ウルグアイポルトガル語

ウルグアイのポルトガル語方言

ウルグアイポルトガル語(ウルグアイポルトガルご、ポルトガル語: Português uruguaio)、あるいはフロンテイリソ(ポルトガル語: Fronteiriço)、フロンテリソスペイン語: Fronterizo)はポルトガル語の混合方言[1]である。この方言はウルグアイブラジルの国境付近、特にウルグアイのリベラとブラジルのサンタナ・ド・リヴラメントにて話されている。この国境地域は、フロンテイラ・デ・ラ・パス(Frontera de la Paz、平和の国境)と呼ばれている。

ウルグアイポルトガル語
話される国 ウルグアイ北部とブラジルの国境地帯
話者数 およそ 100,000 人
言語系統
言語コード
ISO 639-1 none
ISO 639-2 none
ISO 639-3 なし
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一般的特徴 編集

他の言語と同様、ウルグアイ=ブラジル・ポルトゥニョールは流動的で多様性に富み、リオプラテンセ・スペイン語から標準的なブラジルポルトガル語へと至る方言連続体が形成されている。しかしながら、その中のひとつの変種が最も幅広く使われており、研究の対象とされる。この変種は、リベラとサンタナ・ド・リヴラメントを含む地域を中心に話されており、国境に沿って幅数キロメートルにわたって帯状に広がり、両国間にまたがって広がっている。この記事では主としてこの変種について述べ、以降は単にポルトゥニョール、あるいはリヴェレンセと呼ぶ。これらの呼称は、この言語の話者がこの言語を指し示して使われるものである。

ポルトゥニョールは、言語学的分類の主流では、ポルトガル語の言語変種とされるが[2]、これに関して一致した見解はない。一方で、ポルトゥニョールは大変に語彙の豊かな言語であり、多くの同意語を持ち、微細な意味の違いを分けて表現し得る。ポルトゥニョール・リヴェレンセは単に2言語の混合には留まらない。

起源 編集

ポルトゥニョールの起源はスペインポルトガルの統治時代までさかのぼる。それらの時代では、この地域の所有者ははっきりとは定まっておらず、両者の間を行き来していた。ポルトゥニョールは単にスペイン語とポルトガル語の影響のみではなく、先住民の言語からの影響も受けている。それらの中には、たとえば、「gurí」(男の子)、「mamboretá」(カマキリ)、「caracú」(ウシの骨)などがある。

音韻と表記 編集

フロンテイリソには公式に定められた表記法はないが、この記事においてはポルトゥニョールの表記として音素を可能な限り矛盾なく正しく表記し、この言語の音韻論に焦点を当てる。ポルトゥニョールの話者たちが全て同じ単語に対して同じ発音をするわけではないという点に注意しなければならない。しかしながら、この表記法は最も頻繁に使用され、その特徴をよく表している。

選ばれた表記法は、スペイン語の音素を転写するときに用いるものに類するものである。しかし、たとえば鼻母音などの一部の音素について、スペイン語のアルファベットのみでは表記できない。

スペイン語の母音 編集

「スペイン語の母音」は、スペイン語にある5つの母音と同様に発音される。同種の母音はポルトガル語にもある。

文字 IPA ポルトゥニョール 発音(IPA リオプラテンセ・スペイン語 ブラジル・ポルトガル語 日本語
a a papa ['papa] papa batata ジャガイモ
catarata [kata'ɾata] catarata cachoeira
e e peshe ['peʃe] pez peixe
detergente [deter'χente] detergente detergente 洗剤
i i, j cisco ['sisko] basura lixo ゴミ
niño ['niɲo] nido ninho
ciá [sja] cenar jantar/cear 食事を取る
o o ontonte [on'tonte] anteayer anteontem おととい
oio ['ojo] ojo olho
poso ['poso] pozo poço 井戸
u u, w yururú uɾu'ɾu] triste, melancólico jururu もの悲しい
nu [nu] en el no in the (m.) 「…に」
acuá [a'kwa] ladrar latir 吠える

ポルトガル語の母音 編集

これらの母音はポルトガル語には存在するが、スペイン語には存在しない。

半広母音 編集

e」や「o」に類似した母音であるが、より口を開いて広母音的に発音し、「a」に近くなる。

文字 IPA ポルトゥニョール 発音(IPA リオプラテンセ・スペイン語 ブラジル・ポルトガル語 日本語
é ɛ té [tɛ] chá
pél [pɛl] piel pele
véia ['vɛja] vieja velha 古い(f.)
ó ɔ fófóca [fɔ'fɔka] chisme fofoca うわさ話
póso ['pɔso] puedo posso できる

半広母音(「é」および「ó」)を区別することはとても重要になる。半広母音であるか否かによって言葉の意味が完全に変わることがある。以下にその例を示す:

avó」([a'vɔ]、祖母)と「avô」([a'vo]、祖父)
véio」(['vɛjo]、古い)と「veio」(['vejo]、彼が来た、動詞「」より)
véia」(['vɛja]、古い)と「veia」(['veja]、血管)
póso」(['pɔso]、できる)と「poso」(['poso]、井戸)

鼻母音 編集

鼻母音は、発声時に呼気の一部が鼻を通り、一部が口を通る母音である。これらの母音はスペイン語には存在せず、したがって一般的にはポルトガル語由来の語に見られる。

文字 IPA ポルトゥニョール 発音(IPA リオプラテンセ・スペイン語 ブラジル・ポルトガル語 日本語
ã ã masã [ma'sã] manzana maçã りんご
lã [lã] lana ウール
sã [sã] sana (adj.) 健康的な (f.)
an (*) cansha ['kãʃa] cancha campo esportivo 運動場
en (*) pênsaũ ['psaw̃] piensan pensam (彼らが)考える
ĩ in (**) intonce [ĩ'tõse] entonces então その時
õ õ garsõ [gar'sõ] mozo (de bar o restaurante) garçom ウェイター
tõ [tõ] tono tom トーン
on (*) intonce [ĩ'tõse] entonces então その時
ũ, w̃ ũ ũ [ũ] uno um ひとつの (m.)
cũtigo [kũ'tiɣo] contigo contigo きみと共に
niñũa [ni'ɲũa] ninguna nenhuma いかなる者もない (f.)
maũ [ma] mano mão
  • (*) s、sh、y、z、ce、ciの前で
  • (**) s、sh、y、z、ce、ciの前か、あるいはそれが第一音節であり、後にga、gue、gui、go、gu、ca、que、qui、co、cu、kを伴わない場合

半広母音と同様、鼻母音と非鼻母音についてもこれらを明確に弁別することが重要になる。というのも、鼻母音であるか否かにより言葉の意味が完全に変わることがあるからである。以下にその例を示す:

paũ」([paw̃]、パン)と「pau」([paw]、棒)
」([nũ]、in a (m.)「…に」)と「nu」([nu]、in the (m.)「…に」)
nũa」(['nũa]、in a (f.)「…に」)と「núa」(['nua]、裸の)
ũ」([ũ](one, a (m.)「とある、ひとつの」)と「u」([u](the (m.)「その」)
」([kũ]、…と共に)と「cu」([ku]、肛門(卑俗語))
ũs」([ũs]、some (m.)「幾らかの」)と「us」([us]、the (m.pl.)「その」)

子音 編集

次の表にポルトゥニョールの子音を、スペイン語(特にリオプラテンセ方言)、ポルトガル語(特にブラジル方言、特にブラジル南部のリオグランデ・ド・スル州ガウチョ方言)との対比とともに掲載する。

文字 IPA 名称 説明 例と対比例(英:英語、西:スペイン語、葡:ポルトガル語)
b b, β be(ベ) スペイン語、ポルトガル語と同じ音素を表す。常に両唇音となる。 brabo 'bɾaβo(英: angry, 西: enojado/bravo, 葡: zangado).
c k, s ce(セ) スペイン語およびポルトガル語と同様であり、母音a, o, u, ã, õ, ũ, óあるいはh以外の子音が後に続く場合は[k]を、母音e, i, éが後に続く場合は[s]を表す cacimba [ka'simba] (英: hole with drinkable water, 西: cachimba, 葡: cacimba).
ch ʧ ce hache, che(セ・アチェ、チェ) 常にスペイン語と同様であり、ポルトガル語のtchに相当する che [ʧe] (西: che, 葡: tchê), bombacha [bom'baʧa] (underpants), bombasha [bom'baʃa] (gaucho's trousers).
d d, ð de(デ) スペイン語と同様に使われる。ブラジルの一部地域で破擦音[dʒ])となるようなことは無い。 diploide [di'plojðe] (英: diploid, 西: diploide, 葡: diplóide [dʒi'plɔjdʒi]).
f f efe(エフェ) スペイン語、ポルトガル語、英語と同様である。
g g, ɣ, χ ge(ヘ) 母音a, o, u, ã, õ, ũ, óの前ではスペイン語およびポルトガル語と同様である。母音e, i, éの前ではスペイン語のjと同様で、「ハ」の子音に近い音となる gagueyá [gaɣe'ʒa] (英: to stammer, 西: tartamudear, 葡: gaguejar), geología [χeolo'χia] (eng, geology, 西: geología, 葡: geologia).
h ache(アチェ) c、あるいはsの後に続く場合を除いては無音である。起源となったスペイン語あるいはポルトガル語の単語にhが無い場合には、使われない hoye ['oʒe] (英: today, 西: hoy, 葡: hoje), oso ['oso] (英: bone, 西: hueso, 葡: osso)
j χ jota(ホタ) スペイン語と同様である。 jirafa [χi'ɾɑfɑ] sounds like Spanish and yirafa [ʒi'ɾafa] sounds like Portuguese (英: giraffe, 西: jirafa, 葡: girafa)
k k ka(カ) スペイン語、ポルトガル語と同様である。
l l ele(エレ) スペイン語と同様である。ポルトガル語の方言で語末や子音前の「l」が[u]あるいは[w]と発音されるが、ポルトゥニョールではそのようなことは無い Brazil [bɾa'zil] (英: Brazil, 西: Brasil 葡: Brasil)
m m eme(エメ) スペイン語と同様である(有声両唇鼻音)。ポルトガル語において、mは前に来る母音によってさまざまに異なって発音される
n n, ŋ ene(エネ) 鼻母音の音節以外では、スペイン語と同様である。 amên [a'men] (英: amen, 西: amén), amêñ [a'meɲ] (英: amen, 葡: amém), inté [ĩ'tɛ] (英: see you later, 西: hasta luego, 葡: até mais), sanga ['saŋga] (英: ditch, 西: zanja, 葡: valeta)
ñ ɲ eñe(エニェ) スペイン語と同様であり、ポルトガル語のnhに相当する。 niño ['niɲo] (英: nest, 西: nido, 葡: ninho), carpiñ [kaɾ'piɲ] (英: sock, 西: calcetín, 葡: meia), muñto ['muɲto] (英: a lot of, 西: mucho, 葡: muito), ruñ [ruɲ] (英: wicked, bad or rotten, 西: malo, 葡: ruim)
p p pe(ペ) スペイン語、ポルトガル語と同様である
q k cu(ク) スペイン語、ポルトガル語と同様である。常に後ろにuを伴う。
r r, ɾ erre, ere(エレ、エレ) それぞれ、スペイン語と同様である。
s s, z ese(エセ) スペイン語と同様である。ただし、語尾にあり、かつ後続の語の語頭が母音である場合、あるいは有声子音の前にある場合にはこの限りではない。それらの場合では、ポルトガル語のzと同様に[z]と発音される。 asesino [ase'sino] (英: murderer, 西: asesino, 葡: assassino), read like in Portuguese it would be azezino [aze'zino], a non-existent word in Portuñol; más flaco [mas'flako] (英: skinnier, 西: más flaco, 葡: mais magro), más gordo [maz'ɣordo] (英: fatter, 西: más gordo, 葡: mais gordo)
sh ʃ ese hache, she(エセ・アチェ、シェ) ポルトガル語ではchと書かれるものと同様であり、英語のshに相当する。 shuva ['ʃuva] (英: rain, 西: lluvia, 葡: chuva); aflósha [a'flɔʃa] (英: don't disturb, 西: no molestes, 葡: não perturbe)
t t te(テ) スペイン語と同様であり、破擦音にはならない。 tímidamente ['timiða'mente] (英: shyly, esp, tímidamente, 葡: timidamente ['ʧimida'menʧi]).
v v ve(ヴェ) ポルトガル語、英語と同様に有声唇歯摩擦音、あるいは希に有声両唇摩擦音である。 vaso ['vaso] (英: glass, 西: vaso, 葡: copo). When used as in Spanish, it becomes baso ['baso] (英: spleen, 西: bazo)
w w doblevê(ドブレヴェ) 英語からもたらされたものであるが、既に定着している語のために、ポルトゥニョールを表記する上では利便性が高い。 whisky or uísqui ['wiski], show or shou [ʃow]
x ks equis, shis(エキス、シス) 子音クラスタ[ks]である。 exelente [ekse'lente] (英: excellent, 西: and 葡: excelente)
y ʒ, j ye, í griega(ジェ、イ・グリエガ) リオプラテンセ・スペイン語と同様であり、後部歯茎音である。ただし、二重母音あるいは三重母音と共に終わる語尾にある場合は、スペイン語やポルトガル語のiと同様である。 yurá [ʒu'ɾa] (英: to swear, 西: jurar; 葡: jurar); Uruguay [uɾu'ɣwaj] (葡: Uruguai); yacaré [ʒaka'ɾɛ] (英: South American alligator, 西: yacaré, 葡: jacaré)
z z ceta(セタ) ポルトガル語および英語と同様であり、有声音である。 caza ['kaza] (英: house, 西: casa, 葡: casa); casa ['kasa] (英: hunting, 西: caza, 葡: caça)
zy z, zʒ, ʒ ceta ye(セタ・ジェ) zyの中間的な音を表すために幾らかの単語において現れることがある(話者による) cuazye ['kwazʒe] (英: almost, 西: casi, 葡: quase); ezyemplo [e'zʒemplo] (英: example, 西: ejemplo, 葡: exemplo).

脚注 編集

  1. ^ Fronteiriço
  2. ^ Adolfo Elizaincín [1], uses the term "DPU" - Dialectos Portugueses del Uruguay to refer not to just one, but to between two and six different variations of Portuguese spoken in northern Uruguay, being Riverense Portuñol one of these varieties

参考文献 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集