すぎ丸(すぎまる)は、東京都杉並区を走るコミュニティバスである。

阿佐ヶ谷駅を発車するすぎ丸「けやき路線」(D21203)
「かえで路線」は関東バスが受託。杉並区「なみすけ」の図柄入りご当地ナンバープレートを装着。(E162)

2023年令和5年)8月現在は3路線が運行され、いずれも区内の南北を結ぶ路線であることから、杉並区では「南北バス すぎ丸」と呼称している。

沿革 編集

杉並区の中南部に位置する浜田山・成宗地区は、東西に青梅街道五日市街道などの主要幹線道路が古くから存在する一方で、南北を結ぶ道路は環状七号線環状八号線が存在するものの、運行している一般路線バスは慢性的な道路渋滞などによる遅延が恒常化していた。環状七号線と環状八号線の間は非常に区間が広く、その間を南北に結ぶ交通が希薄であることや、渋滞回避のためにそれらを避ける運行経路による路線バスの新設も、狭隘道路が多く大型車の乗り入れが困難なことから実現には難色が示された。そこで、杉並区中南部から区役所などの公共施設が集中する阿佐谷へ向かう路線が多くない状況を踏まえ、これらを一気に解決する方法として狭隘道路を走行可能な小型車による運行で交通不便地域を解消させ、なおかつ公共施設を連絡する手段も兼ねたコミュニティバスを杉並区が主体となって運行することを決めた。

運行区間は、区内に南北の交通が希薄であることや公共施設への連絡手段という位置付けからコミュニティバスに多い地域内循環路線ではなく、鉄道駅と鉄道駅を結ぶ往復路線とし、2000年(平成12年)11月25日に「杉並区コミュニティバス」として阿佐ヶ谷駅 - 浜田山駅間(のちの「けやき路線」)が開業した。愛称は「すぎ丸」となったが、もともとは杉並区のまちづくり振興のイメージキャラクター(いわゆる「ゆるキャラ」)で、それがそのままコミュニティバスの愛称となった。車体にも「すぎ丸」のキャラクターが描かれており、車両ごとにキャラクターの色が異なっている。「すぎ丸」キャラクターのオリジナル商品も販売されている[1]。綿密な現地調査に基づいた適切な路線設定だったことが利用者の獲得に繋がり、「コミュニティバス=地域内循環路線」だけではない、鉄道駅と鉄道駅を結ぶという一般路線と同様の路線網による往復運行でのコミュニティバスが充分成功しうることを示した。

その後、2004年(平成16年)[2]に「さくら路線」(浜田山駅南 - 下高井戸駅入口)、2008年(平成20年)に「かえで路線」(西荻窪駅 - 久我山駅)が開業し、2023年(令和5年)現在は3路線が運行される。開業日と翌日は無料運行を行った。運行受託事業者はけやき・さくら路線が京王バス永福町営業所、かえで路線は関東バス五日市街道営業所である。すぎ丸の開業後、周辺の一般路線においても従来の路線を延長した路線(高45:高円寺駅 - 新高円寺駅 - 松の木住宅 - 永福町、新02:新高円寺駅 - 松の木住宅 - 永福町)が登場したが、これも杉並区における南北バス構想の一環と位置付けられている。

年表 編集

11月25日 - 杉並区コミュニティバス「阿佐ヶ谷駅 - 浜田山駅線」(のちの「けやき路線」)が運行開始。
4月1日 - ダイヤ改正。阿佐ヶ谷駅 - 浜田山駅線の運行時間を拡大させ、阿佐ヶ谷駅からの入庫便を浜田山駅経由へ経路変更。
3月3日 - 運行を受託する京王バス永福町営業所の敷地内に「京王エコステーション永福町」を建設。
10月30日[2]:2路線目となる「さくら路線」(浜田山駅南 - 下高井戸駅入口)が開業。阿佐ヶ谷駅 - 浜田山駅線に「けやき路線」と命名。
11月29日 - 3路線目となる「かえで路線」(西荻窪駅 - 久我山駅)が開業。関東バス青梅街道営業所が運行を受託する。
11月1日 - 阿佐ヶ谷住宅の再開発工事により、けやき路線で停留所の改廃および経路変更を実施。
12月1日 - 阿佐ヶ谷住宅の工事終了により停留所の改廃と経路変更を実施。
1月23日 - イベント「アニ×ウォーク2016 with それが声優!」の一環として主演声優ユニット「イヤホンズ」による車内アナウンスが行われる(3月21日まで)[3]
9月1日 - かえで路線が関東バス青梅街道営業所から五日市街道営業所へ移管[4]
12月31日 - この日までに初代車両が全車引退。

現行路線 編集

停留所は主要停留所のみを掲載した。路線の詳細は杉並区公式サイト「南北バスすぎ丸」などを参照のこと。

けやき路線 編集

  • 阿佐ケ谷駅 - 杉並区役所 - 杉並税務署 - 善福寺川緑地 -(←三年坂 / 杉並第二小学校→)- 児童交通公園入口 - 浜田山小学校 - 浜田山駅
  • 阿佐ケ谷駅 → 杉並区役所 → 杉並税務署 → 善福寺川緑地 → 杉並第二小学校 → 児童交通公園入口 → 浜田山小学校 → 浜田山駅 → 人見街道入口 → 浜田山郵便局前 → 永福町

「杉並区コミュニティバス」として最初に開業した路線で、現在は阿佐ヶ谷駅と浜田山駅を約20分で結ぶ(開業当初は約25分)。京王バス永福町営業所が運行を受託する。狭隘道路区間での待機所の設置や急カーブの改善、一般ドライバーや歩行者に対する路線バス通行の注意喚起を目的とした路面のカラー舗装など充分な道路整備を行ったうえでの開業となったが、浜田山駅周辺では人通りが多く危険との理由から経路変更を要望する住民運動が起こった。現在は浜田山駅付近に警備員を配置して安全対策を行っている。時間帯によっては一部区間が車両通行止めとなるため、警察署長発行による通行許可証を提示して走行する。2001年(平成13年)12月1日に両方向で各1か所の停留所増設が行われた。

永福町行きは夜間のみ片道運行する入庫便で、2002年(平成14年)4月1日のダイヤ改正で通勤通学時間帯の増便と同時に入庫便が浜田山駅を経由するように変更された。なお、逆方向の出庫便は開業以来設定されておらず、回送で行われる。

2013年(平成25年)11月より、途中経由地である阿佐ヶ谷住宅都市再開発工事が本格化したことで、杉並税務署 - 善福寺川緑地間で停留所の改廃が行われた。「阿佐ヶ谷住宅東」「中央広場」「阿佐ヶ谷住宅西(浜田山駅方向)」「杉並高校」の4か所が廃止され、代替として浜田山駅方向に臨時停留所として「阿佐ヶ谷住宅南」が設置された。「阿佐ヶ谷住宅南」の阿佐ヶ谷駅方向は以前から設置済みでそのまま存続したが、再開発工事の進捗状況に合わせて両方向とも新設された道路へ移設され、阿佐ヶ谷駅方向も臨時停留所扱いとされた。一年後の2014年(平成26年)12月1日のダイヤ改正で臨時停留所だった「阿佐ヶ谷住宅南」は「阿佐ヶ谷住宅東(二代目)」へ名称変更され、善福寺川緑地 - (新)阿佐ヶ谷住宅東間に「(新)阿佐ヶ谷住宅南」が新設された。

さくら路線 編集

「すぎ丸」第2弾の路線として、2004年(平成16年)10月30日に柏の宮公園の開園に合わせて開業した[2]。「浜田山駅南」停留所は京王井の頭線浜田山駅南口にほど近い浜田山公園の入口を整備して新設したものである。8時から19時までを30分間隔で運行し、甲州街道国道20号)沿いの下高井戸駅入口までを片道約20分で結ぶ。「さくら路線」の開業に合わせて、リフト付き・CNG改造車の日野・リエッセが2台導入されて専用車として運用されたが、2015年(平成27年)から2016年(平成28年)にかけて日野・ポンチョに代替された。京王バス永福町営業所が運行を受託する。

かえで路線 編集

  • 西荻窪駅 -(←西荻マイロード入口)- 神明通り - 宮前ふれあいの家北 - 宮前四丁目 - 西高校西門 -(←富士見ヶ丘 / 久我山駅入口→)- 久我山駅

2008年(平成20年)11月29日に開業した第3弾の路線で、関東バス五日市街道営業所が運行を受託している。当初は青梅街道営業所が受託していたが、2016年(平成28年)9月に移管されている。上下線が3か所で分離しているのが特徴である。8時から19時までを20分間隔で運行している。

車両 編集

「すぎ丸」で使用される車両で特筆すべき内容として、CNG改造車を全国的にも最初期に採用・導入したことが挙げられる[5]

専用車のCNG改造はフラットフィールドによるもので[5]2000年(平成12年)11月の現在でいう「けやき路線」開業時に1台のみ導入されたCNG車はフラットフィールドで初となる路線バスのCNG改造車となり、同時に運行を受託している京王バスグループでも初のCNG車導入となった[6]

運行開始と同時に登場したのは日野・リエッセ(KK-RX4JFEA、D20054~D20058)の5台で、D20057はリフト装備付き、D20058はリフト装備付きのCNG改造車で登場した。2010年(平成22年)1月にD20058が引退してからは置き換えが進み、2016年(平成28年)までに全車が除籍された。2008年(平成20年)11月に開業した「かえで路線」は開業当初から日野・ポンチョが導入されたがこれらも2019年(平成31年)から2020年(令和2年)にかけて新車の日野・ポンチョへ代替され、2023年(令和5年)現在では全路線で日野・ポンチョが運用されている。

「すぎ丸」の塗装については杉並区民による住民投票により、6つの候補から選定された。クリーム色の車体にピンク、イエロー、ブルーの「マーブル模様」があしらわれ、心の奥に思い出として残っている郷愁感を夢の中のような抽象的なデザインで表現している[7]

現行車両 編集

2023年(令和5年)8月現在では全路線が日野・ポンチョにて運行される。塗装は全車両とも「すぎ丸」専用カラーが採用されているが、「すぎ丸」のキャラクターの色は各車両で異なっている。京王バス東(当時)の日野・リエッセの除籍によって全車両が統一された。運行経費を捻出するため、地元企業の広告ラッピングを積極的に採用している。2015年(平成27年)には杉並ナンバーが導入され、練馬ナンバーだった車両も含めた全車が杉並ナンバーに変更された。

なお、専用車が検査や故障などで運行できない場合は、京王・関東ともに予備車両による代走が行われる。京王バスは「京王バス色」とされる濃い青色をベースとした車両(日野・リエッセ)によって運行される。この車両は渋谷区コミュニティバス「ハチ公バス」や「リビングデザインセンターOZONE」などの他路線にも使用される共通予備車として在籍していた。関東バスはかつて中野区コミュニティバス「なかのん」で使用していた三菱ふそう・エアロミディMEが1台転入し、「すぎ丸」予備車として在籍していた。現在は五日市街道営業所へ移管されたために使用されず、同じく京王バス永福町営業所と共同運行を行っている高45(高円寺駅 - 永福町)で使用される日野・ポンチョが使用される。

過去の車両 編集

2000年(平成12年)の開業時から使用され、全車が京王バス東(当時)に在籍していた。関東バスによる在籍車両は当初から存在しない。運行開始時に5台(D20054~D20058)が導入され[6]2004年(平成16年)の「さくら路線」開業時に2台(D20413・D20414)が導入された[6]。この2台は「さくら路線」専属で使用され、屋根上にタンクを設置したCNG車だった[6]

脚注 編集

  1. ^ 南北バスすぎ丸オリジナル商品”. 杉並区公式ホームページ. 2020年5月2日閲覧。
  2. ^ a b c 『京王ニュース』600号(2005年1月号)、pp.2-3、京王電鉄、2005年1月1日発行。
  3. ^ 「アニ×ウォーク2016 with それが声優!」公式サイト
  4. ^ 杉並区コミュニティバス『すぎ丸』の管轄営業所変更について 関東バス、2016年8月23日
  5. ^ a b バスラマ・インターナショナル No.77』「特集:小型CNGバスの新しい動き」ぽると出版、2003年4月25日、ISBN 4-89980-077-0
  6. ^ a b c d バスジャパン ハンドブックシリーズR 62 京王電鉄バス 西東京バス』BJエディターズ/星雲社、2007年9月1日。ISBN 978-4-434-10234-9 
  7. ^ 南北バス「すぎ丸」の紹介 - 杉並区ホームページ、すぎ丸の紹介、2023年8月22日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集