カリコー・カタリン

ハンガリーの生化学者
この項目では、ハンガリー語圏の慣習に従い、名前を姓名順で表記していますが、インド・ヨーロッパ語族風にカタリン・カリコーと表記することもあります。(Template:ハンガリー人の姓名

カリコー・カタリンKarikó Katalin, [ˈkɒrikoː ˌkɒtɒlin], 1955年1月17日 - )はアメリカ合衆国在住のハンガリー人生化学者。BioNTech SE社上席副社長。RNAの修飾機構を専門とし、ガラス管内で修飾させたmRNAを用いて蛋白質療法への応用を研究する。RNARx社の共同創業者でCEOを務め(2006年–2013年[1])、2013年よりバイオンテックの重役を歴任し上級副社長(Senior Vice President)、またペンシルベニア大学の準教授職にある[1]

Karikó Katalin
カリコー・カタリン
カリコー・カタリン肖像(2020年)
肖像(2020年)
生誕 (1955-01-17) 1955年1月17日(66歳)
 ハンガリーソルノク市
国籍  ハンガリー
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
研究分野 生化学RNA技術
研究機関 現・国立セゲド大学 ハンガリー語版〔SZTE、エステ〕
テンプル大学
ペンシルバニア大学
バイオンテック
出身校 国立セゲド大学
主な業績 免疫と治療におけるmRNA技術
主な受賞歴 ローゼンスティール賞(2020年)
アストゥリアス皇太子賞学術・技術研究部門(2021年)
ルイザ・グロス・ホロウィッツ賞(2021年)
配偶者 フランツィア・ベーラ
Francia Béla
子供 フランツィア・ジュジャンナ英語版
Francia Zsuzsanna
英: Susan Francia
プロジェクト:人物伝
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ハンガリーとアメリカの二重国籍(アメリカ籍は1999年に取得)[注釈 1]ハンガリーのソルノク県(現在のヤース・ナジクン・ソルノク県ソルノク市出身。姓は「カリコー」と伸ばすが日本では英語からカリコと短母音で表記したり、名前のカタリンを英語風にケイトと表記したりするのも散見されるが、本人は複数のインタビューでも自分はハンガリー人であるということを強く主張している。

来歴・人物編集

ハンガリー人民共和国ソルノク県ソルノク市生まれで、ソルノクより50 km程東のソルノク県キシュウーイサーッラーシュ市ハンガリー語版英語版で育つ。父親は精肉業で母親は事務員だった。

8年制義務教育の国立アラニュ・ヤーノシュ街小中学校で生物学に興味を持つ。4年制の国立モーリツ・ジグモンド高等学校 ハンガリー語版で生物学で最優秀の生徒に与えられる第1回イェルミ・グスターヴ賞を受賞。1973年にチョングラード県セゲド市の国立ヨージェフ・アティッラ大学(JATE、ヤテ。現在の国立セゲド大学 ハンガリー語版〔SZTE、エステ〕)に入学、1978年に卒業。1975年から1978年までは人民共和国奨学金を得ていた。

大学卒業後、1978年から1982年までハンガリー科学アカデミー(MTA)の奨学金を受けて、ハンガリー科学アカデミー付属セゲド生物学センター(現在のエトヴェシュ・ロラーンド研究ネットワーク・セゲド生物学研究センターハンガリー語版)で有機科学者のトマス・イェネーハンガリー語版||[注釈 2]の下で博士課程研究に従事[注釈 3]、1983年に博士号を取得。夫はエンジニアのフランツィア・ベーラ[注釈 4]、セゲド生まれの長女はボート競技のエイトでオリンピック金メダリスト(アメリカ)のフランツィア・ジュジャンナ英語版である[注釈 5]

在学中からRNA研究に取り組み、主要研究は、RNAの免疫原性を抑制するヌクレオシド修飾プロセスの発見で、RNA媒介免疫活性化が代表的研究であり[2][3][4]mRNA研究の臨床応用への道を開いた。国の奨学金を得て研究者生活を送っていた。しかし、ハンガリー経済が社会主義の一党独裁で疲弊し、対外債務で首が回らなくなった政府が、セゲド・センターの予算を大幅に削減、地味なテーマであるRNAの予算が打ち切られ、事実上失業した(1985年)[5]

テンプル大学に同1985年に招聘されると、娘のクマのぬいぐるみにあり金を詰め、アメリカに移住。アメリカの免疫学者ドリュー・ワイスマンとの共同研究で伝令RNA(messenger RNA = mRNA)の医療への応用の道を確実にする[4][6]。mRNAの臨床研究への貢献としても注目された[7]

アメリカ国内での非免疫ヌクレオシド変形RNAに関する特許をワイスマンと共同保有している。この研究によりmRNAの抗ウイルス応答が癌ワクチンの腫瘍予防に有効であることが明らかになり、2020年には、この技術がファイザーとバイオンテクが共同開発したCOVID-19ワクチンにも応用された。

同じ技術が、モデルナのワクチンにも応用されており[7][8]、欧米の研究者などからは、実用化の鍵を握るこの研究成果はノーベル賞に値するという声もあがっている[9]。また、2006年から2013年までRNARx社の共同創設者兼CEOを務めた[1][10]

主な受賞歴編集

栄誉編集

主な著作編集

その他編集

出演編集

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ Wikipediaの項目執筆に関する問い合わせに対して本人からメールで回答。
  2. ^ トマス・イェネーTomasz Jenő [ˈtomɒs ˌjɛnøː]は、アメリカのロックフェラー大学名誉教授トマス・シャーンドル(Tomasz Sándor [ˈtomɒs ˌʃɑ̈ːnor])の実弟である。英語風表記では Alexander Tomasz。日本ではポーランド人と誤解されてトマシュ(Tomasz [ˈtɔ.maʂ])と表記されたり、英語名のThomas [ˈtɒ.məs, ˈtɑ.məs] と誤読されてトーマスと表記されることもある。
  3. ^ 当時は日本の大学院のような博士課程養成機関は存在せず、博士号取得のためには大学の研究室や研究所に所属して、そこで博士号取得のための研究を続け、博士論文を執筆することになっていた。
  4. ^ Francia Béla [ˈfrɒnt͡siɒ ˌbe̝ːlɒ]
  5. ^ Francia Zsuzsanna [ˈfrɒnt͡siɒ ˌʒuʒɒnnɒ]。ハンガリーとアメリカの二重国籍なのでアメリカではSusan Franciaと表記されることが多い。

出典編集

  1. ^ a b c Katalin Karikó” (英語). 8th International mRNA Health Conference. 2021年1月10日閲覧。
  2. ^ Karikó, Katalin; Buckstein, Michael; Ni, Houping; Weissman, Drew (1 August 2005). “Suppression of RNA Recognition by Toll-like Receptors: The Impact of Nucleoside Modification and the Evolutionary Origin of RNA” (英語). Immunity 23 (2): 165–175. doi:10.1016/j.immuni.2005.06.008. PMID 16111635. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1074761305002116. 
  3. ^ “Incorporation of pseudouridine into mRNA yields superior nonimmunogenic vector with increased translational capacity and biological stability”. Molecular Therapy 16 (11): 1833-1840. (November 2008). doi:10.1038/mt.2008.200. PMC 2775451. PMID 18797453. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1525001616326818. 
  4. ^ a b “Incorporation of pseudouridine into mRNA enhances translation by diminishing PKR activation”. Nucleic Acids Research 38 (17): 5884-5892. (September 2010). doi:10.1093/nar/gkq347. PMC 2943593. PMID 20457754. https://academic.oup.com/nar/article-lookup/doi/10.1093/nar/gkq347. 
  5. ^ 大西康之「コロナ禍の人類を救った「辺境人」」『FACTA』第2021.7巻、2021年7月、 22-24頁。
  6. ^ “Incorporation of pseudouridine into mRNA yields superior nonimmunogenic vector with increased translational capacity and biological stability”. Molecular Therapy 16 (11): 1833–40. (November 2008). doi:10.1038/mt.2008.200. PMC 2775451. PMID 18797453. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2775451/. 
  7. ^ a b Kollewe, Julia (2020年11月21日). “Covid vaccine technology pioneer: 'I never doubted it would work'”. The Guardian. https://www.theguardian.com/science/2020/nov/21/covid-vaccine-technology-pioneer-i-never-doubted-it-would-work? 2020年11月22日閲覧。 
  8. ^ The story of mRNA: From a loose idea to a tool that may help curb Covid” (英語). STAT (2020年11月10日). 2021年1月10日閲覧。
  9. ^ 日本放送協会. ““革新的”研究成果がコロナワクチン開発に 女性科学者の思い”. NHKニュース. 2021年5月30日閲覧。
  10. ^ Katalin Kariko – Associate Professor of Neurosurgery in Philadelphia, Pennsylvania, United States Of America” (英語). emedevents.com. 2021年7月19日閲覧。
  11. ^ “Karikó Katalin biokémikus kapta az első Közmédia Év Embere Díjat” (ハンガリー語). Duna Médiaszolgáltató. (2021年1月5日). https://dunamsz.hu/2021/01/05/kariko-katalin-biokemikus-kapta-az-elso-kozmedia-ev-embere-dijat/ 2021年4月23日閲覧。 
  12. ^ Lewis S. Rosenstiel Award for Distinguished Work in Basic Medical Research”. Brandeis University. 2021年4月14日閲覧。
  13. ^ “Auszeichnung: Biontech-Forschungsleiterin Katalin Karikó erhält Exner-Medaille” (ドイツ語). Wiener Zeitung. (2021年3月18日). https://www.wienerzeitung.at/nachrichten/wissen/forschung/2096894-Biontech-Forschungsleiterin-Katalin-Kariko-erhaelt-Exner-Medaille.html 2021年3月21日閲覧。 
  14. ^ Wilhelm Exner Medaillen 2021 an Katalin Karikó und Luisa Torsi” (ドイツ語). OTS.at (2021年3月18日). 2021年3月21日閲覧。
  15. ^ Princess of Asturias Award 2021
  16. ^ Balogh, Krisztina (2021年3月15日). “Karikó Katalin és Merkely Béla is Széchenyi-díjat kapott” [Katalin Karikó and Béla Merkely also received the Széchenyi Prize] (ハンガリー語). index.hu. 2021年3月21日閲覧。
  17. ^ “Karikó Katalin megkapta a legrangosabb magyar orvosi díjat” (ハンガリー語). hvg.hu. (2021年5月25日). https://m.hvg.hu/tudomany/20210525_kariko_katalin_semmelweis_dij 2021年5月26日閲覧。 
  18. ^ “Újabb tengeren túli elismerésben részesült Karikó Katalin” (ハンガリー語). ripost.hu. (2021年2月4日). https://ripost.hu/politik/insider/ujabb-tengeren-tuli-elismeresben-reszesult-kariko-katalin-magyarul-szolt-a-dijatado-galan-2752913/ 2021年5月27日閲覧。 
  19. ^ “Rangos elismerést kap Magyarországon Karikó Katalin” (ハンガリー語). Magyar Nemzet. (2021年2月12日). https://magyarnemzet.hu/belfold/rangos-elismerest-kap-magyarorszagon-kariko-katalin-9365669/ 2021年4月14日閲覧。 
  20. ^ Katalin Karikó and Drew Weissman Awarded Horwitz Prize for Pioneering Research on COVID-19 VaccinesColumbia University, 12. August 2021
  21. ^ Penn mRNA Researchers Drew Weissman and Katalin Karikó Awarded the 2021 Albany Prize
  22. ^ 第26回(2021年)受賞者
  23. ^ Dr. Katalin Karikó receives 2022 Vilcek Prize for Excellence for pioneering vaccine research” (英語). Vilcek Foundation. 2021年6月8日閲覧。
  24. ^ Breakthrough Prize in Life Sciences
  25. ^ The Paul Ehrlich and Ludwig Darmstaedter Prize 2022 will be awarded to Katalin Karikó, Özlem Türeci and Uğur Şahin
  26. ^ Önkormányzati kitüntetettek” [Municipal honorees] (ハンガリー語). kisujszallas.hu. 2021年5月27日閲覧。
  27. ^ Szabó, Viktor (2021年3月12日). “Karikó Katalin lett Csongrád-Csanád megye díszpolgára” (ハンガリー語). promenad.hu. https://www.promenad.hu/2021/03/12/kariko-katalin-lett-csongrad-csanad-megye-diszpolgara/ 2021年4月14日閲覧。 
  28. ^ “BioNTech's Karikó to Receive Honorary Citizenship of Szeged”. hungarytoday.hu. (2021年1月20日). https://hungarytoday.hu/biontechs-kariko-covid-vaccine-honorary-citizenship-szeged/ 2021年4月14日閲覧。 
  29. ^ BioNTech's Karikó to be awarded honorary doctorate by University of Szeged”. dailynewshungary.com (2021年1月27日). 2021年4月14日閲覧。
  30. ^ Katalin Kariko 出版者:タイム 更新日;2021年9月15日
  31. ^ 新生ワクチンは世界を救うのか!?開発の立て役者・カリコ博士×山中伸弥”. NHK (2021年5月27日). 2021年5月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年9月6日閲覧。
  32. ^ 世界を変える“大発見”はこうして生まれた カリコ×山中伸弥”. NHK (2021年7月10日). 2021年7月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月17日閲覧。

関連項目編集

外部リンク編集

Scholiaにはカタリン・カリコ (Q88608397)に関するプロフィールがあります。