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イノンド(蒔蘿、Anethum graveolens)はセリ科の一年草。英名はディル (dill)。種子香味料生薬として用いる。

イノンド
イノンド
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : キキョウ類 campanulids
: セリ目 Apiales
: セリ科 Apiaceae
: イノンド属
Anethum [1][2]
: イノンド
A. graveolens [2][3]
学名
Anethum graveolens L. [3][4]
和名
イノンド[3][2]
英名
dill [4]

目次

特徴編集

イノンド属 (Anethum) に属する唯一の種であるが、稀にカワラボウフウ属 (Peucedanum) に分類されることもある。南ヨーロッパ[5]イラン[5]西南アジアから中央アジアが原産。

草丈は約80センチメートル (cm) になり、細いには細かく裂開した柔らかな互生する。葉は数回羽状に枝分かれして糸のように細く、葉柄は茎を包んでいる[5]。成長した葉は長さ10 - 20 cm、幅1 - 2ミリメートル (mm) ほどとなる。夏場の8月頃に、枝先に白か黄色の小さなを傘状に咲かせ[5]、2 - 9 cmほどの小さな繖形花序をつくる。秋の10月頃、楕円形で扁平な果実を結び[5]種子は長さ4 - 5 mm、厚さ1 mmほどで、直線またはやや湾曲した形をしており、表面は縦方向に波状のうねりをもつ。

全体に特有の芳香があり[5]、香りの主成分であるカルボンの他に、リモネンピネンジペンテンフェランドレンを含む。

和名のイノンドは、スペイン語名のイネルド/エネルド (eneldo) か、ポルトガル語名のエンドロが転化したものと考えられている[5][6]。また、イノンドは同じセリ科のキャラウェイと同じくヒメウイキョウと呼ばれることがある[7]

利用編集

薬草編集

 
アラビア語の生薬の書籍。クミンとディル。1334年頃。

薬草として古くからヨーロッパ北アフリカアジアで栽培されてきた。5000年前にはエジプトの医師に使用されているうえ、イギリスにあるローマ時代の廃墟からもその痕跡が見つかっている。また、中世には魔術を防ぐ効果があるとも考えられていた。

果実には精油3 - 4%、脂肪酸を約18%含んでいる[5]。精油の成分は、主にカルボン40 - 60%と、リモネンなどである[5]。この精油は、口腔内の粘膜を刺激しての排出をよくする作用と、味覚神経を刺激して唾液胃液の分泌を促し、消化を助ける作用などがある[5]。また、腸内での発酵を抑制して、ガスを排出させる作用もあり、全体として健胃や腸内ガスの排出を促す薬として用いられている[5]

8 - 9月ころ、果実を採取して陰干ししたものが生薬となり、蒔蘿子(じらし)または、ディル・シーズと呼んでいる[5]。食べ過ぎや飲み過ぎ、食欲不振、胃もたれにディル・シーズ数粒をよく噛んで飲み込むか、紅茶に入れて飲むとよいとされる[5]。また直接噛むことは、口臭消しに役立つとされている[5]

9 - 10月頃に、果実収穫後の茎葉を刈り取ったものを陰干ししたものは浴湯料に用いられ、身体を温めて疲労回復に役立つ[5]

セム系言語では「シュビット」と呼ばれており、タルムードには十分の一税をイノンドの種子、葉、または茎で支払うことと命じた箇所がある。また、新約聖書にはパリサイ人がイノンドで税を支払っていたことを記述する場面がある(「マタイによる福音書」23章23節)。

香味料編集

シダ状の葉にはキャラウェイのような芳香があり、若葉はディル・ウードと呼ばれている[5]。今日でも香草として、ロシア漬け(アグレツ)、グラブラックス(塩漬けの鮭)、ボルシチなどのスープピクルスなど、さまざまな料理に使用されている。ロシアでは生のまま細かく刻んで、ゆでたジャガイモにふりかける[5]インド欧米では料理用の野菜として活用されている[5]。ただし、イノンドの葉は乾燥するとすぐに香りが失われてしまうため、新鮮なうちに使用する必要がある。

種(ディル・シーズ)にも強い香りと味があり、スパイスとしてカレーやピクルスなどに使用する。味は穏やかであるが、あとから辛味が残る[5]ポーランド料理には欠かせない食材であり、ピクルスやサラダ、あるいは冷製スープやオードブルなどに大量に使用される。北アメリカではディルとピクルスで自然とポーランド人が連想される。

イノンドを含め、セリ科の香辛料は混同や混乱が多い。韓国市場での蒔蘿子はフェンネルであることが多く、中国浙江省では蒔蘿子の名でドクゼリの種子が取引されていた。また、ヨーロッパ向けに輸出されているインド産のディルはキャラウェイの代用品とされている[8]

栽培編集

栽培には熱いと高い日射量を必要とし、一部が日陰になるだけでも収穫量は減少する。肥沃で水はけの良い土地を好む。フェンネルとは交雑しやすいため、繁殖用に種子を目的として栽培するものは、互いに近くで栽培するべきではない。

種のほか苗も市販されているが、移植を嫌う性質があるので、種から育てる方が望ましいとされている。したがって、種をまく際も育苗ポットなどではなく、露地やプランター・鉢などに直まきする。筋蒔きし、発芽後に間引く。草丈が15 - 20 cmになると、支柱立てや株元への土寄せを行ない、株が倒れるのを防ぐ。耐寒性があるので冬越しも可能だが、霜には注意が必要である。

種を収穫するときは、種が熟成しはじめたら花頭を茎から切り取り、紙袋に上下逆に入れて乾燥した暖かい場所に1週間ほど置く。茎から離れた種は密閉容器に保存する。種子は3年から10年は生育可能である。

脚注編集

  1. ^ 米倉浩司『高等植物分類表』北隆館、2010年、重版。ISBN 978-4-8326-0838-2
  2. ^ a b c 大場秀章(編著)『植物分類表』アボック社、2010年、第2刷。ISBN 978-4-900358-61-4
  3. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Anethum graveolens L.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2012年8月4日閲覧。
  4. ^ a b "'Anethum graveolens L.". Tropicos. Missouri Botanical Garden. Retrieved 2012年8月4日.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 田中孝治 1995.
  6. ^ ディル/Dillエスビー食品 ハーブ検索 2015年5月10日閲覧
  7. ^ イノンドエーザイ くすりの博物館 2015年5月10日閲覧
  8. ^ 武政 1997, p. 138.
  9. ^ ヨーグルトに塩、ニンニク、キュウリ、ミント、ライムジュースとともにディルを使う。本品にはオリーブオイルも使われている。

参考文献編集