けもの道獣道(けものみち)とは、山野において野生動物)が通る。大型の哺乳類が日常的に使用している経路のことである。森林内にヒトが作った林道山道などを、他の動物が利用することも多い。

森の獣道

獣道の成因と特徴 編集

大型哺乳類は、やみくもに森林内を行き来するのではなく、それなりにコースを決めて移動する。動物はそれぞれの習性によって、エサをとる場所や水を飲む場所などか決まっている。障害物が少なく移動しやすい経路がある一方で、逆に移動しにくい場所、移動経路として向かない場所もあるからである[1]。前者は動物が通る度に地面が多少とも踏み固められて、動物ごとにクマの通り道やイノシシの通り道など、いつも通る決まった道を総称した「けもの道」となる[1]。低木の小枝は折られ、足下の下草は喰われて短くなったり、踏みつけられて枯れたりするので、獣道は肉眼でも見つけられる[2]。さらに、大型哺乳類の体表に種子を付着させたり、果実を食べさせて中にある種子を運ばせたりする戦略を取っている植物や、踏まれることに強い構造を持った植物などが、獣道沿いに分布を広げているケースもある。動物が食べた果実の種子が運ばれて発芽した場合、獣道沿いに餌場ができるので、ますます経路が固定化するとの指摘もある。

 
ニホンカモシカの群れ

なお、人間が作った林道を他の動物が利用することもあるように、使用する道が一致する場合もある。しかし、動物の種類によって使用する道が一致しない場合もある。獣道はまったくの藪より人間にとって歩きやすいが、野生動物の餌場・ねぐらと人間の目的地は異なる。このため遠方への見通しが効かない登山や山歩きでは、獣道を登山道と誤認すると遭難する危険がある[3]。特にニホンカモシカの獣道は往々にして断崖絶壁に向かい、ヒトには通りにくいので、「カモシカの道はたどるな」と言われる。

ヒトが作る獣道 編集

人がつくる道路のルーツをたどれば、それが「けもの道」だといわれる[1]。つまり、自然発生的に出来た、ヒトが踏み固めることでできるルートがヒトの作った「けもの道」であり、それに手を加えられて歩きやすく幅広く作られて路(みち)となり、さらに改良されて道路となった。 太古の人間は、動物が作った獣道をたどれば、歩きやすくて獲物となる動物を見つけやすいと考え、獣道をたどって歩くようになり、やがて人間が歩くための道路が作られていったとも考えられている[2]。 これとは反対に、かつては整備された交通の往来が活発な道路(街道)が、別ルートの開拓や集落の廃村化によって人がほとんど通らなくなり、結果的に獣道化する古道里道も存在する。

例えば、熊野古道高野山の古道など、人が歩くために山塊を越えて形成された道の場合、道はほぼ尾根筋をたどり、特に高いピークは山腹に回って向こう側の尾根に抜ける。これに対して自動車道をつくる場合、より低い山腹をゆっくりと上り下りするコースを取るから、両者は全く異なるコースとなる。共通するのは、尾根を越える場合にその低くなったところを通るくらいなので、そういうところで古道を車道が分断することになる。

人間が歩くためだけに使う獣道は、なだらかで滑らかな場合もあるが、傾斜地では階段を区切る場合もある。なお、人間が通ることでできた獣道は、他の動物にとっても道となり得る。

自動車道とけもの道 編集

近年では、山奥まで人間の手によって自動車道が造られ、人が住むようになった。野生動物の生息数も少なくなったうえ、道を外れて山奥を人が歩くことがほとんどないため、獣道を目にする機会は少なくなったといわれる[2]。人間が動物の通り道となる場所を横切って道路を造ったために、動物が自動車道路を横切って轢かれる場合も発生している[2]。このため道路を建設する際、野生動物が安全に通れるトンネルを道路下に掘ったり、リスムササビといった樹上で暮らす動物が渡れるように、道路上に歩道橋のような構造物を造ったりして、人工の「けもの道」が造られるようになってきている[2]

比喩としての「けもの道」 編集

一般人の平穏な生活とは違う人生や生き方の比喩として使われることもある。松本清張の著書『けものみち』などが例である。

脚注 編集

参考文献 編集

  • ロム・インターナショナル(編)『道路地図 びっくり!博学知識』河出書房新社〈KAWADE夢文庫〉、2005年2月1日。ISBN 4-309-49566-4 

関連項目 編集

外部リンク 編集