ゲパルト自走対空砲

西ドイツが開発した自走式対空砲

ゲパルト(Gepard; ドイツ語チーター)は、西ドイツが開発・製造した自走式対空砲。「対空戦車」を意味するFlakpanzerと表記される。

ゲパルト自走対空砲
基礎データ
全長 7.68m
全幅 3.71m
全高 3.29m(レーダー格納時)
重量 47.5t
乗員数 3名
装甲・武装
主武装 90口径35mm対空機関砲KDA×2
副武装 FIM-92 スティンガー対空ミサイル
機動力
速度 65km/h
エンジン MTU MB838CaM-500
4ストロークV型10気筒多燃料液冷スーパーチャージドディーゼル
830hp/2,200rpm
行動距離 550km
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概要 編集

西ドイツが使用していたアメリカ製のM42ダスター自走高射機関砲の後継車として1965年に開発が開始され、1973年より西ドイツ陸軍(現:ドイツ連邦陸軍)に配備が開始された。西ドイツに約400両が配備された他、オランダベルギーにも輸出された。オランダ型は当初「チーター」という名称だったが、後に「シーザー」に変更された。

レオパルト1主力戦車車台に、スイスエリコン社製35mm対空機関砲KDA1基、発煙弾発射機4基を左右側面にそれぞれ装備した砲塔を搭載している。砲塔後上方にレーザー測距機付きKuバンド捜索レーダー(距離15km)と砲塔前面にSバンド追尾レーダー(距離15km)を持ち、追尾レーダーで1目標を追尾し捜索レーダーで他目標の捜索も可能となっている。射撃管制装置は初期はアナログ式コンピュータだったが、近代化改修によりデジタル式コンピュータへ変更するなど、高精度な対空射撃が可能となっている。

2000年代以降は、携行できる対空ミサイルや砲塔を積んだ歩兵機動車が普及、自走式対空砲の存在理由は低下したが、2020年代以降は低速のドローン巡航ミサイルの迎撃対策として注目されるようになった。2022年ロシアのウクライナ侵攻では、ウクライナがドイツに対し、ドローン対策としてゲパルトの供与を要求[1]。 2022年7月よりウクライナ軍に供与された車両は、ロシア軍のドローンや巡航ミサイルの迎撃で実際に戦果を挙げている[2]

オランダ軍仕様は、捜索レーダーがX/Kaバンド(距離13km)の長方形型に、追尾レーダーがXバンド(距離15km)の自国製に変更され、砲塔側面の発煙弾発射機も片側6基に増えている。

性能が向上した攻撃ヘリコプター対戦車ミサイルによる攻撃は、35mm機関砲の射程外から行われる可能性があり、これに対抗するため、ゲパルトの右側の35mm機関砲側面に2発のFIM-92 スティンガー地対空ミサイルを取り付けて運用できるハイブリッドシステムが開発されている。

レーダー配置などには特許があり、日本87式自走高射機関砲は、これに抵触しないよう設計された。

比較 編集

性能類似車両との比較
 ゲパルト  87式  マークスマン  95式  K30  ツングースカ  09式
画像              
全長 7.68 m 7.99 m 6.20 m 6.71 m 6.77 m 7.93 m 6.70 m
全幅 3.71 m 3.18 m 3.60 m 3.2 m 3.3 m 3.24 m 3.2 m
全高 3.29 m[注 1] 4.40 m 不明 3.4 m[注 1]
4.82 m[注 2]
4.065 m[注 2] 3.36 m[注 1]
4.01 m[注 2]
3.4 m[注 1]
4.82 m[注 2]
重量 47.5 t 38.0 t 41.0 t 22.5 t 25.0 t 34.0 t 35.0 t
武装 35mm機関砲×2 25mm機関砲×4
QW-2×4
30mm機関砲×2
神弓×不明
30mm連装機関砲×2
9M311×4
35mm機関砲x2
SAMx4
最高速度 65 km/h 53 km/h 52 km/h 53 km/h 60 km/h 65 km/h 55 km/h
乗員数 3名 4名 3名 4名 3名

運用と戦歴 編集

2023年現在、実戦で使用されたのは、2022年からのロシアのウクライナ侵攻に際してウクライナ軍に譲渡された、ドイツ連邦軍の退役車両のみである。低速で飛来するドローンを迎撃する動画も撮影されている[3]。ウクライナ軍統合軍司令官セルヒイ・ナエフ中将は、ロシア軍による首都キーウを狙った自爆ドローン攻撃に対し、ゲパルト自走対空砲が目覚ましい活躍していると評価している。

運用国 編集

現在 編集

ドイツ連邦軍から余剰分36両の供与を受けた[4]
退役したオランダの余剰機から60両を2,100万USドルで譲り受けた[5]
43両(36両+予備機7両)を納入、すべてドイツ連邦軍のストックである[6]
2022年4月26日、ドイツ政府はクラウス=マッファイ・ヴェクマンに対し、ゲパルト自走対空砲50両をウクライナに譲渡する権限を付与[7][8]、同年7月から引き渡しが開始された[9]

予定 編集

2020年12月、カタールへのゲパルト自走対空砲計15両の輸出ライセンスが発行されたことが発表された。さらに、スペアパーツとして自動砲4門、発射管30本、弾薬16,000発、ブリーチブロック45個が納入される予定。カタールは、2022 FIFAワールドカップ期間中、テロリストによるドローン攻撃の可能性に対抗するため、ゲパルトを使用する計画であるとされている。

過去 編集

元々ドイツ連邦軍向けに377両製造、その内94両が2010年まで使用された。現在はヴィーゼル2・LeFlaSys(leichtes Flugabwehrsystem:軽防空システム)に置き換わるまで保管されている。
55台納入、退役済み。
元使用国。2008年に4台納入され、2011年1月に返還された。元々はドイツ連邦軍で運用されていた機材である。オーバーホール・アップグレード費用高騰のため、30台の発注がキャンセルされた[10]
95台納入、2006年までに退役し、保管中である[11]

登場作品 編集

映画 編集

FUTURE WAR 198X年
レオパルト2と共にワルシャワ条約機構軍の攻撃機を撃墜する。

ゲーム 編集

エースコンバット7
オーシア国防陸軍が運用している。
War Thunder
ドイツ陸軍ツリーのランク6に対空車輌という分類で登場する。
メタルマックス2
タイシャーの神社に、戦神様として祭られている。主人公が入手し乗ることも可能。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ a b c d レーダー格納時
  2. ^ a b c d レーダー展開時

出典 編集

  1. ^ 高射機関砲復活の目はあるか 独「ゲパルト」ウクライナへの供与でにわかにざわめく”. 月刊PANZER編集部 (2022年5月7日). 2022年12月13日閲覧。
  2. ^ ロシア軍の飛行物体を撃墜 独供与の対空砲「ゲパルト」”. AP通信 (2022年12月13日). 2022年12月13日閲覧。
  3. ^ Twitter”. 2023年6月3日閲覧。
  4. ^ “Brazilian Army will acquire 36 Gepard anti-aircraft guns”, Army recognition, (December 10, 2012), http://www.armyrecognition.com/december_2012_new_army_military_defence_industry/brazilian_army_will_acquire_36_gepard_german-made_35mm_anti-aircraft_armoured_vehicles_1012122.html 
  5. ^ Jordan buys surplus tanks” (オランダ語). Nederlandse Omroep Stichting. 2012年2月14日閲覧。
  6. ^ Self-propelled antiaircraft complex "Cheetah"” (ルーマニア語). Romanian Ministry of Defence. 2009年3月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年4月16日閲覧。
  7. ^ Germany to send anti-aircraft tanks to Ukraine in policy shift” (英語). Guardian News & Media Limited. 2022年4月26日閲覧。
  8. ^ Germany to Send Anti-Aircraft Tanks to Ukraine in Policy Shift”. Bloomberg L.P.. 2022年4月26日閲覧。
  9. ^ Erste drei Gepard-Panzer in der Ukraine eingetroffen”. ZEIT ONLINE. 2022年7月26日閲覧。
  10. ^ “Chile devolve os Gepard” (ポルトガル語), Segurança e defesa, オリジナルの2011-07-16時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20110716035817/http://www.segurancaedefesa.com/Gepard_ECh_Devolve.html 2011年1月23日閲覧。 
  11. ^ Jordan buys surplus tanks” (オランダ語). Nederlandse Omroep Stichting. 2019年9月17日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集