アメリカ五大オーケストラ
アメリカ五大オーケストラ(アメリカごだいオーケストラ 英語: The Big Five orchestras)、通称ビッグファイブ(Big Five)とは、アメリカ合衆国を代表するとされる5つのオーケストラのことである[1]。
概要
編集ビッグファイブに含まれる楽団は、以下の5つである(順番は設立年順)[2]。これらは音楽性、楽団員の資質や待遇の面などでアメリカのクラシック業界をリードするものとされた[3]。
- ニューヨーク・フィルハーモニック(1842年設立)[4]
- ボストン交響楽団(1881年設立)[5]
- シカゴ交響楽団(1891年設立)[6]
- フィラデルフィア管弦楽団(1900年設立)[7]
- クリーヴランド管弦楽団(1918年設立)[8]
起源
編集「ビッグファイブ」という言葉が使われるようになったのは、レコードへの長時間録音が可能になり、オーケストラの演奏会のラジオ放送のレギュラー番組が拡大した1950年代ごろから[9]である。20世紀中頃、ラジオ放送やレコードで衆目に触れるオーケストラはアメリカ東海岸のものでほぼ占められるようになり、その中でもニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアの3楽団が「ビッグスリー」と呼ばれるようになった。1950年代後半でもまだ「ビッグスリー」という言葉は使われていた(『ニューズウィーク』1958年2月17日号など)が、ジョージ・セル率いるクリーブランド管弦楽団とフリッツ・ライナー率いるシカゴ交響楽団の名声が高まったことにより、先の3楽団と併せて「ビッグファイブ」と呼ばれるようになった[10]。
現代の用法
編集現代でも「ビッグファイブ」という言葉は使われているが、すでに時代遅れの分類だと考える者も多い[11]。1980年代末より、現代音楽に特性を示すオーケストラがビッグ・ファイブの中に入らないことが問題になってきていた[12]。
1983年の『タイム』誌におけるマイクル・ウォルシュ[2][13]、2005年の『ロサンゼルス・タイムズ』紙におけるマーク・スウェッド[14]など何人かの評論家が、「ビッグファイブ」を拡大することを提案しており、その候補としてロサンジェルス・フィルハーモニック[14]、サンフランシスコ交響楽団[14]、アトランタ交響楽団[15]、ピッツバーグ交響楽団[16]、ヒューストン交響楽団[16]、ボルティモア交響楽団[17]、ワシントン・ナショナル交響楽団[17]、ミネソタ管弦楽団[18]、セントルイス交響楽団[19]などが挙げられている。
2008年にイギリスの『グラモフォン』誌に掲載された、批評家の投票による世界トップ20のオーケストラの中にはアメリカの楽団が7つ入っており、5位がシカゴ、7位がクリーブランド、8位がロサンジェルス、11位がボストン、12位がニューヨーク、13位がサンフランシスコ、18位がメトロポリタン・オペラ(ニューヨーク市)だった[20]。
21世紀には、「ビッグファイブ」という分類はもはや意味がないと述べる批評家も現れた。2013年、クリーヴランド管弦楽団の元エグゼクティブ・ディレクターのゲイリー・ハンソンは、かつてはオーケストラの評判とその質には相関関係があったと述べた[11]。音楽家の長距離移動が容易になったこと、主要なオーケストラがレコード契約をしないこと、アメリカの多くの都市に有力なオーケストラが生まれたことにより、ビッグファイブの重要性は低下している。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、音楽家が所属先を選ぶ際には、オーケストラの歴史的な名声と同程度にその土地の気候や生活費が重要視されると示唆し[11]、才能のある若い音楽家が多数いることにより、アメリカの全てのオーケストラにそれが供給され、オーケストラの質が平準化される要因になっていると述べた[11]。
脚注
編集- ^ “オーケストラのススメ:~12~ アメリカのオーケストラを聴こう!~今季来日予定の楽団を中心に”. 毎日新聞. 2022年5月8日閲覧。
- ^ a b Michael Walsh, Lee Griggs, James Shepherd, "Music: Which U.S. Orchestras Are Best?" Time, April 25, 1983. Retrieved July 18, 2010.
- ^ Robert R. Faulkiner, "Career Concerns and Mobility Motivations of Orchestra Musicians", The Sociological Quarterly, vol. 14, no. 3 (Summer 1973), p. 336.
- ^ History of the New York Philharmonic Archived April 28, 2007, at the Wayback Machine. (official website). Retrieved July 18, 2010.
- ^ History of the Boston Symphony Orchestra (official website). Retrieved July 18, 2010.
- ^ History of the Chicago Symphony Orchestra (official website). Retrieved March 28, 2012.
- ^ History of the Philadelphia Orchestra Archived June 20, 2010, at the Wayback Machine. (official website). Retrieved July 18, 2010.
- ^ History of the Cleveland Orchestra (official website). Retrieved July 18, 2010.
- ^ Fred Kirshnit, "New York Drops Off the List of 'Big Five' Orchestras", The New York Sun, December 5, 2006. Retrieved July 18, 2010.
- ^ Wayne Lee Gay, "Classical's `Big Five' are on top again", The San Diego Union-Tribune, May 24, 2003, p. E6.
- ^ a b c d Oestreich, James R. (June 14, 2013). “The Big Five Orchestras No Longer Add Up”. The New York Times
- ^ “1988年のリリースですら、ビッグファイブはこのような曲目から遠ざかっていた。”. www.discogs.com. www.discogs.com. 2022年5月10日閲覧。
- ^ Page, Tim (April 15, 1990). “Now Hear This. Why do the so-called Big Five stand out from all other U.S. orchestras?”. Newsday: p. 10 July 18, 2010閲覧。
- ^ a b c Swed, Mark (August 14, 2005). “Time to get on the stick”. Los Angeles Times July 18, 2010閲覧。
- ^ Mary Ann Glynn, "Maestro or Manager?" in Joseph Lampel, Jamal Shamsie, Theresa K. Lant (eds.), The Business of Culture (Routledge, 2006), p. 65. ISBN 0-8058-5582-3.
- ^ a b "Orchestras: The Elite Eleven", Time, April 8, 1966. Retrieved April 16, 2010. Subscription required.
- ^ a b Joshua Kosman, "New Music for a New Century", The Arts Today, USIA, vol. 3, no. 1 (June 2008), p. 25. ISBN 1-4289-6734-6.
- ^ "Orchestras: Big Five Plus One?" Time, November 10, 1967. Retrieved July 18, 2010. Subscription required.
- ^ Richard Dyer, "The Big 5 orchestras: Do they still reign supreme?" The Boston Globe, August 29, 1993. Retrieved July 18, 2010. ( 要購読契約)
- ^ "The World's Greatest Orchestras by Gramophone", ocregister.com, November 2008. Retrieved January 16, 2020.
参考文献
編集- ノーマン・レブレヒト, "Bucks Stop Here: The Biggest Need Not Be the Best", La Scena Musicale, July 5, 2000.