エイコネス』(ギリシャ語: ΕἰκόνεςEikones英語: Imagines)は、ローマ帝国支配下のギリシャの、いずれもピロストラトス(フィロストラトス、Φιλόστρατος)として知られた2人の人物によって著された、様々な芸術作品を描写し、説明した著作、エクフラシス[1][2][3]。日本語では、『絵画記[4]、『絵たち[3]、『列柱廊の絵画[5]、『肖像集[1]などとしても言及されることがある。

『エイコネス』と称される著作はふたつあり、古い方の『エイコネス』は2巻から成り、第1巻には序文と31章、第2巻には34章が収録されており、一般的にはレムノスのピロストラトス(大ピロストラトス)の著作とされているが、その義理の父で、より有名なアテナイのピロストラトスによるものであった可能性もある。『エイコネス』は、表面上は、ピロストラトスがナポリで見た65点の絵画を文章で描写したものである。ただし、著者が実際に絵画を見たか否かについては、議論がある[4]。著作のすべては、芸術作品そのもの、その象徴する内容や意味について、若い鑑賞者に説明するものである。序文の中で著者は、本書の執筆の直接のきっかけは、滞在先の主人の10歳になる息子であったと述べ、また本作の各章は、少年に語りかけるように構成されるとも述べている。

後から成立したふたつめの『エイコネス』は17章から成っており、レムノスのピロストラトスの孫にあたる小ピロストラトスとして知られる人物によって書かれた[6]

ルネサンス期には、ティツィアーノが本書で描写された絵画を再現して『ヴィーナスへの奉献』や『アンドロス島の人々』を描いたり、ブレーズ・ド・ヴィジュネール英語版が再現画付きのフランス語訳を出版したりした[7]

脚注 編集

  1. ^ a b 五之治昌比呂「人物描写における「上から下へ」の順序について」『西洋古典論集』第13号、京都大学西洋古典研究会、1996年3月、73-99頁、ISSN 0289-7113NAID 110004688034 
  2. ^ 山口京一郎「地を割るポセイドン : 『エイコネス』Ⅱ.14,16,17」『ICU比較文化』第46号、国際基督教大学比較文化研究会、2014年3月、23-46頁、ISSN 0389-5475NAID 120005670460 
  3. ^ a b フィロストラトス『エイコネス』の古代絵画史的研究”. KAKEN(科学研究費助成事業データベース). 2021年2月23日閲覧。
  4. ^ a b 渡辺浩司「エクフラシス : ローマ帝政期における弁論術教育」『弁論術から美学へ : 美学成立における古典弁論術の影響』平成23年度 - 平成25年度 科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究成果報告書、大阪大学大学院文学研究科、2014年3月、7-15頁、2021年5月1日閲覧 
  5. ^ 木村三郎「画家プッサンと1614-19年のパリの出版史」『日仏図書館情報研究』第43号、日仏図書館情報学会、2018年、13-34頁、ISSN 0916-7684NAID 40021868974 
  6. ^ Philostratus. Livius.
  7. ^ 西村清和物語る絵のナラトロジー」『美学藝術学研究』第23巻、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部美学芸術学研究室、1-28頁、2005年https://doi.org/10.15083/00016709 7頁。

参考文献 編集