ウィッカーマン (1973年の映画)

ウィッカーマン』(The Wicker Man)は、1973年製作のイギリス映画。本作をカルト映画と評する向きもある[4]スコットランドに古くから伝わる原始的宗教が生き残る島を描いた、ミステリアスなフォークミュージカル風恐怖ドラマ。キリスト教以前のペイガニズムが信仰されるのどかな島で、熱心なキリスト教徒が異教徒に迫害される世界を描いている。

ウィッカーマン
The Wicker Man
監督 ロビン・ハーディ英語版
脚本 アンソニー・シェーファー
製作 ピーター・スネル英語版
出演者 エドワード・ウッドワード
音楽 ポール・ジョヴァンニ英語版
撮影 ハリー・ワックスマン英語版
編集 エリック・ボイド=パーキンス[1]
配給 ケイブルホーグ
公開 イギリスの旗 1973年12月
日本の旗 1998年3月21日
上映時間 100分
製作国 イギリスの旗 イギリス
言語 英語
製作費 £500,000[2]
興行収入 $58,341[3]
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ウィッカーマン」とは、ガリア戦記に記述されている柳の枝で編まれた巨大な人型の檻で、ドルイド教徒が生贄となる人間を入れて燃やしたものである[5]

2006年ニコラス・ケイジ主演、ニール・ラビュート監督でリメイクされた。

あらすじ編集

スコットランドハイランド地方西部の警察に勤める中年の巡査部長ニール・ハウイー(エドワード・ウッドワード)は、ヘブリディーズ諸島のサマーアイルという孤島で行方不明になった少女ローワン・モリソンを探してほしいという匿名の手紙を受け取る。ハウイーが飛行艇で向かった先で見たものは、島の領主であるサマーアイル卿(クリストファー・リー)のもとでキリスト教の普及以前のケルト的ペイガニズムが復活していた風景だった。島民は農業に励む普通の生活を送っているが、宗教生活や性生活だけは他のイギリス人と異なっていた。彼らは生まれ変わりを信じ、太陽を信仰し、子供たちに生殖と豊作を願うための性的なまじないを教え、大人たちは裸で性的な儀式に参加していた。

ハウイーは非常に厳格なキリスト教を信仰しているため、これらの風習に衝撃と嫌悪を隠せなかった。宿では、あるじの娘のウィロー(ブリット・エクランド)が艶かしい踊りと歌でハウイーを誘惑し、彼を困らせる。「五月祭」の近づく中、島民は準備や儀式に忙しく、彼の捜査は進まない。教師や役人も含め、島民は「ローワンという少女はここにはいない、最近死んだばかりだ」と口をそろえる。ハウイーは島の権力者であるサマーアイル卿のもとへゆくが、そこで彼はサマーアイル島の物語を聞かされる。サマーアイル卿の祖父の世代、凶作が続いたために皆でキリスト教を捨てて古代の宗教儀式に戻ったところ島は豊かになり、リンゴの名産地になれたという。

ハウイーは次第に、少女は人身御供として殺されたか、あるいはこれから殺されるのでは、との疑念を抱くようになる。やがてローワンのを暴くと中には野ウサギしか入っていなかったこと、ローワンが昨年の感謝祭の主役であったこと、凶作の年の五月祭は生贄が供えられることを知り、今年のリンゴの凶作のために去年の感謝祭の主役だった少女が五月祭で殺されることを確信する。飛行艇の故障で応援の呼べないハウイーは、少女を救うべく、五月祭の主役である愚者パンチを演じる予定の宿のあるじを昏倒させ、自らがパンチの扮装をしてサマーアイル卿が先導する五月祭の行進に紛れ込む。ハウイーを含めた島民の行進は、町外れの海辺の丘に立つ、柳の枝で出来た巨大な「ウィッカーマン」の像へと向かう。

祭が始まり現れたローワンが生贄にされかけたところをハウイーは救うが島民に取り押さえられ扮装を暴かれる。そこでサマーアイル卿は予定している生贄はローワンではなくハウイーであり、今までのすべては彼をこの島へ招きよせて生贄にするための罠だったことを明かす。五月祭で燃やされる生贄は少女ではなく、愚者パンチのように童貞で、賢くかつ愚かな者でなければならず、しかも王の代理として自由意思で来なければならない。ハウイーは信仰のために童貞であり、政府の警官=女王の代理として自ら島へやってきて罠にはまった、ということで生贄の条件をすべて満たしたのである。サマーアイル卿は島民たちの信仰の主宰者としてハウイーをウィッカーマンの中に閉じ込め、火を投じた。死の恐怖に直面したハウイーが詩篇23篇を絶叫するなか、サマーアイル卿やローワン、島民らは来年の豊作を祈って、燃えるウィッカーマンの周りで中英語の歌『夏は来たりぬ英語版』を歌い五月祭は最高潮を迎えるのであった。

キャスト編集

スタッフ編集

製作の背景とさまざまなバージョン編集

 
ウィッカーマンを描いた18世紀の挿絵。中に多数の生贄を詰め込んだ柳の枝でできた人型が燃やされる

『ウィッカーマン』はハマー・フィルムズのホラー映画の吸血鬼役で知られたクリストファー・リーが自らの演技の地平を広げようとしていた時期に、ブリティッシュ・ライオン英語版の社長ピーター・スネルと共同で作った映画だった。劇作家アンソニー・シェーファーらとの話し合いの中で、異教を信仰する離島を舞台にしたホラーのアイデアが出、これを伝統的なフォークミュージックと現実的な同時代の要素とを組み合わせて映画化することになった。主演の警官役を打診されたマイケル・ヨークらが断ったため、スパイを題材にしたイギリスのテレビドラマシリーズ『Callan英語版』(1967年 - 1972年)で茶の間に親しまれていたエドワード・ウッドワードがキャスティングされた。またスウェーデン出身の女優ブリット・エクランドが宿の娘ウィロー役に選ばれたが、スコットランド地方の訛りがうまく話せなかったためエクランドの会話は女優・歌手のアニー・ロス英語版の吹替となり、ウィローが宿の警官の部屋の隣室で『ウィローズ・ソング英語版』を裸で歌うシーンは、エクランドがトップレスしか承諾していなかったので、尻の映る後ろ姿は代役である。

当時はイギリス映画の危機の時代で、予算は極めて厳しく、早く製作にかかるよう会社から強く要請されたため、初夏という設定の映画は秋に撮影されている。しかも撮影中にブリティッシュ・ライオン社はEMIに買収された。

出来上がった120分のフィルムからブリティッシュ・ライオン社の指示で本土での捜査シーンなど20分をカットして、監督のロビン・ハーディは99分のディレクターズカットを作り上げた。彼らはアメリカでの興行を期待してハリウッドのB級映画プロデューサーロジャー・コーマンの元にフィルムを送って意見を求めたが、返事は興行成功のためにはさらに削除したほうがいいというものであり、結局ブリティッシュ・ライオン社は87分にまでカットした。アメリカでの上映権はワーナー・ブラザースが手にしたが、『赤い影』との二本立てでのドライブインシアター公開に終わった。カットに次ぐカットでプロットのつながりが崩れると抗議したリーも英国で公開して観客に観てもらい批評してもらいたいとの思いが強く、87分版が翌1973年にイギリスで公開されそこそこの成功をおさめたほか、1974年パリ・ファンタスティック映画祭英語版でも受賞した。

監督のハーディは、一方でオリジナルの公開を願っており、1970年代半ばからリーや脚本のシェーファーとともに編集前のネガを探そうとしたが既に紛失した後だった。ハーディは99分版をコーマンの元に送ったことを憶えていたため、コーマンに問い合わせたところ彼の元にディレクターズカットが唯一現存することがわかった。これをもとに、ワーナーが売却したフィルムの権利を買ったアメリカの配給会社アブラクサスと協議の上ハーディらによる修復が進められ、1979年には96分の再編集版が作られアブラクサス社によってアメリカで再公開された。しかしこれとは別に、1979年版にはないシーンが収録された別の長時間版のビデオが、アメリカでメディア・ホーム・エンタテインメント社英語版によりリリースされ、1980年代以降に日本など各国でも流通したが、どのような経緯でこのビデオが発売されたのかは不明である。また日本[注 1] では1998年になりようやく劇場公開された(このとき上映されたのは87分版)。

2001年、フィルムの世界配給権を持つことになったフランスのカナルプリュスがコーマンが別に持っていたテレシネフィルムをもとにさらに完全に近い版を目指して編集を進め、ハーディのオリジナルに最も近い、現在のところ最長の99分版をリリースしている[6]

大部分のロケーションはスコットランドのカイル・オブ・ロハルシュに近いプロックトン英語版ネス湖で有名なインヴァネスから電車で3時間程度)である。ここでは、BBCスコットランド英語版製作の人気TVシリーズ『マクベス巡査英語版』も撮影されている。

音楽編集

使用されている音楽はポール・ジョヴァンニ英語版マグネット英語版によって作曲された。サウンドトラックは、子守唄『Baa, Baa, Black Sheep英語版』やラストに歌われる『Sumer is icumen in英語版』など古くから伝わる歌や、ブリット・エクランドが踊る『Willow's Song英語版』、子供たちが歌う『メイポール』(Maypole Song)など、キリスト教以前のヨーロッパ文化にヒントを得て作られたフォークソングが中心である。

封切り前後の収録音源発売は見送られ、1998年2月イギリスのTrunk Records英語版からコレクター向けLPレコード盤で発売されている。

Magnet & Paul Giovanni - The Wicker Man (The Original Motion Picture Soundtrack Music & Effects) - Trunk Records - BARKED 4[7]

国内版DVD編集

  • 2003年6月21日、日本国内版が『ウィッカーマン 特別完全版』として初DVD化され、スティングレイ社から限定発売された。1973年の劇場公開版(88分)と、エクステンデッド版(99分)の2枚組であった。原盤はフランススタジオカナル社制作。
  • 2009年2月13日、日本国内版が再DVD化された。1973年の劇場公開版のみ収録の1枚組で、原盤は上記と同じくスタジオカナル社制作である。ただし、特別完全版DVDとは特典映像はほぼ同じようではあるが、音声仕様などは異なる。

リメイク編集

2006年ニコラス・ケイジ製作・主演でリメイクされた。

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ 1970年代、おもにテレビ東京系列午後のロードショーなどで数度放映されている。

出典編集

  1. ^ “[Eric Boyd-Perkins - インターネット・ムービー・データベース(英語) インターネット・ムービー・データベース]” (英語). 2021年2月8日閲覧。
  2. ^ Murray, Andy; Rolston, Lorraine (2008) (英語). Studying The Wicker Man. Studying Films Series. Columbia University Press. p. 13. ISBN 978-1-903-66310-3. "Although the company agreed to take the film on, the producers were under instruction to keep to a tight budget of the film under £500,000, small even by early 1970s standards." 
  3. ^ The Wicker Man” (英語). ザ・ナンバーズ. Nash Information Services, LLC. 2021年2月8日閲覧。
  4. ^ 『カルトムービー 本当に面白い日本映画 1945→1980』桂千穂(2013年12月、メディアックス、ISBN 978-4862014597)、『映画秘宝EX 映画の必修科目10 仰天カルトムービー100』(2011年9月、洋泉社ISBN 978-4862488084)など
  5. ^ Lugodoc. “Lugodoc's Guide to Druids” (英語). lugodoc,demon.co.uk. 2014年3月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月2日閲覧。
  6. ^ Philips, Steve (2002年). “The Wicker Man - The Various Versions of "The Wicker Man"” (英語). Steve's Web Page. 2021年2月8日閲覧。
  7. ^ Magnet & Paul Giovanni - The Wicker Man (The Original Motion Picture Soundtrack Music & Effects) (Vinyl)” (英語). Discogs. 2021年2月8日閲覧。

外部リンク編集

サウンドトラック編集