インド政府

インドの中央政府


インド政府(インドせいふ、英語: Government of India)は、インド中央政府インド憲法によって設置され、28のと9つの連邦直轄領をまとめている。首都ニューデリーに政府機能がある。

インド政府
Government of India
Emblem of India.svg
概要
創設年 1950年
対象国 インドの旗 インド
政庁所在地 ニューデリー
現行憲法 インド憲法
政体 共和制議院内閣制[1]
代表 インド大統領
ラーム・ナート・コーヴィンド[1]
機関
立法府 インド国会
ラージヤ・サバー上院
ローク・サバー下院
行政府 内閣
第2次モディ内閣
司法府 インド裁判所
インド最高裁判所
公式サイト
https://www.india.gov.in
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基本構造編集

州をまとめるためにウェストミンスター・システムを採用している[2]。連邦政府は行政府立法府司法府の3部門で構成されており、憲法によって行政権首相立法権国会司法権最高裁判所に付与されている。大統領は国会の上下両院議員と州議員の投票によって選出され、国家元首インド軍最高指揮官を務めるが、政治の実権はない[3]。一方、首相は行政府の長として国会に対して責任を持つ(議院内閣制)。国会は二院制を採用しており、上院ラージヤ・サバーが250議席、下院ローク・サバーが545議席である[1]。裁判所は最高裁判所の下に24の高等裁判所、その下に複数の地方裁判所があり、特別裁判所は設けられていない[4]

法令分野は憲法によって連邦政府リスト、州政府リスト、連邦政府および州政府リストの3つに分けられており[5]民法刑法民事訴訟法刑事手続法などは連邦政府リストに載せられている[6]。イギリスの植民地であった背景から、法体系にはコモン・ローを採用しているが、重要法令については成文法で定められている[5]

立法府編集

 
ニューデリーにある国会議事堂

国会は、インド政府の立法府である。ラージヤ・サバー上院)とローク・サバー下院)からなる両院制をとっている。上院は州代表としての性格を持ち、議員は大統領による指名または州議会による選出によって任命される。一方、下院は人民の代表としての性格を持つ[7][8]

下院議員選出選挙は全国規模で行われ、基本的には選挙区民による小選挙区制での直接選挙で選出される。ただし、545名中2名はアングロ・インディアン社会の代表者とされ、該当者が選出されなかった場合にはアングロ・インディアン社会の代表者が指名する。また、指定カースト(Scheduled Castes:SCs)と指定部族(Scheduled Tribes:STs)にはあらかじめ排他的に議席が割り当てられている[9]

この国会は議会主権を持っているわけではなく、法案は最高裁判所による司法審査を受ける必要がある[10]。その一方、議院内閣制を採用しているために、内閣を通じて行政権に影響を与えることができる[11]。インド憲法では、内閣は下院ローク・サバーに対して責任を持つ[12]。下院には解散があり、上院には解散がない。下院議員の任期は5年、上院議員の任期は6年であり、上院議員は2年ごとに3分の1が改選される[7][13]

行政府編集

行政に関して、市民の日常生活に関わる部分は州政府が担っており連邦政府との権力分立が図られている[14]

大統領編集

憲法53条1項は、名目上行政権を主として大統領に与えている。実質的な行政権は首相が保持しており、大統領は首相の助言に従って執政を行う。

行政権は閣僚会議(内閣)に属するが、首相と閣僚の任命は大統領が行う。一方で、閣僚会議は下院に対して連帯して責任を負う。もし仮に大統領が自らの意思によって閣僚会議を解散させようとするならば、憲政の危機となる。そのため実務上、閣僚会議は政権与党が下院の多数派を占めている限りは解散されない。

大統領には、政府内で高官を指名する責任を付与されている。例えば、29州の州知事や連邦直轄領行政官、最高裁判所判事、高等裁判所判事、司法長官、全国選挙管理委員長と管理委員などの任命が責務として定められている[15][16]

また、国家元首として他国の特命全権大使からの信任状の奉呈を受ける。一方、他のコモンウェルス諸国の高等弁務官からの信任状の奉呈は首相が受ける。

また、インド軍の憲法上の最高指揮官でもある[17]

さらに、犯罪者に対する恩赦も行うことができる。この恩赦の決定は大統領が首相・議会から独立して行うことができる。しかし、実際には首相の助言によって行われる[18]。2020年現在の大統領はラーム・ナート・コーヴィンドである。

副大統領編集

副大統領は、インド政府第2位の官職であり、大統領不在のときには代理を務める。また、上院ラージヤ・サバーの議長を務めることが憲法上定められている[19]。副大統領は議会両院による選出委員会による秘密選挙によって選出される。

首相編集

 
大統領官邸ラシュトラパティ・バワンと、隣接する首相官邸、内閣官房、国防省庁舎。

首相インド憲法によって行政府の長と定められ、大統領を補佐し、閣僚会議(内閣)を率いる。基本的には、議会多数派の政権与党党首が務める。

議院内閣制において行政権を担う内閣の長として、首相は他の大臣の任命、罷免を行うことができる。また、内閣の長として議会に提出する法案の内容に責任を持つ。首相が辞任または任期中に死亡した場合、内閣は解散する。

首相の任命は大統領が行い、首相は大統領の執務を補佐する。

内閣、大臣、その他の行政組織編集

閣僚会議(内閣)は、首相と各大臣によって構成される[20]。全ての大臣が国会議員であることが憲法上定められている。内閣の長は首相であり、官房長官が補佐する。首相以外の各大臣は内閣を構成すると同時に、省庁の長でもある。ただし、大臣には閣内大臣(cabinet ministers)と閣外大臣(ministers of state)がおり、内閣は閣内大臣のみで構成される。閣外大臣は省庁を監督する閣外専管大臣(Ministers of State (Independent Charges))と閣内大臣を補佐する閣外大臣(MoS:Minister of State)で構成される[21]。また、閣外大臣は閣内大臣に対しての報告義務があるが、閣外専管大臣は単独で職務を行うことができる。

中央省庁編集

インドには、以下の中央省庁が存在する。

インドの中央省庁[22][23][24]
省庁名 英称 長の名称
農業・農民福祉省英語版 Ministry of Agriculture & Farmers' Welfare 農業・農民福祉大臣
AYUSH省英語版 Ministry of AYUSH AYUSH大臣
化学・肥料省英語版 Ministry of Chemicals and Fertilizers 化学・肥料大臣
民間航空省英語版 Ministry of Civil Aviation 民間航空大臣
石炭省英語版 Ministry of Coal 石炭大臣
商工省英語版 Ministry of Commerce and Industry 商工大臣
通信省英語版 Ministry of Communication 通信大臣
消費者問題・食料・公共配給省英語版 Ministry of Consumer Affairs, Food and Public Distribution 消費者問題・食料・公共配給大臣
企業省英語版 Ministry of Corporate Affairs 企業大臣
文化省英語版 Ministry of Culture 文化大臣
国防省 Ministry of Defence 国防大臣
北東地域開発省英語版 Ministry of Development of North Eastern Region 北東地域開発大臣
地球科学省英語版 Ministry of Earth Sciences 地球科学大臣
電子工学・通信技術省英語版 Ministry of Electronics and Information Technology 電子工学・通信技術大臣
環境・森林・気候変動省英語版 Ministry of Environment, Forest and Climate Change 環境・森林・気候変動大臣
外務省 Ministry of External Affairs 外務大臣
財務省 Ministry of Finance 財務大臣
食品加工産業省英語版 Ministry of Food Processing Industries 食品加工産業大臣
保健・家族福祉省英語版 Ministry of Health and Family Welfare 保健・家族福祉大臣
重工業・公営企業省英語版 Ministry of Heavy Industries and Public Enterprises 重工業・公営企業大臣
内務省 Ministry of Home Affairs 内務大臣
住宅・都市問題省英語版 Ministry of Housing and Urban Affairs 住宅・都市問題大臣
教育省英語版 Ministry of Education 教育大臣
情報・放送省英語版 Ministry of Information and Broadcasting 情報・放送大臣
労働・雇用省英語版 Ministry of Labour and Employment 労働・雇用大臣
法務省英語版 Ministry of Law and Justice 法務大臣
零細・中小企業省英語版 Ministry of Micro, Small and Medium Enterprises 零細・中小企業大臣
鉱業省英語版 Ministry of Mines 鉱業大臣
マイノリティ省英語版 Ministry of Minority Affairs マイノリティ大臣
新・再生可能エネルギー省英語版 Ministry of New and Renewable Energy 新・再生可能エネルギー大臣
パンチャーヤト省英語版 Ministry of Panchayati Raj パンチャーヤト大臣
議会問題省英語版 Ministry of Parliamentary Affairs 議会問題大臣
人事・苦情処理・年金省英語版 Ministry of Personnel, Public Grievances and Pensions 人事・苦情処理・年金大臣
石油・天然ガス省英語版 Ministry of Petroleum and Natural Gas 石油・天然ガス大臣
電力省英語版 Ministry of Power 電力大臣
鉄道省 Ministry of Railways 鉄道大臣
陸運・国道省英語版 Ministry of Road Transport and Highways 陸運・国道大臣
農村開発省英語版 Ministry of Rural Development 農村開発大臣
科学技術省英語版 Ministry of Science and Technology 科学技術大臣
海運省英語版 Ministry of Shipping 海運大臣
技能開発・起業促進省英語版 Ministry of Skill Development and Entrepreneurship 技能開発・起業促進大臣
社会正義・エンパワーメント省英語版 Ministry of Social Justice and Empowerment 社会正義・エンパワーメント大臣
統計・事業実施省英語版 Ministry of Statistics and Programme Implementation 統計・事業実施大臣
鉄鋼省英語版 Ministry of Steel 鉄鋼大臣
繊維省英語版 Ministry of Textiles 繊維大臣
観光省英語版 Ministry of Tourism 観光大臣
部族問題省英語版 Ministry of Tribal Affairs 部族問題大臣
ジャル・シャクティ省英語版 Ministry of Jal Shakti ジャル・シャクティ大臣
女性・児童開発省英語版 Ministry of Women and Child Development 女性・児童開発大臣
青年問題・スポーツ省英語版 Ministry of Youth Affairs and Sports 青年問題・スポーツ大臣

司法府編集

インドの司法制度はイギリス植民地時代のものを踏襲した英米法体系を使用している[5]

アメリカ合衆国とは異なり、インドの司法体系は全国で統一されており、州裁判所は存在しない。そのため、裁判所の管轄権は全国を管轄する最高裁、州を管轄する高等裁判所、州より下の行政単位を管轄する地方裁判所となっている。

最高裁判所編集

最高裁判所は首都ニューデリーに位置しており、主席裁判官(chief justice)と30人の裁判官で構成される。最高裁判所裁判官はコレギウム(主席裁判官、4人の最先任最高裁判所裁判官、及び被任命者に予定されている最先任の高等裁判所裁判官からなる、非公開の協議体)の推薦に基づいて大統領によって最高裁判所に任官される[25]

主席裁判官には、第一審管轄権、上訴管轄権、諮問権限、記録裁判所の権限が与えられている。さらに、大統領の承認のもと、裁判所内部の不正調査のための役員の指名や、裁判の実施方法・手続きの決定も行うことができる。また、大統領や副大統領への調査権限も憲法から与えられている[26]

地方政府編集

インドの州にはそれぞれ州政府がおかれ、州知事(the Governer)が形式上の行政権を持つが、実質的な行政権限は州主席大臣(Chief Minister)と州閣僚大臣(the Council of Ministries)が持つ[27]。州議会は5つの州で両院制、その他の州では一院制を採用している。州議会議員の任期は国会議員と同じく、下院が5年、上院が6年でうち3分の1が2年ごとに改選である。

連邦直轄領は中央政府の支配下にあり、大統領によって任命される行政官を通じて統治される[28]

脚注編集

  1. ^ a b c インド基礎データ”. 外務省. 2020年9月7日閲覧。
  2. ^ Subramanian, K. (2014年6月17日). “A prime ministerial form of government”. The Hindu. ISSN 0971-751X. OCLC 13119119. http://www.thehindu.com/opinion/op-ed/a-prime-ministerial-form-of-government/article6120400.ece 2018年3月9日閲覧。 
  3. ^ 三菱総合研究所 2009, pp. 3-6.
  4. ^ Constitution of India's definition of India”. Indiagovt.in. 2019年11月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月9日閲覧。
  5. ^ a b c 琴浦諒. “インドの法制度の概要/インド企業と契約する場合の留意点”. アンダーソン・毛利・友常法律事務所. 2020年9月7日閲覧。
  6. ^ Legal services India on Criminal laws in India”. Legal Services India. 2018年4月11日閲覧。
  7. ^ a b 山田悠生 (2016年7月28日). “インドの議会と複雑な政党政治システム”. 大和総研グループ. 2020年9月8日閲覧。
  8. ^ Arnull, Elaine; Fox, Darrell (29 June 2016). Cultural Perspectives on Youth Justice: Connecting Theory, Policy and International Practise. p. 186. ISBN 978-1-137-43397-8. https://books.google.com/books?isbn=1137433973 2017年5月10日閲覧。 
  9. ^ 三菱総合研究所 2009, p. 6.
  10. ^ “Parliament's actions subject to judicial review: court”. The Hindu. http://www.thehindu.com/todays-paper/tp-national/Parliaments-actions-subject-to-judicial-review-court/article14704694.ece 2017年7月19日閲覧。 
  11. ^ “Indian Constitution And Parliamentary Government | Law Teacher”. https://www.lawteacher.net/free-law-essays/administrative-law/indian-constitution-and-parliamentary-government-administrative-law-essay.php 2017年7月20日閲覧。 
  12. ^ Laxmikanth (英語). Governance in India. Tata McGraw-Hill Education. ISBN 978-0-07-107466-7. https://books.google.com/books?id=DY1CAQAAQBAJ&pg=SA5-PA9&dq=parliament+control+executive#v=onepage 
  13. ^ Our Parliament”. webcache.googleusercontent.com. 2017年7月20日閲覧。
  14. ^ Arnull, Elaine; Fox, Darrell (29 June 2016) (英語). Cultural Perspectives on Youth Justice: Connecting Theory, Policy and International Practice. Springer. ISBN 978-1-137-43397-8. https://books.google.com/books?id=Rn2QDAAAQBAJ&pg=PA186&lpg=PA186&dq=The+Executive+Branch+of+government+of+India+is+the+one+that+has+sole+authority+and+responsibility+for+the+daily+administration+of+the+state+bureaucracy.+The+division+of+power+into+separate+branches+of+government+is+central+to+the+republican+idea+of+the+separation+of+powers.+President#v=onepage 
  15. ^ Pratiyogita Darpan (March 2007). Pratiyogita Darpan. Pratiyogita Darpan. p. 60. https://books.google.com/books?id=5ugDAAAAMBAJ&pg=PT60 
  16. ^ Bakshi, Parvinrai Mulwantrai (2010). The Constitution of India (10th ed.). New Delhi: Universal Law Pub. Co. p. 48. ISBN 978-8175348400. OCLC 551377953 
  17. ^ Oldenburg, Philip (2010). India, Pakistan, and Democracy: Solving the Puzzle of Divergent Paths. Taylor & Francis. p. 71. ISBN 978-0-415-78018-6. https://books.google.com/books?id=V6nras7L790C&pg=PA71 
  18. ^ Kumar; Rajesh. Universal's Guide to the Constitution of India Pg no. 72.
  19. ^ Important India functions of vicepresident”. 2020年9月9日閲覧。
  20. ^ Cabinet Ministers (as on 26 May 2014). Cabsec.nic.in. Retrieved 6 December 2013. Archived 27 May 2014 at the Wayback Machine.
  21. ^ スポーツ庁の在り方に関する調査研究(平成24年度) 第6章 インド (PDF)”. 文部科学省. 2020年9月16日閲覧。
  22. ^ Council of Ministries”. National Portal of India. 2020年9月10日閲覧。
  23. ^ インド省庁組織図”. 日刊インド経済. 株式会社金融ファクシミリ新聞社. 2020年9月10日閲覧。
  24. ^ 三菱総合研究所 2009, pp. 111-113.
  25. ^ Kirpal, Bhupinder N., ed (2013). Supreme but not infallible: Essays in honour of the Supreme Court of India (6th impr. ed.). New Delhi: Oxford University Press. pp. 97–106. ISBN 978-0-19-567226-8. OCLC 882928525. https://www.worldcat.org/title/supreme-but-not-infallible-essays-in-honour-of-the-supreme-court-of-india/oclc/882928525?referer=di&ht=edition 
  26. ^ 三菱総合研究所 2009, p. 7.
  27. ^ 三菱総合研究所 2009, pp. 14-15.
  28. ^ 三菱総合研究所 2009, p. 1.

出典編集

外部リンク編集