エボシガイ(烏帽子貝[1]学名Lepas anatifera)は、固着性甲殻類の一種。蔓脚類(広義のフジツボ類)に分類される。流木などに付着し、海面を漂って生活する。

エボシガイ
エボシガイ。殻板の隙間から蔓脚が見える。
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 顎脚綱 Maxillopoda
亜綱 : 鞘甲亜綱(フジツボ亜綱) Thecostraca
下綱 : 蔓脚下綱(フジツボ下綱) Cirripedia
上目 : 完胸上目 Thoracida
: 有柄目 Pedunculata
亜目 : エボシガイ亜目 Lepadomorpha
: エボシガイ科 Lepadidae
: エボシガイ属 Lepas
: エボシガイ L. anatifera
学名
Lepas anatifera
Linnaeus, 1758
和名
エボシガイ
英名
Pelagic Goosneck Barnacle

形態 編集

体は5枚の白い殻板に覆われた頭状部と、殻板のない柄部からなる。殻板は白くて表面はなめらかだが、成長線と呼ばれる筋がある[2]。頭状部の大きさは2cmから5cmほど。殻板の中には他の蔓脚類と同じく、蔓脚がある。柄部は肌色・ベージュ色で細長く、長さは個体によって異なるが、10cmを超えることもある[3][4][5][6]。また柄部は伸縮するため、ときには30cmほどにまで伸びるとされる[4]

生態と分布 編集

流木などの漂流物や船底に集団で付着して生活し、全世界の海洋に広く分布する[3][4]。漂流物とともに海岸に流れ着き、漂着物として採集されることもある[5]

蔓脚を用いて小型のプランクトンを食べる[7]雌雄同体だが自家受精はせず、陰茎を通じて他個体に精子を渡して繁殖する[7]

分類 編集

節足動物門・甲殻亜綱の1群である蔓脚類に分類される。蔓脚下綱(亜綱とされることも)は3つの上目(超目)からなるが、エボシガイ類はフジツボ類とともに完胸上目(超目)に含まれる。完胸上目はさらに柄部を持つ有柄目と持たない無柄目に二分され、エボシガイを含むエボシガイ亜目は前述の通り柄部を持つので、有柄目の1群である。本種はそのなかでもエボシガイ科エボシガイ属に分類される[6][8]

エボシガイ属には本種の他に、同じく漂流物に付着するカルエボシなどが含まれる。エボシガイ科にはエボシガイ属以外に5つの属(うち1つは絶滅している)が含まれ、クラゲに付着するクラゲエボシウオジラミ類に付着するスジエボシなどさまざまな生態を持つ種が含まれている[6]

名称 編集

 
同属種のカルエボシ。
 
エボシガイの木からガンが生まれる様子を表現する絵画

和名は、頭状部のかたちが烏帽子に似ていることから[要出典]

エボシガイ属の学名Lepasカサガイを指すギリシャ語で、リンネがこの仲間を類とみなしていたことに由来する。種小名anatiferaラテン語で「カモを産む」という意味。同属のカルエボシの種小名anseriferaも「ガンを産む」という意味である。これらの名前は、中世ヨーロッパでエボシガイ類がガンやカモのであると信じられていたために名付けられた[4]。この仲間を英語でgoose barnacleと呼ぶのも同じ迷信に由来する。特に繁殖地が北極付近にあるカオジロガンは長い間、ヨーロッパでエボシガイ類から成長したものだと思われていた[9]

脚注 編集

  1. ^ 『日本大百科全書』小学館、1984~1994。 
  2. ^ 近似種で、より小型であるカルエボシの殻板には成長線以外に放射状の筋がある(山口・久恒(2006) pp.371)。
  3. ^ a b 西村(1995) pp.120-121
  4. ^ a b c d 西村・鈴木(1996) p.61
  5. ^ a b 倉谷(2009) p.9
  6. ^ a b c 山口・久恒(2006) pp.371
  7. ^ a b Patel (1959)
  8. ^ Species: Lepas anatifera Linnaeus, 1758 エボシガイ”. Biological Information System for Marine Life. 国際海洋環境情報センター. 2011年7月8日閲覧。
  9. ^ Michael Allaby (2009). “Barnacles”. Animals: from Mythology to Zoology. Infobase Publishing. pp. 75–77. ISBN 978-0-8160-6101-3. https://books.google.com/books?id=KtKZ12YN9qcC&pg=PT91 

参考文献 編集

この論文は以下にも再録されている。