イワタバコ(岩煙草、学名Conandron ramondioides Siebold et Zucc.[1])は、イワタバコ科イワタバコ属分類される多年草の1[3]。日の当たらない湿った岩場などに生え、タバコに似た形の葉をつける。夏に葉の間から花茎を伸ばして、星形をした紅紫の花を下向きに咲かせる。

イワタバコ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : シソ類 lamiids
: シソ目 Lamiales
: イワタバコ科 Gesneriaceae[1]
: イワタバコ属 Conandron[2]
: イワタバコ C. ramondioides[1]
学名
Conandron ramondioides Siebold et Zucc.[1]
和名
イワタバコ(岩煙草)
イワヂシャ(岩萵苣)

名称 編集

和名イワタバコは、多くは岩場に生えて、の形がタバコに似るので名付けられたとされる[4][5]。別名で、イワヂシャ[6]、イワナ[6]。若葉が食用にできる[3]ことから、古くはイワヂシャ(岩萵苣)とよばれた[7][4]

花言葉は、「涼しげ」である[6]

分布・生育地 編集

日本福島県から関東以南の本州四国九州沖縄および[4][8][6]台湾などの山地に分布する[3][9]。北側に面した場所など、直射日光が当たらない湿った岩壁などに生育する[4][6]。壁を覆うように群生することもあり[6]、湿った切り通しの斜面に生えることもある[8]は美しいので山草として栽培もされる[10]

形態・生態 編集

多年草[6]は先が尖った長楕円形で[6]葉柄は3 - 15センチメートル (cm) で翼がある[5]。葉身は長さ10 - 30 cm、幅は10 cm内外と大型で[4][5]、大きなものになると長さ50 cmほどになることがある[11]の質は柔らかくてツヤがあり、数枚が根出する[4]

花期は夏の6 - 8月頃[5]。葉あいだの根元から高さ5 - 30 cmほどの花茎を伸ばし[8]、先端に散形花序をつけ、淡紅色か紅紫色もしくは白色のを4 - 5つ下向きに咲かせて目立つ[4][8][6]。花は星形で、直径1 - 1.5 cm程、花冠は5裂して裂片の先が尖り、雄蕊も5個、花冠裂片は紫色[6]子房上位果実は細長い蒴果で2つに割れる。葉は冬には枯れて落葉し、新葉が縮んだ冬芽として越冬する[8][10]

1株に葉が2 - 3枚しかつかないうえ、岩場のため根が生育しにくく、繁殖力が弱い植物である[4]。人間によって葉がすべて採取されてしまったり、根を傷められたりすると、その群生地での絶滅の恐れもある[4]

外見はイワギリソウにも似ているが、イワギリソウは全体が軟毛に覆われていて、花の5裂した花被片の裂片の先は尖らないので区別できる[6]

利用 編集

山菜 編集

若葉は食用にされており、ほろ苦い食味がある山菜として喜ばれている[4]。若葉を軽く茹でて水にさらしたあと、汁の実、お浸し佃煮など、ほろ苦みを楽しむ山菜料理として生かされたり、葉面の水気を取って天ぷらとして調理される[4]

薬効 編集

昔から食用として利用されてきたが、これまでのところ成分を調べたものはなく、葉の苦みは神経の働きで胃液の分泌を盛んにし、消化促進や食欲増進に役立つと考えられてきたことから、苦味健胃薬として活用されている[4]

開花期の7 - 9月頃にかけて、葉を採取して水気を取り、日干しにしたものは生薬となり、苦苣苔(くきょたい)と呼んでいる[4]。苦苣苔を1日量にして5グラムを、約600 ccの水で半量になるまで煎じて食後に飲むと良いとされ、食べ過ぎや飲み過ぎによる胃もたれや、胃の働きが弱ったときの食欲不振に効用があるといわれている[4]

脚注 編集

  1. ^ a b c d 邑田仁監修米倉浩司『日本維管束植物目録』北隆館、2012年、189頁。ISBN 978-4-8326-0970-9 
  2. ^ 大場秀章『植物分類表』(初版第2刷(訂正入))アボック社、2010年、200頁。ISBN 978-4-900358-61-4 
  3. ^ a b c 植物雑学事典イワタバコ 2011年4月2日閲覧
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n 田中孝治 1995, p. 65.
  5. ^ a b c d 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他 1999, p. 131.
  6. ^ a b c d e f g h i j k 主婦と生活社編 2007, p. 78.
  7. ^ 本山荻舟『飲食事典』平凡社、1958年12月25日、47頁。
  8. ^ a b c d e 大嶋敏昭監修 2002, p. 62.
  9. ^ 『日本維管束植物目録』のp.189では日本固有種としている。
  10. ^ a b 趣味の園芸 イワタバコ 2011年4月7日閲覧。
  11. ^ 植物雑学事典イワタバコでは通常 6 - 15 cmで、50 cmになることがあるとしている。

参考文献 編集

  • 大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、62頁。ISBN 4-415-01906-4 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎他『日本の野生植物 草本III 合弁花類』平凡社、1999年。ISBN 4-582-53503-8 
  • 主婦と生活社編『野山で見つける草花ガイド』主婦と生活社、2007年5月1日、78頁。ISBN 978-4-391-13425-4 
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、65頁。ISBN 4-06-195372-9 

外部リンク 編集