イングランドの都市および非都市カウンティ
都市および非都市カウンティ(metropolitan and non-metropolitan counties)は、地方行政に使われるイングランドの行政区画の4階層の一つである。数回にわたる立法の結果、この階層には現在複数の行政区分が混在している。
歴史編集
現在の都市および非都市カウンティという行政構造は、1974年4月1日に発効し、同時に行政カウンティとカウンティ・バラは廃止された。グレーター・ロンドンは1965年に別の法律によって創設された。
1990年代に新しいタイプの非都市カウンティ、すなわちカウンティとディストリクトの機能と権限をまとめた単一自治体が創設された。既存の非都市カウンティは、単一自治体との区別のためシャイア・カウンティと呼ばれるようになった。
1972年の地方行政法編集
1960年代の終わりまでには、イングランドおよびウェールズの地方行政機構に改革が必要であることがはっきりしてきた。ハロルド・ウィルソンの労働党政権は大規模改革の提案を目的としたレドクリフ-モード委員会を設置した。委員会の報告書はイングランドのほとんど全域で地方行政機構の2層構造を廃止して、既存の行政区画を無視し、むしろ地理的境界を優先した58の単一自治体を設置して地図をすっかり書き換えてしまうことを提案した。マージーサイド、サウスイースト・ランカシャーおよびノースイースト・チェシャー、バーミンガム地域の3都市地区では、3つの都市地区に20のディストリクトレベルの行政体を設置するよう想定されていた。
時の野党であるエドワード・ヒース率いる保守党はこの提案に反対した。保守党は1970年の総選挙で勝利をおさめ、独自の地方行政機構を定める作業に着手した。これにより単一自治体という概念は放棄され(カウンティ・バラはあったものの)、イングランドおよびウェールズ全域は一様にカウンティとディストリクトへと分割された。イングランドでの新区画は基本的には伝統的カウンティを規範としていたが、都市部以外では抜本的な地区再編が進められた地域もあった。
地方行政再編の結果として誰の忠誠にも影響はなかろうとの再三の政府からの保証にもかかわらず、地方からの強い反対があがり、最も過激な変更は取り下げられた。政府が固執した点の一つは、規模の小さいカウンティの統合である。ラトランドとヘレフォードシャーの存続キャンペーンは不首尾に終わったが、ワイト島はその伝統的カウンティであるハンプシャーに編入されたものの、地理的隔離ゆえに独自のカウンティ・カウンシルの維持を認められた。
この地方行政法は1972年に議会を通過し、イングランドのカウンティならびに都市ディストリクトを規定したが、非都市ディストリクトについては規定がなく、既に活動を始めていた境界委員会によって規定された[1]。
都市カウンティは以下の通りである。
- マージーサイド - リヴァプール周辺を基本に、ランカシャー南西部、チェシャー北西部のウィラール周辺、マージー川対岸
- 大マンチェスタ州 - マンチェスター市街地ならびに周辺の町多数
- サウスヨークシャー - ウェスト・ライデイング・オブ・ヨークシャーのシェフィールド-ロサーハム地区を基本
- タインアンドウィア - ノーサンバーランドのニューカッスル-アポン-タイン、ダラムのサンダーランド周辺を基本とするタインサイド都市圏
- ウエスト・ミッドランズ - ブラック・カントリーならびにコヴェントリーを含むバーミンガム都市圏
- ウェストヨークシャー - ウェスト・ライデイングのリーズ-ブラッドフォード地区
それ以外の主要な変更点は以下の通りである。
- サマセット北部、グロスターシャー南部、ブリストルならびにバースよりエイヴォンを構成
- ダラム南部、 ガイズバラおよびハートリプール周辺を含むティーズサイド都市圏を中心としたノース・ライディング北部よりクリーヴランドを構成
- ウェストモーランド、カンバーランドならびにランカシャーおよびヨークシャーの一部よりカンブリアを構成
- ヘレフォードシャーとウスターシャーを併合してヘレフォード・アンド・ウスターに
- ヨークシャー東部およびリンカンシャー北部よりハンバーサイドを構成
- ハンティンドン・アンド・ピーターバラをケンブリッジシャーに
- ラトランドを一ディストリクトとしてレスターシャーに編入
- バークシャーのかつてのカウンティ・タウンであるアビンドンを含むヴェール・オブ・ホワイトホースをオックスフォードシャーに編入し、ワリンフォードならびにディドコット周辺地域とともにサウスオクスフォードシャーディストリクトの西半分に
- ボーンマスをハンプシャーからドーセットへ移し、姉妹市プールと合併
1974年から1995年の区分図編集
1974年から1995年にかけてのイングランドのカウンティ | |
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都市カウンティカウンシルの廃止編集
1986年、サッチャー政権は中央政府での論争に続いて都市カウンティ・カウンシルならびにグレーター・ロンドン・カウンシルを廃止したが、カウンティそのものは法的に存続した。
1992年の地方行政法編集
1990年代、カウンティ・バラは新名称単一自治体のもとに再編され、イングランドの行政地図は大きく変化した。再編は数次に渡って行われた。
1995年4月1日、ワイト島が単一自治体となった。かつてはワイト島カウンティカウンシルと、メディナ・バラ・カウンシル、サウスワイト・バラ・カウンシルよりなる2層構造であった。同日グレーター・ロンドンとの境界にあるサリーならびにバッキンガムシャーの小地域がバークシャーへ移された。
1996年4月1日、人口の少ないエイヴォン、ハンバーサイド、クリーヴランドの3カウンティが廃止され、各地域は単一自治体に分割された。同日、ヨークが拡張の上でノース・ヨークシャーから分離された。
1997年4月1日、ボーンマス、ダーリントン、ダービー、レスター、ルートン、ミルトンキーンズ、プール、ポーツマス、ラトランド、サウスハンプトンの各ディストリクトが単一自治体となった。また、ブライトンおよびホーヴ・ディストリクトが併合されて、新しい単一自治体ブライトン・アンド・ホーヴとなった。
1998年4月1日、ブラックプール、ブラックバーン・ウィズ・ダーウェン、ハルトン、メドウェイ、ノッティンガム、ピーターバラ、プリマス、スウィンドン、ストーク-オン-トレント、サウスエンド・オン・シー、テルフォード・アンド・レキン、トーベイ、サーロック、ウォリントンが単一自治体となり、ヘレフォード・アンド・ウスターが廃止され、ヘレフォードシャー単一自治体とウスターシャー・シャイア・カウンティに置き換えられた。バークシャーは6単一自治体に分割されたが、法的な廃止はなされなかった。
イングランドにおける現在の都市および非都市カウンティ編集
イングランドの都市および非都市カウンティ | ||
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都市カウンティ編集
都市カウンティはグレーター・マンチェスター、マージーサイド、サウスヨークシャー、タインアンドウィア、ウエスト・ミッドランズ、ウェストヨークシャーである。典型的人口は120万人から280万人[2]。
これらカウンティのカウンシルはサッチャー政権により、実際的な理由というよりは政治的事情により1986年に廃止されたが、法的にはまだ存在している[3]。これらは行政上や地理上の目的で使われ、現在でもセレモニアル・カウンティである。かつてのカウンティカウンシルの権限のほとんどは都市バラ(現在では事実上単一自治体)に移譲されているが、緊急サービス、市民防衛、公共交通については現在でも都市カウンティレベルでの連合体によって運営されている。[4]。
グレーター・ロンドン編集
グレーター・ロンドン行政地区ならびにグレーター・ロンドン・カウンシルは1965年に1963年のロンドン行政法に基づいて創設された。[5] グレーター・ロンドン・カウンシルは1986年に都市カウンティと同時に廃止された。2000年以降、グレーター・ロンドンに公選によるロンドン議会とロンドン市長が置かれ、イングランドのロンドンリージョンを構成している。
非都市カウンティ編集
シャイア・カウンティ編集
シャイア・カウンティは複数のディストリクトからなる非都市カウンティである。名前が「シャー」で終わっていると限らない。シャイア・カウンティは35ある。
バークシャー以外の全てにカウンティ・カウンシルがある。カウンティ・カウンシルを持たないバークシャーを除外するために「シャイア・カウンティ」ということもある。典型的人口は 109,000 人から140万人[6]。
単一自治体編集
単一自治体(unitary authority)はカウンシルを一つだけ有する地区である。そのうち40が非都市カウンティと地域的に一致している。
これらのうち39はディストリクト・カウンシルを一つだけ有し、カウンティ・カウンシルは持たないと定められている。ワイト島は法律上はカウンティ・カウンシルを有しディストリクト・カウンシルは持たないが、実際上は同じことである。
バークシャーのディストリクトは単一自治体であるが、カウンティとしての地位はない。
脚注編集
参考文献編集
- ウィリアム・ハンプトン著 / 君村昌監訳『地方自治と都市政治』敬文堂、1996年(原書1991年)382頁 ISBN 4-7670-0016-5
- 下條美智彦著『イギリスの行政』早稲田大学出版部、1995年 246頁 ISBN 4-657-95936-0
- 高寄昇三著『現代イギリスの地方自治』勁草書房、1996年 204頁 ISBN 4-326-30105-8
- 山田光矢著『パリッシュ―イングランドの地域自治組織(準自治体)の歴史と実態』北樹出版、2004年 172頁 ISBN 4-89384-942-5
関連項目編集
- イングランドの行政区画
- イングランドのカウンティ
- イングランドの典礼カウンティ
- en:Subdivisions of England(イングランドの地域区分)
- en:List of articles about local government in the United Kingdom(イギリスの地方行政に関する記事一覧)
外部リンク編集
- European Parliamentary Elections Act 1999 - Schedule 2 - Electoral Regions in England 1999年に廃止されたカウンティの多くのリスト