クマネズミ(熊鼠、英名:Black Rat、学名:Rattus rattus または 英名:Asian Rat、学名:Rattus tanezumi)は、 ネズミ目(齧歯類)・ネズミ科クマネズミ属に属する大型のネズミの一種。同属のドブネズミ、小型のハツカネズミと並んで、人家やその周辺に棲息するネズミ類(家ネズミ)の一つ。江戸時代の日本ではクマネズミのことを「田ねずみ」と呼んでいた[1]

クマネズミ
Rattus rattus03.jpg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネズミ目 Rodentia
亜目 : リス亜目 Sciurognathi
下目 : ネズミ型下目 Myomorpha
上科 : ネズミ上科 Muroidea
: ネズミ科 Muridae
: クマネズミ属 Rattus
: クマネズミ R. rattus
学名
Rattus rattus
(Linnaeus, 1758)
和名
クマネズミ (熊鼠)
タネズミ (田鼠)
英名
Black rat
Pinkroof rat
Ship rat
House rat
頭骨

ヨーロッパやオセアニアの Rattus rattus とアジアの Rattus tanezumi を別種とする説もある。日本には主に Rattus tanezumi が分布するが、鹿児島県父島では雑種が見つかっている。 同種とする場合は Rattus rattus が共通の学名となる。

目次

分布編集

世界各地に棲む。日本にもほぼ全域に棲息するが、2世紀頃に人間とともに大陸から渡ってきた史前帰化動物と考えられる[2]

東南アジアの森林地帯が原産で、あたたかく比較的乾いた場所を好み、人間生活への随伴性を身につける前は樹上生活が生活の中の重要な要素であったこともあり、高所への上り下りが得意。英名に Roof rat(屋根ネズミ)ともいうように、天井裏を騒々しく駆け回るのは、このクマネズミであることが多い。近年、都会のビル街で増えている。一方、中央アジア原産のドブネズミは湿った場所を好み、高所との行き来がやや不得意なので、建物内でも地階以下に多い。

形態編集

頭胴長146-240mm、尾長150-260mm、後足長22-40mm、体重150-200g。クマネズミの尾長は、頭胴長と同じか、それよりやや長い傾向がある(これに対して、ドブネズミは、尾長が頭胴長よりやや短い傾向がある)[3]。背面は褐色ないし灰褐色で、腹面は淡黄褐色や黄色みを帯びた灰色または白色。

耳は比較的大きく、前に倒すと目が隠れる。これにより、ドブネズミ(耳が比較的小さく、前に倒しても目に達しない)と区別することができる。乳頭数は10-12。

染色体数は、ドブネズミと同じく 2n=42。 ただし、染色体、生化学的・形態的特徴から、オセアニアヨーロッパR.rattus と、アジアR.tanezumi に分けられるという見解がある[3]。前者は染色体数 2n=38,後者は 2n=42 であるという。

生態編集

生息地編集

クマネズミの多くは建物内に棲むが、伊豆諸島小笠原諸島南西諸島では、畑の周辺や森林内などでも見られ、半樹上性生活をするものもあり、無人島にも分布する[3]

建物内で暮らすクマネズミは、ビルや天井裏など、比較的乾燥した高いところに生活する。高さと幅が10cmくらいの空間を好む傾向がある。手足の肉球滑り止めとなるヒダがあって登攀(とうはん)力にすぐれ、電線や水道管などもたくみに渡ることができる。

小笠原諸島など温暖な島では昼間も見られる一方で、都会では夜間に活動する。「ネズミ道」と呼ばれる壁づたいの通路では、毛皮がこすりつけられるため、壁に黒または灰色のサインが残る。ネズミ道は黒ずんでいるものがほとんどであるため発見は容易。

食性編集

雑食性で、種実類(穀物や果実、またはその加工品)が食物の過半量を占め、動物質は比較的少ない。動物の肉や魚介類はあまり好まないが、ゴキブリなど昆虫類は好んで食べる。水分補給のため、柔らかい茎や葉なども摂取する。

ビルでの増殖編集

かつての日本家屋では、天井に営巣するクマネズミと、台所や下水道に穴居するドブネズミが、生活の場を棲み分けていた。ハツカネズミはもともと他の2種と比べると少ない。 その後、戦後の都市化とともに、地下街や下水道など湿った場所を好むドブネズミが勢力を伸ばしたが、1970年ごろからの高層ビル建築ラッシュとともに、乾燥した高いところを好み登攀力に優れ、配管等を伝ってフロア間を自由に行き来することができるクマネズミが目立ち始めた。現在、都内での調査によるとネズミ関連の相談件数で種の断定ができたものの9割合以上がクマネズミであり住宅の屋根裏などに住むネズミのほとんどがクマネズミとなっており、都会の高層階でもクマネズミが大量発生している。[4]

クマネズミは他のネズミより警戒心が強く捕獲しにくい。殺鼠剤に耐性のある肝臓の毒代謝能力の高いものが多く現れており、捕獲が難しくこれも増加の一因となっている。ビル内は一年中温度が一定に保たれているため、冬でもさかんに繁殖し、東京では特に夏期に繁殖活動が上昇しており、主要都市を中心にビル内でクマネズミが増殖し続けている。ただし例外的に北海道札幌市では衰退しつつあり、日本の他の都市と比べて道路幅が広いことから都市の区画間の移動が阻まれ、遺伝的な交流が妨げられているのではないかという仮説が提唱されている。

近年の変化編集

近年では殺鼠剤に耐性のある肝臓の毒代謝能力の高いものが現れている[5]。クマネズミ 以外のネズミにも同様の耐性を持つ個体が見られるようになり、これらを含め総括して「スーパーラット」と呼ばれる。スーパーラットにも効く殺鼠剤も研究されて現在では薬局などで市販されている。但し、スーパーラットのほとんどがクマネズミである。

生活環編集

妊娠期間は21-24日。胎児数は2-18子で、平均5.5子を産む。子は生後20日ほどで離乳し、12-16週で性成熟する。寿命は、野外で1-2年。

天敵編集

捕食者は、ネコイタチフクロウノスリアオダイショウなど。イエダニはクマネズミに多く寄生する。伊豆諸島ではツツガムシとペストノミの主要寄主、小笠原諸島や南西諸島ではカントンジュウケツセンチュウの主要寄主である。

家ネズミ編集

野外に棲息するアカネズミハタネズミなどの「野ネズミ」に対して、人家やその周辺に棲息するネズミ類を「家ネズミ」と呼ぶ。日本のネズミ類のうちでこれに当たるものは、ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミの3種にほぼ限られる。

参考文献編集

  1. ^ 金子之史 『ネズミの分類学 生物地理学の視点』 東京大学出版会2006年12月15日ISBN 4-13-060188-1
  2. ^ 鈴木欣司 『日本外来哺乳類フィールド図鑑』 旺文社2005年7月20日ISBN 4-01-071867-6
  3. ^ a b c 阿部永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田政明 『日本の哺乳類 改訂版』 東海大学出版会2005年7月20日ISBN 4-486-01690-4
  4. ^ 大都市とネズミ(PDF)
  5. ^ 国内におけるワルファリン抵抗性ネズミの現況 いわゆるスーパーラットについて 環境毒性学会誌 Vol.12 (2009) No.2 p.61-70