すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢

すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢』(すわるジョルジェット・シャルパンティエじょう、: Mlle Georgette Charpentier Seated)は、フランスの画家ピエール=オーギュスト・ルノワールにより1876年に描かれた絵画である。東京にあるアーティゾン美術館に所蔵されている[1]

『すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢』
フランス語: Mlle Georgette Charpentier Seated
作者ピエール=オーギュスト・ルノワール
製作年1876年
種類油彩キャンバス
寸法97.8 cm × 70.8 cm (38.5 in × 27.9 in)
所蔵アーティゾン美術館東京

概要 編集

この作品のモデルは、ルノワールのパトロン(支援者)であった出版業者、ジョルジュ・シャルパンティエ (en:Georges Charpentier) の一人娘、ジョルジェットである。彼女は1872年7月30日生まれで、当時4歳であった[2][3][4][5]

 
『シャルパンティエ夫人とその子どもたち』

ジョルジェットは、1878年に描かれた『シャルパンティエ夫人とその子どもたち』にも登場しており、左端に座っているのが彼女である[1]

ジョルジュは、ギ・ド・モーパッサンエミール・ゾラゴンクール兄弟など、当時人気を得ていた作家の小説を刊行し、大きな成功を収めていた老舗出版社の経営者であり、その妻、マルグリットは、政治家やアーティスト、女優などを自宅に招いて夜会を催していた[6][7][5]1875年の競売会でルノワールの作品を買い上げたジョルジュは、翌年、娘の肖像画の製作を当時30代半ばだったルノワールに依頼した[1][8][5]

本作は、『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』などとともに、1877年の第3回印象派グループ展に出品された[1][9]。パレットの上で絵の具を混ぜ合わせずに、そのままキャンバスに載せていく〈筆触分割〉という技法が用いられている[10]

 
『風景の中の座る浴女、エウリディケ』

ジョルジェットは、生涯の間、この作品を常に持参していた。彼女が1945年に亡くなった後、遺族が作品を手放し、1987年にブリヂストン美術館(現:アーティゾン美術館)の所蔵となる[5]

作品 編集

青色を基調としたドレスを身につけた少女が、大きく豪華な椅子にちょこんと座っている。微笑みを浮かべている少女が履いているソックスも、青色である。青色は、彼女の髪の毛の他に、眼の周囲の陰影の描写、床に敷かれているカーペットにも採用されている[7]。少女の肌には、青色の他に、黄色や赤色などが使われている[8]。赤色のサンゴでできたネックレスを首にかけている[11]。少女の足の先は、床に届いていない[12]

背景は、画面の奥に引っ込ませるためにトーンが落とされている。逆に少女は、明るく浮かび上がらせるために、三角形の構図の中に収められている[8]。足を組むポーズは、年齢の割りに少し大人びた印象を醸し出している[7]。これと同様のポーズは、1895年から1900年頃に描かれた『風景の中の座る浴女、エウリディケ』にも見られる[2]

評価・解釈 編集

ブリヂストン美術館の貝塚健は、「この絵には、社長に何とか気に入られようとする切羽詰まった感じがある」「テストを受ける受験生のような緊張感がみなぎっている」[8]と評価している。同美術館の宮崎克己は、「背の高いルノワールが座っている子どもを見下ろしているような、その場のある時間、ある瞬間の状況を暗示しているのではないかと思います」[12]と述べている。

脚注 編集

  1. ^ a b c d 『もっと知りたいルノワール』 2009, p. 37.
  2. ^ a b 『ルノワール、みつけた』 2011, p. 42.
  3. ^ “マネ「自画像」、ルノワール「シャルパンティエ嬢」…“名作中の名作”一堂に 東京・ブリヂストン美術館”. 産経新聞. (2015年2月15日). https://www.sankei.com/premium/news/150215/prm1502150023-n1.html 2019年1月27日閲覧。 
  4. ^ fukuhenのツイート(1012688331631546368)
  5. ^ a b c d 貝塚健 (2010年7月). “ブリヂストン美術館とルノワール”. 中央区文化・国際交流振興協会. 2019年1月27日閲覧。
  6. ^ 深井晃子. “仮託された夢、時代の色”. 京都服飾文化研究財団. 2019年1月27日閲覧。
  7. ^ a b c 石橋財団コレクション コレクションハイライト”. 石橋財団. 2019年1月27日閲覧。
  8. ^ a b c d 仲宇佐ゆり (2012年1月15日). “印象派はなぜ「スーツ族」を魅了するのか”. 東洋経済新報社. 2019年1月27日閲覧。
  9. ^ “《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》”. 日本経済新聞. http://www.nikkei.co.jp/topic7/court/bma4.html 2019年1月27日閲覧。 
  10. ^ ブリヂストン美術館「なぜ、これが傑作なの?」”. メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド. 2019年1月27日閲覧。
  11. ^ 佐々木奈美子 (2018年7月15日). “とき・ひと・美をむすぶ”. 久留米市. 2019年1月27日閲覧。
  12. ^ a b 宮崎克己 (2005年2月22日). “ルノワールを哲学する ― (1) 「身体」としての自己”. 社団法人如水会. 2019年1月27日閲覧。

参考文献 編集

  • 島田紀夫『もっと知りたいルノワール 生涯と作品』東京美術、2009年。ISBN 978-4-8087-0872-6 
  • DADA日本版編集部編『DADA ルノワール、みつけた』朝日学生新聞社、2011年。ISBN 978-4-904826-28-7