クトゥルフ神話の文献

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クトゥルフ神話の文献について記載する。

クトゥルフ神話の構成要素の一つが、禁断の書物である。ほとんどがクトゥルフ神話用に設定された架空の書物であるため、本記事では著者と創造者を区別して記載する。

マサチューセッツ州アーカムミスカトニック大学付属図書館は、クトゥルフ神話の文献を所蔵する。

個別記事有り編集

ネクロノミコン
「死霊秘法」とも邦訳される。原題はアル・アジフ。著者:アブドル・アルハズラット。創造者はハワード・フィリップス・ラヴクラフト。アルハズラットが西暦730年頃に著した「アル・アジフ」のこと。他言語翻訳に際して題名が「ネクロノミコン」に変わった。現存するネクロノミコンは、完全なアル・アジフではなく内容が欠損したものである。
クトゥルフ神話を代表する文献。ネクロノミコンを現実に作品として作ってしまう例も出ている。
エイボンの書
著者:ハイパーボリアの魔術師エイボン(の、弟子?)。創造者はクラーク・アシュトン・スミス
無名祭祀書
著者:フリードリヒ・ヴィルヘルム・フォン・ユンツト。創造者はロバート・E・ハワード
妖蛆の秘密
著者:ルートヴィヒ・プリン。創造者はロバート・ブロック
ルルイエ異本
ルルイエクトゥルフ崇拝にまつわる書物。創造者はオーガスト・ダーレス
黄衣の王
ハスター崇拝の書物。もとは非クトゥルフ神話の書物だったが、ラヴクラフトとダーレスがクトゥルフ神話設定に取り込んだ。

文献編集

屍食教典儀(ししょくきょうてんぎ、仏:Cultes des Goules、英:Cults of the Ghouls)。
作者はダレット伯爵で、1702年ごろに書かれた。フランス国内の、人肉嗜食や屍姦行為などを行う邪教について詳細に記述されている。フランスで出版されたが、出版後ただちにカトリック教会によって出版禁止とされた。ミスカトニック大学に1部、それ以外に13部が現存するという。
初出はロバート・ブロック著『自滅の魔術』[1]だが、著者名と題名のみ。後にブロックの『哄笑する食屍鬼』にて、主人公がグール(食屍鬼)調査目的で読んでいる[2]
題名は有名になったが、内容については踏み込んだ作品は少なく、不明点が多い文献である。文献の内容よりも、創造にあたっての神話作家たちの内輪エピソードで知られる。「ダレット伯爵」は、ブロックの作家仲間である「オーガスト・ダーレス」のもじりであり、かつオーガストの先祖「という設定の人物」。作家友達同士の内輪ネタである。フランスのダレット伯爵家がドイツバイエルンに移住してダーレスと改名した後アメリカに渡ったというところまでは事実であり、そこにクトゥルフ神話の架空のオカルト設定が付与された。
セラエノ断章(セラエノだんしょう、Celaeno Fragments)
プレアデス星団の恒星セラエノ(=天文学おうし座の恒星ケラエノ)の第四惑星の大図書館にあった破損した石板。この内容の写しをミスカトニック大学のラバン・シュリュズベリイ博士が英語に翻訳した自筆写本1部。
シュリュズベリイ博士は1915年にミスカトニック大学附属図書館に預けた。博士は回収したり預けたりをくり返している。第三者が閲覧することもあったようだが、後に図書館側の管理が厳しくなり閲覧が困難となっている。
初出はオーガスト・ダーレス著『永劫の探究[3]。同作品における最重要文献であり、黄金の蜂蜜酒の製法、バイアクヘーの召喚法など、クトゥルフ教団と戦うという物語に大きく関わる。またダーレス著『破風の窓』[4]にて第三者が閲覧して簡易版を作っている。
水神クタアト(すいじんクタアト、Cthaat Aquadingen / Cthäat Aquadingen)
著者不明。四百年以上前に書かれた。ラテン語人革装丁版3冊が現存する。この特製装丁により、雨が降る前に湿り気をおびるという。1部は大英博物館で厳重に管理されている。海や水の魔物について詳しい。
ブライアン・ラムレイが創造した書物。『地を穿つ魔 <タイタス・クロウ・サーガ>』[5]などに登場。
ナコト写本(ナコトしゃほん、Pnakotic Manuscript)
クトゥルフ神話で言及される書物の中でも最も古いもの。ドリームランドに1冊、現実世界には15世紀に訳された英語の写本が5冊あるがいずれも不完全版。
  • 知識の源泉は人類誕生以前のイースの大いなる種族であるらしい。
  • 長い時代を経て、氷河時代以前の北極圏ロマールの民が人間の言語に翻訳(写本)した。ロマールの民はノフ=ケー族に滅ぼされる。
  • ロマールのナコト写本最後の1冊がドリームランドに持ち込まれ、ウルタールの神殿で保管されている。賢人バルザイは、ドリームランドに住まう「大地の神々」についてこの書から学んだという。
  • また、ロマールから別ルートを介して、不完全版がハイパーボリアにもたらされる。エイボンの書宗派と縁ある秘密宗派が所持する。
内容は多岐におよぶ。イースの大いなる種族について書かれており、時間遡行薬の製法と護符たるナコト五角形についての記載もある。第八断片にはラーン=テゴスに関する詳細な記述が存在する。
初出は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト著『北極星』(Polaris)[6]。リン・カーターの『炎の侍祭』はナコト写本の、後期に付け加えられた部分。
イステの歌(イステのうた、英:Song of Yste)
原著不明。太古の人類の魔術師「ディルカ一族」が伝え、その後ギリシャ語、ラテン語、アラビア語とエリザベス朝の英語に翻訳されている。アドゥムブラリ種族について詳しく書かれている。
初出はロバート・A・W・ロウンデズの『深淵の恐怖[7]
エルトダウン・シャーズ(Eltdown Shards)
1882年にイギリス南部エルトダウンで発見された23枚の粘土板破片(シャーズ)。人類以前の言語で刻まれていた。当初は翻訳不可能と言われたが、アーサー・ブルック・ウィンスタース=ホール牧師とウィットニィ博士が別々に翻訳を成功させている。
  • 【ラヴクラフト設定=ホール牧師版】[8]ホール牧師が粘土板のごく一部を英語翻訳し、1912年に64ページの小冊子として350部を印刷した。イースの大いなる種族やイース星系について触れられている。内容がナコト写本と「似ている」。
  • 【シーライト設定=ウィットニィ博士版】第19粘土板のほぼ完全な翻訳。全知を司るという「知識を守るもの」の召喚術が書かれている。だが翻訳を終えた博士は死んでいる。
創造者はリチャード・F・シーライトで、『暗恨』[9]知識を守るもの[10]に登場。またラヴクラフトがシーライトの添削に関わったこともあって自作に積極的に織り込んでもいる。そのため二作家で設定が必ずしも一致しない。RFシーライトの息子のフランクリン・シーライトもクトゥルフ神話を手掛けており、プニーフタールへの言及など、本文献の内容を拡張している。
告白録(発狂した修道士クリタヌスの告白録、狂える修道士クリタナスの懺悔、Confessions)
封印された邪神が戻って来たとき、キリスト教の聖人たちが旧神の力を借りて再び邪神を封じ込めたという逸話が書かれている。また、ラテン語による旧神召喚呪文や、クトゥルフの眷属召喚法(賢人なら邪神を利用もできるという思惑)なども記載されている。
著者は修道士クリタヌス。彼の師はヒッポ司教の聖アウグスティヌスであり、師は旧神の力を扱う聖人であったという。クリタヌスは発狂したことで英国の修道院から追放され、ローマで執筆した。
創造者はオーガスト・ダーレス。登場作品:『湖底の恐怖[11]彼方からあらわれたもの[12]エリック・ホウムの死[13]
イオドの書(イオドのしょ、英:Book of Iod)
創造者はヘンリー・カットナー、初出作品は『恐怖の鐘[14]。カットナーが創造した神イオドと同名だが、カットナーは関係性を説明していない。
原本が1部のみ現存するとされ、カリフォルニアハンティトン図書館にはジョウハン・ニーガスによる英訳削除版が収蔵されている。内容はズシャコンについて書かれているが、削除版では多くの記述が検閲で消されおりわからないことが多い。ローレンス・J・コーンフォードの『ウスノールの亡霊』にて、エイボンの書に引用される形で言及がある。
サセックス草稿(サセックスそうこう、英語: The Sussex Manuscript
ネクロノミコンの写本だが、異質。別名、悪の祭祀(Cultus Maleficarum)。1597年にフレデリック男爵によってイギリスのサセックス州で八折り判として印刷された(サセックス草稿の名はこれにちなむ)。オリジナルの写本は大英博物館に所蔵されている。
オーガスト・ダーレスの『永劫の探究[3]に登場する。創造者はフレッド・ペルトン
ペルトンのクトゥルフ神話に則る。従来のラヴクラフト・ダーレスのクトゥルフ神話とは逸脱レベルで異なり、当時としては斬新すぎるものであった(尤もダーレスは本書に好意的であり、作中にも登場させている)。そのため、クトゥルフ神話の文献全体の位置づけとしては、ネクロノミコンだが「不完全な写本」とされる。
グラーキの黙示録(グラーキの啓示、Revelations of Glaaki)
ラムジー・キャンベルが創造した書物。初出はキャンベル著『湖畔の住人[15]
英国のとある湖の湖畔に存在したグラーキ教団による書物。内容としては、キャンベル独自のクトゥルフ神話の内容に詳しく踏み込んだものとなっている。
原稿11巻分の完全な写本が作られ、そこから製本される過程で原稿が欠落して、不完全な9巻本海賊版として製本される。海賊版第9巻はブリチェスター大学に一時期保管されていたが、諸事情により散逸した。また、教団は1870年頃に潰れたものの、続編の執筆者の存在がうわさされている。
ポナペ経典(ポナペ島経典、Ponape Scripture)
クトゥルフとガタノソア系の文献。著者はガタノソアの神官イマシュ=モ達と推定される。原本と翻訳写本がある。
原本は、ムー大陸のナアカル語でヤシの葉の皮紙に書かれていた。1734年に、アーカムの貿易商ホーグ船長がポナペで発見して持ち帰り、英訳されて秘密裏に邪教徒やオカルティストの間で読み回される。インスマスダゴン秘密教団も参考にしていた可能性が高い。
リン・カーターの『時代より』『墳墓に棲みつくもの』に登場しており、登場人物であるコープランド教授は当文献を解読研究した論文を発表して学会を追われている[16][17]
ザントゥー石板(サントゥー粘土板、Zanthu Tablets)
イソグサの神官ザントゥー(サントゥー)が記した黒翡翠の文字板12枚(10枚とも。Tabletsを粘土板と訳されることがあるが、材質は黒翡翠の石である)。
1913年に、コープランド教授が(ポナペ経典を解読して突き止めた)中央アジアツァン高原のザントゥーの墓で発見する。教授は「推測的な翻訳」を発表したが、大バッシングを受ける。その後、教授の遺贈物としてサンボーン研究所が所蔵する。
墳墓に棲みつくもの』『陳列室の恐怖』に登場するほか、第7の石板=『赤の供物』、第9の石板=『奈落の底のもの』と、石板の翻訳がそのままクトゥルフ神話短編作品になっている。[18][17]
ガールン断章(グハーン断章、G'harne Fragments)
粘土板の翻訳。コズミック地理書。特に、地底都市ガールンについて書かれていたことから、ガールン断章と呼ばれるようになった。著した種族は樽型人クトゥルフクトーニアンと敵対していた種族である)。
創造者はブライアン・ラムレイ。

脚注編集

【凡例】

  • 全集:創元推理文庫『ラヴクラフト全集』、全7巻+別巻上下
  • クト:青心社文庫『暗黒神話大系クトゥルー』、全13巻
  • 真ク:国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系』、全10巻
  • 新ク:国書刊行会『新編真ク・リトル・リトル神話大系』、全7巻
  • 新潮:新潮文庫『クトゥルー神話傑作選』、2020年既刊2巻
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注釈編集

出典編集

  1. ^ 朝日ソノラマ「暗黒界の悪霊」収録『自滅の魔術』ロバート・ブロック
  2. ^ クト12『哄笑する食屍鬼』ロバート・ブロック
  3. ^ a b クト2『永劫の探究』オーガスト・ダーレス
  4. ^ クト1『破風の窓』ラヴクラフト&ダーレス
  5. ^ 創元推理文庫『地を穿つ魔 <タイタス・クロウ・サーガ>』ブライアン・ラムレイ
  6. ^ 全集7『北極星』ラヴクラフト
  7. ^ クト11『深淵の恐怖』ロバート・A・W・ロウンデズ
  8. ^ 真ク2『彼方よりの挑戦』※5作家によるリレー共作。ラヴクラフトは第3章を担当
  9. ^ 真ク10&新ク5『暗恨』リチャード・F・シーライト
  10. ^ クト11『知識を守るもの』リチャード・F・シーライト
  11. ^ クト12『湖底の恐怖』オーガスト・ダーレス&マーク・スコラ―
  12. ^ クト13『彼方からあらわれたもの』オーガスト・ダーレス
  13. ^ クト13『エリック・ホウムの死』オーガスト・ダーレス
  14. ^ クト13『恐怖の鐘』ヘンリー・カットナー
  15. ^ 扶桑社「クトゥルフ神話への招待2」収録『湖畔の住人』ラムジー・キャンベル
  16. ^ KADOKAWA/エンターブレイン「クトゥルーの子供たち」収録『墳墓に棲みつくもの』リン・カーター
  17. ^ a b 真ク&9新ク5『墳墓の主』リン・カーター
  18. ^ KADOKAWA/エンターブレイン「クトゥルーの子供たち」収録『墳墓に棲みつくもの』『陳列室の恐怖』『赤の供物』『奈落の底のもの』リン・カーター