オニイトマキエイ
オニイトマキエイ (Mobula birostris) は、軟骨魚綱トビエイ目イトマキエイ科イトマキエイ属に分類されるエイ。
オニイトマキエイ | ||||||||||||||||||||||||
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![]() オニイトマキエイ Mobula birostris
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保全状況評価[1][2][3] | ||||||||||||||||||||||||
ENDANGERED (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) ![]() ワシントン条約附属書II
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Mobula birostris (Walbaum, 1792)[3][4] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム[4] | ||||||||||||||||||||||||
Raja birostris Walbaum, 1792
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和名 | ||||||||||||||||||||||||
オニイトマキエイ[5] | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Giant manta[4] Giant manta ray[3] |
英語等では「マント」に由来する[6] Mantaの名称を持ち、日本でもマンタと呼ばれることが多い。大きいものでは体の横幅8m、体重3tに達する。熱帯の海のごく表層を遊泳し、泳ぎながらプランクトンを食べる。毒針は無い。
分布編集
世界中の熱帯・亜熱帯海域、特にサンゴ礁周辺に生息する。普段は外洋の表層を遊泳するが、沿岸域でも見られる。
1979 - 2009年にかけて沖縄美ら海水族館と海遊館が、沖縄県と高知県で採集・記録したオニイトマキエイ類35個体のうち狭義の本種は4個体のみとされる[7]。
形態編集
体盤幅450センチメートル[4]。最大体盤幅910センチメートル[4]。最大体重3トン[4]。鱗(楯鱗)は、複数の尖頭が重なるように密集する[7]。体盤の表面には、溝状の構造がみられる[7]。体盤背面の白色斑の前縁は、口裂に対し平行で直線的[7]。口裂の周辺は黒い[7]。
歯は幅広く、比較的密集し互いに接する[7]。
体の形は他のイトマキエイ類と同じく扁平な菱形で、細長い尾を持つ。体色は基本的に背側が黒色、腹側が白色だが、各々の個体によって異なる斑点や擦り傷などが見られ、個体識別の際の目印となっている。まれに全身が黒色の個体も見られ、ダイバーの間ではブラック・マンタと呼ばれている。
頭部先端の両側には、胸鰭由来の頭鰭(とうき)と呼ばれるヘラ状の特殊な鰭が一対ある。これは、伸ばしたり丸めたりと自由に形を変形でき、餌を取るのに役立っているものと考えられている。またプランクトン食という摂餌形態に対応して、他のエイと異なり、口は頭の正面に開く。
分類編集
以前は本種のみで、オニイトマキエイ属Mantaを構成するとされていた[7]。2009年に形態から、シノニムとされていたManta alfrediを復活する説が提唱された[8]。2010年に本種およびM. alfrediはどちらも日本近海で確認例があること・日本国内の3施設(エプソン品川アクアスタジアム・沖縄美ら海水族館・海遊館)で飼育されていたオニイトマキエイ類8頭が全てM. alfrediであることが判明し、M. alfrediに対する和名としてナンヨウマンタが提唱された[7]。2017年に発表されたミトコンドリアDNAと核DNAの分子系統解析ではイトマキエイ属がオニイトマキエイ属を含まない偽系統群という解析結果が得られたたため、イトマキエイ属にオニイトマキエイ属を含む説が提唱された[9]。
生態編集
泳ぐときは大きな胸鰭を上下に羽ばたくように動かし、比較的ゆっくりと進む。しかし餌となるプランクトンの集団を見つけたときは速いスピードで、何度も宙返りするように上下方向に旋回を行う。このときは大きな口を開けて海水と一緒にプランクトンを吸い込み、鰓でプランクトンだけを濾しとって余分な海水は鰓裂から排出する。またダイバーの出す気泡に反応して、このような旋回行動を見せることもある。他の特異な行動として、ときおり海面からジャンプすることが知られている。何トンもの巨体が空中に舞うため相当なエネルギーを必要とするはずであるが、何のための行動なのかはよく分かっていない。寄生虫を振り落とすためとも、子どもを出産するためともいわれ、様々な説が飛び交っている。
大海原を回遊するオニイトマキエイは単独で行動し、数尾のコバンザメやブリモドキを従えていることが多い。こうした魚は大きなオニイトマキエイにくっつくか寄り添うかして、長距離を移動する。旅の間は主人の食べ残しや糞、体についた寄生虫などを食べて栄養を得ている。
沿岸域では群になって泳ぐオニイトマキエイも見られる。これは繁殖のために集まっているものと考えられ、イワシなどのように敵から身を守るのが目的ではない。体の大きなオニイトマキエイにはほとんど天敵がおらず、ホホジロザメやイタチザメなど、大型のサメでも襲ってこない限り、食われる心配はないからである。
繁殖は卵胎生で、一度に1 - 2尾[注釈 1]の子どもを産む。子どもは産まれたときすでに大きく、体盤幅1m - 1.2m、体重50kg前後である。その後も急激に成長し、およそ10年で成熟する。寿命は20年以上と見積もられている。また、脳化指数が高く、魚類の中では最も知能が高い種の一つと考えられている[10]。
人間との関係編集
食用とされたり、皮革が利用されることもある[3]。鰓板が漢方薬になると信じられていることもある[3]。
食用や薬用目的の漁業、漁業による混獲などにより、生息数は減少している[3]。沿岸開発による幼魚の成育場所の破壊、海洋汚染、原油流出、船舶との衝突、気候変動などによる影響も懸念されている[3]。2013年にオニイトマキエイ属単位で、ワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]。
ダイバーの間では非常に高い人気を誇る。性格はおとなしく、好奇心が旺盛で人なつこい。場所によっては生息密度も高く、あまりダイビングの経験がなくとも、大きなオニイトマキエイとの海中遊泳を比較的手軽に楽しむことができる。
オニイトマキエイやナンヨウマンタのような大型魚類を飼うにはかなりの広いスペースが必要だが、水族館の大型水槽展示が普及するにつれ、飼育・展示することも可能になってきている。
大きな体格、ゆったりした遊泳速度、海面近くを泳ぐ性質のため、本種は漁師の格好の標的となりやすい。フィリピン、メキシコ、モザンビーク、マダガスカル、インド、スリランカ、ブラジル、タンザニア、インドネシアでは漁獲されている。地元では、主にヒレ、皮、肝臓、肉、鰓弁が消費されているが、近年東洋医学の薬剤として乾燥したオニイトマキエイの鰓弁の需要が高まっており、東南アジアと東アフリカにおける漁の性質が自給から商業ベースに変化してきている。マグロなど他の魚を対象とした網にかかったり、サメ除けのネットにからまって命を落とすこともある。
本種の漁獲が行われている南シナ海、フィリピン海、スールー海、メキシコの西海岸、スリランカ、インド、インドネシアでは、個体数の減少が報告されている。繁殖、出産、幼魚の成長に欠かせない沿岸域での漁業、水質汚染、沿岸の開発、エコツーリズムが個体群に与える影響はよくわかっていない。一回の産仔数が少なく、繁殖力が弱いことから、一度、個体群数が下落すると、回復には時間がかかると推測される。ハワイ諸島やヤップ島付近に生息する個体群は生息域から遠くに移動しないことがわかっており、局地的に絶滅の危機に陥った場合、別の個体群からの個体の移入によって個体群が自然に復活することは難しいと考えられる[3]。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ I, II and III (valid from 28 August 2020)<https://cites.org/eng> [Accessed 04/01/2021]
- ^ a b UNEP (2021). Manta birostris. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. [Accessed 04/01/2021]
- ^ a b c d e f g h Marshall, A., Barreto, R., Carlson, J., Fernando, D., Fordham, S., Francis, M.P., Derrick, D., Herman, K., Jabado, R.W., Liu, K.M., Rigby, C.L. & Romanov, E. 2020. Mobula birostris. The IUCN Red List of Threatened Species 2020: e.T198921A68632946. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2020-3.RLTS.T198921A68632946.en. Downloaded on 04 January 2021.
- ^ a b c d e f Froese, R. and D. Pauly. Editors. 2019. Mobula birostris. FishBase. World Wide Web electronic publication. http://www.fishbase.org, version (12/2019).
- ^ 本村浩之 『日本産魚類全種目録 これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名』、鹿児島大学総合研究博物館、2020年、16頁。
- ^ “Manta”. Collins English Dictionary – Complete & Unabridged (HarperCollins Publishers) .
- ^ a b c d e f g h 佐藤圭一,内田詮三,西田清徳,戸田実,小畑洋,松本葉介,北谷佳万,三浦晴彦 「南日本におけるオニイトマキエイ属(Genus Manta)2種の記録と分類,同定および標準和名の提唱」『板鰓類研究会報』第46号、日本板鰓類研究会、2010年、11 - 19頁
- ^ Andrea D. Marshall, Leonald J. V. Compagno, Michael B. Bennett, "Redescription of the genus Manta with resurrection of Manta alfredi (Krefft, 1868) (Chondrichthyes; Myliobatoidei; Mobulidae)," Zootaxa, Volume 2301, 2009, Pages 1 - 28.
- ^ William T. White, Shannon Corrigan, Lei Yang, Aaron C. Henderson, Adam L. Bazinet, David L. Swofford, Gavin J. P Naylor, "Phylogeny of the manta and devilrays (Chondrichthyes: mobulidae), with an updated taxonomic arrangement for the family," Zoological Journal of the Linnean Society, Volume 182, Issue 1, 2018, Pages 50 - 75
- ^ Andrea Ferrari,Antonella Ferrari、『サメ・ガイドブック』、阪急コミュニケーションズ、2008年、p197