エレクトリック・マッド

マディ・ウォーターズのアルバム

エレクトリック・マッド』(Electric Mud)は、アメリカ合衆国ブルース・ミュージシャン、マディ・ウォーターズ1968年に発表したスタジオ・アルバム。ウォーターズ本来の音楽性とは異なり、ロック色が導入された問題作とみなされている[3][4]

エレクトリック・マッド
マディ・ウォーターズスタジオ・アルバム
リリース
録音 1968年5月 シカゴ Ter Mar Studios[1]
ジャンル エレクトリック・ブルースサイケデリック・ロックブルースロック
時間
レーベル キャデット・レコード
サード・マン・レコード英語版(2017年再発LP)
プロデュース マーシャル・チェス英語版、チャールズ・ステップニー、ジーン・バージ
専門評論家によるレビュー
チャート最高順位
  • 127位(アメリカ[2]
  • マディ・ウォーターズ アルバム 年表
    ザ・スーパー・スーパー・ブルース・バンド(with ハウリン・ウルフボ・ディドリー
    (1967年)
    エレクトリック・マッド
    (1968年)
    アフター・ザ・レイン
    (1969年)
    テンプレートを表示

    背景 編集

    チェス・レコード創設者レナード・チェスの息子であるマーシャル・チェス英語版は、当時ブームであったサイケデリック・ロックの聴衆にウォーターズを聴かせたいという意図から、本作をプロデュースした[5]。本作ではウォーターズ自身はギターを弾かず、フィル・アップチャーチ、ローランド・フォークナー、ピート・コージー英語版といったギタリストが起用され、サウンド面ではワウファズが多用された[3][4]

    収録曲のうち「アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー」、「フーチー・クーチー・マン」、「シーズ・オールライト」、「マニッシュ・ボーイ」、「ザ・セイム・シング」は、ウォーターズが過去に録音した曲のリメイクである。「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」は、ローリング・ストーンズが1967年に発表した曲のカヴァーだが、アレンジ面ではテンプテーションズのヒット曲「ゲット・レディ」に類似したベース・ラインが導入された[6]。また、「シーズ・オールライト」はウォーターズが1953年に発表した曲の再演で、本作ではテンプテーションズの「マイ・ガール」を模したジャムが取り入れられた[6]

    なお、後にハウリン・ウルフも、本作の音楽性を踏襲したアルバム『ハウリン・ウルフ・アルバム』を発表しているが、両方のセッションでギターを弾いたピート・コージーは「マディはセッションの間、ちょっと疑問を抱いていた程度だけど、ウルフは激怒していた。私はディストーション・ペダル、ワウ、エコープレックスを用意したけど、彼(ウルフ)は、それらのサウンドを全く聴こうとしてくれなかった」と述懐している[7]

    反響・評価 編集

    アメリカでは自身初のBillboard 200入りを果たし、最高127位を記録した[2]ジミ・ヘンドリックスは当時、カフェで本作を聴いた際、当初はウォーターズの新譜と信じられなかったが、その後「俺は彼のことを追いかけてきた。それが今は、彼が俺のことを追いかけているなんて」と喜んだという[8]

    Bruce Ederはオールミュージックにおいて5点満点中1.5点を付け「当時のウォーターズとしては破格の、20万枚から25万枚ほどの売り上げを記録したが、恐らくキャリアにおける最低の作品とみなされている」「ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスとクリームを融合したようなサウンドを無理やり目指していた」「プロデューサー陣は数年後には、マディはマディでしかなく、ジミになれないことを悟った」と評している[4]。一方、ラッパーのチャックDは、本作をきっかけとしてブルースにのめり込んだという内容のメールをマーシャル・チェスに送っており[9]、2003年にPBSが放映したドキュメンタリー番組『Godfathers and Sons』では、コモンと共に本作のバック・ミュージシャン達と共演した[10]

    リイシュー 編集

    イギリスのBGOレコードは、2011年に本作と次作『アフター・ザ・レイン』(1969年)の2 in 1 CDを発売した[11]。また、ジャック・ホワイトは2017年11月、自身のレーベル「サード・マン・レコード英語版」から本作の再発LPをリリースした[12]

    収録曲 編集

    特記なき楽曲はウィリー・ディクスン作。

    1. アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー - "I Just Want to Make Love to You" - 4:20
    2. フーチー・クーチー・マン - "I'm Your Hoochie Coochie Man" - 4:53
    3. レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー - "Let's Spend the Night Together" (Mick Jagger, Keith Richards) - 3:11
    4. シーズ・オールライト - "She's All Right" (McKinley Morganfield) - 6:36
    5. マニッシュ・ボーイ - "Mannish Boy" (M. Morganfield, Ellas McDaniel, Mel London) - 3:50
    6. ハーバート・ハーパーズ・フリー・プレス・ニュース - "Herbert Harper's Free Press News" (Sidney Barnes, Robert Thurston) - 4:40
    7. トム・キャット - "Tom Cat" (Charles Williams) - 3:42
    8. ザ・セイム・シング - "The Same Thing" - 5:43

    参加ミュージシャン 編集

    脚注 編集

    1. ^ CD英文ブックレット内クレジット
    2. ^ a b Muddy Waters Chart History - Billboard 200”. Billboard. 2023年1月22日閲覧。
    3. ^ a b Moon, Tom (2006年9月20日). “A Blues Icon Who Rocks Unwillingly”. NPR. 2019年4月19日閲覧。
    4. ^ a b c Eder, Bruce. “Electric Mud - Muddy Waters”. AllMusic. 2019年4月19日閲覧。
    5. ^ Lisle, Andria (2007年). “Marshall Chess cultivated a stimulating studio at Chess Records with the Cadet Concept label”. Wax Poetics. 2020年6月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年1月22日閲覧。
    6. ^ a b 2001年リマスターCD (UICY-3201)英文ライナーノーツ(Mark Humphrey)
    7. ^ Milkowski, Bill (2007年7月1日). “Pete Cosey: Guitar Catharsis”. JazzTimes. 2019年4月19日閲覧。
    8. ^ Bartleet, Larry (2018年4月4日). “Inside Jimi Hendrix's blood-spattered record collection”. NME. 2019年4月19日閲覧。
    9. ^ The Blues. Godfathers and Sons. Interview”. Vulcan Productions (2003年). 2019年4月19日閲覧。
    10. ^ Decurtis, Anthony (2003年10月2日). “Blue Movies: 'Martin Scorcese Presents the Blues'”. Rolling Stone. 2019年4月19日閲覧。
    11. ^ Muddy Waters - Electric Mud / After The Rain (CD, Album, Compilation, Reissue, Remasterd) | Discogs
    12. ^ Spice, Anton (2017年11月2日). “Third Man Records reissue Muddy Waters' seminal Electric Mud on vinyl”. The Vinyl Factory. 2019年4月19日閲覧。

    外部リンク 編集