定理の内容といくつかの事実編集
x や y が実または複素内積空間 の元であるとき、シュワルツの不等式は次のように述べられる:
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左辺は内積 の絶対値の平方である。ここに、等号は x と y が線型従属であるとき、つまり x, y のいずれか一方が 0 であるか、さもなくば一方が他方の適当なスカラー倍であるときであり、かつそのときに限る。内積の導くノルム を用いればこれは
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とも表せる。
コーシー・シュワルツの不等式の重要な帰結には、内積が2変数の関数と見て連続であるということ、従って特にひとつのベクトル x を決めるごとに内積が一つの連続汎関数 あるいは を定めるということである。さらに、ベクトル x に対して汎関数 を与える対応が等長作用素になっていることも従う。
また、この定理の系として内積ノルムに関する三角不等式
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が導かれる。ここで等号が成立するのは、x と y の一方が他方の非負実数倍であるとき、かつそのときに限る。
証明に関する話題編集
定理には数多くの証明が知られている。
判別式による証明編集
実内積空間におけるシュワルツの不等式の特徴的な証明の一つに、二次式とその判別式を用いるものがある。実際、⟨x|y⟩ なる内積を考えるとき、t を実変数(あるいは任意の実定数)として
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は(内積の性質により)t の如何にかかわらず成立する t の二次の絶対不等式となる。ゆえに、二次の絶対不等式に関してよく知られた事実により、この t に関する二次式の判別式は半負定値(非正)でなければならない:
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これを整理してシュワルツの不等式を得る。
同じように二次式の判別式を用いる少し異なった証明がある:この証明では実数 t と絶対値 1 の複素数 λ について
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に対して同様の議論を行い、 が導かれる。適当な λ について となっているので定理の主張が得られる。
数学的帰納法による証明編集
別の観点に立った証明として、直交射影の概念を用いる以下のものがある:‖ y ‖ = 0 のときは、x と y との内積が 0 になり、問題の不等式は自明な形で等号として成立する。‖ y ‖ > 0 のときは、
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に対して t y を x の y 方向への直交射影と見なすことができる。実際、この t について z := x - t y は y に直交している。
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が非負であることよりコーシー=シュワルツの不等式が従う。さらに、x と y とが線型従属のときかつそのときに限り z = 0 であり、不等式において等号が成立することがわかる。
標準内積に関する内積空間と考えたときのユークリッド空間 Rn の場合に書き下すと、
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となるが、この不等式は n に関する数学的帰納法で証明することができる。各 が負でない場合を示せばよい。n = 1 のときは明らかに成立。n = 2 のときは、
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より成り立つ。n = m で成立すると仮定する。n = m + 1 のとき、
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- (∵帰納法の仮定より)
- (∵n=2のときより)
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となって成立する。
具体的な例編集
標準内積に関する内積空間と考えたときのユークリッド空間 Rn の場合に書き下すと、
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となる。特に n = 2, 3 のときには
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と書ける。これは有限次元の内積空間における例である。無限次元の内積空間の例として、二乗可積分関数の空間の場合には内積が積分の形で与えられ、2つの自乗可積分関数 f, g に対して
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というのがシュワルツの不等式を表している式である。これらはヘルダーの不等式に一般化される。
外部リンク編集