ウミサソリ

鋏角類の化石節足動物の分類群

ウミサソリ(海蠍[3]sea scorpion)、別名広翼類(こうよくるい、英:eurypterid[4])は、絶滅したウミサソリ目広翼目、学名:Eurypterida)に分類される鋏角類節足動物の総称である。和名および英名などの通称にサソリscorpion)の名が付くが、サソリではない。

ウミサソリ
生息年代: 467.3–251.4 Ma
The Eurypterida of New York figure np 1.jpg
様々なウミサソリ類
左上2匹:Dolichopterus、左下:プテリゴトゥス、中下2匹:Eusarcana、右上:スティロヌルス、右中:ユーリプテルス、右下2匹:フグミレリア
地質時代
約4億6730万年前 - 約2億5140万年前
古生代オルドビス紀中期ダリウィル期 - ペルム紀末[P-T境界])
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
階級なし : 真鋏角類 Euchelicerata
: 節口綱 Merostomata
: ウミサソリ目広翼目Eurypterida
学名
Eurypterida
Burmeister1843
シノニム
Gigantostraca
Haeckel1866[1]
Cyrtoctenida
Størmer & Waterston, 1968[2]
和名
ウミサソリ目[3][4]
広翼目
英名
Sea scorpion
Eurypterid
亜目

既知最古の化石記録は古生代オルドビス紀中期ダリウィル期(およそ4億6730万年前)まで遡り[5]シルル紀からデボン紀にかけて栄えた水棲動物であるが、特にシルル紀には海中における頂点捕食者とされる種類もあった。約2億年間の生息時代にあったが、古生代を終わらせた約2億5140万年前[6]ペルム紀末、P-T境界)の大絶滅期以降の地質時代から姿を消した。

およそ250種が知られ、化石鋏角類の中では最も種を富んだ分類群である[2]。1メートル前後の大型種が多く[7]、最大級のものは2.5メートルにも達すると推測され、これは既知で史上最大級の節足動物となる[8]。ウミサソリ類として一般的周知の種類は、紹介例の多いユーリプテルス属とプテリゴトゥス属は比較的よく知られている。

名称編集

学名Eurypterida」は本群の1属であるユーリプテルスの学名「Eurypterus」(古代ギリシア語の「ευρυς」 (eurys、幅広い[3]) と「πτερον」(pteron、)の合成[9][10])に、一般的に階級の分類群の学名に使われる語尾のひとつ「-ida」を添えたもの[11]シノニム(異名)に「オオサソリ目[12]Gigantostraca」と「Cyrtoctenida」がある[2]

英語では通称である「sea scorpion」の他に学名「Eurypterida」に因んだ学術的総称「eurypterid」がある[10]中国語では訳語に「」(カブトガニ)の字を付け足して「廣翅鱟」(簡体字: 广翅鲎)と呼ぶ。ほかに「板足鱟」(簡体字: 板足鲎)や「海蝎」の名もある。

和名ウミサソリ」は、英語における通称である「sea scorpion」に由来すると思われる。標準和名である「ウミサソリ目」の名はこれに単純に「目」を添えたものだが、学名の由来(上記)の訳出にはなっておらず、このことから、20世紀末期以前には標準和名として通用していた「広翼目」および「広翼類」という呼び名のほうがむしろ本来である、との考え方がある[要出典]

形態編集

 
ユーリプテルスの体制模式図

体は縦長く、前体後体に分かれる[13]。分厚い体型をもつヒベルトプテルス科Hibbertopteridae)を除いて、通常は腹背に平たい。ほとんどの種類は大型の節足動物であり、1メートル前後に及ぶのものが多い[14]。2メートル以上にも達する既知最大級の節足動物として知られる種をも含む[8]が、数センチしか及ばない小型種もいくつかある[15]

前体編集

 
ユーリプテルスの前体の化石
 
様々なウミサソリの後脚(右のみ、左はChasmataspidida類)

前体(prosoma、または頭胸部)は1枚の背甲(carapace または prosomal dorsal shield[13])に覆われ、その背面左右に複眼である側眼(lateral eye)[16]と、中央に単眼である中眼(median eye)をそれぞれ1対をもつ。背甲は幅広いが、カブトガニ類ほど極端でなく、その下にある全ての付属肢全体を覆う程度にはならない。

他の真鋏角類と同様、前体の腹面は1対の鋏角chelicera)と5対の歩脚型付属肢(脚)という計6対の関節肢をもつ[13]。鋏角は型で3節(柄部1節と鋏2節)からなり[17][13]、通常では完全に前体に覆われる短い付属肢である。ただしダイオウウミサソリ科Pterygotidae)の場合、鋏角は異様に発達し、腕のように長く伸びていた[18][17][19]

鋏角の直後に続く5対の脚はそれぞれ7-9節からなり[20]、分類群や番目によって単純な歩脚状からあらゆる特殊な形に特化したものがある[5][21]。それぞれの脚の基部(基節)は、を囲んだ咀嚼器である顎基(gnathobase)をもつ[22]。最初1対の脚は触肢pedipalp)で、通常は形態的に脚から分化していないが、分類群や雌雄[20]によってある程度の特化が見られる場合もある[23]。最後1対の脚はウミサソリ亜目Eurypterina)の場合ではよく発達で、先端数節が偏平のパドル(paddle)に特化し、遊泳に用いたもの(遊泳脚)と考えられる[20][24][25]アシナガウミサソリ亜目Stylonurina)の場合、この脚は特化せず、歩脚型のままである[26]

後体編集

 
カルシノソマの化石。書鰓の位置に当たる痕跡が後体に見られる。
 
ユーリプテルスの type A 生殖肢。右上に1本の horn organ が見られる。
 
Kokomopterus longicaudatus の type B 生殖肢

後体(opisthosoma、または腹部)は長く伸び、背面の背板(tergite)は12節に見えるが、実際には13節で、そのうちの第1節の背板が観察できないほど退化していたと考えられる[13]。一部の分類群では、後体は前後で幅広い中体(mesosoma、または前腹部 preabdomen)と狭い終体(metasoma、または後腹部 postabdomen)として区別できる[13]

退化的な後体第1節をも含めて、後体の前7節の腹面には脚らしからぬ付属肢が配置される[13]。後体の前端には下層板(metastoma)という、前体最後の脚の間に伸びた1枚の小さな板状構造をもつ。これはカブトガニ類唇様肢相同で、退化的な後体第1節に由来する、左右癒合した1対の付属肢であると考えられる[13]

下層板に続いて後体第2-7節は、6対の蓋板(がいばん、operculum)という後ろ向きに畳んだ平板状の付属肢がある。最初の蓋板は生殖口蓋(genital operculum)であり、中央に棒状の生殖肢(genital appendage)をもつ。生殖肢は同種において長いタイプ(type A)と短いタイプ(type B)というはっきりとした二形が見られ、これは雌雄を表す特徴と考えられる[27][28]が、それぞれに対応する性別(どっちがでどっちがか)は諸説に分かれている[29]。特に type A の場合、生殖肢の根元に「horn organ」という1対の長い嚢状の内部構造があり、これは文献によって(雌の)受精嚢[30]もしくは(雄の)精莢を生成する器官[29]と考えられる。

残り5対の蓋板は「blatfüsse」といい、そのうち最初の1対は直前の生殖口蓋と癒合するのがウミサソリの共有派生形質である[31][13]。それぞれのblatfüsseの裏面には呼吸器である書鰓(しょさい、book gill)をもつ[32][13][33]。これらの蓋板は、「kiemenplatten」というイボ状の呼吸器をもつ後体第4-7節の腹面に併せて、鰓室(gill chamber)を構成する[13]

後体の最後尾は1本の尾節telson)をもつ[13]。通常は剣状に尖るが、へら状のものもある(スリモニア科ダイオウウミサソリ科など)[13][19]

生態編集

 
ヒベルトプテルスの足跡であったと考えられる生痕化石[34]

ウミサソリは全般的に捕食者とされ、分類群によっては様々な捕食方法への特化が見られる[21]。遊泳性で獰猛な捕食性に適したようなものがあれば、底生性で堆積物から小さな獲物を獲るのに適したようなものもある[35][16][21]。その捕食行動によって残されたと思われる生痕化石も知られている[36]

名前に反して、ウミサソリ類はに限らず、淡水域に棲息する種類もあり、初期の海中からだんだんと浅海や淡水へと進出したことが化石記録によって示唆される[16]。少なくとも一部の種類は陸に出ることができたらしく、それを示唆する足跡の生痕化石[34]や、その呼吸器から空気呼吸にも適した構造も発見される[7][33]

複雑な生殖器をもつことにより、ウミサソリはカブトガニ類のような体外受精をせず、むしろクモガタ類のように体内受精をし、が特殊化した生殖肢を用いて精莢を受け取ったと考えられる[30][29]

系統関係編集

 
多くの特徴がウミサソリ類と共通していたカブトガニ類
 
ウミサソリ類によく似ていたChasmataspidida
鋏角類

ウミグモ類  

真鋏角類

カブトガニ類  

Dekatriata

Chasmataspidida  

Sclerophorata

ウミサソリ類  

クモガタ類

ダニ カニムシ サソリ クモ など

従来、ウミサソリ類は共通点(複眼の構造[16]・発達した背甲・脚の顎基など)の多いカブトガニ類剣尾類)と共に、節口類節口綱、腿口綱、Merostomata)としてまとめられた[37][16]。節口類は古くは甲殻類扱いされ[38]クモガタ類ウミグモ類と共に鋏角類としてまとめられるようになったのは20世紀以降である[39]

21世紀では、精莢の受け渡しに適した硬質な生殖器をもつなどの形質に基づいて[29][40]、ウミサソリ類は同じ節口類のカブトガニ類より、むしろクモガタ類に類縁である(Sclerophorata[29]もしくはMetastomata[41]を構成する)説の方が広く認められるようになった[41][42][43][29][40][13][16]。これによると、ウミサソリ類を含んだ節口類はクモガタ類を除いた側系統群であり[16](もしくはウミサソリ類を節口類から除外する[40])、カブトガニ類とウミサソリの多くの共通点は、あくまでも真鋏角類祖先形質を表しているに過ぎない[16]。もしクモガタ類は節口類に対して多系統群であれば、ウミサソリ類は蛛肺類サソリクモウデムシサソリモドキなどを含んだ系統群)のクモガタ類に近縁と考えられる[33]

真鋏角類

様々なクモガタ類(非蛛肺類) 

様々なクモガタ類(非蛛肺類) 

カブトガニ類  

ウミサソリ類  

様々なクモガタ類蛛肺類  

真鋏角類の中で、クモガタ類多系統群であった場合のウミサソリ類の系統的位置[33]

全体の姿と後体付属肢の構成(同じく下層板と棒状の生殖肢をもつ)が本群によく似通っているChasmataspidida類との類縁関係も議論がなされる。この分類群に関しては、カブトガ二類とウミサソリ類に対して多系統群、ウミサソリ類に至る側系統群、カブトガニ類に含まれる、ウミサソリ類自体に含まれるなどの説はあった[44]が、2010年代においてはウミサソリ類・クモガタ類と共に単系統群Dekatriata)になる説の方が主流である[40][45][46][47]

また、後体の構成と呼吸器の配置などの形質に基づいて、ウミサソリ類をサソリに最も近縁とする異説もあった[32][48][49]が、この見解は後の研究に支持されず[50]、両者の共通点はDekatriataの祖先形質[40]、もしくは収斂進化の結果[51]と見なされる。

下位分類編集

2020年現在、約250のウミサソリ類が記載され、2亜目12上科2170前後のに分類される[2]

以下の分類は World Spider Catalog に掲載される化石鋏角類一覧表「A summary list of fossil spiders and their relatives」(最終更新日:2020年1月15日)に基づく[2]。属より上位の分類群は太字で示す。


出典編集

[脚注の使い方]
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参考文献編集

関連項目編集

著名なウミサソリの例:

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