アメリー・ノートン(Amélie Nothomb, 本名:ファビアン・クレール・ノートン Fabienne Claire Nothomb[1]1966年7月9日 - )は、ベルギー小説家。現代フランス語圏最有力の作家の一人であり、数多くの文学賞を受けている。本来の発音である[ameli nɔtɔ̃b][2]に近いアメリー・ノトンブという表記もある[3][4]

アメリー・ノートン
Amélie Nothomb
2015年
誕生 Fabienne Claire Nothomb
(1966-07-09) 1966年7月9日(57歳)
ベルギーの旗 ベルギー ブリュッセル首都圏地域エテルベーク
職業 小説家
言語 フランス語
国籍 ベルギーの旗 ベルギー
最終学歴 ブリュッセル自由大学
活動期間 1992年 - 現在
ジャンル 小説
代表作 『畏れ慄いて』
主な受賞歴 アカデミー・フランセーズ賞(1999年)
ルノードー賞(2021年)
デビュー作 『殺人者の健康法』
親族 パトリック・ノートン(父)
署名
公式サイト 公式ウェブサイト
ウィキポータル 文学
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経歴 編集

ベルギーの外交官であったパトリック・ノートンの娘としてベルギーのエテルベークに生まれた[5]。出生直後に、父親がベルギー大阪総領事に就任したことに伴って神戸に渡った。5歳まで日本で育った後、父親の転勤によって中国ニューヨークバングラデシュビルマラオスと移り住み、17歳の時にベルギーに帰国。それまでずっと外国を転々としていたため、故国に帰国子女として戻ってきても「自分が外国人のような感じがした」という。ブリュッセル自由大学に入学し、文献学を専攻した。

23歳で再来日し、三井物産に1年間勤務[6]。その後ベルギーに戻り、1992年に『殺人者の健康法』で作家デビュー。以来、年に1作ほどのペースではあるがコンスタントに作品を発表し続けている。2022年ストレーガ・エウロペオ賞受賞。

畏れ慄いて 編集

日本での就業体験をもとに、1999年にノートンが発表した自伝的小説[7]が『畏れ慄いて』(おそれおののいて)である。白人女性である主人公が日本の架空の大企業「ユミモト・コーポレーション」で味わう理不尽な体験を面白おかしく描いた。フランスで50万部を売るベストセラーとなり、この年のアカデミー・フランセーズ賞も受賞した。

一方、小説の舞台となった日本では、会社文化の不条理を誇張して描いていることに批判が集まった。実際、日本のある大企業の社長がこの作品を「嘘の塊だ」と評した、とノートン自身が語っている。

2003年に、アラン・コルノー監督、シルヴィー・テステュー主演で映画化された。日本では同年のフランス映画祭横浜などで上映されているが、一般公開には至っていない。

家系 編集

ノートン家はベルギーで代々続く名門貴族政治家の家系(男爵家)である。首相を務めたジャン=バティスト・ノートン(Jean-Baptiste Nothomb, 在任1841年 - 1845年)や、元外相のシャルル=フェルディナン・ノートン(Charles-Ferdinand Nothomb, 在任1980年 - 1981年)は親類に当たる。アメリー自身も2015年に一代限りの女男爵に叙されている[8]ほか、ベルギー王冠勲章(コマンドール)を2008年に受けている[9]

アメリーの父パトリックが2004年に自伝 Intolérance zéro, 42 ans de carrière diplomatique(『不寛容ゼロ 外交官歴42年』日本語訳未刊行)を出版した際は、アメリーがその後書きを書いた。上記『畏れ慄いて』は、日本・ベルギー関係、ひいては日欧関係の悪化を懸念する父親が駐日大使の任を解かれるのを待って発表したものである。

姉のジュリエット・ノートン(Juliette Nothomb, 1963年生まれ)も作家として活動している。

作品リスト 編集

年表記はフランスにおける出版年を表す。フランス語版の原作はすべてアルバン・ミシェル社 (Albin Michel) から出ている。

  • Hygiène de l'assassin 殺人者の健康法(1992年)日本語訳:柴田都志子文藝春秋、1996年11月
  • Le Sabotage amoureux(1993年)
  • Légende un peu chinoise
  • Les Combustibles(1994年)
  • Les Catilinaires 午後四時の男(1995年)日本語訳:柴田都志子、文藝春秋、1998年4月
  • Péplum(1996年)
  • Attentat 愛執(1997年)
  • Mercure 幽閉(1998年)
  • Stupeur et tremblements 畏れ慄いて(1999年)日本語訳:藤田真利子作品社、2000年12月
  • Le Mystère par excellence
  • Métaphysique des tubes チューブな形而上学(2000年)日本語訳:横田るみ子、作品社、2011年11月
  • Brillant comme une casserole
  • Cosmétique de l'ennemi(2001年)
  • Aspirine
  • Sans nom
  • Robert des noms propres(2002年)
  • Antéchrista(2003年)
  • L'Entrée du Christ à Bruxelles(2004年)
  • Biographie de la faim
  • Acide sulfurique(2005年)
  • Journal d'Hirondelle(2006年)
  • Ni d'Eve, ni d'Adam(2007年)
  • Le Fait du prince(2008年)
  • Le Voyage d'Hiver(2009年)
  • Une forme de vie(2010年)
  • Tuer le père(2011年)
  • Barbe bleue(2012年)
  • La Nostalgie heureuse(2013年)
  • Pétronille(2014年)
  • Le Crime du comte Neville(2015年)
  • Riquet à la houppe(2016年)
  • Frappe-toi le cœur(2017年)
  • Les Prénoms épicènes(2018年)
  • Soif(2019年)
  • Les Aérostats(2020年)
  • Premier Sang(2021年)
  • Le livre des soeurs(2022年)
  • Psychopompe(2023年)

脚注 編集

  1. ^ Ireland, Benjamin Hiramatsu (2012). “Amélie Nothomb's Distorted Truths: Birth, Identity, and Stupeur et tremblements”. New Zealand Journal of French Studies 33 (1): 135–156. 
  2. ^ Amélie Nothomb soutient les librairies indépendantes sur "l'Obs"”. L'Obs (2020年11月7日). 2021年2月25日閲覧。
  3. ^ (原著)ジャン=ポール・オノレ, 友谷知己「フクシマ : フランス雑誌メディアにおける日本社会文化表象の現状 (川神傅弘教授 退職記念号)」『仏語仏文学』第41巻、関西大学フランス語フランス文学会、2015年、235-262頁、ISSN 0288-0067NAID 120006714406 
  4. ^ 月刊ラティーナ 2019年11月号”. Latina Online. 株式会社ラティーナ. 2021年11月6日閲覧。
  5. ^ Modern Languages Institute
  6. ^ 村上香住子『フィガロ発パリ毎日便 ちょっとセレブなパリ暮らし』阪急コミュニケーションズ、2005年
  7. ^ 畏れ慄いて作品社公式サイト書籍案内)
  8. ^ SERVICE PUBLIC FEDERAL AFFAIRES ETRANGERES, COMMERCE EXTERIEUR ET COOPERATION AU DEVELOPPEMENT ベルギー王国官報、2015年7月17日。
  9. ^ BELGISCH STAATSBLAD / MONITEUR BELGE ベルギー王国官報、2008年7月14日。

外部リンク 編集