アノマロカリス

カンブリア紀のラディオドンタ類

アノマロカリスAnomalocaris[4])は、約5億年前の古生代カンブリア紀に生息したラディオドンタ類アノマロカリス類)の一。ラディオドンタ類の中で最も有名な属であり[6][7]、長い前部付属肢と扇形の尾部をもつ[8][9][6][10]遊泳性捕食者であったと考えられる[9][11][10][12][13]

アノマロカリス
生息年代: 518–499 Ma[1][2]
20210626 Anomalocaris.png
アノマロカリスの復元図
上:未命名種(Anomalocaris sp. ELRC 20001)、下:アノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
古生代カンブリア紀第三期 - ガズハンジアン期(約5億1,800万[1] - 4億9,900万年前[2]
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda
: ステムグループ[3]
節足動物門 Arthropoda
: †(和訳なしDinocaridida
: ラディオドンタ目
放射歯目Radiodonta
: アノマロカリス科 Anomalocarididae
: アノマロカリス属 Anomalocaris
学名
Anomalocaris
Whiteaves1892 [4]
タイプ種
アノマロカリス・カナデンシス
Anomalocaris canadensis
Whiteaves1892 [4]
その他未命名種最多10種[5]本文参照)

カンブリア紀の代表的動物としてカナダバージェス頁岩バージェス動物群、カンブリア紀ウリューアン期)から発見された模式種タイプ種)であるアノマロカリス・カナデンシス[14]Anomalocaris canadensis[4])が有名であるが、アメリカ[15]中国[8][16][17][18][19][5]オーストラリア[20]など、カンブリア紀の異なる時代と地域に生息した未命名の種類もいくつか発見されている[5]

特異な形態によって、かつては現存する動物分類群タクソン)に収まらない「プロブレマティカ(未詳化石)」の代表例として語られてきた[21][22]。後に研究が進み、他のラディオドンタ類と共に基盤的な節足動物として広く認められるようになった[6][7]

名称編集

学名Anomalocaris」は古代ギリシア語の「ἀνώμαλος」(anomalos、奇妙な・異常な) と「καρίς」(carisカニもしくはエビの意、水生節足動物の学名に常用される接尾辞)の合成語で[4]、すなわち「奇妙なエビ」を意味する[23]。これは本属は最初では前部付属肢のみによって知られ、それが当時において甲殻類コノハエビ類の腹部と誤解されたからである(後述参照)[4][9]中国語でも同じ意味で「奇蝦簡体字奇虾ピンインQí xiā、チーシャ)」と呼ばれる[24]

形態編集

 
一般化されたアノマロカリスの前半部の外部形態。A:背側、B:腹側、Fa:前部付属肢、He:頭部背側の甲皮H-element)、Pe:頭部左右の甲皮(P-element)、Ey:複眼、Oc:歯(oral cone)、Af:「首」の鰭、Bf:胴部の鰭、Sb:鰓とされる構造体(setal blade

くびれた流線型の体、長い触手様の前部付属肢扇子のように広げた尾部尾扇)が特徴的なラディオドンタ類である[8][9][6]。2021年現在、全身が知られる模式種タイプ種)のアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis[21][9][6]と、標本 ELRC20001 のみによって知られる未命名種(以降「Anomalocaris sp. ELRC 20001」と記す)[8]という2種のみであり、他の種はほぼ前部付属肢のみによって知られる[20][15][10]

大きさ編集

 
アノマロカリスのサイズ比較図。A. canadensis(B)と Anomalocaris sp. ELRC 20001(E)以外の種は全身が不明(薄灰色)で、前述2種の比率に基づいて体長を推算される[10]

多くのラディオドンタ類と同様、アノマロカリスもカンブリア紀動物として飛び抜けて大型の種を含むが、発見される全身化石はいずれもやや小型の個体(例えば A. canadensis は17.4 cm)で、大型個体は前部付属肢など単離した硬組織のみから知られ、その数値で全身化石の比率にあわせて最大体長(前部付属肢と尾部を除く)が推算される[10]。全身が知られる2種のうち、A. canadensis の体長は柄部を除いた前部付属肢長の2倍前後で、最大の前部付属肢(柄部を除いて18 cm)から換算すると、体長は最大38 cm前後に及ぶとされる[10]Anomalocaris sp. ELRC 20001 は、体長6.8 cmの唯一の化石標本のみによって知られる[10]。全身不明の他の種類までその比率で推算すると最大50cmにも及ぶとされ、アンプレクトベルアラミナカリスティタノコリスと並んでカンブリア紀最大級のラディオドンタ類の一つとなる[10][25]

20世紀後期をはじめとして、本属は体長最大1 m以上があるとされ[26][8][23]、1990年代では最大2 mとの説も出していて[8]、長らく「カンブリア紀最大の動物」[26][21][8][23]として語られてきたが、2010年代後期以降では否定的である[27][10]。1 mは本属の全身の比率が判明した以前で他の巨大化石節足動物の数値(例えばアースロプレウラや大型ウミサソリの体長と脚の比率)に基づいた誤算であり[26][10]、2 mはオムニデンス (Omnidens) という、知られる中でカンブリア紀最大(推定1.5 m[27])の動物の歯を本属由来と誤解釈した上での推定である[8][27]

頭部編集

頭部は胴部に対して明らかに小さい[8][9][6][12]。他のラディオドンタ類と同様、正面には1対の前部付属肢、両背側には1対の複眼、腹面には放射状の口器、背面と左右は3枚の甲皮に覆われる[12]

前部付属肢編集

 
アノマロカリスの前部付属肢

口の前にある1対の前部付属肢frontal appendages)は、甲殻類の腹部を思わせる造形をしており、分節した外骨格(肢節)に覆われた触手様の付属肢関節肢)である。左右に扁平で[6]、原則として14節の肢節(柄部1節と残り13節)に構成される[8][6][15]。先に向かって細くなり、先端以外の肢節にそれぞれ1対の内突起(endite, 腹側/内側の棘 ventral spine)をもつ[9][6]。これらの内突起は柄部直後の対を始めとして、先端の肢節ほど短くなりながら長短を繰り返した構造をもつ[6]。多くの場合、内突起は前後それぞれ1本以上の分岐(auxiliary spine)をもつ[20][19][6][15]。先端数節の背側(外側)は、重なり合った爪のような数本の棘(dorsal spine, outer spine)をもつ[8][6]。各肢節の背側の境目は1対の関節丘(ピボット、pivot joint)に連結され[8]、腹側の境目は三角形の節間膜(柔軟な表皮)に分けられることにより、この付属肢は全体的に広い上下可動域をもつ[26][6][13]

全身が知られるラディオドンタ類の中でも、本属の種の前部付属肢は体に対して最も長く、柄部を除いても体長の半分(A. canadensis)か三分の一(Anomalocaris sp. ELRC 20001)ほどである[10]

口と歯編集

 
アノマロカリスの

多くのラディオドンタ類と同様、アノマロカリスの頭部の腹面は「oral cone」という、放射状の大小の歯によって構成された円盤状の口器をもつ。ただしアノマロカリスの oral cone は、開口部は不規則で比較的小さく、歯の総数は32枚を超えて、最大の歯は前方と両後方にある3枚で三放射の構造をなしている[11][6]。このような不規則な三放射構造は知られる限り本属の種のみに見られ[20]、他のラディオドンタ類のもの(32枚以下の歯でできている規則的な十字放射構造)とは大きく異なる[11][28][6][29]。一方、歯は開口部の近くにうろこ状の隆起と外側に溝が密生しており[11]、これはむしろ一部のアンプレクトベルア科の種類の歯(例えば"A." kunmingensisライララパクス)に似た特徴である[29][30][31]

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頭部の両背側にある1対のは甲皮よりやや小さく、短い眼柄を介して左右に突出する[9][6]。他のラディオドンタ類と同じく複眼であり、Emu Bay Shale で見つかった本属の未命名種由来とされる眼によると、そのレンズ数がおよそ16,000個で、現生節足動物トンボの約28,000個に匹敵する[32][33]

甲皮編集

 
A. canadensis甲皮

頭部の背面と左右を包んだ甲皮head sclerite complex)はアンプレクトベルア科のものに似て、いずれも小さく楕円形の構造体である[6][34][12]。背側の甲皮(H-element)は前後より左右に長く[34]、外縁が分化していた[6][34]。左右の甲皮(P-element)は背側の甲皮と同じ程度大きさで、前方にある棒状の突出部(P-element neck)を介してお互いに連結する[12]

胴部編集

 
A. canadensis の全身化石。胴部の発達した鰭と尾扇が見られる。

十数節の胴節を含んだ胴部(trunk)は上下に平たく縦長い菱形で、前後ほど幅狭くなる[8][9][6]。十数節の胴節のうち最初の3節は短縮し、頭部の直後にくびれた「首」をなしている[6][12]。他のラディオドンタ類と同様、胴部の表皮は柔軟で、背側にはと思われる櫛状の構造体(setal blades)、両腹側には十数対の鰭(ひれ)が胴節ごとに並んでおり、脚およびそれらしき構造は存在しない[9][6][35]。鰭と胴部の連結部は一連の発達した筋肉を有し、消化管のうち、太い前腸と後腸の間にある細い中腸は6対の消化腺(digestive gland, 中腸腺 midgut gland)をもつ[6]

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各胴節の両腹側からは1対の丸みを帯びた三角形の(flaps)が張り出している[8][6]。胴部の前端、いわゆる「首」に該当する短縮した前の3節にある3対の鰭は退化的である[6][36]。それ以降の11対[8]もしくは13対[6]の鰭は該当胴節の横幅と同じ程度発達で、ダイヤモンド形の輪郭を描くように、3-4対目の鰭から後方ほど幅狭くなる[8][6]。それぞれの鰭の前縁には、他の多くのラディオドンタ類にも見られるような脈(strengthening rays)[8]、もしくは不規則な皺のような構造体が密集している[6]

尾部編集

体の尾部には尾扇tail fan)という、特化した2対[12]もしくは3対[9][6]の尾鰭によって構成された扇形の部分がある[6]A. canadensis の場合、尾扇の間には1本の細い鰭に似た突起がある[6]Anomalocaris sp. ELRC 20001 の場合では、代わりに1対の長い尾毛(furcae)をもつ[8][12]

生態編集

 
遊泳しながらカナダスピスを捕食するアノマロカリスの復元模型(旧復元)

流線型の体型と発達した筋肉に繋いだ大きなを有することから、アノマロカリスは活動的な遊泳性動物(ネクトン)として広く認められる[21][9][37][6][38][39][13]。他のラディオドンタ類と同様、アノマロカリスもほぼ平行して左右に張り出した鰭を上下に波打たせて、エイコウイカ類のような方法で泳いでいだと考えられる[21][37][38]。ラディオドンタ類の中でも、アノマロカリスとアンプレクトベルア科フルディア科の種類に比べて胴部の鰭が発達しており、これは流体力学的解析で高速遊泳に適したと示される[39]。また、アノマロカリスの発達した尾扇は、構造的に飛行機尾翼のように横安定性を維持したか、鳥類尾羽のように移動中の急速な方向変更に用いられたと考えられる[38]

捕食編集

 
A. canadensis の前部付属肢の可動域

捕食対象についてはかつて議論があったが(後述参照[11]、アノマロカリスは昔今を通じて捕食者として広く認められる[26][21][9][40][11][41]。これは獲物を掴めるような形をした、頑丈な棘をもつ能動的な前部付属肢[26][9][40][6][13]だけでなく、(獲物を探すのに適したような)前方にある発達した複眼[32][33]や(動物性の餌を効率よく消化し、栄養を蓄積できるように)特化した消化腺[6][42]などという、複数の捕食者的な特徴で明瞭に示される。これらを前述の体型から推定される機動性にあわせると、ラディオドンタ類の中で、アノマロカリスはアンプレクトベルア科の種類と同様、活動的で獰猛な捕食者(raptorial predator)であったと考えられ[10][39]、防御用の頭部の甲皮が小さかったのは、前部付属肢の広い可動域を維持するためであったと考えられる[34]。捕食の際は、先頭の前部付属肢で獲物を巻きつけるように捕獲し、それを直後にある放射状の歯に運んで呑み込んでいたと考えられる[9][40][11][13]。中でもバージェス頁岩A. canadensis は、同じ生息地の中で知られる最大の肉食動物であることに加えて、その生息地の頂点捕食者であったと考えられる[13]

捕食対象編集

前部付属肢と歯の大きさからすると、アノマロカリスは直径2-5 cm程度の獲物を捕獲するのに適したと推測される[13]。歯の三放射構造と小さく不規則な開口部は、硬い外骨格をもつ動物(例えば三葉虫)を粉砕するのに不向きで、むしろ柔らかい小動物を吸い込むのに適した形である[11]。これを前部付属肢と体の構造に示される機動性にあわせると、アノマロカリスは、遊泳性の柔らかい小動物(例えば古虫動物・小型の遊泳性節足動物ネクトカリスなど)を主食にした可能性が高い[11][41][13]。これは両手のように機能したとされる熊手状の前部付属肢と頑丈な歯に大きな開口部をもつことで、より硬質で広範囲(2-10 cm)の底生性動物を主食にした可能性が高いペイトイアフルディアとは対照的である[41][13]

 
アノマロカリスの歯(A)はペイトイア(B)とフルディア(C)のものとは大きく異なる構造をもつ
旧解釈編集

1990年代から2000年代にかけて、アノマロカリスは長らく三葉虫の捕食者と考えられ、この解釈についても多くの賛否が挙げられた[11]。これは、アノマロカリスが分布する堆積累層バージェス頁岩Emu bay shale)で、や消化管の内容物として考えられる三葉虫の断片を含んだ化石や、その歯の形に似た傷跡をもつ三葉虫の化石が発見されており、これらをアノマロカリスによるものと解釈するのが大きな根拠である[43][44]。前述の負傷した三葉虫の中では癒合する最中のような傷跡をもつものがあり、これに基づいてアノマロカリスは脱皮直後の柔らかい三葉虫を狙ったという推測もあった[45]。一方、アノマロカリスの全身化石の消化管から三葉虫由来の断片は確認できないことと、歯の内側の棘が常に損傷が見当たらないことがこの仮説に疑問を掛けており[46]、その歯は三葉虫の頑丈な外骨格を破れるほどの硬度はなかったと示唆する分析もあった[47]。しかし2012年以前のこれらの見解は、長らくアノマロカリスのものと誤解された、別のラディオドンタ類であるペイトイアの歯に基づいた誤解釈である[11]

分布と生息時代編集

バージェス頁岩をはじめとして、アノマロカリスの化石は、北アメリカカナダ[4][26][48]アメリカ[15])、中国[8][16][17][19][5]オーストラリア[20]におけるカンブリア紀ラーゲルシュテッテン(保存状態の良い化石を産する堆積累層)で発見されており、次の通りに列挙できる[5]。特にカナダの堆積累層に分布するラディオドンタ類の中で、本属の A. canadensisフルディアの種[28]の次に普遍的で、数十点ほどの化石標本が発見される[26]

カンブリア紀第三期(約5億2,100万 - 5億1,400万年前)
カンブリア紀第四期(約5億1,400万 - 5億900万年前)
ウリューアン期(約5億900万 - 5億450万年前)
ガズハンジアン期(約5億50万 - 4億9,700万年前)

これにより、アノマロカリスは熱帯から亜熱帯海域にかけて、時代・地域・環境的に幅広く分布したことが示される[5]

上記の他にも、"Anomalocaris" briggsiEmu Bay Shale、オーストラリアカンガルー島)[51]"Anomalocaris" kunmingensisWulongqing Formation/Guanshan biota、中国雲南省)[52]"Anomalocaris" pennsylvanica(アメリカペンシルベニア州Kinzers Formation[53][26][54]"Anomalocaris" magnabasisPyramid shalePioche Shale、アメリカネバダ州[55][56][57]"Anomalocaris" saron(Maotianshan Shale、中国雲南省)[16][17][58][59]、および Briggs et al. (2008)[60] と Halgedahl et al. (2009)[61]Anomalocaris sp.(Spence ShaleWheeler Shale、アメリカユタ州)と同定される化石標本はあったが、いずれも後にアノマロカリスの種として認められにくく、再分類がなされつつある(後述参照[5][59]。上述の GTBM-9-1-1022 も、本属以外のラディオドンタ類(おそらくアンプレクトベルア科アンプレクトベルア)に由来する可能性がある[31]

発見史編集

 
アノマロカリス・カナデンシスの前部付属肢の化石
 
ペイトイア(=ラガニア)の口の化石。アノマロカリスの全身が再構成される時期をはじめとして、長い間にその口と誤解釈された。
それぞれ1980年代(1枚目)、1996年(2枚目)、2014年(3枚目)と2020年(4枚目)までの発見と見解に基づいたアノマロカリス・カナデンシスの復元図。

アノマロカリス、特にその模式種タイプ種)であるアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)はカンブリア紀古生物の中でも複雑な発見史をもつ[9][23]。最初は19世紀後期から長い間に前部付属肢甲殻類の腹部と思われ、20世紀後期を初めとしてペイトイア(=ラガニア)の特徴と混同して復元され、2010年代においてもいくつかの特徴を更新され続けていた[11][6][12][36]

コノハエビ(1890~1980年代)編集

現生のコノハエビの1種。アノマロカリスの前部付属肢は、記載当初ではこのような甲殻類の腹部と解釈された。
ツゾイア背甲の化石。アノマロカリスの前部付属肢は一時では本属の腹部と思われていた。

アノマロカリスはバージェス動物群に属する代表的な動物として知られているが、最初に発見されるのは単離した前部付属肢の化石である。その化石は、当初は甲殻類コノハエビの腹部と考えられたことから、1892年にカナダの古生物学者ジョセフ・フレデリック・ホワイティーブスJoseph Frederick Whiteaves)の記載(Whiteaves 1892)によって「アノマロカリス・カナデンシス」(Anomalocaris canadensis)という学名を与えられた[4]。アノマロカリスや他のラディオドンタ類の完全な化石が発見される前に、放射状の円盤らしき化石と縦長い動物の体らしき化石が先に発見され、前者はクラゲである「ペイトイア・ナトルスティ」(Peytoia nathorsti)、後者はナマコである「ラガニア・カンブリア」(Laggania cambria)と、それぞれアメリカの古生物学者チャールズ・ウォルコットCharles Walcott)の記載(Walcott 1911a)に個別の動物として命名された[62]

しかし、これらの化石については、次のような疑問があった。

  1. 「アノマロカリス」は甲殻類の後半身と考えられていたが、内側の突起は外骨格の突出部であって、付属肢ではない。先端は尾節の構造がない。消化管の痕跡も見当たらない。
  2. 「ペイトイア」は中央に穴が開いていて、棘が並んでおり、クラゲとしては異様である。
  3. 「ラガニア」の口と考えられる部分は「ペイトイア」であり、この化石全体は Conway Morris (1978) に「カイメン(ラガニア)に付属したクラゲ(ペイトイア)」とも解釈された[63]

特に前部付属肢の部分である「アノマロカリス」に関しては、別の解釈が提唱されており、例えば Henriksen (1928) にツゾイアTuzoia)という背甲によって知られる節足動物の単離した腹部と思われ[64]、Briggs (1979) に未発見の1 m以上の巨大節足動物の脚と考えられた[26][23]

「ラガニア」はアノマロカリスの胴体、「ペイトイア」はアノマロカリスの口(1980年代)編集

アノマロカリス・ナトルスティ(=ラガニア・カンブリア、ペイトイア・ナトルスティ)の全身化石
1980年代の見解に基づいたアノマロカリス・カナデンシスの復元図

こうして数十年も不明確であった「アノマロカリス」、「ペイトイア」と「ラガニア」の本質だが、古生物学者ハリー・ウィッティントンHarry B. Whittington)とデリック・ブリッグスDerek Briggs)が1980年代に行われる研究によって解明され始めた[9][23]。1980年代初期、ウィッティントンが「ラガニア」に似た所属不明の化石標本 GSC 75535 を解析したところ、その先端から1対の「アノマロカリス」と1つの「ペイトイア」に似た構造が発見された。そして既存のいくつかの「ラガニア」の化石にも似たような結果を得られており、その先端から「ペイトイア」と、「アノマロカリス」とはやや異なった1対の櫛状の前部付属肢が発見された。こうして「アノマロカリス」、「ラガニア」と「ペイトイア」はお互いに無関係な動物ではなく、それぞれ少なくとも同じ分類群(ラディオドンタ類)の動物に由来する体の一部(「アノマロカリス」=前部付属肢、「ペイトイア」=口、「ラガニア」=胴体)であることが判明した[21]

ウィッティントンとブリッグスが共著した1985年の記載(Whittington & Briggs 1985)では、これらの全てが1つの属によるものと考え、その属名を学名の先取権に従ってアノマロカリス(Anomalocaris)にした。更に、この属の中には前部付属肢の形態だけ明らかに異なる2種、いわゆる「アノマロカリス」型の前部付属肢をもつ、その学名を元通りに受け継ぐアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)と、ペイトイアの種小名を受け継ぐ、櫛状の前部付属肢をもつアノマロカリス・ナトルスティ(Anomalocaris nathorsti)を認めていた[21][65]。「体の各部位がかつてそれぞれ別生物とされた」という、一般に「アノマロカリスの復元史」として紹介された経緯は、この見解によるものである[9]

「ラガニア」はアノマロカリスの胴体ではない(1990年代)編集

アノマロカリス・カナデンシスの全身化石。ラガニアとは異り、小さな頭部と扇形の尾部をもつ。
Collins (1996) の見解に基づいたアノマロカリス・カナデンシスの復元図

しかし、その後は再検証や更なる完全な化石標本の発見により、前述の見解は大きく異なる2種のラディオドンタ類の特徴を混同させたものであると分かった[9]。古生物学者デスモンド・H・コリンズDesmond H. Collins)は1996年の記載(Collins 1996)でアノマロカリス・カナデンシスとラガニア・カンブリア(=前述のアノマロカリス・ナトルスティおよび2010年代以降のペイトイア・ナトルスティ)というお互い別属の2種のラディオドンタ類を復元した[9]。前者は前部付属肢の形態だけでなく、扇形の尾部・流線型の体・小さな頭部の前方に備わる眼など多くの特徴によって後者(前部付属肢は櫛状・尾鰭を欠き・楕円形の体・巨大な頭部の後方に備わる眼)から区別される[9][23]

Collins (1996) は上述の他に、アノマロカリス・カナデンシスの歯の表面にうろこ状の隆起があることも示していた[9]。同時に、アノマロカリスの前部付属肢と「ひし形のペイトイア」が共に保存された化石標本 ROM 51216 も記載され、同一個体に由来と解釈された。アノマロカリス・カナデンシスの口がこれらの発見に基づいて、「表面に隆起が生えたひし形のペイトイア」に復元された[9]

「ペイトイア」はアノマロカリスの口ではない(2012年)編集

 
アノマロカリス(A)、ペイトイア(=ラガニア、B)、およびフルディア(C)のそれぞれの口と歯

21世紀に至っても、アノマロカリス・カナデンシスのは十数年も80-90年代の見解に基づいて、規則的な32枚の歯のうち十字方向にある4枚が最も大きいという、典型的な「ペイトイア」型だと思われていた[11]。しかし、既存の化石への再検証や新たな化石標本から確実な証拠を得た Daley & Bergström (2012) により、アノマロカリス・カナデンシスの口は不規則な三放射構造という、今までの復元から大きく逸した形態にあると判明した[11]。これにより、かつてアノマロカリス由来と思われた、化石標本 ROM 51216 に見られる「ペイトイア」型の歯は別のラディオドンタ類、すなわちラガニアに由来・混入したものとなる[11]。また、同じ文献で、ラガニア・カンブリアはペイトイア・ナトルスティへと改名された(ラガニア#研究史を参照)[11]

それ以降の展開編集

 
アノマロカリス・カナデンシスの3枚の甲皮。左右の甲皮は一時期では大きな複眼と誤解釈された。

Daley & Edgecombe (2014) ではアノマロカリス・カナデンシスに対する全面的な再記載が行われ、本種の復元が大幅に更新された。各鰭の前縁を走る一連の皺・背中の鰓らしき構造体(setal blades)・尾扇中央の突起部・頭部背側の甲皮(H-element)などの新しい形質が発見されるだけでなく、前部付属肢はより左右平たく、複眼はより大きく、の数は(首と尾部の鰭を除いて)13対など、一部の既知の構造も更新された[6]。本種の背側の甲皮は Daley & Edgecombe (2014) では前後に幅広いとされたが、Zeng et al. (2017) 以降では向きが90度修正され、左右に幅広いとなった[34]。本種の最大体長は、正確の比率に基づいた Lerosey-Aubril & Pates (2018) の推算によって一般に知られる( Briggs 1979 [26]由来の)1 mから38 cmへと大幅に下方修正された(前述参照)[10]。Moysiuk & Caron (2019) に行われる再検証では、前述の Daley & Edgecombe (2014) に大きな複眼と解釈された部分は眼らしからぬ保存状態をもち(硬組織のように明瞭な輪郭をもつ・同じ堆積累層で化石化した眼において特徴的な光沢と色合いを欠く)、むしろ頭部の左右に備わる楕円形の甲皮(P-element)であることを明らかにした[12]。Zeng et al. (2020) では、本種の前部付属肢の柄部は(キリンシアの前端の付属肢にも見られる、腹側に広げた節間膜があることを示唆する)斜めの境界線があると示された[36]

分類編集

汎節足動物

有爪動物  

緩歩動物  

様々な葉足動物側系統群 

シベリオン類  

パンブデルリオン  

ケリグマケラ  

オパビニア

 

ラディオドンタ類
(アノマロカリス類)
アノマロカリス科

アノマロカリスなど  

アンプレクトベルア科

アンプレクトベルアなど  

タミシオカリス科

タミシオカリスなど  

フルディア科

フルディアペイトイアなど  

節足動物

 

アノマロカリスの系統的位置(青枠:基盤的な節足動物[66][67][10][12]

分類史編集

ラディオドンタ類アノマロカリス類)の中で、アノマロカリスは最初(1892年[4])に命名がなされ、そして1980年代で最初にラディオドンタ類として復元された属でもある(復元史を参照)[9]。本属の全身が復元され始めた頃では、既に命名されたラディオドンタ類の属のうち、フルディア(1912年命名)とパーヴァンティア(1981年命名)の正体は未解明、ペイトイア(=ラガニア、1911年命名)の種もアノマロカリスに含まれたため、当時、アノマロカリスは唯一に知られるラディオドンタ類であり、本属を含んだアノマロカリス科Anomalocarididae)を除き、ラディオドンタ類の構成種をまとめる分類群も創設されていなかった[21]

この頃、アノマロカリスは一見して現在のいかなる動物群にも類似しない姿により、既存の動物への分類が不可能な未詳化石(プロブレマティカ)と考えられた[21][22]。これは、関節に分かれた前部付属肢や体に体節制がある点では節足動物を思わせるが、節足動物にしては放射状の口器や一連の鰭を有する柔軟な胴部が特異すぎるからである[21][9]

1990年代では、アノマロカリス以外のラディオドンタ類の存在が知られつつある[8][16][9]。この頃では、ペイトイア(当時ではラガニア)は別属としてアノマロカリスから再区別され(発見史参照[9]アンプレクトベルアなどという似たような別属も発見された[8][16]。これにより、アノマロカリスは自らのみならず、これらのような古生物と共にある多様な分類群に所属している一員であることが分かる。この分類群の構成種は、一時期では既存のアノマロカリス科のみにまとめられ、「アノマロカリス類」(anomalocaridids)と総称されていたが、後にさらに多くの種類が見つかり範囲を広げられ、「ラディオドンタ類」(ラディオドンタ目学名Radiodonta[9])として知られるようになった[66]

1990年代を始めとして、前述の未詳化石説を覆し、アノマロカリスと他のラディオドンタ類を節足動物とする見解は台頭し始めた[65][8][68][9][69][70]。ラディオドンタ類とそれに似たオパビニア[69]ケリグマケラ[68]パンブデルリオン[70]からいくつかの節足動物的性質(体節制・消化腺[42]・下向きの口[3]・複眼[32][33]・二叉型付属肢を思わせる背腹の付属肢構造[69][35])が認められ、特にラディオドンタ類は外骨格関節肢という、節足動物として決定的な特徴まで頭部に現れる[65][3][71][7]。同時に、これらの古生物は前述の節足動物らしからぬ特徴(柔軟な胴部など)もあることにより、これらの古生物は、胴部の外骨格と関節を進化する以前の、節足動物の初期系統(ステムグループ)に所属するもの(基盤的な節足動物)であることが示唆される[68][69][70][3][71][7]。いくつかの異説もあった[16][72]が、21世紀代以降ではこの系統仮説に関する研究が飛躍的に進んでおり、新たな化石証拠と系統解析から根強い支持を受けられ続けている[73][74][67][35][3][71][10][12][36][75][25]

ラディオドンタ類での位置付け編集

 
アノマロカリスと同じくアノマロカリス科に分類されるレニシカリス前部付属肢

ラディオドンタ類の中で、アノマロカリスはアノマロカリス科Anomalocarididae)の模式属タイプ属)である。このは90年代から2010年代前期にかけて全のラディオドンタ類の構成種を含んでいたが、Vinther et al. (2014) 以降では本属と他の科より本属に近いとされるラディオドンタ類のみを含むようになり[66]、例えば Wu et al. 2021a 時点ではアノマロカリスとレニシカリス (Lenisicaris) のみ含まれる[5]。このはほとんどの系統解析にアンプレクトベルア科Amplectobeluidae)の近縁と見なされる[66][67][35][10]

下位分類編集

アノマロカリス(アノマロカリス Anomalocaris)に分類されるラディオドンタ類は、模式種タイプ種)であるアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)の他にも幾つかある[5]。しかし20世紀から2010年代にかけて、本属は"アノマロカリス"・ブリッグシ("Anomalocaris" briggsi)や"アノマロカリス"・サロン("Anomalocaris" saron)などという別系統の可能性が高い種を少なからぬ含んでおり[5]系統解析においてそのほとんどが往々にして別の属や科に近縁とされる[66][67][35][10][30][12]。これらの種は、次々と本属から除外され、別属の種として改名・再分類されつつある(後述参照[5][59][31]

2021年現在、アノマロカリスに含めるとされる種は次の通り。未命名の化石標本をも含むと最多10種が知られるが、本属の中で正式に命名された種は A. canadensis のみである[5]

アノマロカリス・カナデンシス Anomalocaris canadensis
シノニム(無効の異名):Anomalocaris whiteavesi Walcott1908b[76]Anomalocaris gigantea Walcott1912[77]Anomalocaris cranbrookensis Resser, 1929[53][26][6]
Whiteaves (1892) に命名される[4]。本属の中で最初に発見・命名された模式種[4]発見史も参照)。
カナダブリティッシュコロンビア州バージェス頁岩バージェス動物群[4]Eager formation[26]Stanley glacier[48] から発見される。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、柄部直後9節の内突起は前後それぞれ1本の分岐をもって三股状になる[6]。首を除いて胴部は13対のをもち、それぞれの鰭は脈がなく、代わりに皺のような構造が前縁部に集密している[6]尾部は3対の尾鰭を含んだ尾扇と、その中央にある1本の平たく短い突起をもつ[6]。最大体長約38 cmと推測される(前部付属肢と尾部を除く)[10]
種小名canadensis」は発見地であるカナダ(Canada)による[4]
  • Anomalocaris sp. 1 (Chengjiang)
Hou & Bergström (1991) で最初に記載される。Hou & Bergström (1991) では Anomalocaris canadensis に同種とされたが、Hou et al. (1995) 以降では Anomalocaris sp. とされるようになった[16]
中国雲南省Maotianshan Shale澄江動物群)から発見される[16]前部付属肢のみによって知られる[16]。前部付属肢は15節(柄部2節と残り13節)からなり、途中の肢節はやや前後に短縮する[16]。多くの内突起は前後それぞれ2本の分岐をもつ[16]
アノマロカリス未命名種 Anomalocaris sp. ELRC 20001
  • Anomalocaris sp. ELRC 20001 (Anomalocaris sp. 2 Chengjiang)
Chen et al. (1994) で最初に記載される[8]。Hou et al. (1995) [16]をはじめとして長らく Anomalocaris saron(アノマロカリス・サロン、後に別属ホウカリスHoucaris saron へ改名された種[59])に同種とされたが、2020年以降では本属の別種とされるようになった[36][75][59]
中国雲南省の Maotianshan Shale(澄江動物群)から発見される[8]。1つの全身化石標本 ELRC 20001 のみによって知られる[8]。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、前半のそれぞれの内突起は前方に1本の分岐をもつ[8]。柄部の内突起は直後の内突起と同じ程度発達した[8]。首を除いて胴部は11対の鰭をもち、それぞれの鰭の前縁には一連の枝分かれた脈がある[8]。尾部は2対[12]の尾鰭を含んだ尾扇と、体の半分以上長い尾毛が1対ある[8]。体長6.8 cm(前部付属肢と尾部を除く)[10]
  • Anomalocaris cf. canadensis / Anomalocaris aff. canadensis (Emu Bay Shale)
Nedin (1995) で最初に記載される。Nedin (1995, 1997, 1999) と Paterson & Jago (2006) では Anomalocaris sp.、Paterson et al. (2011) では Anomalocaris sp. nov.、Daley et al. (2013b) 以降では一般に Anomalocaris cf. canadensis[20]、Paterson et al. (2020) では Anomalocaris aff. canadensis として記載される[33]
オーストラリアカンガルー島Emu Bay Shale から発見される[20][57]。柄部と一部の内突起が不完全な前部付属肢と、同種に由来と思われる複眼[33]のみによって知られる。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、柄部直後から1・3・5番目の肢節の内突起は前後それぞれ2本以上の分岐をもつ[20]。体長約34.8 cm(A. canadensis の比率)から51.2 cm(ELRC 20001 の比率)と推測される[10]
  • Anomalocaris sp. 3 (Malong Fauna)
Zhang et al. (2001) で最初に記載される[17]
中国雲南省の Hongjingshao FormationMalong Fauna)から発見される[17]。1つの前部付属肢の化石標本(番号なし、Zhang et al. 2001 の Fig. 3b)のみによって知られる[17]
  • Anomalocaris sp. 5 (Kaili Formation)
Zhao (2005) で最初に記載される[18]
中国貴州省Kaili FormationKaili Biota)から発見される[18]。一つの前部付属肢の化石標本 GTBM-9-1-1022 のみによって知られる[18]。なお、この化石標本を本属以外のラディオドンタ類(アンプレクトベルア科、おそらくアンプレクトベルア)由来とする見解もある[31]
  • Anomalocaris sp. 4 (Balang Formation)
Liu (2013) で最初に記載される[19]
中国湖南省Balang Formation から発見される[19]。保存状態の悪い1つの前部付属肢の前半部(柄部1節と残り9節)の化石標本 NIGP 156214 のみによって知られる[19][57]。第2肢節以降のほとんどの内突起は前方に3本以上、後方に1本以上の分岐をもつ[19]
  • Anomalocaris aff. canadensis (Weeks Formation)
Lerosey-Aubril et al. (2014) で最初に記載される[15]
アメリカユタ州Weeks Formation から発見される[15]。柄部とほとんどの内突起が不完全な前部付属肢のみによって知られる[15]。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、全体的に細長く、少なくとも第8肢節(おそらく第2から第10肢節にかけて)の内突起は前方に2本と後方に1本の分岐をもつ[15]。体長5.5 cm(A. canadensis の比率)から8.1 cm(ELRC 20001 の比率)と推測される[10]が、既知の前部付属肢はすべて幼生由来と考えられる[15]
  • Anomalocaris sp. 6 (Weeks Formation)
Lerosey-Aubril et al. (2014) で最初に記載される[15]
アメリカユタ州の Weeks Formation から発見される[15]。前後両端の肢節と内突起が不完全な1つの前部付属肢の化石標本 BPM 1034 のみによって知られる[15]。前部付属肢は12節が確認され、少なくとも第5-8肢節には頑丈な内突起がある[15]。内突起の分岐や背側の棘の有無は不明[15]。体長8.6 cm(A. canadensis の比率)から12.6 cm(ELRC 20001 の比率)と推測される[10]
  • Anomalocaris cf. canadensis (Chengjiang)
Wu et al. (2021a) で最初に記載される[5]
中国雲南省Maotianshan Shale澄江動物群)から発見される。柄部と先端が不明の1つの前部付属肢の化石標本 JS-1880 のみによって知られる[5]。知られる内突起は前後それぞれ1本の分岐をもち、A. canadensis によく似ているが、分岐は A. canadensis のものより内突起の基部近くに配置される[5]。ただしこれに近い特徴は A. canadensis に見られる場合もあるため、本種は A. canadensis に同種の可能性もある[5]

かつてアノマロカリスに分類された別系統編集

かつてもしくは一時期的にアノマロカリスと考えられたものの、後に本属以外の種とされるようになったラディオドンタ類は次の通り。

シノニム(無効の異名):Laggania cambria Walcott1911a[62][9][11] ラガニア・カンブリア
Walcott (1911a) に命名され[62]、Whittington & Briggs (1985) に本属の種 Anomalocaris nathorsti として再分類され[21]、Collins (1996) 以降では元の独立属(当時ではラガニア[9]、Daley & Bergström (2012) 以降ではペイトイア[11])の種として再び区別されるようになった。フルディア科に分類される[66][67][35][10][30][12][75]
カナダブリティッシュコロンビア州バージェス頁岩バージェス動物群[62]、およびアメリカユタ州Wheeler Shale[78]Marjum Formation[39] から発見される。
Resser (1929) に本属の種 Anomalocaris pennsylvanica(アノマロカリス・ペンシルウァニカ)として命名され、Wu et al. (2021a) にレニシカリスLenisiaris)の種として再分類されるようになった[5]アノマロカリス科に分類される[5]
アメリカペンシルベニア州Kinzers Formation から発見される[53][57]。前部付属肢のみによって知られる。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、内突起は単純な長い針状で分岐はない[54]
種小名「pennsylvanica」は発見地であるアメリカのペンシルベニア州(Pennsylvania)による[53]
  • "Anomalocaris" briggsi Nedin, 1995[51] "アノマロカリス"・ブリッグシ
Nedin (1995) に本属の種として命名された属未定[12]の未改名種。タミシオカリス科に分類される[66][67][35][10][30][12][75]
オーストラリアカンガルー島Emu Bay Shale から発見される[51]。前部付属肢[20]と同種に由来と思われる複眼[33]のみによって知られる。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、内突起は同規的で細長い[20]。柄部以降のほとんどの内突起は前後と後方の基部にたくさんの分岐をもつ[20]。複眼は腎臓型で眼柄はなく、縁が甲皮に覆われる[33]懸濁物食性であったと考えられる[41][33]。体長33.2 cm(A. canadensis の比率)から49 cm(ELRC 20001 の比率)と推測される[10]
Hou & Bergström (1991) に Anomalocaris canadensis[80]、Hou et al. (1995)[16]、Luo et al. (1999)[81] と Zeng et al. (2017)[34]Anomalocaris saron に同種とされたが、Cong et al. (2018) にラムスコルディアRamskoeldia)の種として命名されるようになった[79]
中国雲南省Maotianshan Shale澄江動物群)から発見される[79]
Houcaris saron の前部付属肢
Anomalocaris sp. ELRC 20001(水色部分)を Houcaris saron(ピンク色部分)に同種とする誤解釈に基づいた旧復元図
Hou et al. (1995) に本属の種 Anomalocaris saron(アノマロカリス・サロン / アノマロカリス・サーロン[14])として命名され、Wu et al. (2021b) にホウカリスHoucaris)の種として再分類されるようになった[59]アノマロカリス科[35][30]アンプレクトベルア科[66][10]とタミシオカリス科[59]のいずれかに分類される。
中国雲南省Maotianshan Shale澄江動物群)から発見される[16][59]。前部付属肢のみによって知られる(ELRC 20001 は長らく本種の全身化石標本とされた[16]が、2020年以降では本種とは別のアノマロカリス由来とされるようになった。上述参照[36][75][59])。前部付属肢は細長く、15節以上(柄部2節以上と残り13節)からなり、柄部とその直後の肢節の境目は上向きに屈曲する[5]。柄部直後の内突起はやや強大で、それ以降の内突起は細長く、そのほとんどが前方に5本と後方に2本の細い分岐をもつ[59]。柄部以降の肢節は、それぞれの内突起の基部前方に更に2本の細い分岐をもつ[59]
たくさんの細い分岐をもつ内突起に因んで、種小名はギリシャ語の「σάρον」(saron)による[16]
Lieberman (2003) に Anomalocaris cf. saron として記載され[55]、Pates et al. (2019b) に本属の種 Anomalocaris magnabasis(アノマロカリス・マグナベシス)として命名され[57]、Wu et al. (2021b) にホウカリスHoucaris)の種として再分類されるようになった[59]。アノマロカリス科[35][30]、アンプレクトベルア科[66][10]とタミシオカリス科[59]のいずれかに分類される。
アメリカネバダ州Pioche ShalePyramid shale から発見される[55][57]の断片、および前部付属肢のみによって知られる[57]。前部付属肢は15節(柄部2節と残り13節)からなり、基部3節は太く、柄部先端と直後の内突起はわずかに強大で、柄部直後の9本の内突起はそれぞれの前方に5本と後方に1本の細い分岐をもつ[57]
前部付属肢の大きな基部に因んで、種小名「magnabasis」はラテン語の「magna」(大きいな、偉大な)と「basis」(基部)の合成語である[57]
Hou et al. (2004) に Anomalocaris aff. saron として記載され[83]、Guo et al. (2018) にラミナカリスLaminacaris)の種として命名されるようになった[82]
中国雲南省Maotianshan Shale澄江動物群)から発見される[82]
  • KUMIP 314037
Briggs et al. (2008) に Anomalocaris sp. として記載され[60]、Pates et al. (2019b) に本属から除外されるようになった未命名種[57]
胴部の前半と左側の鰭のみを保存した1つの化石標本 KUMIP 314037 のみによって知られる[60]。胴部は少なくとも9対の細長い鰭をもつ[60]
  • KUMIP 314087
Briggs et al. (2008) に Anomalocaris sp. として記載され[60]、Pates et al. (2019b) に本属から除外されるようになった未命名種[57]
頭部が不明確な1つの全身化石標本 KUMIP 314037 のみによって知られる[60]。胴部は少なくとも10対の鰭、尾部は少なくとも8本の尾鰭を含んだ尾扇をもつ[60]。体長2.9 cm[60]
Halgedahl et al. (2009) に Anomalocaris (?) として記載され[61]、Pates et al. (2019b) に本属から除外され[57]、Pates et al. (2021) にアノマロカリス科新属新種(Anomalocarididae gen. et sp. nov.)とされるようになった[39]
アメリカユタ州Wheeler Shale から発見される[61]。先端が不明の1つの前部付属肢の化石標本(番号なし、Halgedahl et al. 2009 の Fig. 10L)のみによって知られる[61]。前部付属肢は10節以上からなり、各肢節は前後短縮する[61]
"Anomalocaris" kunmingensis の前部付属肢と歯
  • "Anomalocaris" kunmingensis Wang, Huang & Hu, 2013[52] "アノマロカリス"・クンミンゲンシス
Wang et al. (2013) に本属の種として命名された属未定の未改名種。アンプレクトベルア科に含まれ[66][67][35][29][10][30][12][75][31]アンプレクトベルアの1種(Amplectobelua kunmingensis)として扱われる場合もある[66]
中国雲南省Wulongqing Formation (Guanshan biota) から発見される[52]。柄部が不完全な前部付属肢[52][29][31]のみによって知られる。前部付属肢は前後の太さがさほど変わらず、15節(柄部2節と残り13節)からなる。柄部とその直後の肢節の境目は上向きに屈曲する[30]。柄部直後の内突起は明らかに強大で、前方に1-2本と後方に1本の分岐をもち、それ以降の肢節の内突起はやや単純で、分岐が見られる場合は少ない[52][31]。最終数節の背側の棘は対になる[52][31]。歯は十字放射状で、32枚の歯のうち発達した十字方向の4枚は内側に5本以上の棘をもつ[29]。表面はたくさんの隆起と溝があり、発達した歯のうち後方の1枚は最も小さい[29][31]。体長22.2 cm(A. canadensis の比率)から32.8 cm(ELRC 20001 の比率)と推測される[10]
種小名「kunmingensis」は発見地である中国の昆明市ピンインKūnmíng)による[52]

かつてアノマロカリスとして命名されたものの、アノマロカリスどころか、ラディオドンタ類ですらない別生物は種は次の通り。

 
Climacograptus emmonsi模式標本 USNM 92727 の解釈図
Walcott (1886) に筆石Climacograptus の種 Climacograptus emmonsi として命名され、Resser & Howell (1938) で暫定的に本属の種 Anomalocaris? emmonsi として再分類されたが、Briggs (1979) 以降では本質不明とされ、本属から除外された[26]
アメリカバーモント州から発見される[26]。所属と本質が不明(おそらく藻類)の1つの化石標本 USNM 92727 のみによって知られる[26]
  • Anomalocaris? kokomoensis Ruedemann, 1925[84]
Ruedemann (1925) に暫定的に本属の種として命名された[84]が、Briggs (1979) 以降では本質不明とされ、本属から除外された[26]
アメリカインディアナ州Salina formationシルル紀後期)から発見される[26]。所属と本質が不明(おそらく節足動物の付属肢由来)の1つの化石標本 NYSM 9627 のみによって知られる[26]
Resser & Howell (1938) に本属の種 Anomalocaris lineata として命名され[85]、Briggs (1978) 以降では Serracaris の種として再分類されるようになった[86]
アメリカペンシルベニア州Kinzers Formation から発見される[86]。対になる棘が生えた十数節の外骨格のみによって知られる。Resser & Howell (1938) では本属の前部付属肢に該当する部位(当時ではまだ甲殻類の腹部とされる、発見史を参照)と解釈されたが[85]、Briggs (1978) 以降では本属から除外され、Serracaris という所属不明の節足動物の胴節と見なされるようになった[86]

関連事象編集

脚注編集

[脚注の使い方]
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  2. ^ a b c Enrico, Bonino, (2018-05-23). “The Weeks Formation Konservat–Lagerstätte and the evolutionary transition of Cambrian marine life” (英語). figshare. https://figshare.com/collections/The_Weeks_Formation_Konservat_Lagerst_tte_and_the_evolutionary_transition_of_Cambrian_marine_life/4109588. 
  3. ^ a b c d e Ortega-Hernández, Javier (2016-02). “Making sense of ‘lower’ and ‘upper’ stem-group Euarthropoda, with comments on the strict use of the name Arthropoda von Siebold, 1848: Upper and lower stem-Euarthropoda” (英語). Biological Reviews 91 (1): 255–273. doi:10.1111/brv.12168. http://eprints.esc.cam.ac.uk/3217/. 
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関連項目編集

外部リンク編集