カムランド (KamLAND)は、東北大学大学院理学研究科付属ニュートリノ科学研究センター(Research Center for Neutrino Science)による反ニュートリノ検出器である。 カミオカンデの跡地につくられた。カミオカンデやスーパーカミオカンデとは違った検出方法により、より低いエネルギーのニュートリノを検出することができる。

KamLANDという名称はKamioka Liquid Scintillator Anti-Neutrino Detector (神岡液体シンチレータ反ニュートリノ検出器)の略である。

観測対象とその目的編集

宇宙由来のニュートリノ観測は勿論のことであるが、名称から推察できるように反ニュートリノ(正確には、反電子ニュートリノ)の検出を目的にしている。これは、地球内部において生じているであろう核分裂反応によって生じているニュートリノを観測することによって、地球の熱生成モデルを検証することが目的である。

カミオカンデやスーパーカミオカンデとの違い編集

カミオカンデは、当初は大統一理論(GWS理論)から予測される陽子崩壊検出を目的に建設されたものであったが、期待された陽子崩壊は検出されなかった。ところがタイミングよく1987年大マゼラン雲内における超新星爆発SN1987A)が初めて観測されたことで宇宙由来のニュートリノの検出に成功した。これは、太陽ニュートリノが理論予測より小さいという太陽ニュートリノ問題への観測からのアプローチともなるニュートリノ天文学を切り開くことになった。地中の巨大タンク内に超純水を貯めておき、飛来したニュートリノと水分子中の電子の衝突によって生じるチェレンコフ光を検出することでニュートリノを検出した。

スーパーカミオカンデも目的はカミオカンデのそれと同じで、陽子崩壊および宇宙から飛来するニュートリノを検出することである。観測原理もカミオカンデと同じで、規模を大きくし検出感度を高性能化することで観測精度を高めたものである。

これらに対して、カムランドは反ニュートリノ観測に特化した検出器である。反ニュートリノ検出能力を高めるためチェレンコフ光の検出は行っていない。スーパーカミオカンデが性能向上を図るにつれカミオカンデより大規模化したのに対して、カムランドでは装置の大きさはカミオカンデとほぼ同一である。カムランドは液体シンチレータと呼ばれる粘性のある物質を溶媒に用いる(このような粘性のある物質を用いる例は少ない)[1]。また、液体シンチレーターをバルーンに入れ、周囲をオイルで覆う。これらの工夫によって低エネルギーのニュートリノの検出を可能とする。

反ニュートリノを検出する方法は以下の反応を同定することによる。

  • 反電子ニュートリノが液体シンチレータの陽子と反応し、陽電子中性子が発生する。
  • 陽電子は電子と反応し、ガンマ線を放出する。
    • ガンマ線は物質と反応し、電子・陽電子対生成コンプトン散乱光電効果などの反応を行い、生成あるいは反跳された電子が液体シンチレータを発光させる(先発信号)。
  • 中性子は、液体シンチレータ中の陽子や原子核と衝突を繰り返す。
    • 衝突されてはじき飛ばされた陽子が液体シンチレータを発光させる(後発信号)。
    • この光が出るのは、最初の反電子ニュートリノの反応から、平均210マイクロ秒後。
  • 2回続けて発光する現象を捕まえることで、反電子ニュートリノがカムランドに入射・到達した時刻、場所、エネルギーを正しく観測できる。

ノーベル物理学賞への貢献編集

2015年度のノーベル物理学賞はニュートリノに質量があることを示した研究に贈られたが、2002年に行われたカムランドの実験は、同賞の受賞理由を説明する文書でその貢献が言及された[2]。この実験は、原子力発電所原子炉で生まれる「反ニュートリノ」を使って、ニュートリノ振動をより詳しく確かめたものだった。

カムランド禅編集

カムランドの検出器は2011年からは、キセノン136のニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊(0νββ)を探索するプロジェクト「カムランド禅 (KamLAND-Zen)」に使用されている。ニュートリノを放出する二重ベータ崩壊(2νββ)は観測されたことがあるが、0νββは観測されたことがなく、観測されればニュートリノの質量を決定することができる。Zenは、Zero Neutrino Double Beta Decay Experimentの略である[3]

最初に公表された78日間の測定データに基づく結果は、キセノン135における0νββの半減期は90%の信頼度で5.7×1024 年以上、2νββの半減期は であり、他の実験結果と矛盾しないというものだった[4]

2011年10月から2012年6月の間に収集した第一期のデータと、キセノン純化後の2013年12月から2015年10月の第二期の間でデータを加え解析を行った結果、キセノン136における0νββの半減期の制限は90%の信頼度で1.07×1026 年以上に改善された[5][6]

エネルギー分解能の向上、キセノン濃度の向上、バックグラウンドの低減などを行い、さらに精度を向上することを目指している[7]

脚注編集

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  1. ^ CNOサイクル太陽ニュートリノ観測のためのデッドタイムフリー電子回路の開発
  2. ^ Scientific Background on the Nobel Prize in Physics 2015 NEUTRINO OSCILLATIONS”. Royal Swedish Academy of Sciences (2015年10月6日). 2015年10月9日閲覧。
  3. ^ KamLAND | プロジェクト開始目前、KamLAND-Zen!ミニバルーン製作vol.1
  4. ^ Gando, A. (19 April 2012). “Measurement of the double-β decay half-life of 136Xe with the KamLAND-Zen experiment”. Physical Review C 85 (4): 045504. arXiv:1201.4664. Bibcode2012PhRvC..85d5504G. doi:10.1103/PhysRevC.85.045504.  日本語解説
  5. ^ Gando, A. (16 August 2016). “Search for Majorana Neutrinos Near the Inverted Mass Hierarchy Region with KamLAND-Zen”. Physical Review Letters 117 (8): 082503. arXiv:1605.02889. Bibcode2016PhRvL.117h2503G. doi:10.1103/PhysRevLett.117.082503. PMID 27588852. 
  6. ^ 二重ベータ崩壊を使ったニュートリノ研究で宇宙物質優勢の謎に挑む | Kavli IPMU-カブリ数物連携宇宙研究機構
  7. ^ 禅プレスリリース (PDF) - 東北大学ニュートリノ科学研究センター

関連項目編集

外部リンク編集