アーガマ (ジャイナ教)

ジャイナ教
Jain Prateek Chihna.svg
祈り
ナモーカール・マントラ · ミッチャミ・ドゥッカダム英語版
哲学
アネーカーンタヴァーダ · スィヤードヴァーダ · ナヤヴァーダ · ジャイナ宇宙論 · アヒンサー · カルマ · ダルマ · ニルヴァーナ · ケーヴァラ・ジュニャーナ · モークシャ · ドラヴィヤ · ナヴァタットヴァ  · アステーヤ英語版 · アパリグラハ · グナスターナ英語版 · サンサーラ
主な信仰対象
ティールタンカラ · リシャバ · マハーヴィーラ · アーチャーリャ · ガナダラ · シッダセーナ・ディヴァーカラ · ハリバドラ
宗派
空衣派 · 白衣派
聖典
カルパスートラ · アーガマ · タットヴァールタ・スートラ英語版 · ナーラティヤール英語版 · サンマッティ・プラカラン
その他
パラスパローパグラホー・ジーヴァーナーム英語版 · シンボル英語版 · 英語版
祝日
マハーヴィール・ジャヤンティ英語版 · パリユーシャン英語版 · ディーワーリー

アーガマāgama)は、ジャイナ教の正典である。シッダーンタsiddhānta)とも呼ばれる[1]

成立編集

ジャイナ教の正典として、もっとも古いものには14のプッヴァ(プールヴァ)と12のアンガがあったといい、はじめは師から弟子に口伝で伝えられていた。

シュヴェーターンバラ派(白衣派)の伝承によれば、プッヴァとアンガはマハーヴィーラの没後1世紀半ほどは完全に伝えられていたが、紀元前300年ごろにパータリプトラで結集を行ったところ、12のアンガのうち最後の『ディッティヴァーヤ』(ドリシュティヴァーダ)がすでに失われていることがわかった。伝承によれば『ディッティヴァーヤ』は14のプッヴァよりなっていたとされる。そこで経典を完全に伝えていた最後の人物であるバドラバーフを招こうとしたが、ネパールで瞑想中であったバドラバーフは招きを拒み、かわりにストゥーラバドラに14のプッヴァを授けたが、最後の4つのプッヴァについては他に教えることを禁じたため、プッヴァは完全には伝わらなくなった。残りの10のプッヴァも後に失われたという[2]

その後、マハーヴィーラの没後980年または993年にカーティヤーワール(現グジャラート州)のヴァラビーで結集が行われた。この時にそれまで口伝だったものを文字に書きとめ、それらの写本を集めて正典を確定したという。ほかにマトゥラーでも結集を行ったという[2][3]。結集ではアンガ以外に60種類の書物が増加したというが、その多くは現在では散佚した[4]

いっぽうディガンバラ派(空衣派)はマハーヴィーラ没後683年にプッヴァとアンガの知識はすべて失われたと考え、シュヴェーターンバラ派の正典の正当性を認めない[5]。ジャイナ教の正典と言った場合、通常はシュヴェーターンバラ派の正典をいう。

現在の正典の本文は紀元前3世紀から紀元前後のころに書かれたといわれるが、古い部分と新しい部分が混在している[1]

構成編集

ジャイナ教の正典は(失われた14のプッヴァを除いて)45部からなると言われているが、その中には現存しないものもあり、また数えかたによっては45よりも多くなる[1]。大別して12(実際には11)のアンガとそれ以外に分かれ、後者はさらにウヴァンガ(12)、パインナ(10以上)、チェーヤスッタ(6または7)、独立経典(2)、ムーラスッタ(4または5)に分けられる。なお、アンガとウヴァンガについては順序が安定しているが、それ以外は文献によって順序が異なる。部数の多い順に機械的に並べられ、パインナが3番目に置かれるが、歴史的にはチェーヤスッタの方が古く、先に来たはずである[6]

ジャイナ教の正典本文はプラークリットアルダマーガディー語)で書かれているが、注釈はサンスクリットで書かれる。以下の一覧では「仮名によるプラークリットの書名 ローマ字 / サンスクリット名のローマ字」の形式で書名を記す[7]

アンガ編集

アンガとは四肢を意味する。12篇があったが、最後の第12篇が失われたため11篇になっている。

  1. アーヤーランガ・スッタ āyāraṃga-sutta / ācāraṅga-sūtra
  2. スーヤガダンガ sūyagaḍaṃga / sūtrakṛtāṅga
  3. ターナンガ ṭhāṇaṃga / sthānāṅga
  4. サマヴァーヤンガ samavāyaṃga / samavāyāṅga
  5. バガヴァイー・ヴィヤーハパンナッティ bhaghavaī viyāhapannatti / vyākhyāprajñapti
    • 『バガヴァティー・スートラ』の通称がある。
  6. ナーヤーダンマカハーオー nāyādhammakahāo / jñātādharmakathāḥ
  7. ウヴァーサガダサーオー uvāsagadasāo / upāsakadaśāḥ
  8. アンタガダダサーオー aṃtagaḍadasāo / antakṛddaśāḥ
  9. アヌッタローヴァヴァーイヤダサーオー aṇuttarovavāiyadasāo / anuttaraupapātikadaśāḥ
  10. パンハーヴァーガラナーイム paṇhāvāgaraṇāiṃ / praśnavyākaraṇāni
  11. ヴィヴァーガスヤム vivāgasuyaṃ / vipākaśrutam
  12. ディッティヴァーヤ diṭṭhivāya / dṛṣṭivāda
    • 現存せず。14のプッヴァが集められていたという。

ウヴァンガ編集

サンスクリットではウパーンガ(「次の四肢」)。アンガと同様に12篇がある。

  1. ウヴァヴァーイヤ uvavāiya / aupapātika
  2. ラーヤパセーナイッジャ rāyapaseṇaijja / rājapraśnīya
  3. ジーヴァービガマ jīvābhigama / jīvābhigama
  4. パンナヴァナー pannavaṇā / prajñāpanā
  5. スーラパンナッティ sūrapannatti / sūryaprajñapti
  6. ジャンブッディーヴァパンナッティ jambuddīvapannatti / jambūdvīpaprajñapti
  7. チャンダパンナッティ caṃdapannatti / candraprajñapti
    • 現存せず。おそらくスーラパンナッティに含まれているという[8]
  8. ニラヤーヴァリヤーオー nirayāvaliyāo / nirayāvalī
  9. カッパーヴァダンシヤーオー kappāvadaṃsiyāo / kalpāvataṃsikāḥ
  10. プッピヤーオー pupphiyāo / puṣpikāḥ
  11. プッパチューラーオー pupphacūlāo / puṣpacūlikāḥ
  12. ヴァンヒダサーオー vaṇhidasāo / vṛsṇidaśāḥ

パインナ編集

サンスクリットではパリシシュタで「その他」を意味する。パインナの数は文献によって異なるが、最もよく現れるのは10部である[6]

  1. チャウサラナ causaraṇa / catuḥśaraṇa
  2. アーウラパッチャッカーナ āurapaccakkhāṇa / āturapratyākhyāna
  3. バッタパリンナー bhattaparinnā / bhāktaparijñā
  4. サンターラ saṃthāra / saṃstāra
  5. タンドゥラヴェーヤーリヤ taṃdulaveyāliya / taṇḍulavaitālika
  6. チャンダーヴェッジャヤ caṃdāvejjhaya / candravedhyaka
  7. デーヴィンダッターヤ deviṃdatthāya / devendrastava
  8. ガニヴィッジャー gaṇivijjā / gaṇividyā
  9. マハーパッチャッカーナ mahāpaccakkhāṇa / mahāpratyākhyāna
  10. ヴィーラッタヤ vīratthaya / vīrastava

チェーヤスッタ編集

サンスクリットではチェーダスートラ。戒律にあたる。第6篇は失われた。

  1. ニシーハ nisīha / niśītha
  2. マハーニシーハ mahānisīha / mahāniśītha
  3. ヴァヴァハーラ vavahāra / vyavahāra
  4. アーヤーラダサーオー āyāradasāo / ācāradaśāḥ
  5. カッパ kappa / kalpa
    • 区別のために『大カルパ』(bṛhat-kalpa)とも呼ぶ。
  6. パンチャカッパ paṃcakappa / pañcakalpa
    • 現存せず。

パンチャカッパのかわりに6-7世紀のジナバドラ『ジーヤカッパ』(ジータカルパ)がチェーヤスッタに含められることがある。

独立経典編集

  1. ナンディー nandī / nandī
  2. アヌオーガダーラーイム aṇuogadārāiṃ / anuyogadvāra

ムーラスッタ編集

サンスクリットではムーラスートラ。基本的な教義や生活上の義務などをまとめたもの。

  1. ウッタラッジャーヤー uttarajjhāyā / uttarādhyayana
  2. アーヴァッサヤ āvassaya / āvaśyaka
    • 現存せず、解説であるアーヴァッサヤ・ニッジュッティの形でのみ伝えられる。
  3. ダサヴェーヤーリヤ dasaveyāliya / daśavaikālika
  4. ピンダ・ニッジュッティ piṃḍanijjutti / piṇḍa-niryukti
  5. オーハニッジュッティ ohanijjutti / ogha-niryukti

注釈編集

ジャイナ教の正典に対して、早く韻文の解説であるニッジュッティ(nijjutti / niryukti)や、バーサ(bhāsa / bhāṣya)が書かれ、さらにチュンニ(cuṇṇi / cūrṇi)という散文による説明が加えられた。これらはプラークリットで書かれた[9]

8世紀以降になると、サンスクリットで注釈が書かれるようになった[10]

脚注編集

  1. ^ a b c 渡辺(2005) p.116
  2. ^ a b 渡辺 (2005) p.114
  3. ^ 渡辺 (2005) pp.118-119
  4. ^ 渡辺 (2005) p.140
  5. ^ 渡辺(2005) pp.114-115
  6. ^ a b Schubring (1962) p.79
  7. ^ 仮名とプラークリットのローマ字つづりは渡辺(2005)により、サンスクリットの綴りは Winternitz (1920) pp.291-292 のものをIAST方式に修正
  8. ^ Schubring (1962) p.105
  9. ^ 渡辺(2005) pp.137-138
  10. ^ 渡辺(2005) p.136-137,142,144-145

参考文献編集

  • Schubring, Walther (1962). The Doctrine of the Jainas: Described After the Old Sources. translated by Wolfgang Beurlen. Motilal Banarsidass 
  • Winternitz, Moriz (1920). Geschichte des indischen Litteratur. 2. Leipzig: C. F. Amelangs Verlag. https://archive.org/details/geschichtederind02wintuoft 
  • 渡辺研二『ジャイナ教』論創社、2005年。ISBN 4846003132