インバウンド消費
インバウンド消費(インバウンドしょうひ)とは、訪日外国人観光客による日本国内での消費活動を指す観光用語[1]。訪日外国人客を指す観光用語「インバウンド」(inbound)と「消費」を組み合わせた造語である[2]。2010年代には訪日観光客の増加に伴い、国内消費を支える存在にまで拡大しており、2014年の日本経済新聞社による「日経MJヒット商品番付」の「東の横綱」に選出され[3]、2015年の日経トレンディによる「2015年ヒット商品ベスト30」の3位にも選ばれている[4]。インバウンド需要(インバウンドじゅよう)とも言う[5]。
概要
編集2003年(平成15年)、日本国政府は「観光立国」を掲げて「訪日外国人旅行者1000万人」を目標とする『ビジット・ジャパン・キャンペーン』を策定し、観光査証の発給要件緩和などに取り組んできた。2013年(平成25年)、安倍晋三の経済政策『アベノミクス』により、歴史的なドル安円高が解消されたことや、格安航空会社(LCC)の就航拡大の恩恵もあり、年間1000万人を突破[6]、2019年には、過去最高となる3188万人に到達した[7]。
これに伴い、「インバウンド消費」が増大、東日本大震災が発生した2011年(平成23年)には、1兆円を割りこんだが、2012年(平成24年)には、1兆円台を回復、2014年(平成26年)には、2兆227億円に到達し、3年間で約2.5倍の消費の伸びを記録した[8]。2015年(平成27年)7月には、国際旅行収支は7月として過去最高となる1295億円を記録、観光庁長官田村明比古は、「日本経済を下支えしており、地方創生の観点からもますます重要となる。」としている[6]。2019年には、インバウンド消費は4兆8,135億円に拡大した[9]。
2014年(平成26年)度の国・地域別のインバウンド消費は、中華人民共和国が5583億円と最も多く、中華民国(3544億円)、大韓民国(2090億円)の順に多い。一人あたりの消費額では、ベトナムが23.8万円で首位、中華人民共和国の23.2万円、オーストラリアの22.8万円の順である[8]。とりわけ中華人民共和国の金額消費量は大きく、消費品目も多岐にわたることから『爆買い』と形容されており、2015年のユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞にも選出されている[10]。
「インバウンド1.0」は、2003年から政府主導で観光地に団体客を誘致した段階、「インバウンド2.0」は、2014年からの爆買い状態、「インバウンド3.0」は、2016年からの「コト・体験消費」であるとされる[11]。
日本経済への影響
編集2015年7-9月期のインバウンド消費額は、前年同期比約82%増の約1兆9億円となり、四半期ベースで初めて1兆円台に到達、2015年1-9月の累計では前年同期比77%増の約2兆6千億円と過去最高を記録した2014年1年の消費額(約2兆300億円)を超えており、年間では3兆円を超える勢いとなっており、個人消費の下支え役となっている[12]。
観光庁によると、2014年の費目別消費額は、買物代が7146億円で35.2パーセント、宿泊代が6099億円で30.1パーセント、飲食費が4311億円で21.3パーセントなどの順になっている。買物代が占める割合は、2011年の29.8パーセントから増大傾向にある。観光客の購入率は、「菓子類」が 63.6パーセント、「その他食料品・飲料・酒・たばこ」が 51.7パーセントと、食品の購入が最も多く、「服(和服以外)・かばん・靴」で 37.2パーセント、「化粧品・香水」で 31.9パーセント、「医薬品・健康グッズ・トイレタリー」で 31.8パーセントであった。購入者単価については、もっとも高いのは「カメラ・ビデオカメラ・時計」で6.6万円で、「電気製品」の4.1万円、「服(和服以外)・かばん・靴」の3.2万円などの順であった[13]。
百貨店売上高に占める訪日外国人旅行者の売上高の割合は、2011年の0.2パーセントから2014年には2.5パーセントまで上昇するなど、小売業におけるインバウンド消費の影響は高まっている。地域別では、北海道・関東地方・近畿地方での消費が大きい一方、東北地方・四国地方・九州地方では消費が小さい傾向にあるが、免税制度が全品目に拡充されて以降は、これまで訪日観光客数増加の恩恵が少なかった地方においても免税店が急増しており、インバウンド効果は、地方にも拡大しつつあるといえる[14]。
2015年には、中華人民共和国の経済が減速し、それに伴って対中輸出額は減少したが、輸出の減少率を上回る規模で中国人のインバウンド消費額は伸び、対中輸出減少による経済への影響を軽減しており[15]、経常収支の黒字にも寄与している[16]。毎年春節の時期には、訪日観光客数が特に集中する傾向にあり、2015年2月には、単月過去最高の1,387,000人となり、中でも中華人民共和国からの観光客が前年同月比約2.6倍の359,100人で、中国からの観光客数が初めて30万人を越えた[17]。2019年2月、中国からの観光客数が72万人に達した[18]。
旅行消費総額では、やはり中国人観光客が目立つが、2019年の1人当たりのインバウンド消費額は212,810円[18]であり、オーストラリア人観光客が247,868円でトップとなった[19]。
観光産業は、小売、飲食、運輸、宿泊など裾野が広く、少子高齢化が進み、縮小傾向が続く日本市場において、有力な成長産業であるとともに、日本経済の牽引役としての役割が期待された[20]。
課題
編集課題としては、観光客数の急増に伴い、大都市での宿泊施設や観光バスが不足していることが挙げられる。対策として日本国政府は、観光バスの営業区域を都道府県単位から、関東、九州などのブロック単位や隣接県への拡大を特例措置で認めるなどの規制緩和を行っている。また、外国人観光客のマナーや習慣の違いから日本人観光客が反発する問題も起きており、ソフト面での対応も求められている[21]。
大都市での宿泊施設不足も課題となっており、2015年上四半期の宿泊施設の稼働率は東京都で85.0%、大阪府で84.3%に達していることから、日本国政府は、空き家や稼働率の低い旅館の活用を進めており[22]、2014年には一定の条件の元に国家戦略特区(東京都、神奈川県、成田市、大阪府、兵庫県、京都府)において、旅館業法の民泊の要件の規制緩和が実施され、東京国際空港が所在し、ホテル稼働率が9割を超える大田区や大阪府で、民泊に関する条例が制定するなど、民泊の活用を進める動きも広まっている[23][24][25]。
観光客増加の背景に日本がバブル崩壊後の長期デフレ不況で「安い国」になったという側面もあるため、手放しで喜べない点も指摘される[26][27][28]。
2020年に入って、新型コロナウィルスの世界的な流行により、訪日観光客の入国が一時事実上ストップ、2020年東京オリンピック・パラリンピックも無観客となったことから、それらに依存していた産業では大打撃を受けた。
脚註
編集- ^ インバウンド消費iFinance
- ^ 証券用語解説集野村證券
- ^ 横綱は「インバウンド消費」と「妖怪ウォッチ」 MJ14年ヒット商品番付日本経済新聞
- ^ 【速報】2015年ヒット商品ランキング発表! 1位は「北陸新幹線」日経トレンディ
- ^ インバウンドとはよく聞く用語大百科
- ^ a b 訪日外国人旅行者、初の1000万人突破nippon.com
- ^ “2019年のインバウンド需要データ(訪日外国人観光客数)”. 訪日ラボ. 2020年6月24日閲覧。
- ^ a b インバウンド消費って何?nikkei4949.com
- ^ “2019年のインバウンド消費データ(訪日外国人消費動向)”. 訪日ラボ. 2020年6月24日閲覧。
- ^ 自由国民社. “2015ユーキャン新語・流行語大賞発表”. 2015年12月1日閲覧。
- ^ 「『爆買い』から『体験消費』へ。変化するインバウンド事情に適応するためのコミュニケーション設計とは」(https://solutions.dac.co.jp/blog/inbound-2016fall)
- ^ マーケットレポート 活発なインバウンド消費ニッセイアセットマネジメント
- ^ 訪日外国人観光動向調査観光庁
- ^ 拡大するインバウンド消費-今後地方への波及が期待されるニッセイ基礎研究所
- ^ 対中輸出減を上回るインバウンド消費の急増三菱UFJモルガン・スタンレー証券
- ^ 経常収支は15カ月連続の黒字、インバウンド消費も寄与-9月速報ブルームバーグ
- ^ https://irodori2u.co.jp/f00040/
- ^ a b “データでわかる訪日中国人観光客”. 訪日ラボ. 2020年6月24日閲覧。
- ^ “データでわかる訪日オーストラリア人観光客”. 訪日ラボ. 2020年6月24日閲覧。
- ^ 経済調査レポートNO.11 (2015.10.19)信用中央金庫地域・中小企業研究所
- ^ 訪日外国人2000万人は今年達成!?インバウンドブームの舞台裏週刊ダイヤモンド
- ^ 大都市のホテル不足をビジネスの好機に日本経済新聞
- ^ 大田区が「Airbnb条例」制定へ、民泊は変わるのか日経ビジネスオンライン
- ^ 東京五輪に向けた「民泊」なぜ大田区で条例化?THE PAGE
- ^ 空き部屋で民泊OKに 大田区が条例制定へ 東京五輪朝日新聞
- ^ 日本人が直視できない現実、アジア人観光客が訪日するのは「ただ安いから」 連載:橘 玲のデジタル生存戦略(4)|FinTech Journal
- ^ 平成とは何であったか | 三輪晴治 世界経済評論
- ^ 「安い日本」には観光立国化の道しかないのか 50年ぶりの円安から想像する日本と国民の未来 | 市場観測 | 東洋経済オンライン