エンジュ
エンジュ(槐[5]、学名: Styphnolobium japonicum[注 1])はマメ亜科エンジュ属の落葉高木。中国原産。日本には古くに渡来し、花蕾や莢は生薬にして役立てられた。
エンジュ | ||||||||||||||||||||||||
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エンジュ
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分類(APG III) | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Styphnolobium japonicum (L.) Schott (1831)[1][2][3] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Japanese Pagoda Tree |
特徴
編集中国原産で、古くから台湾、日本、韓国などで植栽されている。日本へは8世紀には渡来していたとみられ[5]、和名は古名えにすの転化したもの。別名でニガキとよばれることもある[7]。中国植物名は槐[3]、または槐樹(かいじゅ)である[8]。街路樹によく使われ、公園や学校などの庭木としても植えられる[9]。
マメ科の落葉高木で、樹高は5 - 15メートル (m) になる[10]。成木の樹皮は暗灰白色で、細かく縦にはっきりと裂ける[11][12]。若木の樹皮は濃緑色で、皮目がある[12]。一年枝は暗緑色で、無毛または短毛がある[12]。
葉は奇数羽状複葉で互生し[5]、小葉は5 - 10対あり、長さ3 - 5センチメートル (cm) の卵形で先端は尖り、全縁で[10]、表面は緑色、裏面は緑白色で短毛がありフェルトのようになっている。小葉は、対につくか、交互につくかは変異があるため、個体によりばらつきがある[13]。よく似る植物にイヌエンジュがあるが、イヌエンジュよりも葉は細身で、小葉の枚数は多い[13]。
花期は7 - 8月で[11]、枝先の円錐花序に細かい白色の蝶形花を多数開き[9]、蜂などの重要な蜜源植物となっている。花の咲き方は、ややまばらに咲く[9]。
果期は10 - 11月[5]。豆果の莢は長さ5 - 8 cmで、種子と種子の間が著しく、数珠のように大きくくびれる[5]。枝には豆果が残り、裂開せずに冬でもねばつく[12]。種子はヒヨドリ等の果実食鳥により散布されるため、唐突に雑木として生えてくることもある[14]。
冬芽は葉柄内芽で、膨らんだ葉跡基部に隠れるように一部だけが露出しており、濃褐色の毛に覆われている[12]。仮頂芽はあまり発達せず、測芽は互生する[12]。
また、シダレエンジュ(Styphnolobium japonicum var. pendulum、シノニムSophora japonica var. pendula)という枝垂れる変種があり、公園などに植栽される。
病虫害
編集利用
編集街路樹として使われるほか、新芽は茶の代わりに、蕾と種子は染料になる[15]。乾燥させた蕾や莢果は止血作用から伝統薬として使われる。
街路樹・庭園木
編集日本をはじめ、中国や韓国でも街路樹として珍重されている[5]。公園や庭園にも植えられている[11]。韓国の世界遺産のひとつである昌徳宮には、大きなエンジュの木が植えられている[5]。日本では中国での「縁起の良い木」とされるゆえんから、庭木として鬼門の方角や玄関先に植えることがある[15]。
薬用
編集生薬・ハーブ | |
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効能 | 止血 |
原料 | エンジュ(花蕾) |
成分 | ビタミンK |
臨床データ | |
胎児危険度分類 |
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法的規制 |
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データベースID | |
KEGG | E00221 D09255 |
別名 |
槐花(カイカ) 槐角(カイカク) カイヨウ |
花を乾燥させたものは、槐花(かいか)、蕾を乾燥させたものが槐花米(かいかべい)または槐米(かいべい)という生薬で、止血作用がある[8]。莢を乾燥して生薬にしたものは槐角(かいかく)と称し[8]、止血剤や高血圧に用いられる[5]。花、蕾は6 - 8月、果実は8 - 9月に採集して天日乾燥して調製される[8]。
エンジュに含まれるルチンはサプリメントとして利用されている。抽出されたトロキセルチンは静脈瘤などの静脈疾患用医薬品として海外で利用されることがある。
花・蕾にはルチンを多く含有する。他に、ゲニスタチンとその配糖体のゲニステイン、ケンフェロール、ソフォリコシド(Sophoricoside)などが検出されている。アルカロイドのシチシンを含む。
民間療法では、痔や目の充血に、1日量5グラムの花、蕾、果実を乾燥させたものを600 ㏄の水で煎じて、3回に分けて服用する用法が知られる[8]。熱をとって止血する薬草として知られ、出血が主なときは花や蕾がよく、腫れが主なときは果実がよいといわれている[8]。
木材
編集木質は堅硬で、中国では馬車や荷車、造船にも用いられる重要な木材であった。日本では釿(ちょうな)の柄として用いられる[16]。ただし現在「エンジュ」の名で床柱などの美観材として流通しているのは別種のイヌエンジュで、本来のエンジュの方はこの面ではほとんど顧みられていない。
文化
編集中国では、かつて朝廷の庭にエンジュが植えられていたことから[11]、エンジュを品格の高い木として[11]、また「出世の木」として大切にしており、「末は大臣に」と親は子に期待して、三公の位を「槐位」と称した[5]。日本では、鎌倉時代前期の鎌倉幕府第3代征夷大将軍である源実朝の『金槐和歌集』のタイトルは、実朝が右大臣の位にあったので「槐」の字を用い、さらに鎌倉の金偏をとって「金槐」としている[5]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ “Styphnolobium japonicum information from NPGS/GRIN”. USDA. 2008年2月19日閲覧。
- ^ “Styphnolobium japonicum - ILDIS LegumeWeb”. 2008年2月19日閲覧。
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Styphnolobium japonicum (L.) Schott エンジュ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月31日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Sophora japonica L. エンジュ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月31日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m 田中潔 2011, p. 64.
- ^ Styphnolobium japonicum, NCBI Taxonomy
- ^ 辻井達一 1995, p. 220.
- ^ a b c d e f 貝津好孝 1995, p. 179.
- ^ a b c 林将之 2011, p. 24.
- ^ a b 林将之 2008, p. 132.
- ^ a b c d e 林将之 2008, p. 133.
- ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 196.
- ^ a b 林将之 2011, p. 25.
- ^ 井手任, 守山弘, 原田直國, 横張真「果実食鳥によって街路植栽より林内に散布されたエンジュの分布特性について」『造園雑誌』第50巻第5号、日本造園学会、1986年、161-166頁、doi:10.5632/jila1934.50.5_161。
- ^ a b 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 77.
- ^ “大工道具の紹介 斧・鉞”. 竹内大工道具館. 2021年4月16日閲覧。
参考文献
編集- 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、179頁。ISBN 4-09-208016-6。
- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、196頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、64頁。ISBN 978-4-07-278497-6。
- 辻井達一『日本の樹木』中央公論新社〈中公新書〉、1995年4月15日。ISBN 4-12-101238-0。
- 林将之『葉っぱで調べる身近な樹木図鑑』主婦の友社、2008年2月29日、132 - 133頁。ISBN 978-4-07-258098-1。
- 林将之『葉っぱで気になる木がわかる:Q&Aで見わける350種 樹木鑑定』廣済堂あかつき、2011年6月1日、24 - 25頁。ISBN 978-4-331-51543-3。
- 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、77頁。ISBN 4-522-21557-6。
関連項目
編集外部リンク
編集- エンジュ - ウェイバックマシン(2002年5月21日アーカイブ分) 大阪百樹(大阪自然環境保全協会)
- エンジュ・カイヨウ - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)