アルフォンス・エルリック

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アルフォンス・エルリックAlphonse Elric)は、荒川弘の漫画『鋼の錬金術師』、およびそれを原作としたテレビアニメなどに登場する架空の人物である。

テレビアニメ版(2003年版2009年版共通)、劇場版(2005年版2011年版共通)共に声優は釘宮理恵ドラマCD第1弾の声優は日下ちひろ。実写映画のキャストは水石亜飛夢が声優およびモーションキャプチャーのアクターを兼任で担当している[1]

概要 編集

エドワード・エルリックの弟。通称「アル」。大陸暦1900年生まれで、物語開始時点では14歳。アメストリス国の東部の街・リゼンブール出身。

父はヴァン・ホーエンハイム、母はトリシャ・エルリック。ホーエンハイムとトリシャが事実婚であるため、母方の姓を名乗っている。

10歳の時、亡くなった母を生き返らせようとして兄と共に人体錬成を行うが失敗。術のリバウンドにより肉体の全てを「真理の扉」に持って行かれ失ったが、兄が自身の右腕を対価に魂だけを真理から取り戻し、に定着させたことで一命を取り留める。以降、空の鎧を身体として兄と2人、元の身体に戻る手段を求めて旅を続けている。

人物 編集

身体 編集

魂を鎧に定着させた身体であり、食事や睡眠は不要、肉体的疲労もなく、視覚聴覚以外の感覚や三大欲求も存在しない。身長は220cm[2]。また全身が鎧といういかつい外見から、初見の相手から「鋼の錬金術師 エドワード・エルリック」と間違われることが多い。なお、この鎧は父のコレクションの1つで、名前は「オウガーヘッド」。

アルの魂は、兄の血液で書かれた血印を仲立ちとして鎧と結び付けられている。この血印が損なわれた場合、魂は鎧から剥離、消失してしまう。またホムンクルスが父ヴァン・ホーエンハイムの分身に近い存在であることから、プライドに血印に直接干渉され、体を操られたことがある。

鎧の身体は作中で何度か破損しており、そのたびにエドに修復してもらっているが、その特殊性ゆえ他の物質と混ぜることはできず、鎧を薄くすることで修復していた。

自分と同じく鎧に魂を定着させた姿で生きるナンバー66と対峙した際には、鎧の身体という自身の存在証明について深く悩んだこともあり、その後ナンバー66の肉体に関連して、魂が定着された鎧という現状は、拒絶反応という限界がいつ訪れてもおかしくない「時限爆弾付きの身体」であると知る。物語途中から拒絶反応らしき意識喪失現象を起こすようになり、その間隔もだんだんと短くなっている。

ちなみにアルの本当の肉体は、真理の扉の前に幽閉されているような形で存在している。食事や睡眠は一切摂っていないが、兄と精神が混在しており、最低限の栄養・睡眠については兄から吸い取る形で確保されている。ただし必要最低限しか供給されていないため肉体はかなり衰弱しており、アル自身も実際に肉体と対面した際「骨と皮ばかりで立っているのがやっとじゃないか」と発言している。また、鎧時は兄エドワードを見下ろしていたが、本体はエドよりも身長が低い。

性格 編集

兄のエドと違い、基本的に素直かつ温和で心優しい。兄のことを誰よりも理解し、気にかけている。血気盛んで喧嘩っ早い兄のフォローをしながら旅をしてきたせいか年齢の割に決定事項に対して律儀で真面目かつ兄より精神年齢が大人な面が目立つ。錬金術師として兄を尊敬しているものの、もう一方で「どうしようもない分からず屋」として辟易しており、兄のボケおよび粗暴さに対して容赦ないツッコミを入れ、「このバカ兄」などと感情的になる。また「子供として扱われる」「頭をなでられる」ことを喜ぶ年相応な一面もある。無機質な姿であるが、顔(兜)をデフォルメ化して書かれることも多く、そのため表情は豊かである。単行本第14巻の初回特典のラフ画集によれば、平時だと茶化しタイプらしい。

ナンバー66との接触を経て自らが「エドによって作られた存在なのでは?」との疑念を抱き、その悩みをエドにぶつけて当たり散らすなど、当初は精神的にやや弱い面も見られたが、ラストとの戦いの中で、自分たちに関わった人を死なせないため、守るべき者のために戦うことを決意し、精神的に大きく成長を遂げた。後に真理の扉の前で自身の本当の肉体と対面した際には、肉体があまりに衰弱していたことから、「お父様」の計画成就を阻止するために鎧のまま現実世界へ戻ることを選択している。

また、グリードオリヴィエの影響を受け、常識に縛られず、時に等価交換の法則を打ち破ることも大事だと知る。後にキンブリーと闘った際には、キンブリーから元の肉体を取り戻すために他者を切り捨てることを説かれるもこれを拒否し、皮肉を込めて等価交換の原則を唱えるキンブリーに「原則に縛られずに可能性を求めるのも人類の進歩には必要だと思うよ?」と言い返している。

肉体の件を除いた最大の望みは「彼女を作ること」[3]であるなど異性への興味はエド以上にあり、また本人もかなりマセている。幼少時にはウィンリィに恋心を抱き、彼女を巡ってエドと決闘し勝利したが、当時は恋愛に関心のなかったウィンリィに見事にフラれた。時々からかいながらも兄とウィンリィの恋を応援している。作中ではメイに想いを寄せられており、また小説やゲームでも彼に恋心を寄せる女の子が登場するなど、原作者公認の「天然タラシ」となっている。特に最終盤で自身の魂と引き替えにエドの右腕を錬成する際にはメイに「こんなこと君にしか頼めない」という殺し文句を使って、渋るメイに錬成させている。

人物の好悪が激しい兄と異なり、誰とでも打ち解ける性格をしている。このためアルフォンスの事情を知る相手からは総じて可愛がられている。またホーエンハイムが家を出た際、まだ物心がつかない幼子だったことから、父親に対して遺恨はなく、むしろ興味や関心が勝っている。

能力 編集

錬金術師の父を持った影響か、幼少の時にはエドと共に錬金術の初歩を独学で修得していた。そして8歳のころ、兄と共にイズミの下で本格的に錬金術を学び、さらに高度な錬金術を身につける。錬金術は兄と同じく幅広いバリエーションを誇り、技術に関しては兄に若干劣るものの、国家錬金術師に匹敵するほどの実力を有する[4]

当初は他の錬金術師同様、錬金術を行う際に錬成陣を書く道具を必要としていた。しかし真理の扉に関する調査・考察を進めていくうちに、「支払った通行料」が兄やイズミよりも多いことや、兄の力を借りたとは言え自身も真理の扉から帰ってきたことに考えが及ぶ。そしてデビルズネストの地下で、鎧の中に匿っていたマーテルがブラッドレイに殺された際、血印に彼女の血を浴びたことを契機に真理の扉の中で見たものを思い出し、以後は錬成陣なしで錬金術を発動(通称「手合わせ錬成」)できるようになった。

イズミの下で錬金術と平行して格闘術を学んでおり、鎧の身体となってからはその特性[5]を活かして戦闘を行っている。物語序盤は格闘術のみで戦う場面が多かったが、上記のように錬成陣を書く必要がなくなってからは格闘術と錬金術を併用することが増え、終盤では賢者の石を駆使して(そうと見せかけ、実際にはほぼ自分の実力だけで)プライドとキンブリーの2人を同時に手玉に取る活躍を見せた。この際、自分自身の切断された両足を錬成している[6]

エドは「俺は昔から、あいつ(アル)に兄弟ゲンカで勝てたことがない」と発言しており、格闘術に関しては元々アルの方が上だった模様。アルが錬成陣なしで錬金術を使えるようになると、エドは弟に身長を含めた全ての面で超えられたと酷くショックを受けていた。ただ、自身の体を再錬成したり[7]、自身を賢者の石に変えて相手に撃ち込んだり[8]といった自在性という面ではエドワードに劣る。

エドは主に武器を錬成して戦うが、アルが武器を錬成して用いたことはほとんどなく(前述のプライド&キンブリー戦で切断された鎧の足を剣に錬成して使用した程度)、格闘術と錬金術だけで対処している。敵を「倒す」のではなく「封じ込めて動けなくする」ことに長けている。

嗜好 編集

兄エドワードと異なりセンスは良く、常識の範囲で錬成する。また、似顔絵も似ている。

甘い物が好きで、生身の体に戻る動機を「ウィンリィの作ったアップルパイを食べる」こととしていた。

大の猫好きで、鎧の中で猫を飼おうとして兄に怒られることもしばしば。ちなみに鎧の中には、女性と猫しか入れないと決めている。

物語の結末 編集

お父様との最終決戦の際、お父様の猛攻からメイを庇って鎧が大破、鎧のヒビが血印に至り行動不能に陥る。自身の活動限界を悟り、身動きが取れなくなっていたエドを救うため、かつて自身の魂の代価となったエドの生身の右腕を、逆の手順で取り戻すことを決断。メイの遠隔錬成のアシストを受けて錬成を実行した。

これにより魂は真理の扉の前に飛ばされ、待っていた生身の肉体と一体化する。程なくして、お父様との戦いを終えて迎えに来たエドと共に、自身の扉を通って現実世界に帰還を果たした。戻ったばかりのころは筋肉が衰えていたため、歩行にも杖が要るなど苦労していたが、短期間のリハビリを終えて兄弟揃ってリゼンブールのロックベル家に帰った。

最終決戦から約2年後、すっかり健康体になったアルは、メイのもとで錬丹術を、そしてその他あらゆる学問を身につけるべく、護衛を買って出たザンパノとジェルソを伴い東に旅立つ。また最終回の無数の写真の中には、エド一家や成長したメイと一緒に写っている。

なお、抜け殻となった鎧は兄弟の帰郷からしばらくしてロックベル家に郵送されるが、「他の役に立ってほしい」というアル自身の意向で解体され、機械鎧の材料として再利用された。ただし、頭部のみはデンに持ち去られ、小鳥の巣箱代わりに使われている。

アニメ2003年版の設定 編集

キーパーソンとして活躍するが、エドと同じ道を歩みつつも精神面で自立している漫画と違い、ブラザーコンプレックスが濃く描かれている。原作と違い、女性との恋に興味を見せている面はほぼない。性格は非常に穏やかで優しく、その優しさゆえか少々騙されやすくもある。父が失踪中であるため、ほとんど唯一の家族である兄を非常に気遣っており、また自分たち兄弟を支えてくれる周囲も気遣う言動が多い。そのため、原作のような容赦の無いツッコミはほぼない。母の人体錬成は、漫画では兄弟の合意の上で行われたが、アニメ2003年版のアルは錬成直前になって初めてエドから錬成の説明を受けており、錬成についてはその瞬間まで躊躇し続けていた。原作とは鎧の設定が異なり、グラトニーに四肢全てを喰われるなど原作であればほぼ修復不可能な損傷も、他の金属を錬成して修復することも可能。また、キンブリーに爆弾へと錬成されたり、傷の男(スカー)に賢者の石へと錬成されたりと、魂の定着方法を知らない者でもアルの鎧の錬成が可能だった。

一方で弟という共通点からスカー(傷の男)にシンパシーを抱いており、彼がエドを殺そうとした張本人でありながら親交を深め、「さん」付けで呼んでいた。エドが傷の男と衝突しそうになったとき、人となりを知ってきていたせいか、スカー(傷の男)を庇おうとすることもあった。

リオールでスカー(傷の男)と共にキンブリーと交戦し、キンブリーはスカー(傷の男)に倒されるが、キンブリーは死の間際にアルを爆弾へと錬成してしまう。アルを救うため、スカー(傷の男)は自身とリオールに突入した7000人の兵士の魂を対価として賢者の石を錬成し、アルを賢者の石そのものに変える。そのため水に入っても魂の血印が消えることが無くなる。

その後、アルはエドと共に、賢者の石を狙うホムンクルスの手から逃げ続けるも、タッカーの罠にはまり、エンヴィーによってダンテの地下都市へと攫われる。地下都市では死んだエドを生き返らせるため、賢者の石である自身を代価にしてエドを人体錬成することに成功するが、蘇ったエドは自身と自分たちの旅してきた4年間を代価にアルを錬成し、アルは10歳の肉体、かつ人体錬成を行ってからの記憶を全て失った状態で蘇る。その後はエドに会えることを信じてイズミの修行を受ける。

OVA「鋼の錬金術師 PREMIUM COLLECTION」内「SHORT COLLECTION 子供篇」にて劇場版後の世界が描かれ、曾祖父であるエドに曾孫たちが会いに行く内容になっている[9]

アルを演じた釘宮理恵曰く、『がらんどうの鎧の体から声を発する』という演出意図から、初期の収録では口に空き缶を当てていたらしい。後にエフェクト加工に変更されるが、釘宮理恵の出演分だけアフレコブース内の別ブースで収録していた[10]というエピソードがある。この収録方法はアニメ2009年版でも同じである。

脚注 編集

  1. ^ “鋼の錬金術師:実写版アルの声に水石亜飛夢 作者・荒川弘も絶賛「胸を打つ素晴らしい演技」”. まんたんウェブ. (2017年10月3日). https://mantan-web.jp/article/20171002dog00m200036000c.html 2019年7月8日閲覧。 
  2. ^ 『TVアニメ 鋼の錬金術師 オフィシャルファンブックVol.2』の17ページより。
  3. ^ おまけ漫画では「モテモテウハウハハーレムアルフォンス王国建国」
  4. ^ 禁忌を犯した鎧の身体であるため、国家錬金術師の資格は取得していない。
  5. ^ 常人より遥かに長いリーチ、軽いフットワーク、痛覚や疲労を感じないなど。
  6. ^ それまで魂の定着に成功したエドワードにしか出来ないとされていた。
  7. ^ 単行本第19巻
  8. ^ 単行本第26巻
  9. ^ その際、アル似の少年が「アルおじいちゃんからのプレゼント」と話している。エドはこのとき100歳である。
  10. ^ 収録自体は他の出演者と一緒に行っている。