ワシントン公園のカリヨン
カリヨンのバトン鍵盤
フランス・ペルピニャンのサン=ジャン=バプティスト教会でのブライアン・スウェイガーによるカリヨン演奏

カリヨン: carillon)は、複数のを組み合わせて旋律を演奏できるようにしたものをいう。鐘楼建築物に設置され、最低23鐘2オクターブ以上で、バトン式鍵盤で演奏する[1]日本語では“組み鐘”と訳される。

歴史編集

ラテン語の“四個で一組”が語源。フランドル地方(ベルギー、オランダ)の伝統楽器で、14世紀ごろ、時刻を知らせる教会や物見塔、鐘楼の大鐘が鳴ることを事前に知らせるための「前打ち」と呼ばれる小さな鐘が付け加えられたことに始まる。15世紀から16世紀にかけて競い合うように前打ちの鐘の数が増え、17世紀に全盛期を迎えたが、中全調律から平均律への移行に伴い、調性の問題から民衆に好まれる演奏曲が減少したこと、また、カリヨン鋳造家の衰退も相まって、19世紀には機械式時計の発達と合わせ衰退するが、20世紀初頭になりカリヨンの魅力が見直され、1922年にベルギー・メッヘレンにカリヨン学校が創立され(Royal Carillon School "Jef Denyn")、北米でも1934年に北米カリヨンギルドThe Guild of Carillonneur in North America)が設立され、鋳造、調律技術、奏者の育成が図られている。

バトン式鍵盤編集

カリヨンには、手動演奏のための手鍵盤と足鍵盤が備えられており、鍵盤と鐘はワイヤーで繋がっている。カリヨンそのものが非常に重量のあるものであるために、演奏には多大な力を必要とされ、指で簡単に演奏できる仕組みが不可能である。したがって、バトン(リレーで手渡す棒「バトン」と同義語)と呼ばれる丈夫な棒で鍵盤ができており、その一つ一つを奏者が拳で力を込めて叩きながら演奏する。拳によって大きな力エネルギーを鐘へと伝える必要があり、片手ごとに1音しか同時に演奏できないため、足鍵盤を併設して共に多くの音が発せされるスタイルが定着した。

日本においては、カリヨネアが少ないこともあり、鍵盤を有しない自動演奏のカリヨンが多い。

カリヨネア編集

カリヨン奏者をフランス語では男性ならcarillonneur、女性ならcarillonneuseと言う。日本語ではcarillonneurを英語風に読んだ「カリヨネア」とも呼ばれる。

オルガン奏者がカリヨンを演奏することもあるが、オランダとベルギーにはカリヨン学校があり、専門のカリヨネアを育成している。塔によって設置される鐘の数が異なることや、塔のサイズによって鐘の大きさが規定されるという事情のため、カリヨンごとに音域が異なり、鍵盤自体が移調されているものもある。このため、それぞれのカリヨン塔に専属のカリヨネアを抱えていることが多い。日本にもオランダないしベルギーのカリヨン学校で正規の教育を受け、卒業試験を経てディプロマを取得した数名の日本人カリヨネアが存在し、また、北米のカリヨンギルド(The Guild of Carillonneur in North America)のギルド試験に合格した日本人カリヨネアも2019年に誕生している。

派生した楽器グロッケンシュピール編集

カリヨネアの練習用や、もっと手軽に鐘の音楽が得られるために、カリヨンではなく金属棒を叩いて奏するグロッケンシュピール(グロッケンはドイツ語で「鐘」のこと)が発明された。当初は鍵盤によって演奏される形であったが、後に鍵盤が排除され、直接ばちで金属棒を叩く鉄琴が発明され、それが現在のグロッケンシュピールである。現在、グロッケンシュピール(鉄琴)というと、鍵盤のない金属打楽器のことを指し示すが、本来は鍵盤のついたものを指していたことが永い間忘れ去られていた。

古い例では、ヘンデルオラトリオサウル』やモーツァルトの『魔笛』で、古来の鍵盤式のグロッケンシュピールが使用された例が残っているが、鍵盤式のグロッケンシュピールが廃れてしまっていたため、打楽器としてのグロッケンシュピールによって代用されて演奏されてきた。ピリオド楽器を使用することが重要視される近年に至って、ようやく、本来のグロッケンシュピール、つまり現代でいうところの鍵盤付グロッケンシュピールが復興され、演奏にも使用されるようになった。

現在の練習機には、グロッケンシュピールの代わりにMIDIのセンサーと接続し、デジタル採録された音源を再生できる電子式のものもある。

カリヨンの設置例編集

ベルギーフランスの56の鐘楼が「ベルギーとフランスの鐘楼群」として世界遺産に登録されている。世界最多鐘数のカリヨン(世界カリヨン連盟に登録)はアメリカ合衆国ミシガン州ブルームフィールド郡区にある Kirk in the Hills のカリヨン(77鐘)であったが[2]大韓民国大田広域市の大田科学技術大学校の鐘が78鐘に増えて世界最多になった[3]。ヨーロッパでは主に都市の真ん中に設置され、その街の象徴の役割を果たすものが多いが、北米のカリヨンは街の象徴としてのカリヨンの他に、大学や植物園などに設置されているものが多いのが特徴である。例としてイェール大学、シカゴ大学、フロリダ大学、ミシガン大学、カリフォルニア州立バークレー校、カナダではトロント大学などがある。植物園に設置されている例としてはフロリダのBok Towerなどが有名である。カナダは国会議事堂の建物の中央部 Peace Towerがカリヨンとなっている。

オランダ編集

オランダのマーストリヒト市庁舎は歴史的な建造物で、塔には49鐘のカリヨンがあり、毎週土曜日12時30分に鳴り響く[4]

日本編集

1970年日本万国博覧会(オランダ館)で日本に初めて紹介された28鐘のカリヨンは、数個の鐘のみモニュメントとして大阪南港のポートタウンショッピングセンターに設置されている。設置数が少ないこともあり日本国内の演奏者は数少ない。

現在日本国内に設置されているカリヨンのうち、本格的な鍵盤を有するカリヨンは次の4基である。

  • インテックス大阪
    37鐘、3オクターブ、小型の鐘で総重量5トンと軽量なトラベリングカリヨン(移動式床置型)で、1984年の第2回御堂筋パレードにフロート参加した。大阪城公園に運ばれてブラスバンドとのジョイントコンサートや多数の市民が演奏体験したこともある。
  • ハウステンボス
    「カロヨン」と称する。37鐘、3オクターブあり、屋内にタワー型で設置されている。開園当時は50鐘のトラベリングカロヨン(電動自動車に搭載)が園内を運行していた。
  • 神慈秀明会神苑(非公開)
    イオ・ミン・ペイが設計した三味線の形のベルタワーで、カリヨン塔の高さが60メートル、50鐘、4オクターブ、鐘も大きく日本最大のカリヨンである。教祖殿前の広場に設置されている。なお、教祖殿は、鉄筋コンクリート建造物の柱間距離が日本最大である。
  • JR伊丹駅西側広場
    1990年11月9日竣工。カリヨン塔の高さが15メートル、43鐘、4オクターブある。8月15日に平和の鐘カリヨンコンサート、6月19日頃に国際カリヨンの日を記念したコンサートが開催される。カリヨン塔の5階部分に鐘が設置され、鍵盤は4階部分にある。愛称「フランドルの鐘」[5]。日本で公共の場に設置された唯一のカリヨン。

ほか、日本には、鐘の数は数個から数十個まで様々であるが、デザインに優れた自動演奏のカリヨンが数多くある。宇都宮市ベルモールのカリヨンは、ツリー型で49鐘、コンピュータでの音量調整機能で室内設置に対応しており、自動演奏はもとよりキーボードで演奏もできる。

脚注編集

[脚注の使い方]
  1. ^ Marietta Douglas (2002), What is a carillon?, http://www.cs.yale.edu/homes/douglas-craig/bells/Basic/what-is-a-carillon.pdf 
  2. ^ The Kirk Callion, Kirk in the Hills, http://www.kirkinthehills.org/ministries/music/instruments/carillon 
  3. ^ Message from President, Daejeon Institute of Science and Technology, http://www.dst.ac.kr/eng/0103 
  4. ^ 『るるぶオランダ・ベルギー 2017年版』JTBパブリッシング、44頁
  5. ^ フランドルの鐘(カリヨン) 伊丹市

関連項目編集

外部リンク編集