇スペシャル
前番組 番組名 次番組
松本清張のかげろう絵図
(1983.7.22)
女盗賊忍び舞い
(1983.7.29)

2016年版 編集

松本清張スペシャル
かげろう絵図
ジャンル テレビドラマ
原作 松本清張『かげろう絵図』(文春文庫刊)
企画 保原賢一郎
羽鳥健一
脚本 浅野妙子
監督 林徹
出演者 米倉涼子
山本耕史
夏川結衣
製作
プロデューサー 林徹(フジテレビ)
金丸哲也(東映)
小柳憲子(東映)
制作 フジテレビ
放送
音声形式解説放送
放送国・地域  日本
放送期間2016年4月8日
放送時間21:00 - 23:22
放送枠金曜プレミアム
放送分142分
回数1
公式サイト
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松本清張スペシャル かげろう絵図』。2016年4月8日フジテレビ系列の「金曜プレミアム」枠(21:00-23:22)にて放送[1]。前回より約33年ぶり、4度目の映像化となる本作では、原作および過去の映像化作品では脇役として扱われていた登美(縫)を主役に据え、それに伴い、主な登場人物の設定が若干変更される等、原作の持ち味はそのままに、オリジナリティー溢れる作品に仕上がっている。

本来は2015年末に放送される予定だったが、不祥事を起こした高部あいが出演していたため2016年4月に放送が延期された、いわくつきの時代劇ドラマであった[6]

キャスト(2016年版) 編集

スタッフ(2016年版) 編集

フジテレビ系列 金曜プレミアム
前番組 番組名 次番組
エイプリルフールズ
※21:30 - 23:52
(2016.4.1)
松本清張スペシャル
かげろう絵図
(2016.4.8)

脚注・出典 編集

  1. ^ a b 金曜プレミアム 松本清張スペシャル『かげろう絵図』”. とれたてフジテレビ. フジテレビ (2016年2月19日). 2016年2月19日閲覧。
  2. ^ 文春文庫版(2004年)下巻裏のあらすじには三男坊とあるが、本文中では次男となっている。
  3. ^ 当時『東京新聞』文化部で本作を担当した森秀男による「『かげろう絵図』誕生」(『松本清張全集 第25巻』(1972年、文藝春秋)付属の月報に掲載、後に『松本清張の世界』(1992年、文藝春秋臨時増刊、2003年、文春文庫)に再掲)参照。
  4. ^ この前後の描写は、戦後日本に起こったある事件に関する著者の推理が下敷きになっていると見られている。『松本清張全集 第25巻』巻末の足立巻一による解説を参照。
  5. ^ 松本清張『天保図録』下巻(1993年、朝日文庫)の縄田による巻末解説参照。
  6. ^ 【高部あい麻薬逮捕】米倉涼子の新ドラマも大ダメージ 東京スポーツ 2015年10月28日 この時点ではタイトルが不明だったが、「米倉涼子主演」「時代劇」の一文から『かげろう絵図』であることが一致している。

関連項目 編集

外部リンク 編集